プラスチック成形加工学会第31回秋季大会

真空紫外光によるシリコーンハードコートの表面改質における加熱温度の影響

Effect of Heating Temperature on Surface Modification of Silicone Hardcoat by Vacuum Ultraviolet Light


(ウシオ電機,岐阜大学) 清水昭宏


For the practical application of plastic glazing, Nojiri et al. developed a technology that modifies a silicone hardcoat surface with vacuum ultra-violet (VUV) irradiation from excimer lamps to achieve wear resistance comparable to inorganic glass. To realize high productivity by applying the technique to the mass production of automobile window materials, it is necessary to reduce the VUV irradiation dose required for the modification. This study investigated the effect of heating temperature during VUV irradiation on the modification using x-ray photoelectron spectroscopy and Fourier transform infrared spectroscopy. It was found that the higher the heating temperature during VUV irradiation, the greater the thickness of the modified layer at the same VUV irradiation dose, indicating that heating accelerates the modification.

Keywords: vacuum ultraviolet light, excimer lamp, silicon hardcoat, modified layer, heating temperature


1. 緒言

脱炭素社会の実現に向けて,電気自動車の普及が推進されているが,航続距離が短い課題があり,車両の軽量化が求められている.車両を構成する部品で,窓材の無機ガラスの占める重量の割合は大きく,これをポリカーボネート(PC)などの樹脂に置き換える“樹脂グレージング”が進められている1).PCは無機ガラスと同等の透明性を有し比重は約1/2であるため,無機ガラス比で約50 %の軽量化を実現できる.一方で,PCは無機ガラスに比べて,耐摩耗性,耐候性などが劣るため,PC表面にシリコーンハードコート(以下,ハードコート)がコーティングされる1).しかし,ハードコートだけでは自動車用安全ガラス認証におけるフロントガラスの耐摩耗性の要求基準を満足できない.そこで,野尻らは,エキシマランプから真空紫外(VUV;vacuum ultraviolet)光をハードコートに照射することで,ハードコート表面を改質する技術を開発し,積算光量3 J/cm2程度のときに無機ガラスと同等の耐摩耗性が得られることを報告している2).野尻らは,ランプ面照度200 mW/cm2のエキシマランプで,ハードコート付きPC板(100 cm×100 cm)の全面を積算光量3 J/cm2で改質する場合に必要な時間は,ランプ4灯で約120 s,8灯で約60 sと試算している2).自動車の窓材の量産化に適用するためには生産性の向上が求められ,それには改質に必要な積算光量を低減することが重要である.本研究では,積算光量の低減に寄与し得る照射条件として加熱温度に着目し,VUV照射時の加熱温度がハードコートの改質に及ぼす影響を調べた.


2. 実験方法

野尻らの研究2)を参考に,PC基板にプライマー(モメンティブ, SHP470FT-2050)とハードコート(モメンティブ,AS4700F)をコーティングしたサンプルを準備した.エキシマ照射装置(ウシオ電機,SVC232シリーズ)のステージにサンプルを載せて,酸素濃度を約1000 ppm,照射距離を5 mmに固定し,ステージ温度は25 ℃,50 ℃,75 ℃,100 ℃,120 ℃の5水準とし,VUV照射を行った.積算光量は1 J/cm2,2 J/cm2,3 J/cm2の3水準とし,所定の積算光量になるようにVUV照射時間を調整した.VUV照射によるハードコートの改質の程度を評価するために,VUV照射前後のサンプルについて,X線光電子分光(XPS)分析及びフーリエ変換赤外分光(FT-IR)測定を行った.XPS分析装置(ULVAC-PHI,Quantera Ⅱ)を用いて,ハードコートの改質層を含む深さ方向の元素比率を調べるために,Arイオンスパッタリング法で,ハードコートの深さ方向のC1s,O1s,Si2pの3元素の濃度比を測定した.フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光,FT/IR-4600)を用いて,全反射減衰(ATR)法でハードコート表面の改質層の化学組成を調べた.


3. 実験結果および考察

XPS分析による改質の程度は,改質層の膜厚(SiO2換算)とした.図1は,例として,ステージ温度100 ℃,積算光量3 J/cm2における改質層を含むハードコートの深さ方向の元素分布(上)及びSi2pとO1sの元素比O1s/Si2p(下)を示している.図1(上)からハードコート表面から内部に向かってC1sは5 %未満から15 %程度まで緩やかに増加すると共に,O1sは65 %程度から50 %程度まで徐々に減少しており,ハードコート表層が改質されていることが分かる.図1(下)でO1s/Si2pが約1.7で一定の領域はハードコートであるため,最表面からO1s/Si2pが1.7になるスパッタ深さ,すなわち453 nmが改質層の膜厚となる.図2は,各ステージ温度,各積算光量で同様に改質層の膜厚を求めた結果である.図2から,同一積算光量ではステージ温度が高いほど改質層の膜厚は大きくなることが分かる.ハードコートの改質は,VUV光によって照射雰囲気の酸素分子が解離した励起酸素原子がハードコート内部を拡散し,シリコーンが光開裂して生成したシロキサン組成物と再結合することで起こる.ステージ温度が高くなると,ハードコート内部の励起酸素原子の拡散速度が上昇するため,改質層の膜厚が大きくなったと考えられる.また,ステージ温度25 ℃かつ積算光量3 J/cm2のときの改質層の膜厚は,50 ℃では約2.5 J/cm2,75 ℃~120 ℃では2 J/cm2程度で得られた.すなわち,ステージ温度50 ℃以上では無機ガラスと同等の耐摩耗性を得るために必要な積算光量を低減できると考えられる.FT-IR測定によるハードコートの改質の程度も同様の傾向を示している.
 

 
Fig.1 Example of XPS analysis results

 

 
Fig.2 Relationship between stage temperature and thickness of modified layer
 

4. 結論

VUV照射時の加熱温度が高いほど,ハードコート内部を拡散する励起酸素原子の拡散速度が上昇するため,ハードコート表面の改質層の膜厚が大きくなったと考えられる.無機ガラスと同等の耐摩耗性を得るために必要な積算光量は3 J/cm2と報告されている2)が,本研究では,加熱温度50 ℃以上で2.5 J/cm2以下に低減できる可能性が示された.


参考文献

1)    福井博之,NEW GLASS, Vol.25, No.1(2010)
2) 野尻秀智ほか,成形加工,30(1),30-36(2018)

*Akihiro Shimizu
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