USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.8(1996年9月発行)

化学光学会「姫路大会講演要主旨集」

(1996年)

SD2-14 ポリエチレンの172nm光照射による光反応

ウシオ電機(株) ○松島竹夫

1. 目的

樹脂の接着性、印刷性の向上のために紫外光(≧185nm、水銀ランプ)による表面改質が行われている。しかしオレフィン類は改質が困難である。今回、波長172nmの真空紫外光を用いることで改善が見られた。この機構をESR、放出ガス分析装置を用いて考察した。

2. 実験・結果

実験概略図をFig.1に示す。試料管の中に低密度ポリエチレン(PE)を挿入している。 試料管は合成石英製である。PEにはK熱電対が溶着してある。試料管内は真空(10-6Pa)である。試料管は液体窒素により冷却されている。照射光は液体窒素、試料管を通して試料に達する。光源は誘電体バリヤ放電Xe2*エキシマランプ(172nm光放射、20Wタイプ)である。
放出ガス測定は試料管の端部を質量分析装置と接続して行った。ESR測定はキャビティ内にこの実験系を持ち込んで行った。

Fig.1 Schematic diagram of UV irradiation apparatus

● 低温光照射によるガス放出測定

試料温度が-180°Cになった時点で光照射を行った。照射時間は約10分とした。検出されたガスは水素のみである。その総量は約2×1014moleculesであった。この量はバックグランド程度である。

● 昇温放出ガス測定

上記実験に使用した試料の温度を光照射無しの条件で室温まで昇温した。Fig.2に結果を示す。-150°C付近から水素ガスの放出が観測される。ガス放出総量は約75×1014moleculesであった。

Fig.2 Released H2 gas volume from polyethylene after UV irradiation at -180°C. 10 min.

● 低温光照射によるESR測定

ガス放出測定と同様に-180°Cでの光照射を行った。ラジカルの生成が確認された。

3. 考察

185nmよりも長波長の光照射は、PEのCC,C-H結合を直接的に解離しない。1)

-180°Cでのラジカル生成はC-C又はC-Hの光解離を意味する。放出ガスがバックグランド程度であることはC-Hの光解離が無いことを意味する。ゆえにこの反応はPEのC-C結合を選択的に解離することを示唆している。昇温過程でアリルラジカルが生成することが確認されている2)。その際、多量の水素ガスが発生することが今回初めて確認された。

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