宇宙のナゾに挑む

  • X線は難しい。でもウシオの技術でなら、できるかも知れない。

    「光」と同じ電磁波の一種であるX線。物質を通り抜ける力(透過力)が非常に高いため、レントゲン撮影や物質構造解析、特殊顕微鏡など、医療・学術領域を中心に利用されています。
    一方、その透過力の高さゆえに光学的なミラーやレンズをつくるのが非常に困難なため、一部の基礎研究用途を除き、産業用途での利用・普及が進んでいないのが現状です。しかし、微弱なX線を集光できる光学部品が開発できれば、これまでの技術では実現困難だった検査や観測が可能になり、「見ることができなかったものが、見えるようになる」だけではなく、検査・測定プロセスの高速化、機器の小型化も可能になります。

    そのため、現在さまざまな研究機関や企業がX線を集光する「X線集光鏡」の開発に挑んでいますが、コストが高い、重量は重い、製作時間もかかる、という課題を抱えています。 そこで私たちは、プロセスそのものの変更を提案しました。ウシオが長年培ってきた光技術と設備を駆使することで課題を払拭し、産業応用可能なX線集光鏡の実現を提案したのです。

  • 今までにないX線集光鏡を、ウシオの技術で。

    今、私たちはマイクロ・ポア・オプティクス(微細穴光学素子・MPO)という光学系を独自の手法で製作し、それを用いたX線集光鏡の開発を進めています。ウシオのレーザー加工技術や磁性流体研磨、成膜といった微細加工技術を活用し、1mm程度の厚さのガラス基板に数十ミクロンサイズの無数の微細穴を開け、その穴の側壁にX線を反射させることで集光結像させます。微細な穴が無数にあることで非常に軽量化でき、また側壁で複数回反射させることでX線集光鏡がレンズのような機能を果たし、透過率が高く、集光が難しいX線でも集光が可能です。
    この微細加工技術を用いたプロセスであれば、他のプロセスのように「束ねる」「曲げる」という工程が不要なため、高い品質が確保できます。また、大量生産も可能なので、低コストかつ品質の安定性も実現できると考えています。

  • そして、宇宙から地上へ、社会へ。

    私たちが開発しているX線集光鏡は超軽量なため、小型衛星に搭載できます。現在、宇宙事業(人工衛星)用部品としての開発を進めており、「HiZ-GUNDAM(ハイ ズィー ガンダム) ワーキンググループプロジェクト*1」とX線集光鏡と検出器を組み合わせた性能追及をコラボレーションして取り組んでいます。開発年数とコストが莫大だったこれまでの人工衛星開発に対し、短リードタイム、ローコストかつローリスクでオリジナリティのある観測が可能になる小型衛星の利用は今後ますます増えると予想されており、この分野でウシオのX線集光鏡が役に立つと考えています。

    さらに、このX線集光鏡の産業用途への応用も目指しています。微弱なX線を集めることができ、小型化もできることから、ハンディサイズの非破壊検査装置や物質検査装置などです。道路やトンネルなどの老朽化による事故の防止、空港やスタジアムでのテロ対策、国際的な危険地帯での地雷探知など、私たちの技術で、多くの社会的問題の解決に貢献していきたいと考えています。

*1 宇宙最大の爆発である「ガンマ線バースト」を利用して、初期宇宙を探査することを目的とするワーキンググループ。2012年4月に宇宙科学研究所(ISAS/JAXA)に正式なワーキンググループとして認められ、将来の人工衛星計画として検討を進めている。

メッセージ

金沢大学 理工研究域 数物科学系(宇宙物理研究室)
HiZ-GUNDAM ワーキンググループプロジェクト 主査
米徳 大輔教授 

私たち「HiZ-GUNDAM ワーキンググループプロジェクト」では、宇宙で最も大きな爆発現象である「ガンマ線バースト*2」を観測することで、まだ誰も見たことが無い程の遠い宇宙(初期宇宙)を解明するための人工衛星計画を進めています。遠くで発生するガンマ線バーストを捉えるためには、X線を集光する光学系が必要で、ガラスやシリコン基板へ微細加工を施したマイクロ・ポア・オプティクス(MPO)を使うことを検討していますが、現状のMPOは性能のばらつきが大きく、かつコストが高いという問題点がありました。どこで発生するか分からないガンマ線バーストを捉えるためには、人工衛星に数百枚のMPOを搭載し、広い視野を監視する必要があります。そのため、均一で高い性能を持つMPOを可能な限り低コストで製造・開発したいと考えています。
ウシオのX線集光鏡は従来のMPOの製造方法とは根本的に異なり、結像性能を劣化させてしまう材料の組み上げ工程や力学的な塑性変形が存在しないため、結像性能を飛躍的に改善できる可能性があるとうかがい、将来の人工衛星計画を1つの目標として定め、協同で開発を進めることになりました。
このMPOを用いて、観測装置のさらなる高感度化を実現できると期待しています。私たちの宇宙で最初に誕生した星(初代星)が爆発したときのガンマ線バーストを観測できる可能性がぐんと高くなります。ビッグバンから現在のような多様性に富んだ宇宙がつくられた理由を、天体形成の歴史や進化を通じて解明していきたいと思います。

*2 宇宙空間においてわずか数十秒の間にガンマ線を閃光のように放つ天体現象で、遠方銀河に存在する大質量星が最後に起こす爆発。天球上のランダムな位置で起こり、1日に数回起きている

宇宙事業に取り組む皆さん (左から)当社X線集光鏡開発担当の那脇 洋平さん、土井 聖将さん、野本 憲太郎さん、プロジェクトの主査・米徳 大輔教授(金沢大学)、プロジェクトのX線集光鏡担当・坂本 貴紀准教授(青山学院大学)、光学素子に精通している三石 郁之助教(名古屋大学)