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光技術情報誌「ライトエッジ」No.7(1996年7月発行)

<特集>熱放射加熱

1 光放射加熱総論1)

水川洋一、佐藤弘

1.1 赤外放射[赤外線]の波長領域

物体はすべて絶対零度(-273°C)以上の温度を持っており、物体からはその温度に対応した強さの赤外線が放射されている。赤外線は電磁波の一部で、可視光の長波長端から電波領域の短波長端約1mmまでの広い領域である。その領域定義は分野によって必ずしも一定していないが、IEC(国際電気標準会議)によって主に電気工学の分野を対象にした区分を図1.1に示す。図1.1に示したように、赤外線放射は実用上の理由によりさらに細かく近赤外放射、中赤外放射、遠赤外放射に区分される。

1.2 黒体放射と実在する物質からの赤外放射

黒体はあらゆる温度放射体の性能を論じるときの標準となる基礎概念であり、その放射の分光分布はプランクによって理論的に証明されたものである。黒体は入射光を完全に吸収し、放射する理想的な物体である。プランクは黒体の分光放射発散度Me( λ )が次式で与えられることを示した。

式(1)をプランクの放射法則という。この式より放射エネルギーの波長特性を求めグラフ化したのが図1.2である。図1.2からこの曲線の山は温度の上昇とともに上に重なりその頂上が短波長側に移動していることがわかる。この極大値を与える波長と温度の関係は式⑵で示される。

式(2)をウィーンの変位則といい、図1.2中の斜線がこの式に対応する。

プランクの放射式(1)を全波長範囲にわたって積分すると、理想物体(黒体)の放射エネルギーはその絶対温度の4乗に比例することがわかる。これをステファン-ボルツマンの法則という。これは実際の物体からの放射熱伝達において、その物体の放射エネルギーは絶対温度の4乗に比例して大きくなり、熱源の温度上昇に伴う電熱景の増加が、熱伝導や対流による熱伝達に比べ一段と大きいことに注目されたい。放射エネルギーを、全波長域についてではなく、ある限定した範囲について知りたい場合は、図1.3を利用することで、簡単に割合が求められる。

実在の物体は理想物体(黒体)のようにはいかない。実在の物質に対しては、式(1)の代わりに式(3)を使用する。

式(3)を全波長範囲で積分した放射エネルギーは、式(4)で表せる。

放射率はその物質の温度によっても変化するので、実際の熱源に使用する場合は、動作時の温度も十分検討する必要がある。図1.4、図1.5に、種々の材料の分光放射率の測定例を示す。

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