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光技術情報誌「ライトエッジ」No.10(1997年6月)

第2章 情報機器と光源の役割【概要】

2. 情報機器と光源の役割―概要―

本章では、光源を使う情報機器の機能、機器の種類、光源の種類、機器の中での光源が果たす役割(機能)を概説し、読み取り機能を持つ機器の光源への要求について説明する。

光源を使う情報機器の機能としては読み取り機能、記録機能、伝達機能、表示機能があり、読み取り機器としてはスキャナ、バーコードリーダ、記録機器としては複写機、光学プリンタ、光ディスク、伝達機器にはファクシミリ、リモコン、光通信が、表示機器としてはプラズマディスプレイ、液晶ディスプレイ、液晶プロジェクタがある。

表2・1に光源を使う情報機器の機能、機器の種類、光源の種類、機器の中での光源が果たす役割(機能)の概略の関係を示す。

表2-1 機器の機能と使われる光源および機器の中での光源の機能

2.1 読み取り機器

2.1.1 スキャナ

スキャナとは紙や写真等の二次元情報から画像上の画素の位置情報と分光反射(透過)率に相当する情報をデジタルデータに変換しコンピュータ等に出力する機器である。

種類は大別するとフラットベッドスキャナ、シートフィードスキャナ、ハンディスキャナ、フィルムスキャナ、ドラムスキャナ等である。フラットベッドスキャナは平らなガラス等でできた台に原稿を置き、リニアイメージセンサ(CCD等)を含む光学系を動かしてリニアイメージセンサの画素と直角方向の走査を行い情報を読み取るスキャナであり、シートフィードスキャナはリニアイメージセンサを含む光学系を固定し、原稿を動かしリニアイメージセンサの画素と直角方向の走査を行い情報を読み取るスキャナ、ハンディスキャナはスキャナ部を手に持って動かし原稿を読み取るスキャナ、そしてフィルムスキャナは写真フィルム(35mm/APSetc)の情報を読み取る小型のスキャナであり、ドラムスキャナは原稿を円筒状のドラムに取り付け軸中心に回転させ走査を行う。

ここで走査の方向について説明しておく。スキャナには分解能を高めるためにデジタルカメラ等に使われる二次元センサが使われず、ドラムスキャナ以外は一方向に多数の画素を持った一次元情報を読み取るリニアイメージセンサ(CCD等)が使われるが、このままでは残りの一次元の読み取りが出来ない。そこでセンサと原稿の相対位置を機械的に動かすことによりこれを実現している。リニアイメージセンサと同じ方向を主走査方向とし機械的に動かす方向を副走査方向とする。この関係を図2-1に示す。

光源の役割は原稿を照明することであり、蛍光ランプ、希ガスランプ、ハロゲンランプ、LED等が使われている。光源への要求は原稿照明に対しては光量、配光分布、分光特性、フリッカ、発光効率(消費電力)、始動性(立ち上がり)、寿命、寸法、エコロジー等がある。

2.1.2 バーコードリーダ

紙等に印刷されたバーコードと呼ばれる串歯状の一次元情報の反射率に相当する情報を、光学系を通してCCDラインセンサ等で読み取り、バーの白黒に応じた2値のデジタルデータに変換しコンピュータ等に出力する機器である。ここでの光源の役割は原稿照明にある。ペンスキャナ、タッチスキャナ、ハンドヘルド式、シングルライン式固定式、マルチライン固定式等の種類があり、ペンスキャナ、タッチスキャナにはLEDが、ハンドヘルド式、シングルライン式固定式、マルチライン固定式にはレーザが使われる。ペンスキャナは手動で走査するが、残りは手動走査は不要である。

光源への要求としては①ハンディ機器用では高輝度で効率の良いLEDが望まれている。②据え置き機器用ではHe-Neと同程度の波長(633nm)で現状の660~680nmの可視半導体レーザと同程度のコスト、寿命の可視半導体レーザで5mW程度の高出力の光源が望まれている。

(鈴木義一)

2.2 記録機器

2.2.1 複写機(アナログ複写機,デジタル複写機)

紙や写真等の二次元画像情報の位置と分光反射率に相当する情報を他の紙に複写する機器。複写機の種類は大別するとアナログ複写機とデジタル複写機の2種になる。

アナログ複写機は初期から使われてきた方式で、日光写真のように原稿の透過光情報を直接感光紙に転写する方式と、原稿の反射光情報を光学系を通してプリント機構に送り紙に出力する方式がある。

デジタル複写機はスキャナで原稿の反射光情報をデジタル情報に変換してから、プリント機構に送り、紙に出力する方式で、複合化やインテリジェント化しやすい。

ここでの光源の役割は読み取りにおける原稿照明、信号を光に変換する書き込み光源、感光ドラムの除電用光源および表示のバックライトにある。原稿照明光源としてはハロゲンランプ、蛍光ランプ、希ガス蛍光ランプが使われ、書き込み光源としてはハロゲンランプ、蛍光ランプ、レーザが使われる。除電には冷陰極蛍光ランプ、LED、小型のフィラメントランプが使われる。表示のバックライトには細管の冷陰極蛍光ランプが使われる。光源への要求としては、読み取り用光源の原稿照明に対しては、基本的にはスキャナと同様であるがこれに機械的な要求の耐振性等が加わる。

2.2.2 光プリンタ

デジタル化された電気信号から光の強弱、位置情報を再現し、紙等に二次元画像情報を復元する機器であり、画像の復元や書き込み光源にレーザやLED等の光源が使われ、定着用にはハロゲン等のヒータや蛍光ランプ、フラッシュランプが使われる。ゼログラフィ方式が多く使われ書き込み光源から分類すれば①レーザプリンタ②LEDプリンタ(蛍光ランプ)等がある。

2.2.3 光ディスク

円盤状の記録媒体に光を使って情報を記録したり、読み出したりする記録機器。記録や読み取り光源には半導体レーザが使われる。光ディスクの種類としては再生専用型、書換型(光磁気、相変化型)、追記型(金属型、色素型)等がある。光源への要求としては情報密度向上に対しては短波長化、高速化に対しては高出力化が望まれている。

(鈴木義一)

2.3 伝達機器

2.3.1 ファクシミリ

ファクシミリとはイメージ情報を遠隔地に伝送するものであり、送信側では、原稿の二次元情報を線または点に分解し読み取り、データ圧縮や変調等の信号処理をして電話回線を通して送出する。受信側では、電話回線を通して送られた信号を復調し送信側と同様に走査をしながら記録信号に変換し原稿情報を復元する。テレビジョンと似た方式であり、スキャナとプリンタに伝送装置を組み合わせた物とも言える。読み取り用の照明光源への要求もスキャナと基本的には同様である。

2.3.2 リモコン

屋内光空間伝送により家電製品等の制御を離れた場所から行うための装置で送信側の光源には赤外発光ダイオードが、受信側にはフォトダイオードが使われる。最近ではこの延長としてPC等でのデータ伝送にも応用が広がっており、今後光インターフェースが広範囲に使われる可能性を持つ。

2.3.3 光通信

光ファイバ伝送はその特徴を生かし、大量・遠距離・高速のデータ伝送を可能にすると同時に各種ノイズの影響を受けにくい信頼性の高い伝送手段として基幹の海底ケーブルから構内LANまで使われている。幹線系やアクセス系では、伝送路媒体としては遠距離では石英ガラスの1.25〜1.6µmの低損失帯を生かしIn-GaAsPレーザ(波長1.0〜1.7µm)が使われ、近距離用にはGa-Al-Asレーザ(波長0.72〜0.9µm)が使われている。これまでの直接強度変調を使った時間分割多重(TDM)方式での情報量や伝送距離の限界を超えるためにコヒーレント光通信が検討され、石英ガラスの1.25〜1.6µmの低損失帯での波長分割多重(WDM)方式による超大容量伝送や、中継距離増加のために直接変調、直接検波方式に対してヘテロダイン検波方式を使い感度を1̃2桁向上させ、中継距離を従来の約5倍の100Kmでの長距離伝送の期待がされている。このため単一周波数発信の分布帰還型(DFB)半導体レーザが期待されている。LAN等の極近距離ではプラスチック光ファイバ(POF)の性能が向上し、ツイストペアーや同軸線とコスト的に競合できるようになりつつある。光源のLDやLEDにはPOFの低損失波長(0.57µmおよび0.65µm)での信頼性向上が求められている?

(鈴木義一)

2.4 表示

2.4.1 液晶ディスプレイ

液晶デバイスの種類はSTN、TFT、カラー、白黒、反射型、透過型その他材料の違いなど各種あるが、液晶自身は小さなシャッタの集合体で非発光であり電卓等に使われる反射型液晶を除けば、バックライトが必要である。バックライトの方式は最近では導光板方式が主流となっている。12型程度までのパーソナルコンピュータ(PC)やビデオカメラをはじめとしたモバイル機器では機器の小型化、薄型化、軽量化の要求が強く、導光板も薄型化が進行している。この光源には細管の冷陰極水銀蛍光ランプが主に使われている。光源への要求は一層の小型化、高発光効率化、高輝度化であり、例えば細管冷陰極蛍光ランプでは外形がΦ2程度まで細管化が進んでおり、更に進行しつつある。

20型以上の大型分野に対して液晶ディスプレイの進出もはかられている。この場合もバックライトは導光板または直下型が使われ、光源には大光量、高輝度、高発光効率、長寿命が要求されている。2型以下の小型分野ではビデオカメラのEVF(電子ファインダ)やデジタルカメラのモニタには平面蛍光ランプが、携帯電話等の小型機器ではLEDが導光板とともに使われている。その他バックライトとしてELが使われることもある。

2.4.2 液晶プロジェクタ

液晶の小型で高精細が可能の特徴を生かして、大画面を達成するために、映写機のフィルムに相当する部分に液晶を置き、高輝度の光源を使い100型もの大画面に投影する。

最近、フロントプロジェクタではAV(ビデオ)用途以上に、PCのデータを大きく拡大投影しビジネスのプレゼンテーションに使うデータプロジェクタが盛況であり、従来の据え置き型以外にモバイル型の要求も強まっている。他方、外観的にはテレビジョンのような大型の液晶リアプロジェクタも市場に現れ始め、プラズマディスプレイやPALCD、液晶リアプロジェクションと各種の技術が大型画面市場の制覇を目指し賑やかになっている。使われている光源の種類はショートアークメタルハライドランプ、ショートアークキセノンランプ、ハロゲンランプ、超高圧水銀ランプが使われており、光源への要求としてはフロントプロジェクタのデータプロジェクタでは画面の高輝度化の要求が強く一層の光量が、モバイルでは小電力で高輝度、リアプロジェクタではモバイルでの要求に加えてCRT並の寿命が要求される。

(鈴木義一)

2.5 読み取り用原稿照明光源に要求される特性

読み取り用原稿照明光源(以下、読み取り用光源)としては表2-1に概要を示した通りハロゲンランプや各種蛍光ランプ(熱陰極蛍光ランプ、冷陰極蛍光ランプ、外部電極希ガス蛍光ランプ、セミホット蛍光ランプ)及び発光ダイオードが使われる。読み取り用光源への要求項目を以下に簡単に説明する。更に機器の機能と光源の機能との関係を表2-2に示す。

表2-2 読み取り機器の機能と光源の機能

(1)光量

読み取り用光源として、光量は装置の基本性能を大きく左右する重要な項目で光源を選択する場合の最優先項目である。現状の光源では、大光量が必要な場合はハロゲンランプ、中光量が必要な場合は水銀蛍光ランプ、比較的低光量では希ガス蛍光ランプ(キセノン)や細管水銀蛍光ランプ、省スペース低光量ではLEDが使われる。リニアイメージセンサであるCCD等の受光器の高感度化は進んでいるが、読み取り機能の高速化や高分解能化の要求により、一層の高出力化や高輝度化が求められている。

(2)配光分布

表2-3をもとに説明するとIでは原稿を均一に照明するが、IIでは光学系のcos4則(中央に比べて周辺が暗くなる)のために、中央の照度が低く周辺が明るい照度分布が必要になる。IIaでは光源に工夫をしたり、遮光板を使い、光学的シェーディング補正を行う。Ib、IIb等のデジタル読み取り系ではリニアイメージセンサの感度補正すなわち電気的シェーディング補正を行うことで、配光バラツキ及びセンサのバラツキを補正する。ここで重要なことは、配光やその強度、分光特性が時間の経過に伴い変化しないことである。各種の電気的補正が可能なデジタル系においても1主走査線の画像形成時の光量変動は補正不可能であり、また電気的シェーディング補正の実行タイミング間に配光特性や照度変化があると画像濃度の変動として現れ、複写機の場合では連続コピー時に始めと終わりの画面の濃い薄いや、1枚の中での濃淡が現れたりする。システムにもよるが少なくとも1副走査間の変動がないことが望ましい。

表2-3 光学系と読み取り方式

(3)分光分布

モノクロ読み取り系のほとんどの機器では、540nm付近にピークを持つ黄緑色蛍光体を使用した蛍光ランプが使われ、最近では一部の低速機に発光ダイオード(LED)も使われている。カラー機器ではハロゲンランプやR,G,Bそれぞれに相当する単色蛍光ランプ3本を順次点灯したり、RGBの各波長を持つ3波長型蛍光ランプが使われる。光源の注意点は、リニアイメージセンサとして多く使われるCCDの赤外感度対策として赤外放射を極力少なくすること、カラーフィルタを用いる場合はカラーフィルタの特性の合わせた分光出力が大切である。理想的には太陽光のように特定の輝線がなく連続的な分光スペクトルを持ち発光効率の良い光源が望まれる。分光特性も安定性が大切であるが、発光の原理的な特性であり一般的には極端な変動はない。ランプの種類ごとの要求としては、ハロゲンランプの青の増量、蛍光ランプでの青の劣化特性改善等である。

(4)フリッカ

フリッカ(光のチラツキ)が発生すると、画像品質に重大な影響を与える。

ハロゲンランプではフィラメントの熱慣性のために問題の発生は少ないが、放電ランプでは問題になりやすく各種の工夫がされる。

(5)発光効率(消費電力)

原稿や装置内の温度上昇、排熱ファンの騒音、熱処理コスト、電力消費、等から発熱は嫌われ、効率の良い電力消費量の少ない光源が求められる。たとえばデジタル複写機においては従来のアナログ系と同じゼログラフィプロセスを持ち、加えて画像処理信号回路やファックス機能やプリンタ機能、その他のデジタル機ならではの機能が付加され、それら全体では電力が増大傾向にあり、またアナログ複写機においてもドキュメントフィーダ等の急峻な変動負荷が付加される等により電力が問題になる。そこで光源にも消費電力の低減が求められる。現在、白黒の場合おおむね20~30枚/分以上ではハロゲンランプが使われ、以下では蛍光ランプが使われ、特に高速機ではより明るさを求められる光源を含めて電力消費が増大し、電力消費や発熱による各種の問題が発生しやすくなり、より発光効率のよい光源が望まれている。

(6)始動性(立ち上がり特性を含む)

電源投入から光が安定するまでの時間は、読み取り機能を持つ機器が使用可能となる時間を決定する重要な特性である。このためにハロゲンランプを使ったり、水銀蛍光ランプをヒータで予熱したり、希ガス蛍光ランプを使ったりする。水銀蛍光ランプにおいては大光量化、長寿命化に伴い点灯開始予熱条件、デューティ点灯中の再点灯条件等での要求が厳しくなりつつあり、光量変化を考慮して点灯電流は大電流化する傾向にある。このためインバータのコスト増加や信頼性の低下、光源システムとしての効率低下を招きやすい。立ち上がり特性がよい、希ガス蛍光ランプにおいてもその特徴を生かした上での一層の光量増加が期待されており、そのための努力がなされている。これらに伴い、放電管の始動電圧の上昇や、点灯回路の出力電圧の上昇は、コストアップや、危険性を増大させ、PL問題等も絡み始動電圧の低減も望まれる。

(7)寿命

複写機の設定寿命の約50~100万枚に対し原稿照明光源のうちハロゲンランプの現状の寿命は約1/2の20~40万枚程度で、保守サービスコストを押し上げており寿命の改善が望まれている。外部電極希ガス蛍光ランプは内部電極の消耗がなく寿命的にもメリットがあることから、その光量増大化により応用範囲の拡大が期待される。

(8)耐振性

スキャナやファクシミリでは問題になることは少ないが、複写機では問題になる。複写機の処理スピードは感光体に画像形成する時間が支配的であり、できるだけ高速スキャンされる。このためミラースキャン部には急激な加減速に伴う加速度が加わり、内蔵される光源には振動、衝撃が加わり寿命が短くなることがある。このためにハロゲンランプではフィラメントを内部の多数の箇所で支える構造(サポータと呼ばれる)の採用やフィラメントの線径を太くする対策がとられる。

(9)寸法・外観

情報機器の小型化や実装空間の減少のために、非発光部の減少や小型化が要求される。

熱陰極蛍光ランプの場合は、フィラメントを持つ電極構造から非発光部が長くなるので構造的な改善が望まれている。外部電極希ガス蛍光ランプは両端に電極がないので非発光部が少なくかつ全長が短くなるメリットがある。

(10)エコロジー

環境意識の高まりとともに機器の使用中も廃棄後も環境に対する影響を少しでも減らすことが望まれている。光源にもその要求は及び、希ガス蛍光ランプやハロゲンランプは廃棄後の環境への影響が少ない利点がある。

(鈴木義一)

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