LED素子/パッケージ

小型で世界最高効率のSWIR LEDベアチップを販売開始

2022.05.16

ウシオ電機株式会社(以下、ウシオ)は、このたび、LEDベアチップ市場に参入します。ウシオは、LEDやレーザーダイオードのパッケージ製品でSSL(Solid State Lighting)分野に参入していますが、チップ単体の製品ラインナップを拡充し、パッケージLEDメーカーや製品設計の自由度を高めたいと考えているユーザーへの対応を図ります。ウシオは、従来の「epitex Sシリーズ」に続き、新たなLED素子構造技術の導入により効率を大幅に向上させた短波長赤外線(SWIR)LEDチップ「epitex Dシリーズ」を2020年に開発しました。この「Dシリーズ」は、LEDチップを自社でパッケージングするメーカーや、設計の自由度を求めるメーカーにとって、魅力的な改良が施されています。この「Dシリーズ」のベアチップを販売することで、スマートフォンやモバイル機器、バイタルサインモニター、近接センサーなど向けに貢献できることを期待しています。


SWIR LEDチップ「epitex Dシリーズ」の技術改良点

 

1.    InP基板のリフトオフプロセスによる放熱性向上とLEDの高輝度化

ウシオでは、エピタキシャル成長用の基板としてインジウムリン(InP)を採用していましたが、熱伝導率が比較的低いため、その改善を強く望んでいました。そこで放熱性の向上を課題として、より高い熱伝導率を実現する方法を検討しました。
そこで、ウシオは、InP基板を熱伝導率の高い支持基板に置き換えるInP基板リフトオフの量産技術を確立。InPは温度上昇による効率低下が比較的大きいため、この放熱性向上により、実使用環境下での効率を向上させることができました。
InP基板はSWIR光を透過するため、従来のSWIR LED(Ushio epitex Sシリーズ)の発光層からの発光は、エピタキシャル層だけでなく基板側からも取り出されます。そのため、発光した光の広がりが大きく分散してしまいます。
これに対し、ウシオの新しい「epitex Dシリーズ」では、InP基板を除去し、支持基板とエピタキシャル層の間に高反射層を配置した構造になっています。高反射層を形成するために、LED内部の電気抵抗の増加を招かないよう、反射層の材料や構造を慎重に検討し、電気特性と光学特性の両立を実現しました。
その結果、薄いエピタキシャル層からのみ光が取り出され、LEDの輝度向上に成功しました。光学設計者にとって、一般的に輝度の高い光源は光学系の設計が容易であり、より使用しやすい光源になっています。
 

2.    新たなチップ表面構造による光取り出し効率の向上

LEDの高効率化を実現するためには、活性層から半導体結晶の外部へ効率よく光を取り出す必要があります。しかし、一般的に半導体と空気の界面で全反射が起こるため、屈折率の高い結晶から光を取り出すことは困難です。
そのためデバイスの表面が平坦面で構成されている場合、結晶内部で発光した光の数%しか外部に取り出すことができません。また結晶内部に閉じ込められた光は、結晶内部で反射を繰り返しながら、やがて吸収されてしまいます。ウシオは、これらの特性を以下の方法で改善しました。
チップ表面に粗い構造を形成することで、チップと空気の界面での全反射を抑制し、LEDの光取り出し効率を改善しました。粗面構造は、新しい複雑なエッチングプロセスによってLEDの表面に形成されます。この独自の方法で表面に均一な凹凸を形成しました。また、前述した支持基板とエピタキシャル層の間に形成した高反射層でチップ内部の光損失を低減しました。このような改善により、光の取り出し効率を最大限に高めることができました。
 

3.    チップ内部の電流経路コントロールによる高効率化と信頼性の向上

多くのLEDでは、電極直下の抵抗値が低くなるため、そこに電流が集中する傾向があります。LEDの発光は通常、流れる電流量に比例するため、電極直下に電流が集中すると電極直下で発光量が増えます。電極直下の発光は電極が影となり、結晶から十分に光を取り出せないという問題が発生してしまいます。また、電流が集中することで、結晶に局所的なストレスがかかり、デバイスの信頼性にとっても好ましくありません。
そこでウシオでは、結晶内部で電流が広がりやすいように、電極の配置や形状を検討。その結果、電極直下の発光を抑え、有効光量を増加させることに成功しました。またそれにより、電流集中が抑制され、より高い電流駆動時においての信頼性も向上することができました。
 
 

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