USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.9(1997年2月発行)

1996(平成8年)秋期応用物理学会(九州産業大学)

CLBOを用いた高平均 出力 紫外光発生
High Average Power UV Harmonic Generation Using CLBO Crystal

出来恭一,大迫康,影林由郎,水野修,堀口昌宏,森勇介*,佐々木孝友*
K.Deki,Y.ohsako,Y.Kagebayashi,O.Mizuno,M.Horiguchi,Y.Mori*,T.Sasaki*
ウシオ電機(株)技術研究所,大阪大学工学部電気工学科*
Research and Development Div. Ushio Inc.
Department of Electrical Engineering, Osaka Univercity.*

1.はじめに

CLBOを用いたNd:YAG4倍波及び5倍波発生の実験に関しては,既に繰り返し周波数10Hz,パルス幅7nsecでの報告がある[1].ここでは,平均出力が高く取り出せるが同時に結晶の自己加熱の影響も受けやすい繰り返し周波数100Hzでの実験とその変換効率改善についての実験を中心に報告する.

2.Nd:YAG4倍波発生

実験に用いた入射波(532nm)は横モードが,Top hatと呼ばれる単一モードで,通常のGaussian,TEM00モードよりも横方向分布が均一で,ビーム直径5.5mm,パルス幅3nsec,縦モードも単一で繰り返し周波数は100Hzまで可能なもの(Coherent社の“infinity40-100”)で,100Hz時の最大出力は230mJ/shot-280mJ/shot程度のものである.

2-1. 266nm出力の結晶長依存性

CLBO 結晶長L を約10mmから3mm前後までの範囲で数種類換え,最大平均出力を調べた(入射波は集光せず直径5.5mmのまま用いた).その結果L=3.1mm,100Hzで最大平均出力9.7Wを得た(図1).このとき入力255.3mJ,変換効率37.8%であった.また,変換効率の極大は入力204.3mJの時で40.6%であり,この時点で効率が飽和していることから入力の最大値255.3mJに対する結晶の最適長は3.1mmよりもさらに短いことが予想される.また同図で,10Hz-100Hz間の変換効率の相違,従って266nm出力の相違は,繰り返し周波数の増加に伴う高調波(266nm)の吸収による自己加熱の増加が原因と考えられる.

2-2. CLBO の面内温度分布

図2 に,100Hzで,266nm光9.3W出力時の面内(後端面)温度分布の測定結果を示す.約40 度以上の温度差がある.窒素ガスを結晶後端面に吹き付け冷却を行った場合には、レーザビームが存在しない周辺部で温度差又は温度勾配はかなり改善されているものの,ビームが存在する結晶中央部では温度差又は温度勾配はほとんど改善されていない.結果として,出力は9.3Wから10Wへ7.5%向上したに過ぎない.即ち窒素ガス吹き付けによる冷却は熱的phase mismatchの改善には顕著な効果が望めないことがわかる.

3.変換効率とdephasing

前節の実験結果より結晶の自己加熱によるphase mismatchの増加は変換効率に大きな影響を与えていることが予想される.平面波近似を用い,基本波depletion を考慮したSHG変換効率は,dephasingδとdriveη0 とで決定される[2,3].dephasing はphase mismatchの程度を表し,

で与えられ,driveは次式で表される無次元量で、対象となっている非線形結晶への入力の強さの程度を表わす.

ここで,は結合係数と呼ばれ,

で与えられる.ここで, L は結晶長,I1(0)は入射基本波強度である.drive量の増加に伴う基本波位相のシフトによるphase mismatchの増加を実効的dephasing によって考慮し[2]さらに入射波形を完全な矩形波ではなくGaussianと仮定した補正による計算例を図3に示す.図より変換効率はdephsingの影響を大きく受けること,また,入射光の強度を大きくしdriveを上げ過ぎても変換効率が低下することがわかる.同じ計算法を用いて2.1節の実験条件で計算した変換効率を図1 中の点線のグラフで示した.計算にはビーム発散角によるdephasingと実効的dephasingしか考慮していない.計算値は入力波300mJでも効率は飽和していないが実験では200mJ近傍から飽和がはじまっている.以上より,CLBOでの変換効率改善にはdephasingを与える物理量の内,結晶中で発生する4倍波の吸収によるthermal dephasingの低減が特に重要と考えられる.

4.Thermal dephasingの低減

4-1. 楕円ビーム化による低減

Hon等[4]は入射ビームを円形ではなく楕円形にすることによって温度分布が改善され変換効率が向上することを示した.CLBOでこの効果を検証すべく実験した。位相整合角に敏感ではないΦ方位でビーム径を圧縮し、θ方位ではそのままとした.こうすることでθ方位でのビーム発散角によるdephasing を同一にでき公平な比較ができる.ビーム径の圧縮は単に一個の円筒凸レンズで集光するのではなくコリメートした.こうすることによってΦ方位でも考えられるビームの発散角による2次の角度dephasingの効果を無視できるようにした.

結果を図4に示す.横軸は入射波強度で示した.同図(a)は10Hzの場合、(b)は100Hzの場合である.10Hzの場合には楕円ビームによる効率向上は明瞭でビーム発散角にdephasingは同一であるにもかかわらず,同一入射波強度340(MW/cm2)で38%から52%に改善されている.一方,100Hzの場合には同図(b)よりそのような効果はわずかである.即ち,楕円ビームによるThermal dephasingの低減の効果は結晶の自己加熱の小さい場合には有効であるが,高平均出力を目指す場合にはほとんど効果がないことが明らかとなった.

4-2. 結晶掃引による低減

Hon 等は前節で述べたような方法だけではなく,入射波ビームを結晶の単面内で掃引することや,逆に入射波ビーム固定で結晶を掃引することによってthermal dephasing を低減する試みを行っている[4].ここでは,CLBO 結晶を掃引することにより効率向上を図ることを試みた.リニアスライダの上に結晶を搭載し4.8mmの幅で結晶のΦ方向に平行に掃引した(図5).入射ビームは短軸方位がx-y 面に平行になるよう楕円に変形して用いた.その結果を図6に示す.基本波強度が200(MW/cm2)以上の高強度,高平均電力の時に効果が明瞭である.入力が最大470(MW/cm2)時には,266nm出力が4.8Wから5.6Wへ約17%増加している。即ち、結晶掃引は高平均出力を得る場合には有効な手段と言える.

5.BBOとの比較

Tyminskiiら[5]は筆者等と同じレーザ装置"infinty 40-100"を用いてBBOでNd:YAG4倍波発生実験を行っている.彼らは入射ビームに何ら手を加えていないので2-1 節での実験条件と同一と見なしてよく,平等な比較が可能である.その結果を図7 に示す.deff値の相違を補償した公平な比較のため横軸はdriveとした.

drive量の小さい領域では,ほぼ同等の出力性能と言えるが,drive量が大きくなるにつれBBOでは効率が大きく低下して来る.この特性の相違を説明する理由は二つ考えられる.一つは角度許容幅の相違によるdephasingの相違で,532nmから266nmへの波長変換におけるBBOの角度許容幅はCLBOの1/3と小さくこのためdephasingはCLBOより3倍大きくなる.このため,同一drive量ではBBOの方が効率の飽和と低下が早く生じると考えられる.もう一つは,BBOのthermal dephasing がCLBOのそれより大きい場合である.これについては現在比較し得るデータがなく明らかでない.いずれにしても図7 は,Nd:YAG4倍波発生に関し,CLBOがBBOを凌駕していることを明確に示している.

6.Nd:YAG5倍波発生

2章で述べたようにNd:YAG4倍波で10Wレベルの平均出力が得られることが確認できたのでこのような4倍波を入力として5倍波発生実験を行った.入射光は集光していない.4倍波,5倍波用の結晶長は必ずしも最適化されているわけではない.

4倍波用結晶 L(4HG)=6.49mm,5倍波用結晶L(5HG)=1.98mmで繰り返し周波数10Hz,100Hzの場合の結果を図8(a),(b)に示す.横軸はYAG 基本波の1shotエネルギーで示した.100Hzの場合266nm出力65mJ時に最大40mJの213nm出力,即ち平均出力4Wを得ている.10Hzの場合最大90mJ/shotを得ている.図9 に同じ実験結果を横軸に4倍波入力にして示した.100Hz動作の場合には266nm入力が小さい領域で既に266nmから213nmへの変換効率が減少を始めており100Hz動作での5倍波結晶の最適長は1.98mmよりも小さいと言える.一方、10Hzでの実験結果では266nmから213nmへの変換効率の減少割合が100Hzの場合に比べ非常に小さくなっており,100Hzと10Hzではthermal dephasingに大きな差があると考えられる.即ち,高平均出力を得ようとする5倍波への波長変換に与えるthermal dephasingの影響は4倍波のそれに比べはるかに深刻な問題であると言える.

7.まとめ

CLBOを用いてNd:YAGレーザの4倍波,5倍波発生実験について10H 動作と高平均出力が得られる100Hz動作について比較検討した.4倍波発生では100Hzで10Wの平均出力が得られたが,最大入力付近では10Hzと100Hzで変換効率に大きな差が見られ,後者の場合には飽和から減少への傾向がみられた.結晶の温度分布測定と理論計算結果とによりthermal dephasingの影響が大きいことを認識した.4倍波発生に関しthermal dephasing低減の実験も行い結晶掃引法が100Hz動作の場合有効であることを確認した.また,5倍波発生の実験も行い、100Hzの動作時に平均出力4Wを得た.この場合には,4倍波の場合に比べて変換効率は一層結晶の自己加熱の影響を受けやすいことも判明した.変換効率を向上させより一層の大きい平均出力を得るためには今後結晶の自己加熱を低減するシステム構成の工夫やCLBO自体の高品質化が重要であると考える.

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