第70回 応用物理学会 春季学術講演会
(2023.03)


光導波路を用いた高出力・高速近赤外分光器の開発 

High-power and high-speed near infrared spectrometer using optical waveguide



 

佐原 純輝, 五十嵐 彩, 赤井 伸伍, 世良 英之, 川越 寛之, 横山 拓馬, 山田 剛

J. Sahara, A. Ikarashi, S. Akai, H. Sera, H. Kawagoe, T. Yokoyama, and G. Yamada

ウシオ電機株式会社 / Ushio inc.


 

      赤外分光法は分子振動スペクトルを非破壊・非接触で計測できる手法であり、試料の化学種同定における強力なツールである。分子結合の倍音や結合音を観測する近赤外分光法は、多変量解析を用いることで複雑なスペクトルから有意な情報を得ることができ、試料の水分含有量や糖度測定などへ応用されている。可視・赤外光より高深達、高SNR測定可能な特徴を活かし、食品や化学分野での全数検査への応用が期待されている。現在近赤外分光で主流のFT-NIR装置はスペクトル取得に1 s程度かかる。超高速にスペクトルを測定する手法としてパルス伸長分光法が研究されている。分散素子を用いてパルス光をチャープさせ、フォトダイオード等でその時間波形を取得することで高速にスペクトル測定ができる。これまでに光ファイバの色分散[1]や回折格子と非平行ミラー対を用いた手法[2]により10 MHzを超える高速レートでのスペクトル測定が実現されている。しかし超高速な一方、出力制限や装置が大型化するといった課題があり、高速全数検査への応用はまだ実現できていない。

我々は光導波路を活用した高出力・高速な近赤外分光装置(パルス分光装置)を開発した(図1)。波長0.9-1.3 mmに広がるSC光(Supercontinuum)をAWG(Arrayed Waveguide Grating)で波長の異なるパルス群に空間的に分割し、長さの異なるファイバを用いて各パルスに異なる時間遅延を与える。この方式では色分散を使わずにチャープを与えることができるので、長尺な光ファイバが不要となり非線形効果で律速される出力制限を回避できる。これにより、試料照明強度60 mWの高出力を実現した(測定レートは1.2 MHz)。AWGによる波長分割数は61、波長間隔は約6.6 nmである。開発した装置では、試料照明強度を約3桁落とした条件でも試料(SRM2035b, NIST)の吸収スペクトルをMHzレートで測定できた。講演では、パルス分光装置の詳細ならびに複数試料の吸収分光測定の結果について報告する。

                                 Fig. 1. Schematic of the developed near infrared spectrometer.

 

 

参考文献
[1] Chou, et al., IEEE Photonics Technol. Lett. 16, 1140 (2004), [2] Kawai, et al., Commun Phys 3, 152 (2020).     
                       

 
 

 

Copyright © USHIO INC. All Rights Reserved