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光技術情報誌「ライトエッジ」No.6(1996年5月発行)

留学レポート 2

ミネソタ大学事情

システム事業部 佐藤信太郎

私はウシオ電機(株)の海外留学生制度により、1993年8月より2年間、米国のミネソタ大学大学院修士課程に留学してきました。研究室は機械工学科のパーティクルテクノロジーラボラトリーというところ。ここは、7人の教授と50人を優に超える大学院生を有する、パーティクルに関しては世界最大の研究所です。さて、私がここでパーティクルと言っているのは、数ナノメートルから数ミクロン程度の範囲の小さい粒子のこと。研究所ではそのようなパーティクルに関連した工学、医学、環境の諸問題についての研究が行われています。半導体製造工程で問題となるミクロンからサブミクロンレンジのごみの問題も大きな研究対象の一つ。米国の半導体研究機関であるSEMATECHとの共同プロジェクトも進行中です。

さてパーティクルに関する研究所というのは世界でも珍しいので、それについてもう少しお話しすることも考えましたが、少し専門的すぎるかもしれませんので、ここではミネソタでの学生生活で印象に残ったことを日本との比較をおりまぜながら紹介させていただきたいと思います。

まず印象に残ったのは整備されたコンピュータ環境。学生は入学すると同時に大学のサーバーのアカウントが与えられます。大学には学生が自由に使えるPCやワークステーションが並んだ部屋が数多くあり、ここを使えば大学のサーバー経由でインターネットを通じて無料で世界中にアクセスできます。また、表計算やグラフィックソフトも各コンピュータにインストールされており、多くの学生がこれらを利用して宿題をこなしています。さらにインターネット関係のソフトは無料で学生に配布されており、自宅にコンピュータがあれば家から様々なことができてしまいます。私も家のコンピュータから大学の大型計算機にテルネットを使ってアクセスし、家にいながら様々なシュミレーション計算を行っていました。教授、学生間の連絡も電子メールが主流で、日本ではパソコン通信も何もやっていなかった私が、電子メールを使う癖をすっかりつけて帰ってきてしまいました。総じて作ることはともかく、コンピュータを使うことに関しては日米で数年の差があると感じざるを得ませんでした。

次に印象に残ったのはハードな授業。似たようなことはきっと聞かれたことがあるのでしょうが、ミネソタ大学では入学した学生が4年で卒業できる割合がたったの20~25パーセント。教授にもよりますが、宿題の量は私に言わせれば殺人的。各授業では学期の初めにシラバスと呼ばれる授業概要が配布され、教授より講義予定、宿題、試験などについての説明があるのですが、初めの頃はこの時点であまりの宿題の多さに気が遠くなるほどでした。実際言葉の問題もあるとはいえ、授業中心の初めの一年は土曜日曜関係なく宿題、宿題の日々でした。

授業に関して他に特筆すべきことは、特に大学院では社会人風の受講者が常に数名授業にいるということ。聞けば会社の上司に受講を進められたとか、自己啓発のためとか。ミネソタ大は全てのひとに開かれていて、働きながら何年もかけて学位をとる人や、教養の為に授業を受ける人がたくさんいます。そういえば70歳になる私の大家さんも今日はスペイン語の授業がある、とか言いながらよく大学に行っていました。仕事後、夜の7時とか8時に授業を受けている人々の姿も印象的でした。日本にもこんな環境ができたらいいのに、と本当に感じました。

さて、そろそろ私の話も終わりにしますが、少し前の新聞によるとアメリカへの留学生の数が少し減少したとのこと。安全面への懸念らしいのですが、どこの国にも良い点、悪い点はあると思いますし、リスク無しで何かを得ようというのも難しいかもしれません。私に関して言えば、海外で生活して違う世界を見ることはきっと役に立つ、そう確信させてくれた2年間でした。

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