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光技術情報誌「ライトエッジ」No.34(2011年3月発行)

プロジェクターの最新技術・改訂版(シーエムシー出版)

(2010年11月)

プロジェクター用ランプ

酒井基裕, 福島謙輔, 千葉茂

1. はじめに

プロジェクター用光源としてのランプの歴史は古い。プロジェクターとして期待される機能に対し、必要な明るさ、効率、コンパクトさなどに応じて様々なランプが用いられてきた。

以前はスライド・OHPに代表される静止画の投影を主としたデータプロジェクターとフィルムによる動画の投影を主としたビデオプロジェクターと、プロジェクター自体に棲み分けがあったが、デジタル化の進展に伴い、その境界は曖昧になってきている。

本稿ではデータプロジェクター用ランプの代表例として超高圧水銀ランプとビデオプロジェクター(特にデジタルシネマ)用ランプの代表例としてキセノンランプを紹介する。

2. 超高圧水銀ランプ

2.1 超高圧水銀ランプとは

既に年間市場600万台を超えるといわれるデータプロジェクターにおいて、光源としての超高圧水銀ランプは最も代表的な、かつ、主要な機能部品として位置づけられている。プロジェクターの低コスト化やコンパクト化の進展に伴い、液晶やDLPなどデバイスの種類によらず、チップサイズの縮小化が進められ、その結果、使用されるランプにも点光源性(短アーク化)が求められるようになった。従来使用されていたハロゲンランプやメタルハライドランプでは効率や短アークの点で超高圧水銀ランプに及ばず、超高圧水銀ランプが1998年に実用化されてからはデータプロジェクター用の標準的な光源となり今日に至っている。

2.2 超高圧水銀ランプの特徴

プロジェクターに用いられる超高圧水銀ランプは道路照明などで利用される水銀ランプに比べはるかに高圧(100気圧以上)で動作し、これは上述した短アーク化に寄与するとともに、蛍光体などを用いずとも演色性を高められるようにランプ自身のスペクトルを変化させる要因ともなっている。可視域での水銀の発光は本来励起準位間での輝線スペクトル(405、436、546、577/579nm)を主とするが、ランプ中の水銀動作圧の上昇に伴い、自己吸収により輝線スペクトルは減少し、かわりに個々のスペクトル線の広がりならびにHg2などの分子発光(420、433、451、464nm)1)などにより、連続スペクトル成分が増加する2)

プロジェクター用超高圧水銀ランプは通常、発光管と反射鏡がセットで固着されている。ランプの発光管は石英ガラスから成形され、発光管内部の一対の電極はタングステンから作られる。電極の後端部には薄い金属箔を溶接し、その箔のもう一端部にはリード棒を溶接する。発光管は無機系の接着剤を用いて反射鏡の所定の位置に固定される(図1)。

発光管の内部には水銀が封入される。水銀は元来蒸発しやすい金属ではあるが、本ランプに求められる程度の圧力を得ようとすると温度の管理が重要となる。ランプ動作中の水銀蒸気圧を例えば150気圧にするには発光管内面の最も低い温度(最冷点温度)を約866℃以上、200気圧にするには約921℃以上にする必要がある。しかるに発光管を形成する石英ガラスは1150℃近辺になると失透(結晶化)が始まる。失透の開始温度はアルカリなどの不純物の存在にも大きく影響を受け1000℃くらいまで下がる場合もある。ガラスが失透すると白濁して照度低下の原因となったり、破損の原因ともなる。そのため所望の水銀蒸気圧を確保しつつ、失透の発生しない温度に維持することは非常に困難である。発光管温度と失透の関係については後述する。

発光管内部には微量のハロゲンも封入され、管壁に付着したタングステンと化合物を形成して蒸発するいわゆるハロゲンサイクルで発光管の黒化を防止している。本ランプがコンパクトな割に長寿命であることの一因となっている。

反射鏡にはホウ珪酸ガラス、結晶化ガラスなどそれぞれの熱的な耐性に合わせて材質が選択される。形状としては、ライトトンネルを用いるDLP系には短焦点型の楕円形状が用いられ、インテグレータ光学系が主流の液晶系には放物線形状が利用される。しかし、最近の液晶系ではコンパクト化のために長楕円鏡と凹レンズの組み合わせが採用されることが一般的になってきた。また、反射膜として誘電体多層膜が形成され、プロジェクターにとって不要な紫外光や赤外光を透過させ、可視光のみを反射させるようになっている。

ランプの点灯方式にはAC方式とDC方式があるが、短アーク化、長寿命化の流れの中でAC方式が採用されることが多くなっている。AC方式では上述のハロゲンサイクルと駆動方式の工夫により電極先端にタングステンを帰還させて、突起形状を形成することができ、光学的にも長時間の安定点灯が可能である。駆動方式の工夫の仕方には当社では基本の高周波駆動に適宜低周波を挿入する組み合わせ方式-UDrive-3)を採用しているが、点灯時の高周波波形の一部分に電流パルスを重畳するパルス重畳方式が使用されている例もあり、各社から様々な方式が提案されている。

また、DLPの1チップ方式ではカラーホイールの各セグメントでの明るさを変化させることで明るさや色味改善が図られており、その観点でも駆動方式は重要である。

これらの複雑な駆動方式を実現するためにバラスト側の改良も図られている。最近では高周波制御が可能なDSP(digital signal processor)も容易に入手可能となり、バラストの部品点数の削減やコンパクト化が図られている4)

図1. 超高圧水銀ランプ(交流点灯型)の外観図

2.3 超高圧水銀ランプの最近の技術動向

(1)明るさ

データプロジェクターが広く行き渡り、明室での活用シーンが増えてくると十分な明るさが求められる。プロジェクターの明るさ向上におけるランプによる方策としてはランプ電力、発光効率とランプからの光利用効率などが課題となる。

ランプ電力については当社では1998年にDC点灯方式でアーク長1.3mmの150Wランプをフロントプロジェクター用に発売して以来、年々高出力化を進め、2010年現在でAC450Wランプの製品化を進めており、一灯式で6,000lm 超の実現も可能となってきた。

発光効率についてはランプの動作圧力を上げ、光源サイズ(放電アーク)を径方向に収縮させ、連続スペクトル成分を増大させることで改善できる。ただし、上述の通り、最冷点温度と石英ガラスの失透温度との兼ね合いで冷却コントロールがよりシビアになる。

光利用効率についてはチップサイズに合わせた短アークランプの開発が第一であるが、それ以外にも光学系の特徴に合わせ、発光管形状や反射面を最適化するものも開発されている(図2)。また、さらに明るさを稼ぎたい場合には複数ランプの組合せで使用される場合があり、光学系の工夫により光利用効率を高める取組みもなされている。昨今の光学シミュレーション技術の進歩は著しく、今後も更なる光利用効率の向上が期待される。

図2. リフレクタ反射面形状の最適化

(2)寿命(照度維持率)

ランプ起因でのプロジェクター照度低下は、黒化や失透(白濁)による発光管の透過率低下と電極の損耗にともなう極間寸法の拡大による光利用効率の低下とに大別される。

黒化や失透の防止には発光管内の不純物除去が第一に取り組まれる。発光管内の不純物はハロゲンサイクルを阻害して黒化を引き起こしたり、黒化することで発光管温度が上がり失透を促進する場合もある。また、クリーンな環境下での組み立て・部材処理化などの製造技術の向上やランプの構成材料の高純度化も重要である。

黒化や失透防止の次なるポイントとしてはランプ動作時の冷却管理が非常に重要である。黒化の防止にはハロゲンサイクルを利用していることは述べたが、発光管全体の適切な温度管理をしないと相対的に温度が低い発光管端部に黒化が付着することとなる。また、失透については発光管上部温度を下げることでガラスの失透を抑制し寿命が著しく改善されることが実験的に確認されている(図3)。

これら冷却条件の最適化に加え、電力に応じた適切なサイズの電極設計や上述のようにランプの駆動方式の改善によって電極損耗を抑え、光利用効率を維持することで照度維持率は各段に向上した(図4)。今後も更なる長寿命化にむけて改良が継続される。

図3. 発光管温度と失透の成長速度

図4. AC230Wランプにおける照度維持率の改善例(点灯モード:2時間30分ON / 30分OFF)

3. キセノンランプ

3.1 キセノンランプとは

キセノンランプが所謂「映写機」と呼ばれるフィルムプロジェクターの光源として電球やカーボンアークに置き換わり実用化されたのは1950年代であるから実に50年以上の歴史・実績がある5)。その後も様々なランプが開発されたが、よく言われるようにキセノンランプは太陽光に一番近いスペクトルを持ち、色再現性が非常に高いことから映像表現あるいは芸術としての映画投影になくてはならない存在として採用され続けてきた。

昨今の3Dブームに代表されるように映画のデジタル化が進展し、それに合わせてキセノンランプも一段の進歩を遂げた。ここではその一部を紹介する。

3.2 キセノンランプの特徴

プロジェクター用のキセノンランプは直流で点灯され、対向した放電電極(陽極・陰極)と発光物質であるキセノンガス、そして石英ガラスからなる発光管を主な構成要素とした比較的シンプルな構造を持ち(図5)、映写機用光源として使われ始めた1950年台から基本的にはほとんど変わっていない。が、その一方で使用される電極等の材料開発や製造技術においては大きな進歩・発達がみられ、性能・信頼性に関して大幅な向上が成し遂げられている。

キセノンランプの発光原理はいたってシンプルで高圧のキセノンガス中に放電(アーク)を起こすことで光を発生させる。もちろんそのアーク中では電子が原子やイオンにぶつかって減速される際に発光する制動放射やキセノンガスが電離・イオン化し、元のキセノンガスに戻る際に発光する再結合放射などの機構が働いているが、ここでは詳細は割愛する。興味のある方は前掲の書籍2)や当社HPの技術資料6)を参照されたい。

プロジェクター用光源としてのキセノンランプの長所は以下の通りである。

  • ①演色性が高い。
  • ②大出力ランプの製作が比較的容易である。
  • ③(他の放電ランプに比べると)冷却が容易である。一方、短所としては
  • ④発光効率が30~50lm/Wと比較的小さい。すなわち、同じ明るさを得ようとすると相対的に大電力のランプが必要となってしまう。
  • ⑤他の放電ランプと比べて相対的に低電圧、大電流特性となり点灯電源が比較的に大型となる。
  • ⑥ランプ内に封入されるキセノンガス圧が高い(非点灯時でも数気圧から十数気圧)為に、ランプの始動には30~40kVの高電圧パルスが必要となる。

といったことがあげられる。

図5. プロジェクター用キセノンランプの基本構造

3.3 キセノンランプの最近の技術動向

反射型液晶やDMDといったデバイスを用いたいわゆるデジタルプロジェクターにおいては、そのデバイスの小ささや複雑な光学系構成のために従来型(フィルム映写機用)のキセノンランプではアーク輝度が足りずに十分なスクリーン輝度を得ることができない。そこで、これらのプロジェクター用には特別に高輝度化設計が行なわれたランプが設計された。一例として各用途向け2kWランプの軸方向アーク輝度分布の比較を図6に示す。デジタルシネマプロジェクター用ランプでは、ほぼ同じ電力仕様のフィルムプロジェクター用ランプに比べて極間距離で0.84倍、輝度で1.3倍の設計がなされている。また、映画のように暗所で常設されるとは限らないレンタル/ステージング向けプロジェクター用ランプでは更なる高輝度設計が必要となり、極間距離で0.7倍、輝度は1.6倍となるよう設計されている。

キセノンランプの設計において、このような高輝度設計とするためには短極間化と同時に高ガス圧化、更に電極先端形状の最適化を行う必要がある。つまりは従来ランプと同等の電力をより狭い空間に集中させることに相当し、これは電極(陽・陰極共に)への負荷が大きくなって電極損耗スピードが増大することを意味する。これに対してランプメーカー各社は負荷耐性の高い素材の採用や、さまざまな設計工夫による負荷の低減を試みているが、残念ながら現状において全ての高輝度型ランプが従来型ランプと同程度の寿命を得ているとは言えない(図7)。今後、長寿命ランプの開発が待たれるとともに、必要とするスクリーン輝度と寿命のバランスを総合的に判断したランプ設計が必要である。

図6. 各種2kWキセノンランプの軸方向アーク輝度分布

図7. 各種2kW キセノンランプの光束維持率

4. 今後の取り組み

今後、LDやLEDといった固体光源を採用したプロジェクターが徐々に増えてくると考えられるが、明るさやコストパフォーマンスの観点でまだまだランプはプロジェクター用光源の主流の位置を占め続けると考える。逆にそうあり続けるためにも今後も長寿命化や高性能化・高機能化のための改良を続けていかなければならない。

超高圧水銀ランプでは省エネや画像コントラストの改善のために電力可変(調光)範囲の拡大が検討されている。電力を絞ると明るさは略比例で変化する(図8)が、単純に電力を絞るとフリッカ(アーク不安定)が発生したり、水銀の動作圧変化で色味が変化したりするため駆動方式や冷却条件の工夫が必要となってくる。電力調光とパネル調光を組み合わせた新たなシステムも提案されている7)

この他、黒化に対して影響が大きい点滅サイクル(ON/OFFサイクル)に対して短期点滅においても優れた耐久性能を示すランプも提案されている(図9)。

キセノンランプでは上述の長寿命化の取組み以外に、寿命末期に発生するフリッカの低減や寿命末期での確実な点灯が課題であり、点灯電源含めて改善が進められている。

図8. ランプ電力と明るさの関係

図9.新電極設計による点滅耐性の改善(点灯モード:5分ON/5分OFF)

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