光技術情報誌「ライトエッジ」No.11(1997年10月発行)
月間ディスプレイ '97 8月号
特集1:投射型LCDとそのバックライト
液晶プロジェクター用
直流点灯型メタルハライドランプ
DC Operating Metal-halide Lamp for LCD Projector
ウシオ電機株式会社 東 忠利※
Tadatoshi Higashi
1. はじめに
液晶プロジェクターは当初は美度プロジェクターとして商品化されたが、ノートブックパソコンの普及に従い、最近その画面拡大表示を目的としたデータプロジェクター用途を主目的とするプロジェクターが急速に伸びている。データプロジェクターでは画面の明るさへの要求と照度均一生が特に求められる。
一方、液晶プロジェクターに使われる光源にはメタルハライドランプの他にハロゲンランプ、キセノンランプ、超高圧水銀ランプなどがあるが、現在のところ高効率・高演色性で比較的安価なメタルハライドランプが標準的な光源として使用されている。
メタルハライドランプは金属ハロゲン化物と水銀と稀ガスを封入した高(蒸気)圧放電灯(=HIDランプ)である。点灯方法は数年雨までは矩形波交流電力による点灯だけであったが、長寿命で且つ点灯回路も安価になる直流電力に依る点灯方式のランプが筆者らに依って開発され1) 2)、急速に普及している(交流点灯はDIRECT CURRENTの頭文字をとってDC点灯とも言われ、またDCランプとも呼ぶ。DCランプに対し、交流点灯形のランプはACランプである)。
2. 液晶プロジェクター用メタルハライドランプの概要
2.1 プロジェクター用光源への要求事項
プロジェクター用光源が満たすべき条件は
- (1)点光源であること
- (2)演色性が良いこと(青、緑、赤の各成分が適当に発光されていること)
- (3)効率が高いこと
- (4)使用目的にあった寿命を持っていること
- (5)安価なことなどである。
これらの条件に対して現在のところショートアーク形のメタルハライドランプが総合的には一番優れていると考えられる。(安価さを優先すればハロゲンランプ、大出力性と光の品質を優先すればキセノンランプである)。
一般にメタルハライドランプは封入する金属ハロゲン化物によって種々の発光特性が得られ、用途に応じて違った発光物質が用いられている。液晶プロジェクター用ランプやOHP用ランプには演色性と効率が優れている稀土類ハロゲン化物が用いられている。
2.2 点灯回路について
HIDランプを電子回路(電子安定器)で点灯する場合、5-100kHz程度の高周波は音響的共鳴現象を起こすため使用できない。音響的共鳴現象を避けた HIDランプの電子回路点灯方法として直流点灯、矩形波(疑似矩形波を含む)交流点灯200k Hz以上の高周波による点灯の3方法が知られている。従来の普通のメタルハライドランプを直流で点灯すると発光にちらつきが発生するため使用できなかった。200k Hz以上の高周波は電子回路が高価になるため使いに くい。結局、従来は商用周波数の交流電力を一度直流に整流したあと矩形波交流とした電力が用いられていた。
直流電力による点灯ができれあ矩形波交流に切り替える前の直流電流によって点灯できるから回路が安価になる。点灯回路のコストからも直流点灯ができるランプの開発が望まれていた。
2.3 交流点灯型メタルハライドランプの特徴
交流点灯形ランプは初期スクリーン光束が10-20%高いことが長所であるが、発光管石英ガラスの内面に早期に白濁が発生し、スクリーン光束の減衰が早い欠点がある。白濁の発生は電力が大きいランプほど早く、またアーク長が短くなるほど早期に起こるようになる。ランプ寿命はランプ設計方針によって異なり、また々ランプでもプロジェクターの光学形によっても異なる。例えばアーク長5mmの150Wランプのスクリーン光束半減寿命を2000時間と仮定すると、アーク長を3mmにすると約1000時間になる。したがってアーク長3mmの250Wランプの寿命は約500時間程度になる。(白濁は稀土類原子と石英ガラスの反応によって微小な石英結晶クリストバライトが形成されるため発生するものであるが、詳しい発生機構にはここでは触れない。
2.4 直流点灯形メタルハライドランプの特徴
直流点灯形ランプは交流点灯形ランプの白濁の発生を抑制して長寿命化するために開発されたランプであり、最大の長所はスクリーン光束半減寿命が 3-5倍程度に長いことである。また電子安定器も小型・安価になる長所もある。直流点灯形ランプは交流点灯形ランプに比較して初期スクリーン照度が 10-20%低いこと、アーク中の色むらが大きくなることが短所であるが、後者の欠点は最近は照度の均一性を良くするためオプチカルインテグレータを使用するようになったため色の均質化がはかられ、問題にならなくなった。
3. 直流点灯形メタルハライドランプの諸特性
3.1 ランプの構造
ランプ単体の典型的な構造を図1に示す。交流点灯用のランプでは陽極を大きく、陰極を小さく設計する。さらに陰極側は管壁の温度が上がりにくいため保温膜を塗布する必要があるが陽極側は管壁温度が十分が上がるため保温膜を塗布する必要がない。従ってリフレクターに取り付けるとき普通は光の有効利用から陰極を解放側にし、陽極側をリフレクターに固定する。これはキセノンランプのような保温膜を必要としないランプの場合とは逆になる。
3.2 発光スペクトル
アーク長3mmの直流点灯形250Wランプの分光分布の例を図2に示す。波長436nm、546nm、578nmの強いスペクトル線は水銀原子の発光によるもの で、一般には単位アーク長当たりの電力が大きくなるほど連続スペクトルに対する水銀スペクトル線の強度比が大きくなる。連続スペクトル成分を発光させるための稀土類元素は赤成分を一番良く発光するディスプロシウムが用いられる。アーク長の長いランプでは(単位アーク長当たりの入力電力が低いランプ)ディスプロシウムとネオジウムが組み合わされて用いられたが、最近の短アーク長のランプでは水銀の546nmの緑色のスペクトル線が強くなったため緑色が強いネオジウムは封入されなくなってきた。代わりに青色を出すためにインジウム、ガドリニウムなどが封入される。特に直流点灯ランプでは蒸気圧の高いインジウムハロゲン化物は発光物質の偏りを抑制するためにも封入することが望ましく3)、またインジウムハロゲン化物自身の連続スペクトル発光も利用されている。
参考としてアーク長3mmの交流点灯形250Wランプの分光分布の例を図3に示す。
3.3 ランプ輝度分布
図4はアーク長3mmの直流点灯形250Wランプの相対輝度分布の測定例である。輝度等高線は陰極の全面の最大輝度値を100としたときの10%刻みの等高線である。
陰極全面の最大輝度は陽極全面の最大輝度よりも高く、陽光柱の輝度より2倍以上高い。しかしアーク軸に直角方向の輝度を積分したもの-即ち単位ア ーク長当たりの光度は陰極前面から陽光柱を通り陽極前面までほぼ一定であり、台形になる。図5はアーク軸に沿った輝度分布の例であり、図6はアーク軸に直角方向の輝度を積分したアーク軸に沿った光度分布の例である。
なお交流点灯では両電極前面の輝度はほぼ々であり、陽光柱中心部の輝度も若干高くなるため等高線が詰まった形になる。
4. ランプ定格
現在製品化されている直流点灯形ランプの代表的なものを表1に示す。中心品種はアーク長3mm近辺で125W、150W、250W、350Wの4品種であるが 各品種ともプロジェクターメーカーの要望を考慮して電力やアーク長を微調整したランプも生産されている。例えばプロジェクターの設計コンセプトに応じて150Wランプを155Wに、250Wランプを260W、270W、280Wなどに、350Wを400Wにそれぞれ入力変更したり、またアーク長3mmを2.8mm、2.5mmなどに短縮したランプなど生産されている。ここで注意を要することは入力電力やアーク長を変更すると、それに適合した点灯回路を開発する必要があり、コスト高になったり、開発期間が必要となることである。特に電力の増加とアーク長の短縮は共にランプ電流が増える方向であり、点灯回路のコストの増大要因になる。
またランプ単体の全光束は必ずしもスクリーン光束に比例しない。高輝度化を図るためにアークを収縮させるとスクリーン光束は増大するがランプ単体の全光束は低下する。
5. ランプ寿命
直流点灯形ランプのランプ寿命は交流点灯形ランプの寿命より3-5倍長い。しかしランプ寿命の絶対値は同種類のランプでも設計方針に依存し、一般に は明るくするほど短寿命になる。これは白熱電球の明るさと寿命の関係に似ている。製品の寿命を厳密に予想することは難しいが、明るさ重視するか寿命を重視するかで設計が異なり、寿命が違ってくる。現在は直流点灯形ランプの寿命設定は2000時間が標準になっている。
6. 終わりに
アーク長3mm以下への短縮を可能とした抗原技術が、液晶パネルの開口率の向上およびプリズム3色合成による投射レンズの高開口化とps分離合成など の光学技術と相まって光利用率の向上に結びつき、数年前にはランプ光束の利用率が1%程度であったものが現在は3-4%に達している。汎用プロジェクターのスクリーン光束の目標値として要望されていた500ルーメン以上の光束がSVGA液晶プロジェクターでも250Wランプにより達成できるようになった。今後一層のアーク長の短縮とランプの信頼性の向上と共にさらに光利用率も向上し、データプロジェクターおよびビデオプロジェクターが普及することを期待したい。