USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.11(1997年10月発行)

USHIO FORUM 第27回〜第31回

USHIO FORUM 第27回
新しいUVおよびVUVエキシマ光源の開発

光化学の分野で注目の"エキシマランプ"①

技術研究所応用開発部
松野 博光

なぜ、今、エキシマランプなのか

ここ数年、エキシマランプが注目されています。たとえば、この2年間に応用物理学会と電気学会ではエキシマランプに関するシンポジウムが開かれました。また、レーザー学会誌ではエキシマランプの特集号が発行され、電気学会誌や核融合学会誌でも総説論文が記載されています。まず初めに、そうした最近の傾向をお話します。

次に、ウシオが採用している誘電体バリア放電を励起源としたエキシマランプの原理と特徴的な特性について説明します。エキシマの励起源としては他に、マイクロ波無電極放電や希ガスを断熱膨張させてクラスター(注1参照)を作り、これを放電で励起する方式のものなどもありますが、このなかで、直径0.1mm程度のアーク柱が放電空間にまばらに発生し、しかもこれらが動き回るという、とても光源にはなりそうもない誘電体バリア放電を我々が選んだ理由を明らかにします。

さらに、このランプを使用した真空紫外エキシマ光照射装置とヘッドオン型ランプ装置の特性、これらの照射装置を使用した応用という順で話を進めていきます。

まずインコヒーレント光源(表1、注2参照)のお話をします。

この用途で一番大きいのは一般照明用で、全生産の50%以上を占めているでしょう。これは天井の蛍光ランプや野球場の照明などのいわゆる照明用です。それから、液晶のバックライトやファックスの読み取りなど、情報・表示用があります。光化学を利用したものでは、露光や光CVD、塗料を光で硬化させるキュア、殺菌、植物の育成などがあります。それからもう一つ、赤外線を利用した加熱があります。アークイメージ炉とかウエーハのアニールなどです。さらにその他では、集魚灯、誘蛾灯があげられます。

これらの中で、光化学以外では用途が固定されており、"どんな波長の光があればどのような作用があるか"がかなり良くわかっている分野で、しかもかなり古くから研究されているために、相当成熟した技術分野といえます。

一方、光化学の分野というのは、特に半導体の製造装置分野などでは新しい用途が次から次に生まれてきていて、新しい波長のいろんな光源が要求されているのです。

今までのインコヒーレント光源はどんなふうにして光を発生させていたか。

主な放射源としては、熱放射と放電です。熱放射を利用したランプとしては、ハロゲンランプや普通の白熱電球があります。放電を利用した発光は、原子スペクトル、分子スペクトル、あるいは再結合、制動照射を利用します。

原子スペクトルを利用したランプとしては、ナトリウムのD線を使った黄色いランプや、水銀の共鳴線である254nm と185nm を使った紫外線ランプなどがあります。その他、分析用の金属の共鳴線を使ったランプがあります。また、分子スペクトルを利用したものとしては、メタルハライドランプや重水素ランプがあります。

再結合とか制動放射を使った代表的なものはキセノンランプです。

蛍光ランプは、水銀蒸気中の低圧放電で水銀の共鳴線である254nmと185nm を発生させ、蛍光体のフォトルミネサンスを利用してこれを可視光に変換するランプです。

熱放射、放電以外を発光源とした光源としては、電界発光を利用したEL、LED、さらに化学発光があります。このなかには生物発光も含まれます。

以上、述べましたいろいろな発光源のなかで、紫外線を効率よく発光発生できるのは放電だけです。しかし、原子とか分子とか、あるいは再結合にしろ制動放射にしろ、理論的にどんなところにどんな波長の光が出るかということは、既にはっきりとわかっていますし、どういう条件で一番効率が良くなるかということもかなりわかっています。したがって、こういうものを使って新しいランプを開発するということは非常に困難となっています。それで今までほとんど利用されていなかったエキシマ発光が改めて注目され、そのランプが検討され始めてきたわけです。

誘電体バリア放電を励起源としたエキシマランプの特長を表2に示します。第1の特長は、従来の放電ランプでは得られない波長の光、特に紫外および真空紫外領域の光が得られることです。第2の特長は、単一波長が得られること、すなわち、エキシマ光以外の発光が無いことです。第3には、効率が10%程度と高いことです。この効率は放電プラズマからの光の取り出し効率も含んでいて、放電エネルギーの光への変換効率は50%程度あるという報告もあります。

今述べました3つの特長だけでも、誘電体バリア放電エキシマランプは十分に有用なランプですが、さらに次のような特長があります。第4の特長は、瞬時点灯ができることです。このことによって、点滅点灯が可能になります。しかもこのランプの場合、点滅点灯によって寿命が短くなることは全くありません。これも特長のひとつです。第5の特長は、1つの電源で多数本のランプを並列点灯できることです。このことから、複数本のランプを並べた大面積の平面光源を実現することが出来ました。詳しくは、あとで説明します。第6の特長は、光出力の最大瞬時値が平均値の5倍以下程度であることです。エキシマレーザにおいてはこの値が100 万倍程度であることと比較すると、エキシマランプの光出力の時間的な変動は非常に小さいことがわかります。この利点についは、あとのランプの応用の項で説明します。

さらに、用途に応じて、ランプの形状や光の取り出し方を自由に変えることができること、放電空間に金属電極を持たないために放電用ガスに腐食性のガスを使用できることなどの特長があります。

技術研究所応用開発部
松野 博光
Hiromitsu Matsuno


USHIO FORUM 第28回
新しいUVおよびVUVエキシマ光源の開発

誘電体バリア放電の原理と利点②

技術研究所応用開発部
松野 博光

90年代に急進した「エキシマランプ」の研究

誘電体バリア放電を利用したエキシマランプで希ガスのエキシマ光が出ることは、1955年には知られていました。ただし、ランプの構造に関する記述はほとんどなく、「エキシマ光」という単語も記載されておらず、分光スペクトル写真からエキシマ光が発生しているのがわかる程度でした。1983 年になって、Ar、Kr、Xe の希ガスエキシマのスペクトルを実際に測定し、誘電体バリア放電によるエキシマ光の発生が示されました。こうした背景のもと、1990 年ごろから真空紫外光の用途が出てきて、ヨーロッパではかなり精力的にエキシマランプの研究が行われました。ウシオは1993 年から、エキシマランプの実用化を目指して開発を行ってきています。

また、誘電体バリア放電は、オゾンを生成するためえの放電として非常に古くから知られていて、現在も浄水処理用に数百キロワット規模の放電設備が稼働中です。そこから「オゾナイザ」放電と呼ばれたり、あるいは、放電時にほとんど音がしないので「無声」放電とも言われています。

「誘電体バリア放電」なら、多様なエキシマランプが可能に

図1に、誘電体バリア放電の原理を示します。2枚の石英ガラス板で放電空間が作られています。この石英ガラス板は放電容器の壁であるとともに、誘電体バリア放電の「誘電体」を兼ねています。この誘電体の外表面に電極を設けるわけですが、ウシオのランプでは、光を取り出すために一方の電極を金属網にしています。

電極に電圧が印加され、徐々に上がっていくとします。この電圧が、放電空間の放電破壊電圧に達すると放電が起こります。ただし、放電が発生すると2つの誘電体にチャージアップが起こるので、放電空間無いの放電維持電圧以下に電圧が下がり、放電が消えてしまいます。つまり、放電路に直列に誘電体が入っているために放電の時間的な進展が、あるところで妨げられてしまうことになります。

さらに、放電体が放電空間に接して入っているので、放電プラズマが連続的に放電空間に拡がることは不可能で、局所的にしか発生することができません。その結果、放電空間に多数個の放電プラズマが発生します。通常の放電ですと、放電空間の1点で発生した放電プラズマは放電空間全体に拡がるか、その1点の中に集中します。つまり、金属電極間で放電すると放電プラズマはたった1個しか存在できません。

要するに、放電路に直列に誘電体を挿入したことにより、数十ns 程度で消えてしまう直径0.1mm 程度の放電プラズマが、放電空間に多数発生することになります。

こういう誘電体バリア放電が、なぜエキシマを作るのにいいか。

まずエキシマを高効率に発生させる条件として、ある程度ガス圧が高くなければならず、数百torr 以上必要です。三体衝突がかなり重要な役割をしている場合が多いので、こういう条件になります。それから、電子エネルギーの条件としては、放電空間の電界強度をガス圧で割ったもの(=E/P)が、30~60V/cm/kPaくらい必要です。さらに、できたエキシマが熱的に分解しないようにするために、ガス温度は低いほうがいいのです。これらの条件を満たしている放電を考えてみます。

通常の、放電空間に電極が入っているような状態だと、連続的に放電するとアークが収縮してしまいます。そうすると、E/Pが小さくなり、ガス温度も高くなってしまうので、通常の連続放電は高効率化はまず無理です。

一方、パルス放電は、ある条件をうまく見つけられれば、大面積で均一に放電できて、E/Pをある程度高くできるし、ガス温度も低くすることが可能です。ただし、このE/Pをある任意の値に選ぶことが結構大変です。また、放電空間に電極がある場合には、ガスによる腐食作用で電極の腐食という問題が起こってきます。

ところが、誘電体バリア放電だと、①ガス圧が高くても、大面積で巨視的には均一な放電ができる ②ガスの圧力と放電ギャップの距離を選べば、かなり自由に、簡単にE/Pを最適化できる ③放電が数十ns で自動的に消えてしまい、かつ、空間的にまばらに発生するのでガス温度を低く設定できる、というわけで、容易に高効率が得られます。それから、ランプ(放電管)の形状がかなり自由に選べます。このことを我々が開発した誘電体バリア放電を利用したエキシマランプを例に説明しましょう。

図2は我々が商品化し、最も多く使用しているランプです。太い石英ガラス管の中に細い石英ガラス管を同軸に配置し、両端を閉じて環状の放電空間を形成します。外側管には金属網の電極を、内側管には光販社板を金田金属箔電極を設け、半径方向に放電を行います。放電の携帯は従来のランプと非常に異なっていますが、配光は従来の管型ランプと同等です。

図3のランプは、ランプの一端に光取り出し窓を設けて、ランプの軸方向に光を取り出す方式で、外側電極も金属電極にしてあります。この方式だと、光取り出し方向のプラズマ厚みを厚くできるので、高輝度のランプが実現できます。これは、エキシマ光の自己吸収が非常に小さいことを利用して実現したもので、原子のスペクトル線を利用するようなランプでは不可能なことです。 今まで述べてきた誘電体バリア放電エキシマランプは円筒状ですが、平板状の誘電体を使用すれば平面状のランプも可能です。

このように、誘電体バリア放電を利用したエキシマランプは、光利用の目的・方式に応じて、放電管の形状、光の取り出し方をかなり自由に変えることができます。

写真は、誘電体バリア放電の放電の様子を示す一例です。放電管の外径は25mm、放電用ガスはKrCl で約20Wで放電させています。放電管の外径が25mm ですから、放電プラズマはかなりまばらに発生していることがわかります。実際には、この放電プラズマが、円周方向、管軸方向に、ランダムに動き回るわけです。

技術研究所応用開発部
松野 博光
Hiromitsu Matsuno


USHIO FORUM 第29回
新しいUVおよびVUVエキシマ光源の開発

光化学反応に有効な、効率のよい単色光を出すエキシマランプ③

技術研究所応用開発部
松野 博光

Xeの誘電体バリア放電エキシマランプに見る、エキシマランプの特性

表は、実際に放電を励起源としてエキシマ光を発光させた例で、Ar2*の126nmから可視光まで、かなり広い範囲で実験されています。私たちが実用化しているのは下線の部分で、Ar、Kr、Xe、KrCl、XeClの5種類ですが、今回は、主にXeの誘電体バリア放電エキシマランプ(以下、エキシマランプと略す)についてお話します。

図1は、Xeを放電用ガスに使ったエキシマランプの分光分布で、中心波長が172nmのスペクトルが出てきます。短波長側の端が少しカットされて非対称になっているのは、使っている放電容器(石英ガラス)の吸収端が引っかかっているためで、この状態で半値全幅が14nmです。『Xeのエキシマ光が出る以外、他の光は何も出てこない』ところから“単色光的”と言われていますが、これをもう少し定量的に示したものが図2です。

172nmを1000にして、縦軸をlogスケルでとります。そうすると、可視光のところが1/1000以下になります。この分光分布をインコヒーレント光源を扱っている人たちに見せると、ものすごくびっくりします。従来の放電ランプではどんなに頑張っても、利用しようとするある波長の光に対して、1/10以上の強度のスペクトルが付近にダーッと並ぶからです。純度の高い単色光が得られるところが、エキシマランプの非常に面白い特長です。

しかも、エキシマランプには、入力電力によってエキシマ光出力は変化しても、スペクトルの形は変わらないという特長があります。通常の放電ランプでは、入力電力を変えるとスペクトルの分布まで変わってしまいます。すなわち、エキシマランプは電力を変えることで、スペクトルの形を変えることなく、光の出力を変えられるというメリットがあります。

さらに従来のランプと比較してみましょう。

私たちが特に興味を持っているのは真空紫外ですが、従来、真空紫外の光源というと、ほとんど重水素ランプに限られていました。30Wの重水素ランプと20WのAr、Kr、Xeのエキシマランプの光出力を相対的に比較したものが図3です。重水素ランプがかなり広い範囲にわたって光が出るのに対して、エキシマランプではわりと局所的に出ています。重水素ランプとの強度を比較しますと、Arの126nmにおいて4倍、Krの146nmで6.7倍、Xeで13倍くらいの強度が出ており、従来よりもはるかに効率よく、しかも単色光が得られていることがわかります。

図4はXe2*エキシマランプの、光出力の時間的な変化を示しています。駆動している電源電圧波形は正弦波状で、だいたい20KHzぐらいです。電源電圧の半周期ごとにほとんど発光がない期間が生じていますが、これは誘電体バリア放電を励起源としたエキシマランプの一つの特長です。

また、光出力のピーク値と平均値の比は、この場合は3.7です。点灯条件をかなり広く変えても10以上にはなりません。ところが、エキシマレーザの場合には、この比は100万倍以上になります。エキシマレーザと比較した場合、光の平均出力が大きいのにもかかわらず、ピーク値が小さいことも特長の一つになります。

前月号で説明しましたように、誘電体バリア放電では、多数の微少な放電柱が発生と消滅を繰り返し、しかも発生場所も変化するため、マクロには多数の放電柱が動き回っているように見えます。従って、光出力の時間的な変動の割合は、一般の放電ランプよりも大きいと予想されます。

KrCl*エキシマランプの光出力の変動率を表したのが図5です。横軸はランプの表面からの距離で、縦軸は0.1 秒の積分時間で光を取り込み、それを250回繰り返して、その標準偏差を平均値で割った値です。受光器の径が10mmの値を三角の印で、1mmの値を八角形の印で表しています。この結果から0.1秒の積分時間を取れば、光出力の変動特性は平均化されて1%以下になることがわかります。

ですから、分光分析などの特に安定性を重要視する用途には難しいですが、光化学反応のように大きな面積に数十秒とか数秒程度照射して使うという場合には、この程度の変動はまず問題にならないと考えています。

それから、光源を利用する場合の大事な特性の一つに、配光分布があります。図6にXe2*エキシマランプの配光分布を示します。

完全拡散型の蛍光ランプだと真円になりますが、エキシマランプの場合は斜め方向の光が結構大きくなっています。エキシマ光は自己吸収が無いために、光の出力方向のプラズマが厚くなると光が強くなり、こういう分布が得られるのです。

技術研究所応用開発部
松野 博光
Hiromitsu Matsuno


USHIO FORUM 第30回
新しいUVおよびVUVエキシマ光源の開発

真空紫外光を放つ、誘電体バリア放電の大面積平面光源④

技術研究所応用開発部
菱沼 宣是

エキシマランプだから作れた並列点灯の平面光源

ウシオでは、筒型のキセノンエキシマランプ(発光中心波長172nm)を使って大面積の真空紫外平面光源を開発しました。この光源はエキシマランプの特長のひとつ、『1つの電源で複数個のランプを並列に点灯できる』という性質を利用したものです。

通常の放電ランプは、放電電流を増すとランプ電圧が下がる負特性をもっていて、これを補うために安定化回路(抵抗、インピーダンス等)をもった電源が必要です。この電源を使えば安定した放電が可能ですが、並列点灯はできません。2本同時に並列点灯しようとしても、片方のランプに電流が集中していしまうからです。

では、エキシマランプだとなぜ並列点灯できるのでしょうか?

エキシマランプの放電を模式的に描くと図1:左のようになります。

各放電柱は独立しています。放電柱を分割して図1:右のように描いても同じことで、これはエキシマランプを並列に点灯している状態に相当します。実際に、太いランプや細いランプなど、いろんなランプを一つの電源で並列点灯することができます。

この性質を利よした平面光源の構造図を図2に、作り方を簡単に説明します。

  • ① 4本のランプを並列になれべて1個の電源につなぎます。電源はエキシマランプ専用に開発したもので、高周波、高電圧を発生します。
  • ② 冷却ブロック(冷却水で水冷)をランプ背面に配置します。ランプの発熱を抑え、効率の低下を防ぐ役目をします。
  • ③ でてくる光が均一になるように、各ランプの間には反射板(ミラー)を設けます。ミラーの硬化で、窓面の照度をプラスマイナス10%にできます。
  • ④ ランプ全体を囲い外気と隔離し、ランプ室を窒素でパージします。真空紫外光(200mm 以下の光)は空気中の酸素で吸収されて、遠くへ届きません。特に172nmの光の場合、約7mmで1/10の強度に減衰してしまいます。窒素に対する吸収は小さく実用上問題になりません。
  • ⑤ 最後に光を取り出す石英ガラスの窓を設けます。窓ガラスは合成石英ガラスと呼ばれる純度の高い特殊な石英で、172nmの光を効率良く透過します。これで平面光源が完成します。

半導体や液晶の製造工程で、大面積・光速・低温処理を可能に

図3は、8インチ(約200mm)のシリコンウエーハの処理用に開発した230nm×230mmの窓をもつ平面光源です。172nmタイプ、50Wのエキシマランプを4本使用し、窓面の放射発散度は最大17mW/cm2で、窓面200mm×200mmの範囲のバラツキはプラスマイナス10%以下です。この光源は、発光長172nm、総出力=(窓面積)×(放射発散度)=9Wの真空紫外平面光源と呼ぶことができます。

平面光源としての発光効率は次のように算出できます。平面光源としての発光効率(%)=8W/(50W×4本)×100=4.5%となります。

今まで、250nm以下の単一波長の光を利用した実験を行おうとするとエキシマレーザ(例.ArFエキシマレーザ:193nm)しかありませんでしたが、1千万円以上と高価です。しかも、大型でランニングコストもかかる装置で、簡単に購入するわけにはいきません。もし、レーザのコヒーレンシー、高いビーム密度を必要とせず、フォトンのエネルギーだけを問題にするのであれば、エキシマランプで十分です。

写真1は20Wのエキシマランプ1本を組み込み、100mm×100mmの照射窓をもつ平面光源を真空チャンバとセットにした実験装置です。真空チャンバにはガスの出入口があり、処理雰囲気を変えて実験できるようになっています。小型で値段も安く、取扱いも非常に簡単で、大学、官公庁の研究期間、企業の研究所などで、光CVDなどの実験に使用されています。

さらに大型化し、液晶基盤の処理用として開発した光源が写真2です。窓の大きさは580mm×680mmで、現在量産されえている最大の液晶基盤550mm×650mm(通称:ゴーゴーロクゴー)を一括して処理できます。従来の処理装置の185nmの紫外光を出す低圧水銀ランプに比べ、172nmのエキシマランプは、フォトンのエネルギーが高いため処理速度が速くなります。さらに、ランプの温度が低く、低温処理が可能という特長を持っています。

現在、液晶用基盤はさらに大サイズ化の動きがあり、1m×1mの話も出ていますが、エキシマランプの平面光源はこの動きに十分対応可能です。半導体業界、液晶業界で幅広く使用される日が、近い将来必ず来るものと期待しています。

技術研究所応用開発部
菱沼宣是
Nobuyuki Hishinuma


USHIO FORUM 第31回
新しいUVおよびVUVエキシマ光源の開発

キセノンエキシマランプが拓く、真空紫外光の新たな産業利用⑤(最終回)

技術研究所応用開発部
磯 慎一

真空紫外光源の種類と特徴

前回に引き続き、キセノンエキシマランプ(発光中心波長172nm)を使った真空紫外光(VUV)の産業利用についてお話しします。

このVUVは地球表面には全く届かない光です。それは、太陽からのVUV を大気中の酸素が吸収してしまうからです。これによりオゾン層が形成されます。このように、VUV(200nm以下の紫外光)は、酸素での吸収が大きく、『酸素(O2)に吸収されて酸化力の強いオゾン(O3)を生成する光』といえます。また、『1個当たりのフォトン(光子)のエネルギーが大きい』ことも特長です。この2つの特長が、VUV の産業への利用に大きく寄与するわけです。

既存のVUV光源には低圧水銀ランプ、ArFエキシマレーザ、重水素ランプなどがあります。中でも、低圧水銀ランプは波長が長い(フォトンエネルギーが小さい)254nmの発光効率が大きく、殺菌効率が高いという利点から、液体や物質表面の殺菌など広く産業に利用されてきました。しかし、ランプが管状のため、平面状鋸右舷にすると照度ムラが問題になる、発熱が大きいなどの欠点があります。重水素ランプは小型のものがほとんどで、エネルギー密度が低いため、測定機器用の光源や実験用に用いられてきました。ArFエキシマレーザはコヒーレントな点光源でエネルギー密度が高く、次々世代のステッパー用の光源として注目を集めていますが、非常に高価なのが欠点です。

光とオゾンで、高速かつ効率よく洗浄

光(VUV)と酸素から生成されるオゾン(O3)の強い酸化力によって精密洗浄を行う方法を、『VUV/O3 洗浄(光洗浄)』といいます。洗浄の原理(図1参照)は、①フォトンエネルギーの高いVUVで、汚れの主成分(有機物)の結合を切り、汚れの結合が切れやすく(壊れやすく)なった状態にする ②この状態にさらにオゾンや活性酸素種が作用して、有機物を酸化し、二酸化炭素や水にして揮発させて洗浄する、というものです。

この洗浄方法は微少な有機物の汚れ(例えば、中性洗剤の界面活性剤の残りカス、クリーンルームの浮遊物など)に対しては、湿式洗浄よりも有効です。しかも、フロンを用いた洗浄が法的規制を受け手いるなかで、特別な化学物質を用いないVUV/O3洗浄が注目されています。従来、VUV/O3洗浄用の光源は、低圧水銀ランプでした。しかし、①点滅点灯が困難なため、シャッター機構を設けて光のON-OFFを制御しなければならない ②発熱が大きく、冷却が必要になる場合がある ③タクトタイム(ラインでの処理時間)が長い、等の欠点がありました。

一方、キセノンランプ(発光中心波長172nm)は、①点滅点灯が可能 ②発熱量が少なく、冷却が不要 ③タクトタイムが短い、等の特長があります。また、キセノンエキシマらんぷではO3よりも酸化力の強い“O(1D)(シングレットのD)”が直接生成できますが、低圧水銀ランプでは間接的にしか生成できません。このため、キセノンエキシマランプは、より多くの“O(1D)”を生成できます。以上の点から、キセノンエキシマランプの方が効率よく、より高速な洗浄ができるのです。

実際に液晶基盤用の無アルカリガラスの洗浄例を図2に示します。横軸にキセノンエキシマランプの照射時間、縦軸に洗浄度合いの評価方法である水の接触角をとっています。接触角の小さい方が洗浄度合いが高いことを表します。お客様の要求仕様である「接触角が10度に達するまでの所用時間」を見ると、キセノンエキシマランプでは約18秒間で到達しています。高出力型の低圧水銀ランプでは140秒間程度かかっていますから、約7.7倍の洗浄速度が得られています。実際の低圧水銀ランプでは洗浄後に冷却工程が必要な場合があり、この場合には処理時間はもっと長くなります。実際に洗浄したガラス基盤に、配向膜(液晶の方向をそろえる膜)の材料のポリイミドを塗布すると、濡れ性が向上してポリイミドが濡れ、ピンホール(微少な穴)が無くなり、歩留まりが向上するといわれています。

図3はTFT-LCD(薄膜トランジスタ型の液晶ディスプレイ)の製造工程をまとめたものですが、洗浄の占める割合は20~30%です。現在の最新鋭の液晶製造工場ではタクトタイムの短縮が課題の一つなので、洗浄速度の速いキセノンエキシマランプを搭載した装置の活躍が予想されます。

VUVの新しい利用法で、産業界に貢献を

現在稼働中のキセノンエキシマランプを搭載した照射装置に、半導体製造工程におけるSOG(層間絶縁膜)の塗布の前処理用のものがあります。ここでは、ランプから放射されるVUVによって、SOGの濡れ性が改善されて均質な膜が形成されます。また、半導体を製造する際にフィルムの役目をする“フォトマスク(原版)”は光が透過するので、両面を洗浄する必要があります。この洗浄用にも利用されています。電子部品の製造工程では、ITO(透明導電膜)の濡れ性の改善やポリイミドの表面改質(図4)などで利用されつつあります。今後、我々は付加価値の高いエキシマランプの産業上の利用法を開発し、社会に貢献することを目指しています。

(おわり)

技術研究所応用開発部
磯 慎一
Shinichi Iso
監修:松野博光(技術研究所)

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