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光技術情報誌「ライトエッジ」No.6(1996年5月発行)

大学研究室を訪ねて Campus Lab①

(1996年5月)

学生主役のハイテク探究
東海大学工学部電気工学科 村原研究室

年間100件に及ぶ研究論文

わが国のエキシマレーザ研究の第一人者として知られる東海大学工学部・村原正隆教授。その研究室は、広大なキャンパスを持つ東海大学湘南校舎の9号館にあります。96年度は、大学院生4名(修士1、2年各2名)4年生9名の計13名が在籍し、「レーザで新素材を作る」をキーワードに、紫外線レーザによる新素材や多機能材料の開発に取り組んでいます。こうしたさまざまな研究の成果は、年間100件に及ぶ論文となって国内・外での学会発表・特許出願、あるい は技術情報誌などに取り上げられるなど、その量・質ともに大学の研究室として異例とも言える水準の高さを誇っています。

■村原先生(右端)の研究指導中にちょっと手を止めて

レーザ光で「不可能に挑戦し、不可能を可能にする」

村原先生がレーザ、特にエキシマレーザの魅力に取りつかれたのは、約15年前のこと。世界中で高出力のレーザ装置の開発にしのぎを削っていた当時、「レーザ応用無くして、将来のレーザの発展はありえない」と、日本で最初にエキシマレーザの応用研究室を開きました。1983年4月にはその拠点を東海大学に移し、以来、「エキシマレーザで何ができるか」をモットーに、エキシマレーザやエキシマランプの光化学的性質を引き出した応用を、次々と世に出し、そのいくつかは新聞や雑誌でも紹介されて話題を集めています。

最近では、従来不可能とされてきたフッ素樹脂“テフロン(商品名)”の強力接着に成功。テフロンは何者にも侵されないという神話を打ち破り、エキシマレーザによってテフロン表面の化学的性質を改質して、従来の2倍という接着強度を得ることができました。この衝撃的なニュースは、技術情報誌でも大きく報道されたばかりか、世界中をトレース実験に走らせ、今やその実用化が進められようとしているほどです。しかも、今回のテフロンの改質には、消毒剤として広く使われている安全なホウ酸水溶液を採用し、大気中で大面積を処理できるという画期的なもので、既存法のネックであった安全性や公害問題も同時に解決しました。テフロンの表面改質が可能になったことで、化学的に安定したテフロンの長所をいかした医用材料や高周波数用プリント基盤などへの応用に道が開けたわけです。

また、シリコン(Si)をしのぐ耐高温特性を持つことから、次世代の耐環境性半導体材料として注目されている炭化ケイ素(SiC)の微細加工方法も開発。これまで利用拡大のネックとされていた加工が、エキシマレーザとエキシマランプを併用照射することによって、今回、見事にクリアできました。しかも大面積を一括露光できるとあって、今後のSiCを使った素子作りにも弾みがつきそうです。このほかにも、エキシマレーザ光による光化学反応を用いて、今まで「不可能」とされていたことを「可能」にする方法の開発を次々と生み出しています。「光の波動性と粒子性を使い分けながら、レーザ光で半導体材料や機能性を持った新素材を作る方法を開発し、同時に、それらの製造工程で大気中に放出されるフロンやCO2に代表される種々の有毒ガスを光学的に安定化し、環境破壊に至らしめないような総合的な製造プロセスを開発していくこと」を狙いとしている村原研究室は、まさに、次世代技術のフロンティアと言えそうです。

■研究室でバリア放電エキシマランプ(当社製)を使い実験をすすめる研究生の皆さん

次代を担う研究者たちを育む雰囲気作り

「最近の若者は、考えることを億劫がる。何か目新しい考えが出ると、それを利用し、そこに何かを付加しようとする。なぜ、その原点に立って別の発想をしようとしないのか。もし、その技術が本当に重要だったなら、その着想の原点にまで戻り、そこで、別の見方をしない限り、それは単なる改良、いや模倣に終わってしまう」と村原先生は指摘。そこで、村原研究室で伝統的に「研究は学生が主役で行ない、その成果発表も学生自身が行なう」という学生主体の研究システムをとっているそうです。これは、各研究テーマを大学院生に割り振り、各大学院生は、先生と緊密なディスカッションを繰り返しながら、自分に付けられた2~3人の4年生を指導し、お互いに協力して実験・研究を進めるシステム。さらに特筆すべきは、研究成果は取り組んだ学生自身が学会発表すること。また、マスコミの取材に対しても、村原先生はそれぞれの学生たちが努力した結果をおしみなく強調されます。こうした学生主役のシステムだからこそ、学生たちはやる気になって研究に取り組み、対外発表で着実に自信をつけていくわけです。4年生でさえ、国内の学会でしばしば研究発表するほどですから、修士課程を終えようという学生たちは、すでに20~30件の"業績"を積んでおり、それが冒頭で述べたような量・質ともに世界的に高水準の研究成果につながっていることは言うまでもありません。

学生が発表する国際学会の舞台

また、数年前からは、ボストンで行なわれるMRS(マテリアル・リサーチ・ソサエティ)という新素材に関する大きな国際学会にも、村原先生は学生たちを連れて参加しています。この学会に参加するには、毎年6月末の締切までに英文のアブストラクト(研究概要)を作成してアメリカに送り、採否の連絡を待ちます。現在までの採択率は100パーセントという実績を誇っていることから見ても、研究テーマの斬新性、独創性にいかに富んでいるかが想像していただけるでしょう。さて、9月に採用通知が届くと喜ぶのも束の間、学生たちは11月末の本番に向けて、猛烈に実験に取り組み、データを揃え、英文の論文を書き上げ、予想される質問に答え られるように懸命に英語を勉強するそうです。学生たちにしてみれば、極めて厳しい局面に立たされるような研究指導も、村原先生の行き届いた配慮と優しさに満ちたバックアップがあってこそ可能なわけで、研究室内では学生たちが心から恩師・村原先生を尊敬している様子がうかがわれます。学会発表の場では、実際に学生が質問に答えられず、しどろもどろすることもあるそうですが、「失敗は却ってバネとなり、彼らを大きく成長させる。だからこそ、1度や2度の失敗を恐れるな」と村原先生は励まし、粘り強く、何事にも諦めないで立ち向かう若い研究者や技術者の育成に力を注いでいます。

■昨年11月に開催のMRS会場で

プロフィール

村原正隆
東海大学工学部電気工学科教授

<略歴>
1969年3月 早稲田大学理工学部資源工学科卒業同大学大学院理工学研究科修士、博士過程を経て
1979年 工学博士(早稲田大学)
1971年4月~75年3月 私立栄光学園 講師
1979年4月~83年3月 早稲田大学理工学研究所 研究員
1981年4月~ 理化学研究所 研究員
1983年4月~88年3月 東海大学工学部 助教授
1988年4月~ 同 教授
1970年~1980年 炭酸ガスレーザによる花崗岩の熱破壊に関する研究
1981年~ エキシマレーザの応用研究
<お問い合わせ先>
東海大学 工学部電気工学科 村原研究室
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TEL.0463-58-1211 (代)内4032 FAX.0463-58-1812
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