USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.26(2003年8月発行)

エレクトロニクス実装技術

(2003年6月号)

フレキシブル基板用
ロールtoロール露光装置

ウシオ電機(株)
渡邊 俊昌

1 概要

ここ数年、電子機器の軽薄短小化要求と,さらなる『高密度化』が求められている中,フレキシブル基板の露光工程においては,『解像力の向上』,『スループットの向上』,『露光面のクリーン度』が求められている.

当社では,1976年より半導体露光装置用光源部(ランプ,ランプ電源,光学系)を供給してきた実績を基盤として,1986年にロールtoロール投影露光方式のTAB露光装置を開発した.

さらに,TAB露光装置,大面積露光装置で培った技術を元に,フレキシブル基板用露光装置を1995年に開発した.

ここ3~4年,フレキシブル基板業界でも生産性の向上を目的として,枚葉搬送からロールtoロール露光装置へと需要が移行してきている.従来は,拡散光を使用したコンタクト露光装置が主流であったが,配線ルールが100µmピッチから40µmピッチへと高密度化するに従い,平行光プロキシミティ露光装置が採用され,40µmピッチ以下では高アライメント精度および自動化・省力化・高生産性の要求により,投影レンズを搭載した完全非接触のロールtoロール連続投影露光装置が採用されている.

開発当初,仕様への要求ポイントは,

  • ①スループットの向上
  • ②解像力の向上
  • ③露光面のクリーン度

であった.現在ではそれに加え,

  • ④高位置決め精度の要求
  • ⑤さらなるゴミ対策
  • ⑥テープの伸縮への対応

と要求は多様化し,より高度になってきている.

その背景には,主にLCD用ドライバICの大型パネル向け高機能化,また,アプリケーションの多様化と拡大が考えられる.ビデオ,ノートPC,携帯電話へと需要は拡大し,さらに大画面FPDテレビへと期待は膨らむ.

2 フレキシブル基板用露光装置

当社のフレキシブル基板用露光装置には,プロキシミティ露光方式(写真1)と投影レンズを使用した投影露光方式の2種類がある.以下,装置についての説明を行う.

(1)フレキシブル基板用プロキシミティ露光装置

テープ幅250mm対応のロールtoロール露光装置で,露光方法は平行光を使用したプロキシミティ露光である.テープ搬送はタッグの影響を考慮し,グリップフィード方式を採用している.

また,マスクとテープの初期平行出しは接触させて行うが,プロキシミティギャップは自動設定となっている.アライメント方式は,画像処理によるオートアライメントとなっている.

写真1 UX-3100SR(PX)装置外観

(2)フレキシブル基板用投影露光装置

テープ幅165mm対応のロールtoロール露光装置で,露光方式は投影倍率1:1のテレセントリックレンズによる投影露光である.アライメント方式は,画像処理によるオートアライメントとなっている.

3 露光方式について

従来のフレキシブル基板に使用されている露光方式は,拡散光を使用したコンタクト露光方式であった.この従来方式ではマスクにレジストや塵などが付着し,基板のパターン欠損による歩留りの低下を招く.これは配線パターンが高密度化すればするほど顕著に現れてくる.

平行光を使用したプロキシミティ露光方式では,プロキシミティギャップをできるだけ大きく設定することでマスクへのレジストや塵などが付着をある程度防止することが可能となるが,逆に解像力が低下してしまう.

投影レンズを使用した投影露光方式では,マスクとフレキシブル基板とは投影レンズを介し完全非接触である.そのためマスク寿命は半永久的であり,マスクダメージによる基板のパターン欠損が生じない.また,焦点深度が±50µmと深いため,レジスト厚みが変わっても寸法変化がない.これはドライフィルムなどの厚膜レジストの露光や,パターン内でレジスト厚みの違うソルダレジストの露光に有効である.

投影レンズは,露光領域全面に渡りパターン形状精度を確保する必要性から,テレセントトリックレンズを採用している.標準の投影レンズの露光波長は365nm,405nm,436nm,3線を使用しているが,最近の高解像力化や線幅安定性などの要望から365nm単波長を使用した高解像力レンズもラインナップしている.

テープ状のフレキシブル基板はその材料特性とプロセス上の問題で,加工が進むと伸縮が大きくなってしまう.それに対応するのが投影レンズの倍率変更機能である.最大±0.1%の倍率変更(スケール調整)が可能である.

4 搬送方式

プロキシミティ露光装置と投影露光装置とでは異なった搬送方式を採用している.

プロキシミティ露光装置のテープ搬送は,タッグ性の影響を考慮し,グリップフィード方式を採用することで高速搬送を実現している.対称テープ幅は250mmだが,幅の違うテープについてもオプションにて対応している.基本的にはノーテンション搬送となっているが,搬送中のみテンションをかけテープの変形を最小限に押え吸着不良を防止することが可能である.巻き取り側リールについてはテンションをかけた巻き取りが可能である.

投影露光装置のテープ搬送は,ピンチローラによるノーテンション搬送方式を採用することで,高速搬送を実現している.対称テープ幅は165mmだが,プロキシミティ露光装置と同様に幅の違うテープについてもオプションにて対応している.

レンズの露光エリアはΦ200mm(141mm)のため165mm幅テープの場合は1列露光を行うが,250mm幅テープの場合は2列露光で対応している.2列露光の場合,始め片側1列を露光し,露光後リールを掛け替えてさらにもう1列露光することになる.

5 アライメント方式

テープにあらかじめ開けられたアライメントホールと,マスクのアライメントマークを画像処理によって合わせるオートアライメント方式を採用している.繰り返し位置決め精度は±5µm以下である.標準仕様として,プロキシミティ露光装置は表面アライメント,投影露光装置は裏面アライメント方式を採用している.プロキシミティ露光装置の標準が表面アライメントの理由としては,搬送時のマスクダメージを避けるため,マスクとワーク間に大きなギャップが必要となるためである.オプションとして暗視野照明,透過照明,表面,裏面アライメントがある.

テープ側のアライメントマークが貫通穴の場合,安定的なアライメントのため透過照明の使用が効果的である.

6 ワークステージ温調機能

露光光の熱によるワーク伸縮対策のため,恒温水の循環によりワークステージの温調をしている.

7 変形テープ対策

最近では表裏配線化,多層化,テープの薄膜化が進み,プロセスも多重複雑化している.それによりテープの変形も大きくなってきている.テープ変形は露光ステージでの吸着不良による露光性能の悪化を招くだけではなく,アライメント性能に対しても悪影響をおよぼす可能性がある.そのため真空吸着の大容量化,吸着ステージ部にテープ押え機能やフィルムガイドを設置するなどの対策を行い,吸着安定性とアライメント安定性を確保している.

8 クリーン化

今後,配線ルールの高密度化が進むほど,装置設置環境を含め重要な問題となってくる.プロキシミティ露光装置は露光部にクリーンエアユニットでクリーン化されたエアにより,与圧状態にして外部から塵の進入を防ぐ構造にしている.

また,露光ステージへ搬送する直前に,静電ブロー付きクリーンローラを設置し,テープに付着した塵を取り除いている.投影露光装置はクリーンサーマルチャンバで対応している.

9 露光波長選択

露光主波長は,365nm,405nm,436nmの3波長だが,i線バンドフィルタやg線バンドパスフィルタによる,露光波長の選択が可能である.

10 各方式のメリットとデメリット

(1)プロキシミティ露光装置

  • ①メリット
    ・投影露光方式と比べ露光面積の制限が少ない.
    ・コンタクト露光装置に比べ歩留りが良い.
    ・投影露光装置よりも装置価格が安い.
  • ②デメリット
    ・投影露光装置に比べ歩留りが悪い.
    ・マスタダメージを受けやすい.
    ・プリントギャップ設定時間が必要なためスループッ
  • トが遅い.
    ・テープ伸縮対策がしにくい.
    ・テープ変形対策が取りにくい.
    ・投影露光方式よりも焦点深度が浅い.

(2)投影露光装置によるメリット

  • ①メリット
    ・マスクは半永久的に使用できる.
    ・マスクダメージによるパターン欠損がなく,歩留り
  • が向上する.
    ・焦点深度が±50µmと深いため,レジスト厚みが変
  • わっても寸法変化がない.
    ・テープの伸縮に対し投影倍率の調整ができる.
    ・マスクとワーク間に距離があるため,変形ワークへ
  • の対策が可能.
    ・スループットが早い.
  • ②デメリット
    ・露光面積はプロジェクションレンズの制約を受ける.
    ・装置価格はプロキシミティ露光装置と比較した場合,
    高めである.

表1 装置バリエーションについて

11 今後の課題と見通し

フレキシブル基板の露光方式も,配線ルールのファイン化によるコンタクト露光からプロキシミティ露光,さらに投影露光へと変化している.今後の生産性向上のための課題について述べる.

(1)超高スループット

0.1秒/ショットでも短縮することが,大幅な生産性 向上につながる.

(2)プロキシミティ露光装置マスクダメージ対策

(3)両面同時投影露光装置の開発

露光処理回数が半分になり,アライメントの累積誤差も減り,大幅な精度向上と生産効率アップとなる.

(4)投影露光装置レンズ開発

  • ①高解像力レンズ開発
  • ②低歪レンズの開発
  • ③大面積レンズの開発

今後,ファインピッチ化が急激に進むため,必要となる高解像力・低歪レンズの開発が必須である.また,生産性向上の目的により,50µmピッチ製品でも投影露光装置の採用が進むため,レンズの大面積化が必要となる.また,高解像力

大面積化することで今まで以上のクリーン化への対応が必要となる

(5)極薄テープ対応機の開発

COFなどの生産効率向上によるコスト競争,ファインピッチ化によるテープの薄膜化が進むと考えられている.それに対応した装置が必要となる.

(6)クリーン化対策

今後ファインピッチ化により,今まで以上に塵に対し敏感に対策していく必要がある.今まで問題とならなかったレベルのものまで今後は重要視されてくる.搬送系についても極力無塵化した新しい構造への見直しが必要となる.

(7)装置のコンパクト化

現状では,生産量を増やすためには装置を増やす必要がある.工場の広さにも限度があり,単位面積当たりの生産量を増やすためには,今後装置のコンパクト化が必要である.今後も市場のニーズを先取りし,一層厳しくなる製品コストの問題からユーザー側の海外生産なども踏まえ,装置管理方式や操作性,生産性,装置価格など,より厳しい要望が出てくると思われる.そういった要望に対しできる限り応えていけるよう努力を続けていきたい.

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