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光技術情報誌「ライトエッジ」No.8(1996年9月発行)

大学研究室を訪ねて Campus Lab③

夢の金属探究は、知と力と勇気を持って

早稲田大学理工学部材料工学科 不破研究室

今回のキャンパス訪問は、早稲田大学理工学部材料工学科・不破研究室。同研究室のある理工学部は“大久保キャンパス(東京・新宿区大久保)”とい う独立したキャンパスにあり、約1万人の学生が学んでいます。設立は1908年と、私立大学理工系教育機関としてはもっとも古い歴史に加え、最近の科学技術の急速な発展に応じて、社会との調和をめざしながら、基礎研究の充実や先端技術の開発、教育改革に積極的に取り組み、95年には来たるべき科学技術総合化の時代に向けた新しいカリキュラムをスタートさせています。

また、94年4月には禁煙キャンパス宣言を行い、一部の喫煙スペースを除いて学内を禁煙化。その後も禁煙キャンペーンを展開し、今年6月には喫煙者との共存をテーマに公開討論会を催すなど、そのユニークなキャンパス改革運動のニュースは、新聞などでも大きく報道されています。

社会と接点を持った教育で、社会に役立つ人材を

不破章雄先生は同大学理工学部を卒業後、スタンフォード大学(米国)留学、三菱マテリアル株式会社勤務を経て、1980年から早稲田大学教授に就かれま した。専門は非鉄金属の製錬で、現在は素材製造における物理化学的研究や反応速度論的研究に注力しておられます。今でこそ企業出身の先生は少なくないものの、1980年当時は大変珍しい存在だったとか。不破先生はご自身の経験から、「学生一人ひとりが、伸び伸びと、そしてしっかりと自主性を発揮し、充分な成果が上げられるようにし、私はそれに必要な勉学環境を整え、マンツーマンで適切な助言や援助を与えるアドバイス的な役割」という指導方針のもとで、企業・社会に接点を持つ大学教育、企業・社会に役立つ人材育成という視点から「各人が、研究の方針(意義づけ)、目的、目標、方法、予定(計画)、予算等を考慮したあと、それを実行し、まとめ、発表し、評価し、展開する」という企業における研究の進め方を、卒業論文の制作過程に取り入れておられます。

■不破研究室の皆さん。先生が毎夏受け入れている交換留学生は、学生たちへの良い刺激になっている。

新材料は過去の研究成果の延長線上に

不破先生の専門分野である「材料工学」は、あらゆる工業の基礎を担っている“材料”と、そのもとになる“物質”を直接対象として、さまざまな角度から科 学していく学問です。なかでも「材料の製造プロセスに関する部門」を不破先生は担当されています。

ここでは、「熱力学、移動速度論、反応速度論、量子化学、電気化学などの学問をベースに、物理化学的な手法を用いて、鉄以外の各種金属の製錬、無 機材料製造、薄膜材料、電池材料、電球などを対象に、移動速度論的な見地や反応工学的な観点から解析したり、それらの特性の調査、評価を行う」こと を主眼に、96年度は「素材工学における反応速度論的研究」という大きなくくりの中から、所属している17人の学生(表参照)がそれぞれの研究テーマに取 り組んでいます。

不破先生は「“材料”となる金属の歴史は人類の歴史と重なるほど古く、大昔は土のようなものの中から金、銀、水銀、鉛、銅、鉄などの金属を取り出し たわけで、その製法は錬金術として発展してきました。しかし、希土類金属など多くの金属は20世紀になって電気が発明されてからたくさん製造すること が可能になったものです。つまり、それまでは地球上の元素としては存在していてもその製法や用途を知らなかったわけです。私たちの研究もその延長線 上にあるもので、研究は大変地味ですが、知らないことを知っていくプロセスが楽しみにつながっていくのです」と説明してくださいました。

真理を探究し、物ごとの仕組みを解明して新しい現実や技術に対応しようという研究姿勢と、材料工学の基礎学問、手法、道具を用いて行われた数々の 研究成果は、日本金属学会、照明学会等で発表されています。とりわけ、半導体産業の発展などに伴って、半導体シリコン工業における高純度シリコンの 製造、単結晶上へのエピタキシャル成長やエッチングなどの化学的プロセスの解析、制御や製品の品質向上のための熱力学的ならびに速度論的な研究、質 量分析計を用いた応用研究などが幅広く行われています。

また、不破研究室と企業の共同研究の一例として、ウシオ電機(株)が参加したものに照明分野に関する研究があります。「小型白熱電球内部における熱および物質輸送の数値解析」がこれで、有限体積法の手法を用いたコンピュータシミュレーションによって、小型円筒白熱電球内部における熱および物質輸送機構を解析したものです。電球内部のタングステン質量分率計算では、モデルの一部にハロゲンサイクルが考慮されています。この研究解析によって、電球のバルブ半径がLangmuir-film(フィラメント近傍の自然対流の停滞した領域)の厚みより小さい電球では、半径方向の熱輸送は熱伝導が支配的であり、バルブ半径がLangmuir-filmの厚み以上になると急激に対流の影響が大きくなるという傾向が、封入圧力・フィラメント温度・気体種の変化に依存せず生じるということが解明されました。また、封入圧力が大きいほど生じる自然対流の規模も大きくなることや、さらに、タングステンの輸送機構も明らかになり、これらの研究成果は学会から非常に高く評価されました。

このように不破研究室では、材料工学の基礎的な学問と手法や道具、それに実用的な分野をマトリックス的に組み合わせた交点から、学生たちの自主性 や独創性を尊重したテーマを選び、彼らが新しい考え方を模索し、新しい事柄に挑戦した結果を世の中に発表し続けています。

表1 不破研究室の96年度メンバーの内訳

■コンピュータを駆使する課題も多い。気軽に研究の進み具合を問いかける先生。

学生に教え、学生から学ぶ

不破先生のモットーは“学生の人生を大事にする” こと。「今の学生は、言われたことをきちんとやれるし、よく言うことをきく。しかし、アメリカの学 生に比べて、自分の知りたいこと、やりたいことを明確に持っていないタイプが多いですね。この点、アメリカの学生のほうがずっと独立しています。ですから、私の研究室では一人ひとりと相談して、彼らが知りたいことをテーマにし、二人三脚で解明していこうとしています。私が詳しいことを教えますが、学生が詳しいことは彼らから学ぶようにしています。こういった姿勢も彼らが社会に巣立つ前に身につけてもらいたいと思っています」と、その理由を説明してくださいました。さらに、材料プロセス研究の将来を担う若者たちに贈る言葉として「材料の研究は“設計”というプロセスがありません。ですから、違う元素を加えたら何か世の中に役立つ金属が生まれるかもしれないとか、もっと純度を良くしたら、ひょっとしたら新しい特性が得られるかもしれないというような興味をもっと持ってほしいのです。

そういった自分の知りたいこと(夢)に、先生や周囲に言われなくても自発的に、知(知識・智慧)と力(精神力・体力)と勇気を持ってぶつかっていってほ しいですね」と、希望をこめて結んでくださいました。

■金属の元素分析装置(EMPA)を使い、金属の表面組織を分析する先生。

プロフィール

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不破 章雄(ふわ あきお)
早稲田大学 理工学部 材料工学科 教授

<略歴>
1946年 福岡県生まれ
1969年 早稲田大学 理工学部
金属工学科 卒業
1974年 スタンフォード大学
博士過程取得(金属精錬学)
1974年~1980年 三菱マテリアル株式会社勤務
1980年~ 早稲田大学 理工学部
材料工学科 教授
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■「オートバイに乗っいると幸せ」と、先生ご自慢の愛車(1,100ccのBMW)も見せていただきました。

<お問い合わせ先>
早稲田大学
理工学部 材料工学科 不破研究室
〒169 東京都新宿区大久保3-4-1
早稲田大学理工学部60号館 110室
Tel. 03-3203-4141(内線:3360)
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