USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.7(1996年7月発行)

<特集>熱放射加熱

2 ランプの構造・特徴

2.1 ハロゲンランプ1)

2.1.1 ハロゲンヒータ*1)の構造と特徴

ハロゲンヒータは、封入ガスに不活性ガスおよび微量のハロゲン物質を添加した赤外線電球である。ハロゲンヒータは、封入されたハロゲンと加熱蒸発するタングステンとの循環再生反応(ハロゲンサイクル)の効果によりバルブを小形化しても黒化せず、寿命も延びる。ハロゲン電球の一般的構造を図2.1に示す。図2.1において発熱体であるフィラメントとしては、融点が高く蒸発度が小さいタングステンが最も多く用いられる。また、石英ガラスと導入金属線との封着は、ナイフエッジをもつ厚さ20〜30µmのモリブデン箔を用いてピンチシールしている。バルブは、ハロゲンサイクルを働かせるため温度が高温となり、耐熱性のよい石英ガラスが使用されており、管外径としては、6〜10mmのものが多く使用されている。

ハロゲンヒータの特徴としては、次の点が挙げられる。

  • ① 商用電源を直接ヒータに入力しても、電圧が安定していれば、一定した光出力が得られる。
  • ② コンパクトである(赤外線電球に比べ約数十分の一の大きさになる)。
  • ③ 石英ガラスが使用され熱衝撃に強い。
  • ④ 配熱分布を比較的自在に変えて設計できる。
  • ⑤ 光出力の立ち上がりが速いため、急速加熱が可能。

また通常の点灯方式では、点灯の瞬間に突入電流が大きく流れ、電源のインピーダンスにもよるが、定格電流の7〜10倍に近い電流が流れる。この特性を抑制するため実際の使用においては、ゼロ・クロス点灯方式などの点灯方式が使われることが多い。

2.1.2 ハロゲンヒータの特性

図2.2に同一電力時での電球の色温度をパラメータにした分光分布を示す。これらの分光分布カーブは前述したプランクの放射式に似通っており、各分布の極大値波長は、高色温度になるほど短波長側にシフトする。電圧変化に対する諸特性の変化を図2.3に示す。ハロゲンヒータの特徴としてフィラメントコイルの卷方を変えることで、コイル軸方向の電力密度分布を可変できることから配熱分布を比較的自在に変えて設計できる。図2.4に配熱分布の測定例を示す。

ハロゲンヒータは、発熱体(フィラメント)が石英ガラスバルブに接触しておらず放射効率が85%以上と大変優れた近赤外放射の熱源である。

ハロゲンヒータを使用する上での注意点として次の点がある。

  • ① 石英ガラスバルブの耐熱性から、動作時のバルブ表面温度は800°C以下にする。
  • ② ハロゲンヒータの弱点は、モリブデン箔を石英ガラスでピンチシールした封止部にある。封止部の大気側の端部は完全に大気と遮断されてなく、高温時モリブデンが徐々に酸化するため、短寿命になる場合があり、封止部温度を300〜350°C以下にする必要がある。この部分の耐酸化性の向上策は当社でも研究・開発を行っている。

2.1.3 ハロゲンヒータユニットの構造と特性

ハロゲンヒータを加熱源として用いる場合、ハロゲンヒータ単体を熱源とすると、ヒ一夕からの放射はランプ軸芯に垂直な面で見た場合、ヒータ軸芯を中心に放射される。ヒータからの放射をある面にむけるかあるいはある点に集中させるために放射面あるいは楕円面の金属をあるいは金属をコーティングしたガラスに反射させて用いる。図2.5に、代表的な反射板の形状およびそれを用いた時の放射強度分布の例を示す。

2.1.4 ハロゲンスポットヒータユニットの構造と特性

(1)構造

ハロゲンスポットヒータユニットは図2.6に示すような構造で、ハロゲンランプとパラボラ型の反射鏡を組み合わせた加熱ユニットである。図2.6中のaはシングルエンド型のハロゲンランプでシングルコイルフィラメントを備えている。電源電圧が200V系の場合はダブルコイルフィラメントを備えたハロゲンランプを用いることもある。bは、反射・集光のための反射鏡で、反射表面には赤外線の反射効率と集光効率に優れた金コーティングが施されている。近赤外放射効率が高いハロゲンランプと反射・集光効率の高い反射板とを組み合わせることによって極めて高効率のスポット加熱が可能である。

(2)特徴

ハロゲンスポットヒータユニットは、非接触でクリーンな加熱ができる、加熱源(光源)の立ち上がり・立ち下がりが速いなど、ハロゲンランプを用いた赤外線加熱方式の持つ一般的な特徴を備えているのに加え、赤外線を一部分に集光させ、スポット的に加熱するため被加熱物を急速に昇温加熱することが可能である。したがって、真空系内部のワークの部分的な加熱や、ショット加熱などに適している。Σλの違う物質を発光管に塗布し、スベクトル分布を長波長側へシフトする(波長変換)こともできる。

(3)特性

図2.7および図2.8にそれぞれ、ハロゲンスポットヒータユニットの集光面内における水平方向および鉛直方向の配熱分布特性の一例を示す。配熱特性の差はフィラメントが点光源ではなく、ある長さを持つコイル形状(軸芯は水平方向)のために生じる。検出器は熱源型カロリメータを用いた。配熱の半値巾は水平方向で約±10mm、鉛直方向で約12mmでこの範囲に照射パワーのほとんどが集中していることがわかる。

図2.9は、ハロゲンスポットヒータユニットの出力光量の立ち上がり.立ち下がり特性の一例である。ハロゲンランプの定格電圧、定格電力はそれぞれ100V、500Wである。ランプ点灯後1s以内に最大光量に達し、ランプ消灯後は1s以内に光量がほぼ0になる。このように熱源(光源)自身が急速な立ち上がり、立ち下がり特性を持つため、特に断続的な加熱をするような場合には、効率のよい加熱システムを構築することができる。

図2.10はハロゲンスポットヒータを用いて照射距離75mmで加熱した際のワークの温度変化を測定した結果である。ワークは表面に黒塗装をしたステンレス板で、大きさは 50mm×50mm、厚さ1mmである。ワーク温度は照射面と反対側の照射中心部をK熱伝対により測定した。ランプ入力電力500Wの場合、照射時間60sで被加熱物の温度は約700°Cに達する。

ウシオ電機(株)では大がかりな安定化電源を必要としないハロゲンランプの特徴(早期立ち上がり、立ち下がり、深い調光、発光放射輝度の長時間にわたっての安定性など)を活かし、さらにお客さまに使っていただきやすいように、放射照度を空間的または時間的にコントロールし得るように、ランプおよび光学系の設計・製造を行っている。

(水川洋一、佐藤弘人)

2.2 キセノンランプ

キセノンランプは発光部の長さ(電極間距離)によって、ショートアークランプとロングアークランプに大別される。現在、種々の用途に幅広く使用されているのはショートアークランプであるため、以下ショートアークランプについて述べる。

2.2.1 キセノンショートアークランプの構造と特徴

キセノンショートアークランプはそのシール構造によって次の2つに分類される。

(1) モリブデン箔シールランプ:

モリブデン箔を使用し、石英ガラスとの膨張係数の差による応力を萡の塑性変形で緩和し、気密を保ったもの。

(2) グレーデッドシールランプ:

芯線と石英ガラスの膨張係数の差を中間に膨張係数が少しずつ異なるガラスを使用することで発生する応力を緩和し、気密を保ったもの。

キセノンショートアークランプの外観を図2.11に示す。いずれのランプも球状の石英ガラス製発光管内に陽極および陰極からなる一対の電極を対向して設け、キセノンガスを規定圧力封入したものである。ランプ点灯中にはその温度上昇により内部圧力が数十気圧にもなるため、十分に強固な気密を保つことが必要になる。

2.2.2 キセノンショートアークランプの特性

キセノンショートアークランプの光学的特性として以下がある。

(1)高輝度の点光源である。

特に陰極輝点の輝度は109cd/m2程度と非常に高く、太陽の輝度よりも高くできる。

(2)演色性良好である。

図2.12に示すようにランプの出す可視域でのスペクトル分布が自然昼光のスペクトル分布に非常によく似ており、色温度は約6000Kである。

赤みの強い白色電球のスペクトル分布と比較すればいかに自然昼光の光に似ているかがよくわかる。

(3) 瞬間強度・光色安定、瞬時点灯可能。

キセノンガスは熱容量が小さく電気入力の変化に対して放射強度がすぐ追従して変化する。したがって点灯と同時に実用上差し支えない程度の放射輝度・照度、色合いになり、電力変化に対しても極めて早く追従する。

またこの性質と関連してキセノンランプの利点は消灯後すぐにでも再点灯が可能なことである。

(4) 電気入力変化に対してスペクトル分布不変。

図2.13に見られるようにスペクトル分布は電気入力の変化に対してどの波長域でも光強度の変化がほぼ一定である。

これよりキセノンランプは電気入力の変化に対して色の変化がほとんどないことがわかる。

またこの色はランプの寿命期間中ほとんど変化しない。

(5)紫外域から赤外域までの連続スペクトルを持つ。

図2.14に示すように紫外域から赤外粋にかけて比較的一様な強い連続スペクトルを持つ。

(6)赤外域に強い輝線スペクトルを持つ。

図2.14に示すように800〜1000nmの赤外域に強い輝線スペクトルがある。

この光は赤外線熱源などに使用される。

これらの特徴を利用してキセノンショートアークランプは映写機、分光計、スポットライトなど種々の用途に使用されている。またショートアークランプは高輝度の領域が全発光部の大部分を占めるように極ショートアーク化が可能である(例えば電極間距離1mmもしくはそれ以下)。そのため長時間光色の変化しないオプティカルファイバ用の光源としても用途が拡大されつつある。

(安達和浩)

2.3 キセノンフラッシュランプ

2.3.1キセノンフラッシュランプの構造と特徴

ランプの点灯方法は、通常の白熱電球とは異なる。ランプ内に封入されたXcガスは電気的に絶縁体なので、特別な高電圧発生の回路によりあらかじめ絶縁を破壊し電流の流れる道筋が作られる。あらかじめ直流電流によって充電され蓄えられた主放電用コンデンサ上の電荷は、この道筋に沿って放電しランプが点灯する(基本回路を図2.15に示す)。

ランプの点灯モードには2種ある。繰り返して点灯する際、点灯を容易にするために常時微少の予備電流を流し電気的な導体に保ち容易に主放電ができるようにした方式(シマ一方式)と、予備電流がなく点灯のたびに高電圧をかけて気体を絶縁破壊して点灯させる方式(トリガ方式)がある。予備電流の有無によりランプ構造が多少異なるが、ここでは我々が多く扱っている後者のトリガ方式のランプに例をとり述べる。ランプの外観構造の例を図2.16に示す。

(1)発光管

高入力のランプは耐熱性の面から石英ガラスが用いられる。またオゾン発生防止に 200nm以下の波長をカットしたTiO2ドープ石英ガラスが用いられる。

  • ①長さ:照射対象の大きさ(紙幅など)に合わせた発光長を有する。
  • ②太さ:ランプ電力の大小に合わせΦ10〜Φ15まである。

※技術的変遷

  • ランプ電力増に伴い、太さがΦ10.5→Φ13 →Φ15と変わってきた。また、紫外線損傷による石英ガラスの強度劣化の少ない材質にも変更した。

(2) 封入ガス

希ガスが用いられる。その中で光変換効率の もっとも高いXeガスが用いられることが多い。封入圧は使用電圧範囲で決まるが約l×104〜5×104Paである。

(3) 陰陽極

瞬間のピークが500Aを越え、かつ電力が1KWを越えても106回以上の寿命を有するように設計される。W,Mo等の高融点金属に少量の電子放射性の良いBa系のエミッタを酸化物で添加し焼結して作られる。

※技術的変遷

  • ランプ電力増に伴い、電極の大きさΦ6→Φ8にし熱容量を増し、さらにはエミッ夕の量、種類を変え動作温度の上昇に伴う電極の消耗を抑えた設定に改良されてきた。

(4)トリガ電極

この電極を通じて十数KVの高圧パルスを加えると、発光管内のXeガス中にトリガ電極沿いに細いストリーマが形成され、部分的な絶縁破壊を引き起こす。主放電はこの部分に沿って成長する。放電の道筋を作り主放電の引き金の役目をするのでトリガ電極とも呼ばれる。発光管の管軸に沿って密着し走る金属棒がそれである(上述のシマー方式の点灯ではこのトリガ電極は無い)。

※技術的変遷

  • 従来は細い金属ワイヤを巻きつけトリガワイヤとしてきたが、ランプ電力増に伴い、ワイヤが金属疲労で断線し不点灯を引き起こした。上記金属棒は断線対策に導入された。また、ランプ温度上昇によるミス発火防止の対策もなされた。すなわち、金属棒はランプの片側に固定されるが他端がフリーなので、点灯中の熱膨張があっても軸方向に自由膨張し、管壁から浮き上がらぬ機構にした3)

2.3.2 キセノンフラッシュランプの特性

(1)フラッシュランプの発光スペクトル

代表的なスペクトルを図2.17に示す。白熱電球にはない短波長の紫外域から可視域に豊富な放射があり、それが極めて太陽光に似た連続スペクトルをなす。

また、赤外域0.8〜1.2µmにもXeガス特有の強い放射が見られる。

本来、白熱電球も放電ランプもその発光の仕組みは、結局電流によるジュール熱によって発光体が加熱し励起されその励起エネルギ一が光として放出される。

フラッシュランプの場合、ジュール熱の発生する体積の単位体積、単位時間当たり発生するジュール熱が桁違いに大きいので、エネルギー注入密度が大きくなり、発光体はより高い励起状態となる。その結果、基底状態に戻る時に放出されるエネルギーも大きくなって、光は短波長の光を含む割合が増える。

例えば、1000Jを0.5msで放電させると、ジュール熱は概略の見積りでも

となる。ランプの大きさを、太めの鉛筆2本ほどのものとするなら、このところで瞬間的に2MWの電力が消費されている。これはちょっとしたガスタービンの出力に相当し、いかに高エネルギー密度であるかが判る。

(2)フラッシュ加熱の特徴

フラッシュ加熱の特徴は上に述べた如く、桁違いに強い光がしかも短時間に照射されることにある。急速に加熱された物体は、表面からの熱伝導で内部に熱が伝わる以上に表面に熱が入り込むので、表面およびその近傍の内部のみ表面温度が上昇する。

表面で発生した熱は熱拡散係数の大きさに従って内部に拡散する。熱拡散の距離Lと照射時間(光のパルス時間)√τとは比例関係にあり、LOC√τとなる。すなわちTが大きく長時間かけてゆっくり加熱すると伝導により内部に熱が逃げ、物体全体の温度がほぼ均一になるまでこれが続くので表面温度がなかなか上がらなくなる。

ところが、1msとか1µsとτの小さい短時間加熱では、表面から内部への伝導による熱移動が少ないので表面温度Tsが上昇する。したがってTsとτの関係は、物体の光を吸収するエネルギーをIとした時、

となる。これは実験的に確認されている。すなわちフラッシュ加熱(Flash heating)の特徴は、短時間の照射ではあるが、τが小さいのでIが比較的小さくても温度が上がることである。

2.3.3 ランプの使用方法

ランプの正しい使用方法を、後に述べるフラッシュ定着における、トナーの加熱の例で説明する。

(1)光パルス波形

フラッシュ光で加熱された時のトナー表面温度の時間変化の代表例を図2.184)に示す。それに見るようにトナーの加熱は通常msecのオーダーでなされる。加熱時間はほぼフラッシュ光の波形に対応する。

トナーが効率よく定着するのには適正な光波形がある。パルス幅が短すぎると加熱が急なあまりに表面と内部の温度差が大きくなる。この結果、熱応力によってトナーが破壊されて、トナーの飛散が生じ、隣のトナーとの間にボイドと呼ばれる隙間等が発生する。一方パルス幅が長く加熱がゆっくりだと、同じ放電エネルギーではピークエネルギーが不足すると同時に加熱時間τ が長くなり、溶融が不十分となり定着性が悪くなる。

光パルスの幅はランプの形状(管抵抗)が決まれば、印加電圧、コンデンサ容量、電流制御用インダクタンスで一義的に定まり5) これらの組み合わせで光パルス幅は制御できる。

(2)定着に必要なエネルギー

トナーを溶かすのに必要なエネルギーの絶対測定は容易ではない。そのため、ランプへの入カエネルギーで評価する方法が今まで取られてきた。また、照射される紙の面積によっても必要量が変わるので、面積当たりに換算した値が用いられる。対象とするトナー特性、光学系によって、また上記光パルス幅によっても異なるが通常は1.5〜2.2J/cm2で定着ができる6)

以上、瞬時点灯によるフラッシュランプ加熱について説明した。

本方式では、繰り返し周波数×1フラッシュ当たりのランプ投入電力(=平均ランプ電力)にもよるが、一般にランプ発光管温度は比較的低い。したがって、プラスチックや紙など耐熱性に劣る材料の表面加熱に適している。また、フラッシュランプを適切な条件で点灯すると紫外域あるいは可視域の光を効率よく放射させることもできる。したがって、耐熱性に劣る材料への紫外や可視光照射にも適している。

当社ではお客さまの上記の点でのお悩みの問題解決にもご相談に応じることができるよう日ごろ研鑽を積んでいる。

(斉藤滋)

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