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光技術情報誌「ライトエッジ」No. 5(1996年3月発行)

光技術コンタクト Vol.34 No.1

(1996年)

特集:表示素子の色再現及び材料技術
直視型,投射型LCD用光源と色再現

蕪木清幸,田川幸治

1.まえがき

近年,液晶ディスプレイ(LCD)は,ディバイスの改良により解像度・応答速度・コントラストなどの表示性能が急速に進歩して,カラーテレビに採用されるようになってきた。'95年秋のエレクトロニクスショーでは,この傾向が明確になり10型以上の直視型LCDテレビや40型リア投射型LCDテレビが多数出品されてきている。また,ここ数年で,カメラ一体型ビデオにおいても,ビューファインダーに代わり,3から5型のカラーLCDを搭載したものが市場の約50%を占めるまでになっている。大型のテレビと同様にこの場合も,CRT並みの明るさと色再現を実現するために,非発光体であるLCDの表示に必要なバックライトに対してより高い性能が求められている1)

ここでは,直視型及び投射型LCD用バックライトとして使用されている各種ランプの特徴と一部の光学系を含めた色再現について最近の動向を含めて,述べる。

2.各種ランプの特徴と光学系

LCDは,小画面の直視型と大画面の投射型に分けられる。直視型用バックライトでは,コンパクトで消費電力が小さい小型傾向ランプ,投射型では,光の利用効率を良くするために発光面積の小さいショートアークメタルハライドランプ,ハロゲンランプ,及びショートアークキセノンランプが用いられている。

2.1 各種ランプの特徴

(1)小型蛍光ランプ

直視型LCD用バックライトに使用されている小型蛍光ランプは,バルブ内面に希土類3波長蛍光体が,塗布されている。蛍光体は,水銀の254nmの紫外線を可視光に変換し,水銀の可視光の輝線スペクトル(特に436nm)の重ねあわせで,色再現に適した効率の高い発光スペクトルが得られる。図1.1に代表的な蛍光ランプの発光スペクトルを示した。希土類3波長蛍光体は,赤(Y2O3:Eu),緑(La PO4:Tb,Ce or MgAl1iO19:Ce,Tb),青((SrCaBaMg)5(PO43 Cl:Eu or BaMg2 Al16O27:Eu)の各波長域にピークを有している2)。また,これ以外にも,限定された用途として,赤(3.5MgO・0.5MgF2・GeO2 :Mn,以下Red-2と略す),青(BaMg2Al16O27:Eu,以下BAMと略す)が上記の希土類3波長蛍光体の1ないし2成分の代わりに用いられることがある。ランプは,電極の種類により熱陰極型と冷陰極型に分類される。形状としては,いずれも直管の他にU型,W型及びL型,コ型があり,バルブ径は2~10mmである。ちなみに,'95年のLCDインターナショナルにおいて外径Φ2の各種ランプが出展された。

(2)ショートアークメタルハライドランプ

メタルハライドランプは,水銀とハロゲン化金属を発光物質としている。金属原子及び分子発光であるため,封入する金属によりさまざまな発光スペクトルが得られ,色温度4000K~9000Kの範囲で演色性に優れたものを作ることが可能である。また,ショートアークメタルハライドランプは,光学的に有利な点光源としての特性も兼ね備えており,投射型LCD用バックライトの主流となっている。

図2に示すメタルハライドランプの発光スペクトルは,LCDプロジェクターのバックライトとして使用されている代表的なDy-Nd-Cs系ランプの例である。連続スペクトル分布を有し,色温度が7500K、発光効率が75lm/Wである。

現在は,赤の波長域の発光を増やし全体的な色バランスが良くなるように各種金属(Li、Sn等)の採用と金属蒸気圧を上げるための改良がなされている。

(3)ハロゲンランプ

ハロゲンランプの発光スペクトルは,プランクの放射則で決まり,フィラメントの温度と寿命とは,トレードオフの関係にある。 図2は 、3000Kのハロゲンランプの発光スペクトルを示したものである。500nm以下の発光が少ないので青の色再現は悪くなるが,コンパクトで安価であるのでポータブルタイプの小型の単板式LCDプロジェクターに採用されている。また,発光効率においては,従来20~25lm/Wであったが,発光管に赤外線反射膜を付けたり,熱伝導率の小さいキセノンガスを封入することで,35lm/Wまで改善が可能である。

(4)ショートアークキセノンランプ

キセノンランプは,キセノンガス中の放電による発光を利用しており,太陽光に近い連続スペクトル分布を有している。また,ショートアークキセノンランプは,現存するランプの中で最も点光源に近く,光学的な面においては,非常に優れたランプである。従来から映写機やスライドプロジェクターの光源として使われている。

2.2 LCDの直視型,投射型の光学系

(1)直視型の光学系

近年,パソコン,ビデオカメラ等では,エッジライト方式(導光板方式)が主で,他の分野もこれに同調しつつある。一部の用途で,直下型のバックライトが用いられておりこの場合,多くは,U型やW型等の異形ランプである。LCDバックライトとして蛍光ランプを使用する場合,光学系は,一般に図3に示す導光板方式が用いられる。導光板方式は,蛍光ランプからの光を反射ミラーによって透明のアクリル板に入射させ,アクリル板中での反射を制御して導光板前面に出射させる方式である。導光板方式では、ユニットの出射面にプリズムシートを入れ光の指向性の制御を行うことで,見かけ上の導光板ユニットの光の利用率は100%近くにまで達している。

(2)投射型の光学系

投射型カラーLCDでは,図4に示すように単板式と3板式の2方式がある。いずれもランプからの光は,ミラーまたはレンズにより効率よくLCDパネル面に集められ,投射レンズによりスクリーン上にその像が投影される。

3.CRTと直視型、投射型LCDの色再現

3.1 CRTの色再現

受像三原色の色度と白色の色度は,各方式でそれぞれ表1のように定められている。但し,各社でCRT用蛍光体の特性にばらつきがあり,この規格を完全に満たした製品はない。色度再現範囲(色域)は,特に緑の領域で各方式で定まるものより悪いのが実状である。

表1 カラーテレビジョンの方式と三原色及び基準白色の色度座標

3.2 直視型の色再現

ランプから出射した光は,導光板を通じカラーフィルター,LCDパネル,直線偏光フィルター等を透過して人間の目に入る。以上のプロセスを経るため色域は,各材料の分光透過率の影響を受けるが,主として,ランプの発光スペクトルとカラーフィルターの赤,緑,青各色の透過スペクトルの積で決まる。

一般に,蛍光ランプの発光スペクトルは,カラーフィルターと導光板のアクリルなどにおける吸収により,青の波長域で大きく減衰し(図1.2),利用率が悪くなる。このため,カラーLCDに使用される蛍光ランプの発光スペクトルは,蛍光体の配合比により,青の波長域の強度をあらかじめ上げておくことが必要である。実際,色温度に直すと10000K付近で設計されることが多い。また,2W以下の低消費電力で,輝度の高いランプが要求されているので,より発光効率の良いランプでカラーフィルターとのマッチングがはかられる。

図5の色再現は,図6のフィルターの分光透過率と図1の発光スペクトルを掛け合わせた計算値,及びRGB単独の蛍光体で作られたランプの実測値例である。

3.3 投射型の色再現

図4に示すように単板式投射型と3板式投射型では,色分解の方法が異なる。単板式投射型では,直視型と同じように液晶パネルのカラーフィルターで行われ,3板式投射型では,ダイクロイックミラー(DM)で行われる。カラーフィルターの分光透過特性は,ある程度限定されるが,TiO2とSiO2の多層膜から成るDMは,分光透過(反射)特性を比較的自由に制御することができる。従って3板式投射型では,ランプとDMの分光特性マッチング次第では,明るさの犠牲を少なくしてNTSC方式よりも広い色域が実現可能である。

バックライトが,ハロゲンランプやキセノンランプである場合は,発光スペクトルが決まっているので,使用するカラーフィルター又はDMの分光特性のみで色域が決定される。また,メタルハライドランプにおいては,さまざまな発光スペクトルを得ることが可能ではあるが,現在のところ実用化されている系は,限られている。従って,同様に色分解フィルターの特性で色域が決まる。

図7に示した色域は,図5のカラーフィルターの分光透過率と図2の各種ランプの発光スペクトルからの単板式を想定した計算例である。ハロゲンランプにおいては,青の領域の発光スペクトルが小さいので効率の良い出力を得るために,緑に近い波長域まで透過する青のカラーフィルターを用いる必要がある。従って実用上は,青の色域がかなり狭くなる。図8には,メタルハライドランプが使用されている3板式LCDプロジェクターの実測例を示した。この例では,設定色温度でNTSC方式に合った色再現を可能にするために,DMと液晶の制御で緑の出力を抑え,RGBの出力バランスがとられている。

4.まとめ

直視型LCDにおいて,バックライトに要求される性能は,高輝度,省電力,省スペース及び良好な色再現である。小型蛍光ランプは,発光効率が60lm/W(熱陰極ランプ)程度まできており,管径も電極の寸法で制限されるΦ2程度まで可能である。小型蛍光ランプ以外で,将来考えられるバックライトは,平面発光タイプの平面型蛍光ランプやELである。しかし,現行のELでは,発光効率が不足しているので新たなブレークスルーが必要である。小型蛍光ランプの発光は,図1.1に示すように輝線の集合に近いが,色再現の観点からは,スペクトル分布を再検討する余地ありと思われる。

投射型においては,ハロゲンランプとキセノンランプでは,発光スペクトル分布改善の余地が無い。メタルハライドランプでは,封入物質の選択で,近い将来,より広い色域が実現できるランプが,開発されると予想される。

また,3節で述べたようにLCDの直視型,投射型にかかわらず,色再現は,色分離フィルターの分光透過とランプの発光スペクトルに大きく依存しているのでお互いのマッチングが必要である。さらに,設定白色の色温度に合ったRGB出力の理想的な3波長型光源でない限り,色再現と明るさはトレードオフの関係にあり,どちらを優先させるかを選択し,バランスをとることが必要である。

尚、表2には,各光源の図5のカラーフィルター付きLCDに対する相対視感透過率を白色を設定しない場合(液晶が無負荷の状態)と,RGBの各液晶素子の出力を制限して白色を6800K,9300K,10800Kに設定した場合の比較を示した。また,図9には,メタルハライドランプにおいて白色を9300Kに設定した場合のRGBの各LCD素子の出力率バランスの例を示した。

表2 各光源におけるカラーLCDの相対視感透過率

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