熱放射

thermal radiation ねつほうしゃ

解説

熱放射とは、気体、液体または固体を構成する原子、分子、イオンまたは電子は、熱平衡状態においては、その温度に対応したボルツマン分布に従う熱エネルギーで運動をしている。この熱運動によって、荷電粒子から電磁波が放射されるが、このような放射を出す過程または出された放射のことを熱放射という。

※英語では、この現象を示す語に<radiation>があるが、日本語では、かつての「輻射」が使われなくなったために、輻射の放射(emission of radiation)、輻射の吸収(absorption of radiation)を、単に、熱放射と言う。
※ステファンとボルツマンが、「熱放射が絶対温度の4乗に比例する」ことを発見(ステファン・ボルツマンの法則)し、ウィーンが 「その温度と放射のピーク波長とが反比例の関係にある」 ことを発見(ウィーンの変位則)した。ウィーンの変位則の例として、恒星の温度と色の関係が挙げられ、赤からオレンジ、黄、青と短波長になるほど温度が高い。プランクは、これらの特徴を「熱放射の温度と波長による関数」で説明する式を提示した。
プランクの放射則を参照。

このプランクの理論式が成り立つ理想的な熱放射体を「黒体」という。実在する物体は、これより弱い放射しかなく、実際の物体の熱放射の理論値に対する割合を放射率という。
黒体を参照。

    放射率=(実際の熱放射)/(プランクの熱放射理論値)

熱放射はどんな物体でも起こる本質的な現象だが、その強度は、物質の種類や表面状態に依存する。
熱放射と熱吸収とは関係があり、同じ割合でおこる。すなわち、熱放射しやすい物体はそれと同程度に熱吸収しやすく(キルヒホフの法則)、熱放射と熱吸収の割合である放射率と吸収率は、
    放射率=吸収率
の関係がある。

放射率が“1”である理想物体が「黒体」であり、黒体の吸収率は“1”である。
日向に置いた黒い布は太陽熱を吸収しやすいと同時に熱放射もしやすい。つまり、熱しやすく冷めやすい。

透明物質や不透明物質を含めて考えると、入射した単位エネルギー“1”に対して、反射、吸収、透過の起こる割合を、それぞれ反射率、吸収率、透過率といい、次の関係が成り立つ。

    反射率+吸収率+透過率=1

ここで、通常の不透明な物質なら 透過率=0 であることから、放射率と反射率は、以下の関係式が成り立つ。

    放射率=1-反射率

不透明物質では、反射しやすさと放射しやすさとは逆の傾向を示す。放射率が1である黒体では反射率はゼロ。入射エネルギーは反射されず、すべて吸収される。
一方、反射する白色物体や鏡面の金属表面などは反射率が高い。従って放射率は低く、高温になっても熱放射は少ない。ちなみに電気ストーブの鏡面から受ける熱は、鏡面自体の放射ではなく、熱源からの放射の反射である。

※人体表面の放射率は0.95程度、つるつるぴかぴかの金属面では、アルミ0.05、金0.03、鉄0.08と低いが、酸化したザラザラの金属面では0.7~0.9となるものがある。
ある温度での物体の放射率を求めるには、プランクの熱放射理論値と測定される値との比をとればよいが、可能ならば、測定面での測定波長の光の反射率を測定して、これから1を引くという方法もある。
実在面の放射率を理論から導くのは難しく、表面層の成分や凹凸が放射率を大きく変えるため、定式化は簡単ではない。