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光技術情報誌「ライトエッジ」No.16

大学研究室を訪ねて Campus Lab 7

(1999年3月)

電子と光の技術の追求が、
私たちの生活空間を豊かにする

高知工科大学/工学部
電子・光システム工学科 学科長 平木 昭夫 教授

今回は、昨年(平成9年)4月に創立されたばかりの高知工科大学工学部電子・光システム工学科・学科長の平木昭夫教授を訪問しました。高知工科大学は、工学部のみで、5学科から構成される四国初の工学系単科大学として、県内にとどまらず、全国的にもたいへんな期待を集めております。

同大学では、必修科目なしの画期的なカリキュラム編成、教員を気軽に訪問できるオフィスアワー制、生きた英語が学べるCALL教室、そして産学一体となったプロジェクト研究など、設備やシステムの面でこれまでの大学の枠をはるかに超えた素晴らしい教育環境を実現しています。

平木教授が学科長を務める電子・光システム工学科では、現在、プロジェクト研究として「高性能フラットパネルディスプレー」の開発に取り組んでいます。開発に向けては、世界最先端のダイヤモンド合成技術の開発に成功するなど、すでに目覚ましい成果をあげて着々とその地歩を固めており、各方面から厚い期待を寄せられています。

技術を土台に、柔軟な発想力を育む

電子・光システム工学科では、「電子デバイスと光通信の融合技術」の開発研究に携わる優れた人材を育成することを目的に、独自のカリキュラムを組んでいます。集積回路、電子回路、VLSIの理論と設計、信号処理に関する技術についての教育研究を行う「集積回路学講座」。通信システム、通信ハードウェア、通信デバイス、通信理論、通信方式、信号処理、マイクロ波、光通信、移動体無線、マルチメディア総合技術など、通信に関する総合的な教育研究を行う「電子通信システム講座」。コンンピュウータ計測制御、計算機物質・デバイス設計、計算機物理・化学、ロボティクス、並列情報処理、画像音声処理、感情情報処理、バーチャルリアリティーなど、コンピュータを利用した物質・デバイス設計、情報処理とシミューレーションに関する教育研究を行う「計算機応用講座」。電子デバイス、光デバイス、機能デバイス、機能材料、機能集積プロセス、マイクロマシニングなど、デバイスの設計と応用に関する教育県研究を行う「電子・光デバイス講座」。以上の4講座では、電子・光技術についての基礎力を養うことで、将来のより専門的な開発研究にも対応できる人材を育成することを目指しています。この他には、全学科共通科目として「数学講座」を開設しています。また、「情報システム工学科」をはじてとする他学科とも密接な連係を保って横断的に共同で研究開発を進めるなど、ソフトとハードの両面から多角的に電子・光の技術にアプローチし、より深い理解が得られるような配慮がなされています。このように同学科のみならず大学全体が、学生の自由な感性と発想を伸ばし、より柔軟な発想力を持った専門家・技術者を育成することを目標に、教員・学生が一体となって取り組んでいます。また、同大学では実社会で実際に通用する人材の養成にも力を入れています。日本の先端企業からも数多くの研究者を教員として集めており、全教員の約半数が実業界出身者になっています。

電子・光システム工学科の先生方。前列左から河東田隆教授、平木昭夫教授、原央教授。
後列左から井上昌昭助教授、西本敏彦教授、成沢忠教授

ダイヤモンドでつくる「夢のディスプレー」

高知工科大学は、その設立準備段階から、優れた人材を育成する教育機関であるとともに「高度な研究開発と技術開発の拠点」となることをその目標のひとつに掲げてきました。そして開学後まだ2年にも満たない現在でも、すでにいくつかの分野で着実に成果を収めています。電子・光システム工学科が、プロジェクト研究として取り組んでいる「高性能フラットパネルディスプレー」の開発もそのひとつです。これは、同学科が世界に先駆けて開発に成功した低温合成などのダイヤモンド合成技術を応用して、新しいタイプのディスプレーを開発しようというものです。

現在、ディスプレーの主流を占めるもには、CRT(陰極線管:ブラウン管)や液晶などがありますが、それぞれいくつかの欠点を指摘されています。CRTの場合は、ブラウン管を使用するため原理的に本体の厚さが必要になります。液晶ディスプレイは、視野角の小ささや応答速度の遅さ、そして大型化が困難といった問題点を抱えています。しかし、同学科が取り組んでいる人工ダイヤモンドの半導体を利用した高性能フラットパネルディスプレーが実現すれば、薄くて軽く低電力消費、しかも横から見ても鮮明で明るく寿命が長い、そんな表示装置が可能になるのです。大型壁掛けテレビなどへの応用も視野に入れ、この技術の早期確立が期待されています。

しかし実現までには、高効率陰極材料の開発、低コスト・高品質の半導体ダイヤモンド、及びDLC(ダイヤモンドライクカーボン)薄膜の合成方法の開発など、課題もいくつか残されています。しかし同学科では、「高性能フラットパネルディスプレー」開発の一日も早い成功にむけて、平木教授を中心に課題の克服に取り組んでいます。

シリコン結晶の模型を使ってチャネリングについて研究する学生達と成沢先生。

マルチメディア時代の未来形ー「フラットパネルディスプレー」ー

マルチメディアによる高度情報化が進む今日、高性能で電力消費の少ないディスプレーの需要は非常に高く、ディスプレー・マーケットの市場規模が全世界で数十兆円とされていることを考えれば、このプロジェクト研究の意義は計り知れません。平成9年には、「高性能フラットパネルディスプレー」技術の開発・研究は、通産省関連の特殊法人「新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)」の新規事業「地域コンソーシアム研究開発制度」に採択されました。これは、世界に通じる独創的先端技術をもつ地域企業群を育てるため、地域の大学を中心とする産官学で構成された研究共同体(コンソーシアム)が行う研究を支援しようというプロジェクトです。

平成9年度より3年間、約4億円の予算でスタートしたこのプロジェクトは「高性能フラットパネルディスプレイ技術の総合開発研究」という名称をもち、すでに紹介した学科プロジェクト研究「高性能フラットパネルディスプレー」と深く関連しています。したがってこの共同研究プロジェクトも、平木教授をプロジェクトリーダーに、産業界からは松下寿電子工業やカシオ計算器など5社、大学は高知工科大、大阪大、徳島大、高知大の4大学、その他に国の電子技術総合研究所、高知県工業技術センターが参加し、四国産業・技術振興センターがプロジェクト全体の管理を行う形で進められています。情報通信、機械など幅広い分野への応用が可能なこの技術の実現は、世界的に注目されており、本プロジェクトの中心となる高知工科大学には各方面から大きな期待が寄せられています。

人工ダイヤモンドの表面を解析する八田章光助教授。

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