USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.8(1996年9月発行)

電子材料

(1996年6月別冊)

■液晶ディスプレイ用部品・材料編■

バックライト

田川 幸治* 蕪木 清幸**

マルチメディアが騒がれるようになって久しい。この間に、ディスプレイデバイスの発達も目覚しく、中でも液晶ディスプレイ(以下LCD)は、現時点でフラットパネルディスプレイの中核をなしている1)。LCDは、プラズマディスプレイなどの自発光形と異なり、補助光源としてバックライトが必要になる。ここでは、ノートパソコンやLCDモニタに用いられる直視形のバックライトとLCDプロジェクタに用いられる投射形のバックライトについて、主に光源とその周辺の光学系について概説する2)

各種ランプの特徴と光学系

LCDは、サイズ0.5~20形(画面対角線長さのインチ表示)位までの直視形と、30~200形ぐらいまで拡大する投射形に分けられている。直視形では、1形以上で用いられる小型蛍光ランプと0.5~2形で用いられる平面蛍光ランプの2種類があり、いずれも低消費電力で高発光効率である。投写形では、光の利用効率を良くするために発光面積が小さく、発光効率の良いメタルハライドランプが主に用いられる(色再現については、を参考にされたい3))。

直視形バックライト

1.直視形バックライトの要求性能

ノートパソコンやビデオカメラなどに用いられる直視形のLCDバックライトには、LCDの特徴を生かすために、低消費電力、薄形、軽量、高輝度などの性能が 要求される。これら要求仕様と直視形バックライトとして用いられる光源と光学系について特徴などを表1示す。

表1 直視形バックライトへの要求仕様

2.直視形バックライトの方式と構造

図1に直視形バックライトのうち導光板方式の構造を示す。図2には、セミホット蛍光ランプ、冷陰極蛍光ランプと平面蛍光ランプの構造を示す。

図1 導光板方式の構造(断面)

図2 蛍光ランプの構造

直視形バックライトは、従来の直下方式から導光板方式への移行が進み、最近ではナビゲーション用バックライトも導光板方式への移行が進んでいる。

セミホット蛍光ランプは、当社独自の方式で、細管化に対応した(現在、外径2.6Φ)自己加熱形の熱陰極蛍光ランプである4)。平面蛍光ランプは、光学系を介することなくLCDに光を入射でき、光の利用効率はよい5)。現在、0.5~1形では、導光板に比べて薄く発光効率も良いことから、ビデオカメラのカラーEVF (Electric View Finder) 用バックライトの主流となっている。

3.直視形バックライトの技術動向

直視形バックライトへの要求仕様項目について、最近の技術動向を以下にまとめる。

① 薄形(細管化)、軽量

また、ビデオカメラなどのLCD使用機器の薄形、軽量に対応して、バックライトも薄形化、軽量化が要求されている。導光板厚みは、当初の5mm程度から、現在2mm程度まで薄くなってきている。これに伴ない、軽量化も進んでいる。この点は、小形蛍光ランプの細管化が現在、外径化が現在、2mmまできたことと、導光板の成形技術の進歩によるところが大きい。

② 高輝度

LCDモニタ付きビデオカメラなどの屋外使用機器では、屋外でも使える高輝度(350cd/m2以上)に加え、低温での立ち上がりが速いことが要求されている。セミホット蛍光ランプでは、細管化と点灯初期に一定時間過入力を加えることで、冷陰極蛍光ランプに比べ大幅な輝度立ち上がり時間の短縮を行っている。また、平面蛍光ランプでは、封入ガスの工夫により点灯直後から、ほぼ飽和輝度が出るような工夫をしている。

導光板方式では、プリズムシートによりバックライト面輝度が約30%向上する。

小型蛍光ランプでは、高輝度を得るために、バルブ径毎の条件の最適化を行ってきた。参考までに冷陰極蛍光ランプの輝度と発光効率のバルブ内径依存性を図3に示す。現時点では、発光効率は定格電流5mAにおいて飽和しつつあるが、発光効率の低下は生じていない。平面蛍光ランプの輝度のランプ入力依存性を図4に示す。

図3 冷陰極蛍光ランプの発光効果とバルブ内径依存性

図4 平面蛍光ランプの輝度-ランプ入力特性(25ºC)

③ 低消費電力(高発光効率)

直視形バックライトの消費電力は、表示部消費電力の70%程度を占めており、低消費電力化が特に要求されている。導光板方式のエネルギー損失のうちでは、反射板付近での光損失、電極での電力損失などが改善の余地を残している。反射板付近での光損失は、反射板の材質や反射板の形状により改善されてきている。

電極での電力損失は、陰極降下電圧(以下、Vk)×ランプ電流(以下、IL)で表される。このため、Vkを極力小さくすることが重要である。熱陰極は、Vkが10~20Vで、冷陰極の約120Vより損失が少ない。ただし、低いIL(5mA以下)では、熱陰極動作を長時間維持できる熱陰極がないため、低いVkの冷陰極の開発が進められている。

④ 暗黒始動性

小型蛍光ランプと平面蛍光ランプの暗黒始動性(始動時間遅れ)は、暗黒下で放電開始が電圧印加時間から遅れを生じる現象である。小型蛍光ランプは、定格印加電圧で、周囲照度0.02lux、2秒以内の保証が一般的である。これに対し、平面蛍光ランプはパルス放電を行っていることもあり、完全暗黒下でも2秒以内で始動できる。

⑤ 長寿命

直視形バックライトの光学系部材は、点灯中の可視光や紫外光、ランプの発熱より劣化を生じる。これに対しては、部材の耐可視光、耐紫外光、耐熱の改良が引き続き行われている。小型蛍光ランプと平面蛍光ランプについては、輝度維持率と電極寿命で小型蛍光ランプは水銀切れでも寿命に至る。輝度維持率は、蛍光体の紫外線などによる劣化が大きく影響する。蛍光体の劣化は、3波長蛍光体によりかなりの改善がみられたが、その後は改良があまり進んでいない。また、青の蛍光体は劣化が激しく、色再現が重要視されるカラーLCD用バックライトにはより劣化の少ない青の蛍光体を使用することが好ましい。電極は、熱陰極の長寿命かが課題である。水銀切れは、特に水銀ディスペンサの含有水銀量の向上が課題である。

4.直視形バックライトの今後の技術動向

直視形バックライトは、今後とも、低消費電力、薄形、軽量、高輝度、高発光効率などの性能が要求され続けていくことは間違いない。しかし、今後は、反射 形カラーLCDの登場でバックライトは、低照度においてのみLCDの表示を補助する役割となる分野が発生してくるものと考える。これは主に、バッテリ駆動機器で用いられる可能性が高い。この場合バックライト自体の輝度は、これまでの数分の1で十分となり、大幅な低消費電力、薄形化が可能になろう。

蛍光ランプの重要課題は、熱陰極蛍光ランプとセミホット蛍光ランプでは長寿命化であり、冷陰極蛍光ランプでは陰極降下電圧を下げることである。

蛍光ランプ以外では、有機ELで、白色にて10,000cd/m2が可能になったという報告が最近あった6)。ELは、寿命と発光スペクトルのLCDとのマッチング、そして何より発光効率の改善ができれば、LCDバックライトとして可能性がある。

当面、直視形バックライトは、小型蛍光ランプと導光板の組み合わせおよび平面蛍光ランプの改良での対応が重要となろう。

投写形バックライト

1.投写形バックライトの要求性能

LCDデバイスと光学系の進歩により、LCDプロジェクタは画質が著しく改善され、ビデオなどの動画を映すだけでなく、パソコン出力用で静止画を映すデータプロジェクタや大画面テレビとして、その市場は急速に広がってきている。同時に、バックライトに多項目で高い性能が要求されるようになってきた7)

たとえば表2は、各種LCDプロジェクタの要求特性例を示したものであるが、データプロジェクタでは、装置の軽量小形化に伴なうバックライトの小形化や均一性を改善するために使われるインテグレータレンズ照明に系に適した発光サイズの光源が要求されている。また、大画面テレビでは、寿命、起動性、および安全性に対する改善要求が強い。

表2 各種プロジェクタの光学系と要求特性

2.投写形バックライトおよび照明系の構造と特徴

図5は、投写形のバックライトの構造例を示したものである。反射鏡(放物面鏡または楕円面鏡)に光源であるショートアークメタルハライドランプ(以下、ランプと略す)が、光軸上の焦点位置近傍に位置するように無機系接着剤で固定されている。ランプは、点灯方式によりAC形とDC形に分けられるが、近年では安定器の小形化、コスト低減、および光源のちらつき防止と寿命改善を目的としたDC形が主流になりつつある8)。通常DC形ランプは、陰極輝点輝度が陽極輝点に比べ大きい、発光管の陰極側に、最冷部防止のための保温膜が塗られているなどの理由により、電極が太い陽極側に反射鏡側に取り付けられる。

図5 投与形バックライトの構造

図6は、照明系の例を示したものである。図6(a)は、バックライトの反射鏡に、放物面を使用した単純な照明形である。この照明形は、LCD面での光利用率が高い反面、光軸近傍の光束密度が高くなり、照明されたLCD面の明るさが一様でない。さらに、長寿命で注目されているDC形(直流点灯形)ランプではカタホレシス現象により、発光部位で分光分布が異なるため、スクリーン上で色ムラが発生しやすい。この明るさムラと色ムラを改善するために、ランプの発光管表面にフロスト処理が施されるが、発光管表面で光が拡散され、LCD面の明るさが大きく低下する欠点がある。

図6(b)、(c)は、擬似的な多数光源で重畳小面するインテグレータ照明系を均一な照明が可能である。図6(b)は、楕円反射鏡のバックライト、LCDのアスペクト比にあった四角のガラスロッド、およびロッド端面の像をLCD面に結像させるための数枚の球面レンズで構成されている。バックライトから入射した光は、ロッド内で全反射するため、擬似的に(2n-1)2個の光源ができる。ここでnは、全反射の回数で利用できる光線角度、ロッドの太さと長さの関係で決まる。また、図6(c)は、バックライトと2枚のマルチレンズで構成されている。最初のマルチレンズは、複数の部分光源を作ることを目的としており、個々形状は、LCDのアスペクト比にあった四角である。次のマルチレンズは、最初のマルチレンズの個々の像をLCDに結像を目的としているので、形状は任意である。これらのインテグレータ照明形においてLCD面の明るさは、レンズでの取り込み可能な寸法を超えると発光部サイズに逆比例するので、電極間距離と電極の偏芯の精度が重要になる。特に取り込み寸法が、発光サイズが2mm以下を前提に設計されたインテグレータ照明系においては、高精度(0.1mm)が要求されるため、ランプ製作技術のレベルアップが必要である。

図6 LCDプロジェクタの各種照明系の例

3.投写形バックライトおよび照明系の特性

表3に表2の例で示した大画面テレビ用に設計したランプおよび照明系の特性例を示す。また、図7に上記設計のDC形150Wランプの分光分布9)を示す。

表3 大画面テレビ用DC形150Wランプおよび照明系の特性

図7 大画面テレビ用DC形150Wランプの分布

4.投写形バックライトおよび照明形の今後の動向

液晶プロジェクタが、一般家庭へ普及するためには、高画質、低消費電力化、低価格化、高信頼性が必要となると考えられる。これに伴なうバックライト光源に対する具体的な必要条件は、バランスの取れた分光分布、高発光効率、2mm以下の発光長、5,000時間以上の寿命、防損壊対策などである。これらは、お互いにトレードオフの関係にあるのですべて満足することは現在困難である。しかしながら、現実を目指して発光管の材料、封入物、構造、製造方法などの改善などの工夫がなされている。

以上、液晶ディスプレイのバックライトの光源とその周辺の光学系について、要求性能を中心に技術動向を述べた。今後も、バックライトへの主な要求性能は、低消費電力(高発光効率)、高輝度、長寿命である。これに対して、バックライトは、用途に合わせた光源、光学系、さらに電源を含めての改良を進めていくことが必要である。

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