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光技術情報誌「ライトエッジ」No.11(1997年10月発行)

大学研究室を訪ねて Campus Lab⑤

光で光を自由に制御する非線形光学

室蘭工業大学材料物性工学科
非線形光学研究室(藤原裕文 教授)

今回は、我国で数少ない国立工学系単科大学として居られる室蘭工業大学の材料物性工学科・非線形光学研究室の藤原裕文教授を訪問しました。

室蘭工業大学は、昭和24年に創立され、平成2年度に工学部6学科と、大学院博士前期課程6専攻に改めると同時に、新たに大学院博士後期課程3専攻を設置するなど、大幅な改組再編が行われました。

同大学は、高度情報化社会を先取りした"情報処理教育センター"を設置し、極低レベル放射能測定装置などの大型研究設備を導入し、高度な研究・教育を実施しています。また、企業等との共同研究や技術者・研究者の養成を目的とした"地域共同研究開発センター"も特色のひとつで、民間機関から招かれた客員教授によるプロジェクト研究、大学と民間との共同研究、受託研究などが積極的に推進されています。

時代が求める光材料のプロフェッショナルをめざして

有機非線形光学の研究で活躍しておられる藤原先生が受け持つ非線形光学研究室は、同科の光光学研究室(中川一夫教授)と連動し合い、光と材料のかかわりを、有機材料を中心にした共同研究に取り組んでいます。藤原先生の非線形光学研究室と中川先生の光光学研究室に学ぶ学生たちは、まず光学と光と材料の基礎をゼミナール形式で勉強して、有機色素材料の光記録、光非線形性の生じる原因やその特性、新しい応用などの中から、各自の研究テーマを選び、恵まれた研究環境の中で、新しい時代を担う光材料の研究者および技術者をめざしています。社会に出た後も、一人ひとりが自立していける実践的研究や教育の配慮がうかがわれます。

■ 非線形光学研究室と光光学研究室の学生の皆さん。(前列中央の左:藤原先生、右:中川先生)

◆非線形工学研究室 97年度メンバー

有機色素と高分子の結合で、新しい光制御技術が誕生

高品質画像など大容量のデータ処理をめざし、今、光の特長である高速性や並列性を利用した光記録、光情報処理、光ディスプレイが脚光を浴びています。その社会的ニーズに応えるには、光情報の記録・読出・制御などの技術の開発とともに、様々な機能をもつ光材料の探索が急務となっています。

非線形光学と光工学の両研究室は、有機色素と高分子の組み合わせに着目し、新しい光機能材料の探索や、光による光制御技術の開発などを行っています。有機色素を分散あるいは化学結合した高分子膜は、色素の種類の豊富さや多様な光非線形性の発現機構など、光学素材として多くの利点を備えていて大変期待されています。藤原先生の非線形光学研究室は、光で物質の吸収係数や屈折率などの状態を変化させる光非線形性の発現機構の解明や、光による光の制御を利用した2次元画像の和・差・相関・時間微分など、光情報処理の研究を行っています。

また一方、中川先生の光工学研究室では、光と色素との相互作用を調べて、それぞれの有機色素の特徴を生かした新しい機能をもつ光学素子を開発しています。種々の高分子と有機色素の組み合わせによる色素含有高分子膜を試料として、有機色素分子の電子遷移による飽和吸収や、トランスーシス光異性化による光誘起異方性に着目し、これらの現象を起源とする位相共役、ホログラム、光記録などの光機能に関する研究を行っています。

光位相共役を利用した光情報処理

ある光波が歪んだ媒質を通過しても、それを逆進させると歪みが自動的に補正された光波になる現象を光位相共役といいます。色素を高分子に分散あるいは結合させた膜では、このような特異な光波を発生させることができます。藤原先生は、2種類の色素を含む高分子膜を用いて2種類の平行あるいは直交偏光した位相共役光を発生させ、両方の光に2次元物体(又は画像)情報を乗せて干渉を行わせることにより、2次元画像情報を実時間での制御・演算・処理を目的としして研究を行っています。

2種類の色素を使うことによって、材料の選択により位相共役の特性に変化を持たせることができるという観点から、主に3種類の起源の異なる光非線形(飽和吸収、光褪色、光異性化)に着目して研究を行っています。信号を乗せるプロープ光と2つのポンプ光の偏光方向が、直交である場合を直交偏光配置、平行である場合を平行偏光配置と呼ぶことにします。いずれの偏光配置においても位相共役光の偏光方向は信号光のそれに一致しますが、どちらの偏光配置が位相共役光を強く発生するかは、色素の種類、光非線形性の起源、ポンプ光強度などに依存することが明らかになりました。光異性化を示す色素では直交偏光配置のほうが、また飽和吸収を示す色素では平行偏光配置のほうが位相共役光を強く発生します。光照射により褪色する色素がありますので、この性質を利用すればホログラム記録が可能となります。

■ 弊社社員に研究内容を説明する藤原先生

光学位相素子の作製

光異性化を示すシアノアゾベンゼンを側鎖の持つポリエステル膜では、乎行・直行いずれの偏光配置においても位相共役光の発光効率はぽぼ等しいために、偏光を保存できるような位相共役光を発生させることができることが明らかになりました。また、ホログラム記録が可能な高分子膜も見いだしました。これらは島根大学の有機合成を専門とされている佐藤守之先生との共同研究です。中川先生はこの色素膜では光記録ができることと特異な偏光特性を発現することに注目して、薄膜の偏光素子を作製できることを明らかにされました。直線偏光したアルゴンレーザー光を照射することにより、赤色光において動作する4分の1 波長板や2分の1波長板を作って、その評価をおこなっています。

上記実験は、Ar イオンレーザー、Kr イオンレーザー、色素レーザーなど豊富なレーザー装置を駆使し、精力的に研究されており、最近ではパルス発振YAG レーザーを非線形光学結晶で倍波し、OPOで可変波長のパルス光を用いての実験も準備されています

上記の研究から、将来は2色素混合膜はホログラフィ干渉法に競合するような技術に発展し、またポリエステル色素膜は各種の偏光素子や偏光保存のホログラフィなどに応用されることが期待されています。

■ さまざまなレーザー装置が設置された研究室にて

プロフィール

藤原裕文 (ふじわら ひろふみ)
室蘭工業大学 工学部材料物性工学科
物理工学講座非線形光学研究室教授
工学博士

<略歴>
1939年 山口県生まれ
1963年 東京教育大学理学部物理学科卒業
1963年~1966年 岩崎電気(株)
1966年 北海道大学工学部応用物理学科助手、講師、助教授
1981年 室蘭工業大学工学部応用物性学科助教授、教授
1990年 改組により材料物性工学科に所属現在に至る
1963年~1980年 光のコヒーレンスとホログラフィ
1981年 有機材料を用いた非線形光学とその情報光学や光計測への応用
1973年 光学論文賞応用物理学会日本光学会
《お問い合わせ先》
室蘭工業大学
工学部材料物性工学科 非線形光学研究室
〒050 室蘭市水元町27-1
TEL&FAX 0143-47-3436
E-mail : fujiwara@waspet. cc.muroran-it.ac.jp
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