ここ数年で飛躍的に進化した
「光の技術」
でんじろうさんが考える光の魅力
赤外線や紫外線などの光を利用して遠くの情報をキャッチするリモートセンシング技術に魅力を感じます。
たとえば、人工衛星から写真を撮って、惑星の温度や物質が調べられるのも、この技術によるものです。リモートセンシング技術により、危険な場所や人が直接行けない所など、これまで調べられなかったことがわかるようになり、ここ数年で光の技術は飛躍的に進歩しています。
また、昔はスタジオや舞台の照明というのは熱かったのですが、LEDに変化し、あまり熱くなりません。本当にありがたいですね。
実験に関していえば、テレビ番組では光を扱うのは難しい。カメラを通すと、伝えるのが難しくなるんですね。一方、イベントでは好評です。先日行なった実験では、あらかじめ来場されたお客様に回折格子を配っておき、一見似ている白熱電球と蛍光灯を見比べてもらいました。白熱電球は連続スペクトルなのでキレイな虹色に見えるのに対して、蛍光灯は不連続スペクトルなため分裂して見えるわけです。肉眼では同じように見える照明が、全然違う光を出しているということで、多くのお客様が驚かれました。
身近なモノでできる光の実験
光をテーマにした実験は、身のまわりのものを使って簡単にできます。
洗面器に水を溜め、そこに鏡を斜めに入れて光を当てる。すると、光がプリズムになって反射します。よく水槽の角部分が虹色に見えることがありますが、この現象もプリズム効果によるものです。
また、イベントではカラー写真を作ったマクスウェルという人が行なった三原色の実験を再現することもあります。これは赤いフィルターを被せて撮影したモノクロ写真、緑のフィルターを被せて撮影したモノクロ写真、青いフィルターを被せて撮影したモノクロ写真を用意。それぞれの画像をプロジェクターで投影して合成すると、カラー写真になるわけです。いわゆるRGBの再現なのですが、この実験は大人の方も驚かれますね。
もう1つ簡単にできる実験をご紹介します。今はテレビの画素が細かいので、眼を凝らしてもRGBの光の点は見えません。しかしスマートフォンやタブレットのカメラ部分に水滴を置いて、ディスプレイを映すとRGBの画素まで見えるようになります。水滴がレンズの代わりになり、接写が可能になっているんですね。また、水滴が小さければ小さいほど倍率を上げることができます。これは昔からある水滴顕微鏡の原理。技術は進歩していますが、科学の原理は変わっていません。身のまわりにはたくさんの実験材料がころがっているんです。
透明なシャボン玉に、
キレイな色が映し出される理由
例えばシャボン玉、あのキレイな色は、薄くて透明な膜に光が反射することで映し出されます。
シャボン玉に限らず、路面に広がるオイルやラップフィルムなんかにも光をかざすと色がつきます。あれは、膜の表面で反射した光と、膜の内側で反射した光の光路差によって、光の干渉が起こるためなんです。そのため、もっとも薄い膜の色は黒色になるんですね。この状態を黒膜と呼び、さらに薄くなると割れてしまいます。シャボン玉の膜の厚さは感覚的に薄いと感じますが、かなり厚さに違いがあるんですね。私はずっとシャボン玉の写真を撮っているので、色を見てどのくらいの厚さかわかるようになりました。
このように細かいことを考えると不思議だし、興味がわいてきませんか?昔の人もシャボン玉の色については研究をしていて、アイザック・ニュートンも「光学」という本の中で、シャボン玉について書いています。子どもがシャボン玉で遊んでいる時に、こうした話をしてあげるともっと科学に興味を持ってもらえるのではないでしょうか?
21世紀の中頃から後半は、
「光の時代に」
50年先、100年先の
光の未来と可能性
光が将来どうなるのか、私にはわかりません。というのも、常に科学や技術は私たちの想像を超えていくからです。
たとえば電気。今でこそ家電やパソコンなどいろいろなものに利用されていて、なくてはならない存在です。しかし電気が発見された頃、不思議な現象と認識されていただけで、誰も役に立つとは思っていませんでした。実際200〜300年も何の役にも立っていなかったわけです。そのうち、モールス信号をはじめ、電話やFAXなどといった電信や照明用の電灯などに利用されるようになり、昭和30年頃に各家庭に入ってくるようになりました。つまり、電気が本格的に使用されるようになったのはここ半世紀くらいなんですね。電気が発見された時代の人間にとって、今の社会は予想もできない状況だと思います。光に関しても、まだまだこれから想像もできないことが起こるでしょう。私は光をエレクトロニクスのように制御できるようになったら、全く想像できない時代がくると考えています。科学や技術の素晴らしいところは、積み重ねることができる点。ニュートンやアインシュタインのような天才でなくても、先人の研究を受け継ぎ、研究を重ね、積み重ねていけば、普通の人でも先に進めることができます。そこが科学や技術の素晴らしさではないでしょうか。よく「魔法が使えたら良いな」と言う人がいますが、私たちは飛行機で空も飛べるし、ロケットで宇宙にも行ける。昔の人から見たら魔法みたいなものです。近い将来、私たちは光の魔法が使えるようになっているかもしれません。私は21世紀中頃から後半には、光の時代になっていると思います。
社会では原発事故や環境問題など、悲観するような課題が多くあります。でも今後こうした問題を解決する技術が出てくるでしょう。人間の科学技術は、まだまだ始まったばかりです。私たちの世代ができなかったことを、子どもたちの世代が成し遂げてくれるかもしれません。どのような問題も、いずれ科学技術で解決できる時がくると私は確信しています。
PROFILE
米村でんじろう
1955年千葉県生まれ
東京学芸大学大学院理科教育専攻科卒業。
『科学のおもしろさを伝える仕事がしたい』という想いが日増しに強くなり、40歳の時に高校教師を辞めてサイエンスプロデューサーへ。その後、1998年米村でんじろうサイエンスプロダクションを設立。以降、サイエンスプロデューサーとして、科学実験等の企画・開発、各地でのサイエンスショー・実験教室・研修会などの企画・監修・演出を手掛けている。1998年、第1回科学技術普及啓発功績者として、科学技術庁長官賞受賞。