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光技術情報誌「ライトエッジ」No. 5(1996年3月発行)

写真工業 Vol.50 No.7

(1992年7月号)

私はホログラフィが好きです
レーザー再生ホログラムのための
高圧水銀ランプを用いたホログラム照明装置

堀越充雄・甲斐 鎌三

○はじめに○

一般にホログラムは,照明装置の簡便さから,ハロゲンランプなどによる白色再生型が広く用いられている。しかし,もっと奥行の深い完全な立体感は,レーザー再生型によって実現されることが知られている。この魅力ある特性をもつホログラムも,レーザーを照明光源として使用されているかぎり,広く一般に普及させるにはその設置条件やコスト面が障害となっていた。また,レーザーの取り扱いについての安全基準が厳しくなっていることも考えておく必要がある。

われわれは,より簡便な照明手段のために,ショートアーク放電ランプを用いることで従来の間題を解決しようとした。レーザーの照明光源としての特長は,点光源性と単色性にある。そこで,上記ランプの一種である超高圧水銀ランプを用いた照明装置(写真1)を試作した。装置の光学系はランプのスペクトル線が有効利用されるべく設計されており,照明光源としてレーザーに匹敵する性能を得ることかできた。加えて,レーザーの欠点である明るさの不足とスペックル効果の問題も解決できた。この装置の概要については,すでにHODIC会報1)に掲載されている。その後,再生像の分解能をより向上させるために新たなランプを設計したので,本稿では装置の概要と新ランプを用いた効果について解説したい。

○ショートアーク水銀ランプ○

図1に,一般的なショートアーク水銀ランプの外観図を示した。このランプは,電極間で水銀蒸気放電を利用した光源である。電極間隔が短く,非常に輝度の高い点光源を得ることができる。また,発光特性は図2からわかるようにさまざまなスペクトル線の発光があるが,狭帯域フィルターを用いて特定のスペクトル線のみを透過させることで,光源の単色性が実現できる。表 1に,超高圧水銀ランプ(USH-250D)および新たに開発した3本の高圧水銀ランプの特性を示した。ここで水銀ランプは,一般に点灯時の水銀蒸気圧が1気圧以上となるものを高圧水銀ランプ,さらに10気圧以上となるものは超高圧水銀ランプと分類されているので,これに従った呼びかたになっている。新たにランプを開発した理由は,超高圧水銀ランプを用いた照明装置の性能評価の過程で,スペクトル線幅が再生像の分解能に大きく影響することが推測されたからである。図3で,今回の照明に利用Lたピーク波長546nm(グリーン)のスペクトル線幅の各ランプにおける違いを示した。後でくわしく考察するが,推測どおりスペクトル線幅が狭いランプほど像のボケが小さくなる傾向が,ホログラムの観察により確認できた。

表1 水銀ランプの特性例(参考値)

○光学系○

図4は装置の光学系概略図である。設計上,つぎの3点は重要なポイントである。すなわち①明るさ,②単色性,③点光源。おのおののポイントについて具体的に実際の光学系とのかかわりを記すと,

  • ①明るさ:回転楕円体のミラーを用いることでランプからの放射光を有効利用するとともに,レンズ1を組み合わせることにより集光性を高めた。
  • ②単色性:狭帯域の単色フィルターが必要とされる。また,その特性を充分に生かすためにはこの単色フィルターに平行光線を入射させる必要があるため,レンズ2を用いた。
  • ③点光源:フィルターを通過した平行光線をレンズ3で集光させ,絞りから出射した発散光を平面ミラーで反射させるが,できるだけ電極間距離の短いショートアーク水銀ランプが集光性がよく,後で述べるように像のボケが少ない。平面ミラーの角度は可変であり,ホログラム面上への入射角度が調節できる。

つぎに,楕円ミラーと単色フィルターの特性について説明する。楕円ミラーはガラス内面に多層膜コーティングを施して反射面を得ており,必要な波長帯のみ選択的によく反射し,紫外および赤外領域の不必要な放射光は後方へ排熱することで,レンズや単色フィルターの熱的ダメージを低下させる効果がある。この楕円ミラーの分光透過特性を図5に示した。単色フィルターには非常に耐熱性,耐久性に優れたコーティング方法を用いている。また,透過特性は546nmを中心として半値幅5nmの狭帯域でスペクトル線のみを透過させるとともに,その透過率も優れたものができた。単色フィルターの分光透過特性を図6に示した。そのほか,レンズの各面にて約4%のパワーロスが生じるので,図3の光学系ではトータルで約22%のパワーロスが見込まれるが,各面に無反射コーティングを施すことでさらに効率の向上が可能である。

○ディスプレイ効果○

この照明装置によって横1.3×縦1.1mのレーザー再生型ホログラム(写真2)を観察した結果をもとにして,像の明るさ,ボケおよび、スペックル効果について述べる。

(1)明るさ

表2は,250Wの超高圧水銀ランプを動作したときの544~549nmの5nm幅におけるランプからの放射パワーについて,光学系の効率を考慮して最終的に得られる放射パワーを見積もった結果を表わしている。見積られた放射パワーは2.1Wである。ただし,この計算では絞りでの損失や楕円ミラーの実際の反射率などを考慮していないため,実際の効果はもう少し低いはずである。なお,効率には単色フィルターの分光透過特性が大きく影響するので,表3でとくにフィルタ一の分光透過率をくわしく記した。また,目で感じる明るさは光束として評価される必要があるが,この波長領域の比視感度V(λ)は高く,視感効率の点で明るさを得るのに有利であることがわかる。この視感効率は,たとえば赤(650nm)では546nmの約10%,青(450nm)では約4%にしかすぎない。新たに試作した高圧水銀ランプでの放射パワーは表2の値と表1の積分値比から求まるが,単色性が改善された代償として放射パワ一は低下した。これはホログラムの観察に大きな支障となるほどではなかったが,ランプの改良によって解消できる問題である。

これらの結果を,レーザーを用いた明るさと比較してみた。水冷アルゴンレーザー装置を用いて514.5nmにて1.6Wの発振出力(NEC:GLG3460)を得た場合,実際の照明のためにはミラーおよびレンズなどの光学系を通過することによる減衰のため,たとえば光学系の効率を70%とすると得られる放射パワーは1.1W程度となる。すなわち粗い見積ではあるが,ランプを用いることで明るい照明が可能になることがわかる。実際に,沼津高専の池上皓治教授の研究室で,ホログラムの大きさは小さいものであるが,同じホログラムを発振出力0.8Wで照明したときの像の明るさは,No.3のランプで照明したときと同程度のものであった。

表2 光学系の効率計算結果

表3 ランプの放射パワーと単色フィルターの分光透過率

(2)像のボケ

像のボケの程度については,客観的な評価ができずむずかしい間題である。ボケを生じる原因として,光源のサイズ,スペクトル線の幅,また明るくなるにつれてノイズ自体が目立ってくるということもある。そこで,われわれの装置で光源のサイズとスペクトル線幅がどの程度のボケを生じるか検討してみた。

再生時の光学系において,ホログラム記録時の参照光とほば同じ位置に置かれた光源で照明するとき,ホログラムに垂直方向の光源位置の座標をZpとし,虚像の位置をZoとしたとき,光源サイズΔrによる像のボケは次式で表わされる。

光源の位置Zpは160cmであり光源サイズΔrを電極間距離2mmとして,ホログラム面から奥行50cmの像のボケΔSは0.63mmとなる。

一方,スペクトル線の幅による像のボケは次式で表わされる2)

ここで、Xpはホログラム面に平行方向の光源位置の座標。ホログラム中心への入射角度が36°なのでXp/Zp=0.73。USH-250Dではλ=546nmのスペクトル線の半値幅Δλが2.4nmであるから,これによる像のボケΔσは約1.6mmとなる。奥行50cmにおいては,スペクトル線幅によるボケの程度は光源サイズによる影響に比べ約2.5倍にもおよぶことがわかった。すなわちスペクトル線幅を小さくすることで,よりシャープな再生像が得られるはずである。単色フィルターをいま以上に狭帯域にすることは製作上限界があるので,ランプから放射されるスペクトル線幅を小さくする必要があった。つぎに高圧水銀ランプで同様の検討をすると,表1に示したスペクトル線幅の比がそのまま分解能の違いとなるので,No.1のランプで分解能は約1/3(Δσ=0.5mm),No.3では約1/4(Δσ=0.38mm)になることがわかる。実際に各ランプを動作させてホログラムを観察すると,従来のランプに比べて明らかに像のボケが小さくなるのが碓認できた。3本のランプの比較では,No.1に比べてNo.3では確かにボケが小さくなった。ただし,これらの観察ではボケの程度差以外に明るさも違っていること,またすでにΔS<Δσとなって今度は光源サイズの影響が無視できなくなってしまっていることも考慮する必要がある。今後,評価方法を改良していく必要がある。

(3)スペックル効果

スペックル効果はホログラム被写体表面の微細な粗さを反映し,干渉性の高い光源を用いることにより発生することが一般的に知られており,水銀ランプのように部分的に干渉性をもった光源では効果が減少されることになる3)。そのために,レーザー光源より再生された像に比べて,より自然な感じがその再生像から受け取られた。

○まとめ○

最後に,水銀ランプを用いたホログラム照明装置 の特長を記す。

  • ○ 明るさ:大型のホログラムでも照明可能である。
  • ○ 像のボケ:奥行のある被写体でもクりアな再生像が得られる。
  • ○スペックル:レーザー再生ではつきもののスペックルが気にならない。
  • ○その他:小型,安価な照明装置である。

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最近ホログラムのカラー化や動画化の研究が活発になっており,立体画像の表示手段として将来における幅広い実用化が期待される。初めに述べたように,現在,レーザー再生型ホログラムは照明光源としてレーザーが使われているが,今後は汎用性の観点からランプを使うメリットが出てくるであろう。今後も,これからのホログラム照明のニーズに対応した光源を開発していく予定である。

最後になりましたが,フィルターの製作に関しては,ウシオ電機(株)蒸着プロジェクトの水野技師に,ランプについては放電灯製造事業部技術課にご協力をいただいたことに感謝します。

(ウシオ電機(株) 第2開発部:ほりこしみつお/かいけんぞう)

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