USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.31(2008年10月発行)

「月刊ディスプレイ」

(2008年6月)

水銀レス蛍光ランプを用いた
バックライトの展開一大画面LCDモニターー

Development of The Perfect Hg-free Fluorescent Lamp Backlight
一large size LCD Display 一
ウシオ電機株式会社
田川幸治

1.はじめに

液晶テレビをはじめとして、パソコン、携帯電話などの液晶応用製品は、生活必需品になっている。液晶は陰極管(CRT)など自発光ディスプレイと異なり、自身では発光しない非発光ディスプレイであり、画像情報を表現するには、光源が必要になる。携帯電話などの小型のディスプレイにはLEDやOLED(有機EL)が使われ、パソコンや液晶テレビなどの中大型ディスプレイにはこれまで冷陰極蛍光ランプ(CCFL)やEEFLが使われ、一部では、LEDを使う動きが出ている。

現状では、液晶バックライト光源として、CCFL、EEFL、LEDのいずれかという状況である。このうち、CCFLおよびEEFLでは、水銀を必ず使用すること、LEDでは、将来資源の枯渴が心配されるレアメタル(希少金属)であるGa、Inなどを使用するというデメリットを有している。今回、完全水銀フリーの蛍光ランプを、バックライト光源用として開発したので概要を紹介する。

2. 水銀レス蛍光ランプの構成

弊社で開発した水銀レス蛍光ランプ(商品名:XEFL®,以下、XEFL®と呼ぶ)と従来の液晶バックライト用蛍光ランプであるCCFL、EEFLについて、構造と放電形態を図1に示す。XEFL®はXenon Excimer Fluorescent Lampの頭文字である。

図1.液晶バックライト用蛍光ランプの構造と放罨形態
(いずれも、発光管の内表面にある蛍光体により放電で発生した紫外線を可視光に変換する。発光管内の縞は放電方向を示す。)

XEFL®をCCFLと比較した場合、構造上の明らかな違いは、発光管外表面に外部電極を形成していることである。XEFL®の動作原理は、発光管(ガラス管)の外面の軸方向に設けた細い線状の外部電極に矩形波などの交流電圧を印加し誘電体バリア放電により希ガスの一種のキセノンガスからエキシマ発光を行い、発生した真空紫外光(主に172nm)を蛍光体で可視光に変換する。この真空紫外光は発光管に吸収され管外に放射されない。XEFL®及びCCFL,EEFLについての比較を表1に示す。

表1.XEFL®及びCCFL,EEFLについての放電形態と発光の比較

XEFL®の端部の様子を写真1に示す。外部電極の片側が写っており、この外部電極は、酸化防止のためガラス被膜で覆われている。実際の点灯状態の例を写真2に示す。

これに対して、CCFLの場合は、発光管内部に電極を有しており、この電極間で、低圧放電を発生させ水銀原子を励起させ、発生した主に254nmの紫外線で蛍光体を励起•発光させる。この際に、水銀からの紫外線365nmなどについて発光管からわずかながら放射する。この構造の違いが、CCFLやEEFLと比較した場合のXEFL®の特長の要因となる。このあとの解説では、CCFLとEEFLは、ほぼ同じ特性のためCCFLについてのみ記述する。

なお、XEFL®の発光管の外径は10mm前後とCCFLの2〜3倍太ぐ長さは1500mm程度も対応可能で液晶パネルの短辺方向にランプを配置すれば、およそ120インチまで対応可能である。外部電極を用い管径が太いことから例えばCCFLの2倍の入力を入れることができ、ランプの本数を半分程度に減らすことができる。

写真1. XEFL®の端部

写真2.XEFL®の点灯状態(例)

3. 水銀レス蛍光ランプの特長

XEFL®の主な特徴は、①輝度の周囲温度依存性がほぼ無い、②電力投入後、瞬時に輝度が飽和する、③点灯姿勢によらず同じ輝度分布、④寿命は、点灯時の周囲温度に依存しない、などが挙げられる。これらのXEFL®の特徴を他の光源と比較して表2に示す。

外部電極構造であることから、従来からのCCFLなどの内部電極方式と異なり、スパッタリングによる電極の劣化や水銀の消耗、発光管(ガラス管)内表面へのスパッタリング物質の付着による透過率の低下を防ぐことができ6万時間(推定)と寿命が長い。これまでのCCFLには水銀が使われており、立ち上がりに時間がかかる、明るさが周囲温度に影響される、周辺部材に有害な紫外線を放射する、ランプを垂直方向に設置するとCCFL内の水銀分布の偏りによる色むらが発生したりする、などの欠点があった。これに対してXEFL®は、無水銀で希ガスを使っているので、有害金属を含まない、瞬時に光束が立ち上がる、明るさが周囲温度に影響されない、設置に際して縦横などの方向性がない、周辺の光学部材に有害な紫外線を放射しない、などの特長を持つ。縦横の方向性の自由を持つことから1つのランプ方向で組み付けても液晶ディスプレイを縦にも横にも設置できる。多くの特長を持つXEFL®であるが、CCFLの最適動作点での発光効率には及ばないものの、発光効率が幅広い温度域で変化しない特長を持ち、使用温度が低温や高温ではCCFLを上回る。

また、XEFL®は、放電を管軸の垂直方向で行うため、液晶の大画面に対応させてランプの全長を伸ばしても、ランプへの印加電圧は一定である。このことは、CCFLがランプ長に比例して印加電圧を上げるのに対して、液晶の大型化に対応しやすい特性の一つである。

表2.光源の特性比較(XEFL®. CCFL. LED)

4. XEFL®の諸特性

(1)周囲温度依存性

XEFL®の輝度の周囲温度依存性は、図2に測定例を示すように、-30℃〜+60までの範囲で、ほぼ一定である。発光管の特性よりも、点灯回路の素子の温度依存性の影響が大きい。この特性は、言い換えると、発光管を無風状態に保つ必要は無く、屋外などでの温度面で厳しい環境での使用には、メリットがあると言える。

図2.輝度の周囲温度依存性
(XEFL®及びCCFLの10°Cにおける輝度を100%として比駒)

(2) 輝度立ち上がり特性

XEFL®の輝度立ち上がり特性は、図3に示すように、放電開始後、直ちに輝度の飽和に達する。これは、水銀を使用するCCFLとは異なり、紫外線を発生するキセノンが、始動時からすでに気体状態である事から、温度による蒸気圧の変化が、水銀の場合と比較しほぼないためである。

これは、液晶TVで見られるように、スイッチを入れて直ちに画面が見えないといった状態を起こさない。画面を映しているときは点灯させ、画面を休止させるときには、消灯させるといったメリハリのある使用が可能であり、その分、省電力に寄与することができる。XEFL®の点灯消灯については、数msecオーダーでも、現状の技術で追随可能であり、用途によっては、高速でのON/OFFを使用した省電力化の可能性も有している。

図3. XEFL®の輝度立ち上がり特性

(3) 輝度維持率

XEFL®の信頼性面での特性は、輝度の維持率の点灯時間依存性について述べる。

XEFL®の室温での輝度維持率を図4に、ランプ周囲温度100°C及び-10°Cでの輝度維持率を図5及び図6に示す。輝度維持率の測定値から求めた近似曲線で、外挿した場合、輝度維持率70%に達するのは、いずれの場合も、6万時間以上となる。

これは、CCFLでの寿命と遜色はなぐ実際に周囲温度-10°C(発光管は直接循環する冷気にさらされている)の場合は、むしろ、周囲環境に対して頑丈であると言える。

図4. XEFL®の輝度維持率:室温点灯(破線は、輝度維持率の外挿を示す。)

図5. XEFL®の輝度維持率:周囲温度100°C

図6. XEFL®の輝度維持率:周囲温度-10°C

5.技術課題

XEFL®の技術課題としては、その発光効率が、CCFLの最適動作点での発光効率には及ばないことに尽きる。しかしこれまでの発光効率の改良は、読み取り用光源として開発された時点の発光効率に比較して、1.6倍を超えるところにまで到達している実績がある。今後、さらに、構造面や材料面での改良を引き続き進めていくことにしている。

6. 大画面液晶ディスプレイへの提案

これまでに述べてきたように、XEFL®は、諸特性に対する周囲温度の影響が、CCFLやLEDに比べて非常に少なく、CCFLには無い瞬時立ち上がりの特長を有している。

さらに、これを大画面液晶ディスプレイに適用した場合、縦方向での点灯による諸特性への影響が無いため、液晶サイズが120型程度までは、現状の技術で対応することができる。

このように従来からの光源であるCCFLやLEDと比較しても大画面液晶ディスプレイに使用する場合、特長のある光源と考えている。

7. まとめ

これまで、液晶バックライトのもう一つの候補として、蛍光ランプではあるがCCFLには無い特長を持つXEFL®の概要を述べた。XEFL®は、屋内や屋外の商業空間向けの大型液晶ディスプレイのバックライトとして最適な特性を備えており、これらの分野での用途や類似応用分野での用途が拡大していくものと期待している。

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