USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.6(1996年5月発行)

1996(平成8年)度 第5回 日本オゾン協会年次研究講演会 講演予稿集

新しい紫外光源「エキシマランプ」に関する研究
Studies on an excimer lamp as a new UV source.

上林正典、猪原哲、佐藤三郎、山部長兵衛、松野博光*
佐賀大学理工学部、* : ウシオ電機
M. Kamibayashi, S. Ihara, S. Satoh, C. Yamabe and H. Matsuno*
(Saga University, *: USHIO Inc.)

論文要旨

本論文は、新しい紫外光源の1つとしてクセノンエキシマランプ(波長172nm)に注目した。また、エキシマ励起用放電方式としては沿面放電方式を用い、その時得られた基礎的な研究の報告ならびに検討である。

1. はじめに

紫外光および真空紫外光は非常に高いエネルギーを持つため、半導体などの表面改質の分野(プラズマCVD、エッチングなど)や、医学分野、水処理などの応用に利用されている。これらの光源としては、エキシマレーザのようなコヒーレント光と、エキシマからの自然放出光(インコヒーレント光)を利用するエキシマランプがある。特に、大出力で高効率が期待され、かつ広い面積での物質表面処理が可能であるエキシマランプの利用が近年注目されるようになってきた。

エキシマ光を発生させるための放電形態としては、以下のような方法が考えられる。

  • ● 過度放電を利用する方式
  • ● 電極間に誘電体を挿入した無声放電(または誘電体バリア放電とも呼ばれる)方式
  • ● マイクロ波放電方式

特に、無声放電方式のエキシマランプは非常に光率が高く(10%以上)、従来の放電ランプでは得ら れない光を単一波長で大出力で得られることが近年報告されている。ここで、エキシマから得ら れるスペクトルの中心波長をいくつか示すと、Ar2* : 126nm、F2* : 158nm、Xe2* : 172nm、KrF* :249nm、Cl2* : 259nm、XeCl* : 308nmなどである。しかし、広い発光面積を対象としたエキシマランプの研究報告はあまりなされていない1)2)

そこで今回の研究では、将来大口径のエキシマランプを作ることを最終的な目的としているので、本研究ではエキシマ発生用励起方式として沿面放電方式を用い、この時得られる真空紫外光出力強度の測定など基礎的な実験を行った。

2. 実験装置および実験方法

図1に沿面放電電極の概略図を示す。内部電極ならびに埋め込み電極の材質はタングステンを使っており、電極間の誘電体はアルミナセラミックを使っている。また、電極間の誘電体の厚さはt=0.5mmである。次に、実験装置配置図を図2に示す。この装置は、装置内部に図1の沿面放電電極を配置し、さらに内部を真空ポンプと接続し真空に排気できるようにしている。さらに、容器内部をXeガスで封入し、内部ガス圧力を測定できるよう圧力計を接続している。また、窓材としてはCaF2を使っており、カットオフの波長は150nmである。さらに、放電電極から出てきた紫外光は光検知器を通してDCμボルトメータで測定した。この光検知器は紫外線を光検知器内部の蛍光体に照射することによって可視光域に変え、これを色ガラスフィルタ、シリコンホトダイオード、増幅器を通してDCμボルトメータに接続して放射光強度を測定している。放電電極にはピーク間電圧でVp-p=3~6[kV]、周波数が約14kHzの正弦波電圧を印加し沿面放電を起こした。放電時の入力電力は、印加電圧波形を高圧プローブ(Tektronix P6015)で、また、0.1μFのコンデンサを通る電荷量の波形を各々オシロスコープで観測し、これらの波形からリサジュー図形を描かせ測定した3)4)

図1:沿面放電電極の概略図
Fig.1 Surface discharge type of excimer lamp.

図2:実験装置配置図
Fig.2 Experimental set up.

今回の研究では、この沿面放電部より放射された光がXe2*の発光波長(172nm)であるかどうかを確認し、リサジュー図形から得られた放電電力と発光強度の特性を内部ガス圧力を変化させて調べた。さらに、このランプの発光強度の時間変化を測定した。

3. 実験結果および考察

図3に沿面放電型エキシマランプから放出された光の分光分布を示す。この図3から分かるように、Xe2*の波長である172nmの真空紫外域のエキシマ光が放出されていることが確認された。

図3:沿面放電型エキシマランプにおける分光分布
Fig.3 Emission spectrum from surface discharge type of excimer lamp.

図4に放電電力と発光強度の特性曲線を示す。この時、装置内部にXeガスを封入し、内部圧力をそれぞれ変化させて実験を行った。内部ガス圧力を増加すればするほど発光強度も増加しているが、放電電力が増加すると、それぞれの内部ガス圧力の場合、発光強度が飽和する傾向を示した。また、図4のグラフから、放電電力を一定にしたときの内部ガス圧力と発光強度の特性曲線を図5に示す。図5のグラフから、内部ガス圧力が1.0atmを境にして圧力が低いときほど発光強度の増加が急激に増えているが、圧力が高くなると発光強度の増加が緩やかな傾きとなる。これは、次に示すエキシマの生成過程の反応によって影響すると思われる。

図4:放電電力と発光強度の特性曲線
Fig.4 Emission intensity vs. Discharge power.

図5:内部ガス圧力と発光強度の特性曲線
Fig.5 Emission intensity vs. Pressure.

まず内部ガス圧力が1.0atmより小さい領域では、圧力の増加とともに(1)式の反応でXeを生成するのに適した電子のエネルギー分布が形成されるとともに、(2)式で示される3体衝突の割合も増加するものと考えられる。これに対して1.0atm以上の領域では、(1)式に関係する電子のエネルギー分布が低エネルギー側にシフトし、Xeの生成効率が悪くなる。一方、(2)式の反応は低圧力の場合に比べて効率的になる。このため1.0atm以上では、増加の割合が前者に比べて小さくなるものと考えられる。

また、発光強度の時間変化の測定の結果、発光強度が急激に減衰した。これは、UV光放射などにより装置内壁からの脱ガスによる不純物の影響ではないかと考え、内部ガス中からの発光スペクトルを調べた。これは、図2に示す光検知器を光ファイバに変え、このファイバから出てきた光を分光器ならびにPMTを通してオシロスコープで測定した。その結果、465nm付近の発光などが確認された。この時の発光素子印加電圧波形および発光強度の波形を図6に示す。この結果、この脱ガス中に0+などの紫外光を吸収するような原子が混ざっていることが推測される。他に419nm(0+)、392nm(C+)の発光も確認された。

図6:波長465mn時の印加電圧および発光強度の波形
Fig.6 Applied voltage(upper) and light emission(lower) of 465mn with time.

4. まとめ

本研究における実験結果を以下に示す。

  • 1)沿面放電電極を使って、Xe2 のエキシマ光である波長172nmの光が放出されていることを確認した。
  • 2)放電電力を一定にしたとき、ガス圧力が増加すると発光強度も増加する傾向があるが、1.0atm以上になると増加が飽和する傾向になる。
  • 3)発光強度の時間変化の急激な減少の理由として、紫外光照射による装置内壁からの脱ガス中にO+やC+ などの紫外光を吸収する原子が含まれているからではないかと考えられる。
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