エタノール-水混合蒸気中でのVUV光照射によるフッ素樹脂の表面改質
島本 章弘
ウシオ電機株式会社
1.緒言
フッ素樹脂は次世代通信基板や医療用途の材料として期待されているが、接着性が乏しいため表面改質が必要である。エタノール蒸気中での波長172 nmのVUV光照射(VUV+EtOH)により、フッ素樹脂表面を親水化し接着性を向上できることを報告した1)。この処理によって表面に生成する炭化水素層をさらに酸化・親水化する目的で、エタノール雰囲気に水蒸気を添加してフッ素樹脂にVUV光を照射した(VUV+EtOH/H2O)結果を今回報告する。
2.実験方法
密閉容器内にXe2*エキシマランプ(172nm,30mW/cm2)を置き、その直下に2mmの距離をあけて、厚さ1mmのポリテトラフルオロエチレン(淀川ヒューテック,ヨドフロン,以下PTFE)を置いた。水のみ、エタノールのみ、両者混合(1:1)の3種類の溶液を10mLずつ用意し、いずれかの溶液に高純度(≥99.9995%)のN2を流量2L/minで通して得られたガスによって密閉容器中をパージした。ランプを所定の時間だけ点灯したのち、①接触角計(協和界面科学,DMs-401)による水接触角測定、②X線光電子分光装置(ULVAC-PHI,PHI Quantera II)による化学状態分析、③フーリエ変換型赤外分光装置(Bruker, VERTEX 70v)によるIRスペクトルの全反射測定(ATR-FTIR, Ge結晶プレート)によってサンプルの表面状態を計測した。
3.結果および考察
図1に示すように、エタノールと水の混合溶液を用いた場合(VUV+EtOH/H2O)は、エタノールのみを用いた場合(VUV+EtOH)よりも短い照射時間で水接触角が低下した。最終的に到達する水接触角に大きな違いはなかった。水のみを用いた場合(VUV+H2O)はほとんど親水化しなかった。XPSにより表面の炭素原子に対する酸素原子の濃度比(O/C)を測定すると、図2に示すように、VUV+EtOH/H2OではVUV+EtOHと比べてO/Cが大きかった。また、図3に示すATR-FTIRスペクトルにおいて、O-H伸縮に帰属されるピークの強度はVUV+EtOH/H2Oの方がVUV+EtOHよりも大きく、その差はXPSにおいて見られた差よりも大きかった。XPSの検出深さは表層数nmであるのに対し、ATR-FTIRは今回の条件では200~400nmである。したがって、VUV+EtOH/H2Oは、VUV+EtOHと比べてより深いところまで親水化されていると考えられる。
図1 水接触角の変化
図2 XPSによるO/Cの比較
図3 ATR-FTIRスペクトル
4.結語
VUV+EtOH/H2Oは、VUV+EtOHよりもフッ素樹脂を短時間で親水化できる。また、より深いところまで親水化している可能性がある。処理時間短縮や接着性向上に寄与すると期待される。
文献
1)島本章弘ほか;日本接着学会第59回年次大会講演要旨集,P01A(2021).
Copyright © USHIO INC. All Rights Reserved