レーザーダイオード(LD)

レーザーダイオードについて

光半導体とは

光半導体とは、電気を光に変える発光素子、あるいは逆に、光を電気に変える受光素子のことを指します。光半導体の具体例としては、発光素子では発光ダイオード(LED : Light Emitting Diode)やレーザダイオード(LD : Laser Diode)、受光素子としては、フォトダイオードや太陽電池、CMOSイメージセンサー等があります。また、光ファイバ通信に使われる光変調素子や、電気的に絶縁された回路間で情報伝達を行うフォトカプラーのようにこれらの素子を組み合わせた複合型の素子も光半導体に含まれます。

表. 光半導体の例

種類 光半導体素子の具体例
発光素子 発光ダイオード、半導体レーザ
受光素子 フォトダイオード、太陽電池、CMOSイメージセンサー
その他 光変調素子、フォトカプラー、光スイッチ

半導体材料は、禁制帯幅という固有のエネルギー値をもっており、材料によって受光・発光の機能や取り扱える光の波長範囲が決まります。発光素子では、GaN系、AlGaInP系、GaAs系、InGaAsP系等の直接遷移型の化合物半導体材料が使われます。また、受光素子の半導体材料としては、直接遷移型と間接遷移型のいずれも利用することができ、900nm帯以下の可視光~近赤外域の波長帯ではSi、Ge等の単元素半導体材料が、1μm以上の波長帯の受光・検出にはInGaAs系の化合物半導体が主に用いられています。

ウシオ電機(株)では、光半導体製品として、365nm~1,300nmの各種波長帯の発光ダイオードと、375nm~852nmの各種波長帯の半導体レーザを取り扱っています。

発光素子について

半導体発光素子の基本構造は、化合物半導体材料を用いたPN接合のダイオード構造をもっています。PN接合に順電圧を掛けると、P型の半導体中では正孔が、N型の半導体中では電子が移動することで電流が流れます。これらのキャリアは、PN接合部に注入されて、電子と正孔が再結合する際に、半導体材料の禁制帯幅に相当するエネルギーを放出します。接合部に直接遷移型の半導体材料を用いている場合は、このエネルギーの大部分を光として放出します。一方、SiやGeのような間接遷移型の半導体の場合には発光が非常に弱く、ほとんどが熱に変わります。それ故、効率のよい発光素子を実現する為には、直接遷移型になる化合物半導体材料が用いられます。

発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)

PN接合のダイオード構造で電流注入により発生した光を効率よく外部に取り出せる構成した素子が発光ダイオードです。素子に流した電流を光に変換する効率を高める為、PN接合部にはダブルヘテロ構造が用いられています。ヘテロ接合とは、異なる半導体材料をつなぎ合わせた接合のことであり、同種の半導体のPN接合はホモ接合と呼ばれます。ダブルヘテロ構造では、P型の半導体層とN型の半導体層で、両者よりも禁制帯幅が小さい発光層を挟んだ構造となっています。このような構造を取ることで、発光層がいわばキャリアに対する井戸のように機能し、P型層およびN型層から注入されたキャリア(それぞれ、正孔と電子)が発光層に閉じ込められます。こうして発光層蓄積されたキャリアは、やがて電子と正孔が再結合して消滅し、その際にほぼ禁制帯幅に相当するエネルギーの光を出します。この現象は、キャリアが自発的に遷移して光を出すことから、自然放出と呼ばれます。各々のキャリアの遷移による発光は、互いに独立な事象であり、ランダムな位相の光が放出されます。また、出力される光は、発光層に蓄積されたキャリアのエネルギー分布に応じた波長幅をもっています。

図 発光ダイオードの構造
図 発光ダイオードの構造

尚、発光層に用いられる半導体材料は、前述のように発光層には直接遷移型の半導体を用いることが多く、高い発光効率の高出力の発光ダイオードや、キャリア寿命が短いことを生かして高速応答が可能な光通信用発光素子に応用されています。ただ、間接遷移型の半導体であっても、発光層に特定の不純物を導入することで不純物準位を介した発光が得られることが知られており、緑~赤色の領域の表示用の発光ダイオードには、間接遷移型のGaPが使われていました。

半導体レーザ(LD:Laser Diode)

レーザとは、「Light Amprification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字を取ったLASERという造語で、誘導放出により増幅された光を意味します。自然放出による発光がランダムな位相の光となるのに対して、誘導放出では光とキャリアの相互作用により、キャリアの再結合によって元の光と同じ波長、同じ位相の光を放出する増幅機能が得られます。よって、レーザ光は、単一波長で、位相が揃った非常に強い光になります。

半導体レーザの基本構造は、発光ダイオードと同様に、ダブルヘテロ構造のPN接合ダイオードとなりますが、レーザ発振を行わせる為に次の三つの条件が必要になります。

① 高い光学利得
② 反転分布
③ 共振器構造

図. 半導体レーザの構造と動作原理
図. 半導体レーザの構造と動作原理

まず、①は、発光層が直接遷移型の半導体材料であり、キャリアの再結合で直接発光を得られる構造であることが必要です。次に、素子に電流を流して発光層にキャリアを注入すると自然放出による発光が始まる一方で、発光層の中では発光と逆のプロセスで光吸収も起きています。素子の駆動電流が小さく、発光層のキャリア密度が小さい状態では、発光よりも吸収が支配的となっています。一定値以上の電流を流して熱平衡状態よりも多くの電子、正孔を発光層に蓄積し、誘導放出による増幅作用を持たせた状態を反転分布状態②と呼びます。レーザとして動作させる為には、更に③の共振器構造が必要となります。素子内で増幅された光を共振器構造で内部に閉じ込めて次々と増幅を行うことでレーザ発振に至ります。共振器子構造としては、2枚の反射鏡を互いに向い合せた構造が一般的です。誘導放出は、光とキャリアの相互作用である為、キャリアを閉じ込めた発光層に光も集める必要がありますが、前述のダブルヘテロ構造を取ることで発光層に光を閉じ込める効果が得られます。一般に半導体材料は、同種の材料系では禁制帯幅が小さくなる程、屈折率が大きくなる傾向があります。一方で光は、屈折率が高い所に集まる傾向があります。ダブルヘテロ構造では、発光層の禁制帯幅が小さく、屈折率が高くなることから、キャリアと同時に光も閉じ込めることができ、効率の良いレーザ発振動作が実現できています。尚、レーザの専門用語では、キャリアの再結合で光を生じる発光層を活性層、また、活性層を挟む両側の層をクラッド層と呼んでいます。これは、光ファイバのように光を閉じ込めて伝搬させる光導波路構造において、高屈折率の光を閉じ込める層をコア、その外側の低屈折率層をクラッドと呼ぶことからきており、半導体レーザには光導波路の機能も備わっていることを意味しています。

半導体レーザの特徴

半導体レーザの主な特徴として、次の4点が挙げられます。

  • 単一波長のコヒーレントな光
  • 小型・軽量
  • 低消費電力、高効率
  • 高速応答、直接変調が可能

光の単色性は、レーザ光の持つ特性の一つです。太陽光やランプ光源の光が色々な波長の光を含み、非常にブロードな波長スペクトルを示すのに対し、発光ダイオードでは波長幅が非常に狭いスペクトルとなります。これに対して、特定の波長の光を共振・増幅するレーザでは、単一波長の光を得ることができます。例えば、映像を表示する際には、RGBの三原色で様々な色が表現されています。ランプや白色LED等の白色光源の光をフィルタでRGBの三原色に分離し、表示色を制御する方法が一般に行われています。ただ、この方法では、RGBの各色が一定の波長幅をもっており、それらを重ね合わせても全ての色を表現することができません。これに代えて、RGBの三色のレーザ光源を利用すると、より鮮やかで色再現性・演色性に優れた映像が作れるようになります。

  • (a) 太陽光(昼光)
    (a) 太陽光(昼光)
  • (b) クセノンアークランプ
    (b) クセノンアークランプ
  • (c) 発光ダイオード(630nm)
    (c) 発光ダイオード(630nm)
  • (d) 半導体レーザ(630nm)
    (d) 半導体レーザ(630nm)

図. 各種光源の波長スペクトル比較

また、コヒーレント(可干渉性がある)な光であることにより、レーザ光を利用した様々な応用が可能となります。その最も大きな特徴としては、直進性が強く、レンズ等の光学系で回折限界まで集光できることです。例えば、DVDやBDの光ディスクでは、100~数100nmの微小スポットにレーザ光を集光することで光ディスク上の情報を読み取り、干渉性を利用した素子で光ディスクからの反射戻り光を検出して電気信号に変化しています。他にも、細く絞ったレーザビームをスキャンすることで対象物までの距離や方向を精密に測定するセンシング技術等にも利用されています。

ところで、レーザ光源にはいくつかの種類がありますが、その中でも半導体レーザの際立った特徴は、小型・軽量であることです。レーザチップ自体は、100μm~3mm程度であり、レーザチップが組み込まれたパッケージも、一般的なものは数mm程度と非常に小さいことが特徴です。これに対し、代表的なガスレーザであるHe-Neレーザの場合は、20cm~1m程度と非常に大きくなっています。これが、各種機器に容易に組み込んでレーザ光を利用できるようになった要因の一つであることは言うまでもありません。

表. レーザの種類と性能の例

種類 波長(μm) 出力(W) 効率(%)
半導体レーザ InGaN 0.37 ~ 0.53 CW 5W 40
AlGaInP 0.63 ~ 0.70 CW 3W 40
固体レーザ Tiサファイア 0.8 パルス 1W 0.1
YAG 1.06 CW 400W 3
液体レーザ 色素レーザ 0.3 ~ 0.9 パルス 100W 0.3
気体レーザ He-Ne 0.633 CW 0.05W 1
Ar 0.488, 0.514 CW 1W 0.1
CO2 10.6 CW 10kW 20

レーザの性能面では、半導体レーザには低消費電力、高効率、直接変調が可能といった特徴があげられます。半導体レーザの駆動電圧は、1~5V程度と電池駆動も可能な低い電圧であり、小さい電流で駆動することができます。投入電力をレーザ光出力に変換する効率については、半導体レーザは電流注入によって動作し電気を光に直接変換する現象を利用していることから、変換効率を高めやすくなっています。一方、ガスレーザや固体レーザ等の他の種類のレーザでは、光励起や高周波放電によりレーザ媒質を励起して反転分布を得ている為、エネルギーの損失が避けられず、効率は低くなってしまいます。また、半導体レーザでは、電流注入により駆動しており、電流量を変調するだけで光出力を制御することが可能であり、容易に直接変調で光出力変調を行える。同時に、半導体材料内での光子寿命が㎰オーダと非常に短く、キャリア寿命も十分に短い為、ns程度の高速応答が可能になっています。

半導体材料

発光素子には、化合物半導体材料、特に、III族とV族の元素を組み合わせたIII-V族の化合物半導体材料が多く用いられています。これは、化合物半導体材料が、材料の組成(構成元素の比率)を変えることによって禁制帯幅を変えることができ、かつ、発光素子に必要な直接遷移型の半導体となることがその理由です。下表に発光素子(特に、半導体レーザ素子)に用いられる化合物半導体材料と発光波長の例を示します。

表. 半導体材料と発光波長

表. 半導体材料と発光波長

これらの半導体材料は、構成元素が規則正しく並んだ結晶構造を持っており、基板上に結晶格子が整合した状態で結晶成長を行う(エピタキシャル成長と呼ばれる)ことで素子を構成する半導体材料が形成される。半導体基板としては、一般的に作製が比較的容易な二元系の半導体材料(GaN、GaAs、InP等)が用いられます。例えば、GaNではウルツ鉱型の結晶構造を、GaAsは、閃亜鉛鉱型の結晶構造を持っており、これらの基板結晶上に形成する半導体材料は、基板結晶と同じ結晶構造で同じ格子定数を持つように組成を調整する必要があります。尚、化合物半導体は強い劈開性を有します。劈開によって一つの結晶面に沿って分割されることでレーザのミラー面に利用可能な非常に平坦な面を形成できることも、半導体レーザの材料として用いられている理由の一つです。

図. 結晶の格子構造の例(a, c は、格子定数)
図. 結晶の格子構造の例(a, c は、格子定数)

以下、赤色の領域で発光するAlGaInP系の半導体レーザを例に説明します。まず、AlGaInP 4元混晶は、三つの二元混晶を一定の割合で混ぜ合わせた半導体材料となりますので、下図のAlP、GaP、InPを頂点とする領域の中で、III族の三つの元素の比率に応じて禁制帯幅や格子定数が決まります。これらの二元混晶の内、AlPとGaPはほぼ格子定数が等しく、AlとGaの組成比の和とInの組成比の割合でAlGaInP結晶の格子定数が決まることから、通常、(AlxGa1-x)0.5In0.5P の形で組成が表記されます。レーザの層構造の内、クラッド層には禁制帯幅が大きな材料が必要となりますので、多くの場合、Al組成X=0.7~1.0のAlGaInP混晶が用いられます。また、活性層には、GaInP混晶が用いられることが多く、ナノメートル(nm)オーダの薄膜を積層した多重量子井戸(MQW:Multiple Quantum Well)構造を採用することで、量子サイズ効果による禁制帯幅の変化を利用して発振波長を制御しています。尚、レーザ素子を構成する半導体材料の結晶成長では、半導体基板に格子整合した結晶材料を形成することを前述していますが、MQW構造の活性層のように薄膜の構造では格子不整による歪エネルギーが一定値を超えない限り、意図的に格子定数がずれた結晶材料を用いることができます。近年では、このような歪量子井戸構造が、発振波長の制御や、レーザの特性改善に広く利用されています。

図. 化合物半導体材料の禁制帯幅と格子定数の例
図. 化合物半導体材料の禁制帯幅と格子定数の例

青紫から緑色の領域で発振するGaN系の半導体レーザでは、一般に、クラッド層にはAlGaN、活性層にはInGaNが用いられており、上記と同様に、各層のIII族のAl、Ga、Inの組成を調整することで禁制帯幅や格子定数を制御しています。この材料系の場合は、クラッド層のAlGaNや活性層のInGaNが、元々半導体基板のGaNとは格子定数がずれており、歪応力を内在した構造となっています。特に、GaNとの格子不整により誘起されるピエゾ分極の問題(InGaN活性層内で電子と正孔の分布が局在化して発光効率が低下)や、In組成の大きなInGaN層の結晶成長が難しいといった課題があります。このような問題を解決するために、無極性面・半極性面のGaN基板を利用したレーザの検討や、新たな結晶成長技術の開発等が進められています。