レーザーダイオード(LD)

製品・技術 670~690nm帯(Deep Red)レーザーダイオードとバイオメディカルアプリケーション

2022.03.07

波長帯で異なる赤色レーザーダイオードの用途


赤色レーザーダイオードには多くのアプリケーションが存在しますが、その目的や、波長そのものが持つ特性などが考慮され、それぞれのアプリケーションに適した波長が用いられています。

640nm帯は赤色の中では視感度が高く目視に適している為、位置決めや水平出しのためのラインレーザーやレーザーポインターなどに使用されます。レーザーTVやレーザープロジェクタなどRGBレーザーの混色で映像を作る用途には、高視感度と表現できる色域の広さを両立する波長として広く640nmが使われます。

レーザーダイオードの実用化以前にはHe-Neレーザー(632.8nm)が安定した光源として蛍光励起や散乱計測等に広く使用されていました。現在ではHe-Neレーザー波長に近い640nm帯のレーザーダイオードが共焦点顕微鏡等の蛍光バイオイメージングやフローサイトメータや粒径計測等の散乱計測 に用いられています。

DVDの記録・読出し用のレーザーは波長660nmに規格化され、市場拡大に伴いレーザーの高性能化も進みました。これを利用する形で工業用のラインレーザーや計測用レーザー等多くの用途にこの波長が採用され現在に至るまで用いられています。

今回ご紹介させていただく波長がやや長い670~690nm帯(Deep red)の光は、赤色光の中でも生体組織への侵入長が特に大きくなることが特徴で、ヒトの皮膚の場合で2-3mm程度の侵入長となります。この特徴と、生体適合性が高く、赤色帯の光を吸収し活性酸素を発生する光増感性物質(ポルフィリン系化合物)の存在により、「光を用いた治療」というバイオメディカル領域のアプリケーションが生まれました。

670~690nm帯(Deep red)の光を利用した治療 - 光線力学療法・光免疫療法

病巣と親和性が高い光増感物質を投与後、光を照射することで組織内で生成される活性酸素種により病巣組織のみを選択的に破壊する治療法は、光線力学療法(Photodynamictherapy, PDT)と呼ばれます。PDTは正常組織に障害を与えることなく治療が可能であることがメリットであり、肺癌、食道癌、悪性脳腫瘍、加齢黄斑変性症等の治療に用いられています1)。光増感物質としてはポルフィリン系化合物であるタラポルフィンナトリウム(ピーク吸収波長:664nm、商品名レザフィリン®)、ベルテポルフィン(ピーク吸収波長:689nm、商品名ビスダイン®)などが代表的です2)。PDT用の光源には、ファイバ導光が容易で必要照度が得やすいことからレーザーが用いられ、中でも近年はワットクラスの高出力を得られるようになったレーザーダイオードが広く使用されています。


さらに最近では、光を用いた全く新しい癌治療法である光免疫療法(Photoimmunotherapy, PIT)3)が注目を集めています。PITでは光感受性物質であるフタロシアニン系化合物(IR700)が結合した抗体を投与後、光を照射します。癌細胞に特異的に結合する抗体を用いるため、より高い選択性で癌細胞のみを死滅させることができます。IR700の吸収ピーク波長は690nm付近であり、PDTと同じくレーザーダイオードが多く用いられています。

最新の670-690nm帯のレーザーダイオード製品群

ウシオのレーザーダイオードの幅広い製品ラインナップの中から、本項でご紹介したバイオメディカル用途に適した670-690nm帯の発振波長を持つ製品例をいくつかご紹介します。

HL67001DG/HL69001DGは発振波長675/690nmで、シングルモードとしては最高水準の光出力200mW(CW)を実現したレーザーダイオードです。光増感性化合物の開発用途をはじめ、広くバイオメディカル分野における用途に適した製品です。φ5.6mmの小型TO-CANパッケージを採用し、CANパッケージ内にはレーザーパワーをモニターするためのフォトダイオードを内蔵しているため、光出力制御が容易です。

同じく発振波長675/690nmのHL67203HD/69203HDはマルチモードで1.2W(CW)と高出力を誇る製品です。発光効率(WPE)が非常に高いことも特徴で、それぞれ40%/41%を実現しています。PDT、PIT用など高い出力が求められる用途に適した製品です。

上記の4品種はいずれも-10~75℃の温度範囲で駆動が可能であり、光源装置への組込みに適しています。

なおウシオのこの波長域の定評あるLED製品も取り揃えており、多くの研究例で使用されています4)

ここにご紹介した製品以外にも、ウシオのレーザーダイオードは幅広いラインアップでご要望にお応えします。詳しくはウシオ レーザーダイオード製品紹介ページをご覧ください。

(参考文献)
1)    M.Kimura, Visual Dermatology Vol.7 No.2008 (in Japanese)
2)    T.Kaneko et al., J. Jpn. Soc. Laser Dent. (2007) 18:p9-15 (in Japanese)
3)    H.Kobayashi et al., Acc. Chem. Res. (2019), 52, p.2332−2339
4)    例  M.Mitsunaga et al. BMC Cancer (2012), 12:345

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