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光技術情報誌「ライトエッジ」No.8(1996年9月発行)

光学 第25巻 第6号

解説 最近のプロジェクターの光学システム

プロジェクター用光源
Light sources for projectors

東 忠利
Tadatoshi HIGASHI ウシオ電機(株)

液晶プロジェクターなどの投写型ディスプレイは,娯楽用・教育用の大型映像機器としてのほか会議などのデータプロジェクターとして需要が増えており,ま たハイビジョン用大型TVの一形式としても注目されておる.

液晶あるいはマイクロミラーアレイなどを画像表示素子として使用した投写型ディスプレイでは照明用の光源が必要である.この用途に使用される光源としては(1)メタルハライドランプ,(2)ハロゲンランプ,(3)キセノンランプの3種類がある.

本稿では最近のプロジェクターの主要光源になっているメタルハライドランプを中心に解説する.

1.メタルハライドランプ

メタルハライドランプは石英製放電管に金属ハロゲン化物(メラルハライド)を水銀,アルゴンガスとともに封入した高(蒸気)圧放電ランプの一種である.

一般照明用メタルハライドランプではいろいろの種類のメタルハライドランプが使用されているが,プロジェクター用ランプは高演色性の高輝度光源である必 要があるため,短アーク長化した希土類金属ハロゲン化物を封入したランプが一般的に使用されている.
プロジェクター用ランプは光の脈動を嫌うため,当初は短形波交流電流で点灯されていたが,その後,長寿命タイプのランプとして直流点灯ランプが開発された.

1.1 交流点灯と直流点灯の違い

交流点灯の希土類金属入りランプでは比較的早期に放電管の石英ガラス表面に白濁が発生し,ランプの全光束はあまり低下しなくとも集光率が低下してスクリ ーン光束が低下する現象がある.アーク長が短いほど,また大電力のランプほど(すなわち単位アーク長当たりの入力電力が増大するほど)白濁の発生が早くなると同時に,集光率の低下率が大きくなるため短アーク長化とともにランプの寿命が急速に短くなる.この白濁現象の抑制のため直流点灯ランプが開発された1)2)

直流点灯メタルハライドランプは直流点灯による発光物質の偏りを利用して白濁現象を大幅に抑制したもので,交流点灯ランプに比較して3倍程度の寿命が得られる.

また直流点灯ランプは点灯回路が安価になるメリットもある.短形波交流点灯回路では一度直流にした後でFETで切り替えて交流にしているため,直流点灯では4個のFETとその制御回路が不要になる.

直流点灯の短所は初期発光効率が10%ほど低下することと,従来の単純な光学系では色むらが大きくなる傾向があることである.

しかし最近のデータプロジェクターでは照度均一性を向上するためにも光学的インテグレーターの使用が必要となり,直流点灯の色むらは問題にならなくなった.

1.2 分光分布

交流点灯の155Wランプと直流点灯の155Wランプの分光エネルギー分布を図1と図2に示す.ともに希土類金属が封入されていて,連続スペクトルを主成分とした分光分布から成り,本質的には同じである.

図1 交流点灯155Wメタルハライドランプの分光分布(アーク長3mm)

図2 直流点灯155Wメタルハライドランプの分光分布(アーク長3mm)

最近は集光率の向上のため短アーク長化が要望されている.液晶プロジェクターの実用化当初の7mm程度のアーク長から,しばらくは5mmのアーク長が主流になっていたが,長寿命が可能な直流点灯ランプの出現とインテグレーターの採用により最近では3mmのアーク長主流になりつつある.アーク長が短くなると波長436nm,546nm,578nmにある水銀のスペクトル線の強度比が増大する.

1.3 輝度分布

交流点灯ランプの輝度分布は図3のように両電極の前面に輝点のある対照的な輝度分布であるが,直流点灯の輝度分布は図4のように陰極前面の輝点が強く,陽極前面の輝点は広がっているため輝度としては低い.図5と図6に交流点灯および直流放電軸に沿った輝度分布を示す.しかし直流点灯メタルハライドランプの場合は同じ直流点灯の短アーク型キセノンランプとは違って陰極前面の輝点の輝度はあまり高くなく,また陽極前面の輝度も比較的高いため,放電軸に垂直な方向の発光分を積分した光度は図7に示すように電極間でほぼ一様である.

したがって,光の利用効率を高めるためには直流点灯ランプでも電極間の全光束を利用する必要がある.

図3 交流点灯155Wメタルハライドランプの輝度分布(アーク長3mm)

図4 直流点灯155Wメタルハライドランプの輝度分布(アーク長3mm)

図5 交流点灯155Wランプのアーク軸方向輝度分布(アーク長3mm)

図6 直流点灯155Wランプのアーク軸方向輝度分布(アーク長3mm)

図7 直流点灯ランプのアーク軸垂直方向積分光度分布(長3mm)

1.4 寿命特性

図8にアーク長3mmの250Wランプについて代表的な光束維持特性を示す.交流点灯ランプのスクリーン光束半減寿命が500~1000時間に対し,直流点灯ランプでは1500~5000時間程度である.交流点灯ランプでも直流点灯ランプでもランプの寿命と効率は相反関係にあり,上記のように一定の範囲内では調節が可能である.

図8 交流点灯および直流点灯アーク長3mm 250Wメタルハライドランプのスクリーン光束減衰特性(3インチ液晶パネル光学系)。

1.5 効率に影響するパラメータ

効率に大きく影響するパラメータには,(1)アーク長(ランプ電圧),(2)発光色,(3)寿命の3つがある.

(1)アーク長

アーク長を短縮すると集光効率はよくなるが一般にランプ効率は低下する.アーク長の短縮はランプ電圧の低下に結びつき,電極損失比の増大による効率が低下する.アーク長が7mm→5mm→3mmと短縮されるごとに効率は5~10%程度ずつ低下した.

(2)発光色

ランプ効率は眼の視感度で評価されるものであるからランプの発光色(分光分布)と効率の間には大きな関係がある.ランプが全波長域で黒体放射と同じ分光分布の光を発光するとすると色温度が6000K近辺の発光が最も効率のよい光になるが,発光域が可視波長域に限定されると最も効率のよい分光分布は色温度5000K以下の光になる.
したがって,一般にプロジェクター用光源に要求されている色温度6000K以上の領域では,色温度の高い発光色ほどランプ効率は低下する.

また黒体放射からの色度ずれが緑方向にずれていればランプ効率が高くなるが,ピンク方向にずれていればランプ効率は低くなる.スクリーン上の白色色度があまり緑気味になると好ましくないことと,レフレクターの赤外線除去フィルターなどにより長波長赤成分や青成分が除去されるため,ランプ単体に比較しスクリーン上の光は緑色方向にずれた光になる.したがって,ランプからの発光色は黒体放射の色か,さらにはピンクがかった光が要求される.これはランプ効率としては低くなる方向である.ランプ発光色の黒体放射色からのずれは色度偏差DuvまたはMVPDで表される.Duv=0.015からDuv=0.005への変更によりランプ効率は10%近く低下する.

(3)寿命

ランプ効率とランプ寿命は相反関係にあり,寿命を犠牲にすればランプ効率をある程度は高くすることができる.効率10%の変化でランプ寿命も2~3倍変化する.

表1に交流(AC)点灯ランプと直流点灯ランプの代表的な特性を示す.

表1 交流点灯型および直流点灯型プロジェクター用メタルハライドランプの特性例。

特注ランプの特性例を一つを挙げると,アーク長3mm,ランプ寿命2000時間の直流点灯250Wランプで,色温度6500K,Duv=0.005の発光色で効率が約62lm/Wである.このランプの寸法例を図9に示す.

図9 直流点灯250Wランプの寸法図(例)。

2.ハロゲンランプ

ハロゲンランプはタングステンフィラメントを使用した白熱電球の一種であるが,石英ガラス製でハロゲンによる管壁浄化作用のため小型,高輝度,寿命末期まで光束がほとんど低下しない,などの特徴がある.

プロジェクター用光源には,光学機器用として設計された小型フィラメントで,高輝度設計のハロゲンランプが使われる.表2に光学機器用ハロゲンランプの特性の例を示す3)
使用電圧によって12V用,24V用,100V用などがあり,寿命は50~500時間程度の設計になっている.ハロゲンランプも効率とランプ寿命は相反関係になっており,同じランプを使用電力を調整して,寿命を選択して使うこともできる.

ハロゲンランプの長所として,1)安定器が不要のため,システムとして安価,2)光色が安定しており,演色性がよい,3)光出力が寿命中ほぼ一定である, などがある.
短所としては,1)効率が低い,2)色温度が低い,3)寿命が短い,などがある.

表2 光学機器用ハロゲンランプの特性例

3.キセノンランプ

キセノンランプは高圧力キセノンガスの連続スペクトル発光を利用したランプで,昼光によく近似した高演色性の光が得られることで知られている.図10に300Wランプの分光分布を示す.短アーク型ランプでは図11に輝度分布を示すように4) 陰極前面の輝点の輝度が特に高く,映写機などの大型光学機器用光源として使用される.
欠点は効率が低いこと,ランプが高価なこと,点灯回路が高価なこと,などである.

図10 300W短アーク型キセノンランプの分光分布。

図11 1kW 短アーク型キセノンランプの輝度分布。

75Wの小型ランプから6kW,30kWの大型ランプまであり,反射型液晶プロジェクターには1.5kW,2.5kWなどのキセノンランプが使用されている.

代表的な短アーク型キセノンランプの特性を表3に示す3)

表3 短アーク型キセノンランプの特性例。

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