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光技術情報誌「ライトエッジ」No.7(1996年7月発行)

<特集>熱放射加熱

はじめに

友行昭夫、甲斐鎌三

光には照明としての利用、光化学作用としての紫外線利用のほかに、放射エネルギーを加熱に利用する分野がある。しかし我々が放射熱を利用する場合、真空中での使用はあまりなく気体や液体など媒体を通して加熱することになるので、実際の加熱過程では放射単独の過程ではなく、対流と伝導のひとつまたは両方が常につきまとう加熱過程といえる。

物を加熱する効果を検討する分野では光の波長としては、0.76〜2〜4µmの近・中赤外放射と4µm以遠の遠赤外放射線に分けるのが都合がよい。波長区分については現在ではまだ共通理解が国際的にも得られているわけではない。ここでは我が国の産業用加熱の分野で使われている規格ならびにIECの「国際電気技術用語集」に準じて0.76〜4µmを近・中赤外放射とし、4µm以降〜1mmまでを遠赤外線放射としているのに準ずることにする1)。そうすると管球ガラスに対する透過率の限界波長はガラスの種類にもよるが4µmであるので、ハロゲンランプと遠赤外線ヒータからの放射を区分する波長ともちょうど一致している。

この特集号では第1章において光放射の諸法則を概観した後、光加熱の特徴を述べている。ウシオ電機(株)はこれらの特徴を生かすために熱源となるいろいろなランプを世に出してきた。それらはハロゲンランプと放電ランプという大きく 2つに分類される商品群である。第2章にはそれらのランプの構造と特性について述べている。電力を1次エネルギーとする光加熱の熱源の種類は①シーズヒータやニクロムヒータなど金属抵抗発熱体②抵抗発熱型セラミックヒータ③金属のパイプまたは板の表面にセラミック放射体を表面処理し、内部に抵抗体を装着したヒータ④ランプ状ヒ一夕に分けられる。ランプ状ヒータ以外は放射エネルギーの波長特性のピークが2 µm以降の遠赤外域にあり、放射エネルギー密度は一般に低いものが多い。ランプ状ヒータが電気を1次エネルギーとする遠赤外線ヒータに比べて優れている点を列挙してみる。ランプによる加熱技術と用途について記述しているのが第3章である。

まずほこりの出ないクリーンな熱源であることが挙げられる。これは半導体製造工程のような極めてクリーンな環境が必要な所では有利な点であり、拡散炉やエピタキシアル成長を行う蒸着装置はウエーハにアニール炉で当社のハロゲンヒータが使われている。第2 に真空中で熱放射効果のあるのは光加熱の特長であるが、真空中あるいは減圧雰囲気下に、ヒータをセットして利用できる加熱源としてはランプは唯一といってよい。エピタキシアル成長をはじめ多層膜コーティングなど蒸着装置やCVD装置で採用される所以である。第 3に放射エネルギー密度が大きく、かつ加熱源が小さく設計できるという特長は、反射鏡で大きなエネルギーを対象物に集光できることを容易にする。ウシオ電機(株)はこれらの配熱設計に長年の経験をもっており、ハロゲンランプヒータは自動車の塗装乾燥装置や単結晶引き上げ装置に利用されてきた。コンパクトな楕円ミラーによるイメージ炉はスペースシャトルにも搭載され、宇宙環境での半導体結晶や超伝導物質の創製にも採用されている。第4に急速・急冷に適応できることが挙げられる。この特徴は時間的に断続的な加熱の場合効率的なシステムの設計が可能になる。半導体製造における拡散炉やアニール炉では、この特性の有利性は大きなものであるに違いない。製紙工業などで大きな紙の乾燥の場合、水分が不均一な分布を持つのでハロゲンランプの制御応答性の良さが有効である2)。第5に対象物の吸収波長の問題がある。確かに塗料やプラスチックは透過率のデータにおいて、2µmより長波長の遠赤外領域で赤外活性のため、光吸収の大きいものが多く、このことがセラミック製遠赤外線ヒータの利点になっている。しかし吸収域が遠赤外部にあるからといって20µmや100µmといった遠赤外の吸収が加熱に寄与しているわけではない。ウィーンの変位則によれば、10.6µmが0°Cに対応する放射エネルギーのピークであることを考えれば、水が凍る温度以下では20µm以上もの長波長の放射が能率的に行われるわけがないからである。こんどは吸収厚みのことを考えると、水の場合で波長5µm以上の浸透距離はわずか0.2mm以下になってしまうので、遠赤外線ヒータの場合は表面から乾燥されるが、厚くなると近赤外部にエネルギー密度の大きいハロゲンヒータの方が効率が高く、仕上がりの品質が良いことが指摘されている。いったん透過した近赤外光が再び裏側の金属から反射され、塗料に吸収される過程で良い結果をもたらす3)。この近赤外の透過率の大きいことを積極的に活用したのが純水加熱装置に利用された技術になっている。塗料も環境問題上有機溶剤の排出規制から水性塗料となり、さらにパウダーコーティングが多く使用される傾向にある。そうなるとエネルギー多消費となり高負荷照射が必要になるという話もある2)近赤外のランプからの強い放射エネルギーはパウダ同志の融着、キュアリングを起こす熱源として有利となるかも知れない。

放電ランプの中で光加熱の熱源になっているのはキセノンランプだけである。キセノンランプは0.8〜1µmの近赤外域に強烈な輝線を多数有し、かつ点光源に近くできることから、主に上記の第3の特長を理想的に持っており、これを利用して光溶接や光はんだという比較的新しい用途が出ている。ミラーとレンズ系を通して集光する直接加熱型にもできるし、さらに光ファイバに入射してから対象物に集光する操作性の良い点集光型光加熱装置が設計でき、基板への部品実装ではんだごてに代わる装置などになる。それまでのハロゲンランプの使用の装置に代わって、電気設備メー力のM社が初めて実用化してキセノンランプの用途を広げた。ウシオ電機(株)も最近コンパクトな光はんだ付け装置を出している。大型キセノンランプは点集光型のイメージ炉として応用され、高融点材料の研究が行われた。人工衛星の地上試験用のソーラ・シミュレータとして宇宙開発事業団に採用され、30kWまでの大型キセノンランプの製造技術を持っている。今回の特集号には超高温材料研究センタ一の鎗居俊雄氏らの超高温酸化試験機/揮散試験機への応用に関する報文を再録させていただいた。その他、フラッシュモードで点灯することによって、大きいパワーがプリンタのトナーに熱吸収され溶着させることによって、定着に利用する方法とその駆動電源について述べている。

この特集ではウシオ電機(株)の主力製品にスポットをあてたが、紹介しなかったものの中で印刷の定着用に遠赤外線ヒートローラの開発も進めている。同じ遠赤外線加熱の中でハロゲンランプによる加熱と遠赤外線ヒータの加熱技術はそれぞれ長所、短所を有し、互いに相補的な技術としてそれぞれの長所を生かしていくものと思われる。

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