表面技術協会第149回講演大会
 

エタノール蒸気雰囲気中下でのVUV光照射によるフッ素樹脂の無電解銅めっき密着性向上


Kejun Wu, 中村 謙介, 島本 章弘
ウシオ電機株式会社

1.緒言

フッ素樹脂は伝送損失が低く、次世代通信回路基板材料として期待されているが、表面自由エネルギーが小さいため、接着性が乏しいという課題がある。酸素官能基の導入によりフッ素樹脂と異種材料の相互作用が強くなり、密着性が改善されることが報告されている1)。本研究では、エタノール雰囲気中でVUV光(波長172 nm)を照射し、表面に酸素官能基(OH, C=O, COOH)を導入した。この表面改質したフッ素樹脂と銅めっき膜との密着性を評価した。


2.実験方法

窒素/エタノール混合ガスで満たした容器にフッ素樹脂(Fluorinated Ethylene Propylene: FEP)板を配置し、Xe2*エキシマランプ(ウシオ電機, 中心波長172nm, FWHM=14nm, ランプ表面の紫外線放射照度32mW/cm2)からのVUV光を60秒または300秒照射した(第一工程)。その後、容器から取り出したFEP板に大気下でVUV光を10秒照射した(第二工程)。処理したFEP板の表面状態を、純水接触角測定やX線光電子分光法(XPS)により分析した。また、このFEP板に無電解銅めっきを施し、銅めっき膜の密着力をクロスカット試験法(JIS-5600-1999)により評価した。
 

3.結果および考察

図1に示すXPS のC1sスペクトルにおいて、第一工程が60秒の場合CF2ピークが減少し、表面官能基ピークが検出された。300秒の場合CF2ピークは検出されなかった。300秒照射後に第二工程を行うことで酸素官能基COOHが出現した。
表1に銅めっき膜のクロスカット試験の結果を示す。第一工程を300秒、第二工程を10秒行った条件で最も良好な密着強度が得られた。COOH基の電荷密度の偏りはOH基やC=O基よりも大きく2)、このため無電解銅めっきの触媒や銅めっき自体とFEP表面が強く結合したと考えられる。


                    図1 XPSによる各処理後の表面化学状態


                                表1 クロスカット試験結果



4.結言

FEP板に窒素/エタノール混合ガス雰囲気で300秒VUV光を照射し、さらに大気下でVUV光を10秒照射することで、無電解銅めっきとの良好な密着性が得られた。この結果はフッ素樹脂を用いた高周波基板などの製造プロセスにおいて有益な情報を与える。
 

文献

1)玉井聡行, フレキシブル基板の表面修飾技術と無電解めっき技術: 高分子/金属界面の微細構造制御, 表面技術, 72(7), 386-390(2021).
2) 小川俊夫.プラスチックの表面処理と接着. 日本接着学会誌, 38(8), 295-305. (2002).

 

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