USHIO

(2017.03)
応用物理学会(春季)

AlN系三次元構造の形成と紫外多波長発光

Fabrication of AlN-
based three dimensional structures and UV polychromatic emission

京大院・工 片岡 研*,千賀 岳人 *,船戸 充,川上 充,川上 養一 (* ウシオ電機)
Kyoto Univ., ○K. Kataoka,* T. Senga, M. Funato, and Y. Kawakami (*USHIO INC.)
E-mail: kawakami@kuee.kyoto-u.ac.jp
 

(はじめに)

 SiO2などをマスク材料として用いる結晶再成長により,GaNの三次元 の三次元 (3D)構造を形成できることが知られている .このGaN 3D構造上にInGaN量子井戸を作製すれば,3D構造を構成するファセット結晶面に依存して井戸幅や組成が変化するため,白色を含む可視多波長LEDが実現可能である[1].一方,この手法をAlN系紫外(UV)材料に適用することは,原理的には可能であるが,実際的には,AlNの結晶再成長が困難であることから,これまでにUV多波長発光の報告はなかった.応用上は,例えば樹脂硬化の際,異なる波長の紫外光により樹脂表面と内部を同時に硬化することが実際に行われている.現時点では,Hgランプの複数の輝線がそれに用いられているが,Hg使用の抑制が求められる社会的情勢から,半導体によるUV多波長発光への期待も高まっている.本研究では,素子の作製方法を工夫することにより,半導体からのUV多波長発光を初めて実現したので報告する.
 

(実験)

 試料は有機金属気相成長法(MOVPE)により,c面サファイア基板上に作製した.まず,AlNテンプレートを3.5 µm成長後,ex situのフォトリソグラフィーにより,AlNのa軸に沿ったNiストライプマスクを形成した.マスク部と開口部はいずれも12 .mとした.反応性イオンエッチング(RIE)により1 µmエッチングし,AlNによるトレンチ構造を形成した.その後,MOVPE装置に戻してAlN,さらにはAlGaN量子井戸構造を作製した.AlGaN量子井戸は,平坦なc面に作製した場合,Al組成70%,AlGaN膜厚2.0 nmとなる設計とした.  
 

(結果および考察)

 図1に断面走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す.主として(0001)面と(1.101)半極性面からなる3D構造が形成されていることがわかる.ただし,トレンチの底のコーナー部分は,図2の透過型電子顕微鏡(TEM)像に拡大した通り,平坦な(0001)面ではなく,バンチングしたステップと(0001)テラスからなることが分かった.このコーナー部分では,(0001)面の成長が,横方向からの(1.101)面の成長により妨げられており,コーナーから離れた(0001)面の成長よりも低速化すると考えられる.それが,ステップバンチングの原因であると推察している. 
 この構造からの発光を,室温における表面カソードルミネッセンス(CL)により評価した.スペクトルの例を図3に示した.二つ(以上)の成分からなる紫外多波長発光が達成されている.表面SEM像とCLマッピングの対応から,図3中に提示したように,短波長発光が(0001)ファセット,長波長発光がステップバンチングした領域に対応していることを確認した.断面TEMとエネルギー分散スペクトロスコピー(EDS)によると,バンチングしたステップ端でGa取り込みが増大しており,それが長波長発光の要因であると考えられる.発表では,マスク構造や井戸幅依存性など,より詳細な議論を行う. 

 図1.作製したAlN系3D構造の断面SEM 


図2.3D構造の断面TEM明視野像.


図3.室温におけるCLスペクトルの例

(参考文献) 

[1] M. Funato, Y. Kawakami, et al. APEX 1, 011106 (2008).