USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.12(1998年2月発行)

■ラドテック研究会創立10周年記念第55回講演会

(平成9年9月24日)

産業界でのUV光源とその将来展望

ウシオ電機株式会社
平本 立躬

1.はじめに

紫外線硬化法が実用に供されて約30年の年月が経過したが、その間材料、光源の開発はめざましいものがあった。その結果新しい用途が次々と開発され、そこからまた新しい要求が材料、光源側になされてきた。本題はまずこの30年の光硬化用光源の変遷を振り返る。そして現状の光源をまとめた後、今後の展望を行う。

2.光源の変遷

初期の光源としては低圧水銀ランプや電気入力密度(=ランプの消費電力/一対の電極間の距離,電極間距離を発光長,アーク長ともいう)が数十W/㎝と低い中圧(0.5~10気圧の動作圧力)水銀ランプが使用されていた。これらのランプは放射強度が弱く、光硬化反応の酸素阻害反応が相対的に著しかった。そのため窒素などの不活性ガス雰囲気で被硬化面をおおっていた。しかし入力密度の比較的高い中圧水銀ランプが採用され、この問題は事実上解決した。しかし当時は印刷機は全て従来型のインクのために設計・製作されていたので、紫外線硬化用の灯具を設置するスペースが狭かった。高入力(160W/㎝)タイプの中圧水銀ランプ(市場に出た当時は主流は80W/㎝)はこのスペースの狭さと高放射効率(ランプ消費電力に対して硬化に必要な波長域の放射エネルギーの比)を狙って1973年に開発された。当然のことながらピーク放射照度も高くなり、従来の灯具3台が2台あるいは1台ですむようになり、取付の自由度は大いに高まった。この高入力密度化の実現で一番の問題はランプの冷却であった。水平にランプを設置し、点灯すると高温の封入ガスの自然対流のためランプの上面と下面に大きな温度差を生ずる。ランプのバルブは石英ガラスでできており、耐熱性を考えると850°C程度が高温限界である。一方水銀が完全に蒸発するためには600°C以上が望ましい。上下の温度差はランプの種々の耐久性を左右する要因を考えると150°C程度以下にすることが望ましい。この問題は水平円柱の外表面に発熱分布のある熱伝達/流体力学の式をランプとミラーを含む境界条件のもとで解くことによって解決出来た。1980年代に入ると更に一層の放射強度の増加が要請され、照明業界で既に実用化されていたメタルハライドを封入した紫外線ランプが使用されだした。これによって200-400nm波長域の放射効率は中圧水銀ランプで30-35%から40-45%へ向上した。一方この間①一層の電力密度の向上、②バルブの直径を細くし、ミラーで集光し、放射強度のピーク値を高める③冷温ランプの開発などが行われ今日に到っている。現在商品化されている高入力密度ランプはメタルハライドランプで実現されている。バルブ外径は従来からの標準の25mmと細管化した18mmの二種あり、入力密度は何れも280W/㎝である。外径が32mmと太いバルブでは320W/㎝というのもある。スペクトル分布の一例を図1に示す。また冷温ランプの一つはフラッシュランプである。被硬化材の基体が耐熱性の低いプラスチックなどの場合に使用される。そのスペクトル分布の一例を図2に示す。現在光造形、画像露光などの用途も含めて光硬化・表面処理に使用されているエネルギー源の大系を図3に示す。表1にはこのうち放電ランプの形態と励起方法の関連を示す。

3.今後の光硬化,光表面処理光源の展望

光硬化、光表面処理の用途開発は急速に進んでいる。光源としてもその要請に応えなければならない。方向としては従来たどってきた前出の①高入力密度化②細管化③冷温光源と④目的に応じた波長域の放射の増強化⑤波長域の拡大(特に短波長域へ)などであろう。以下この順に説明する。①高入力密度化は如何にランプ上面温度を下げ、下面温度は過冷却させない冷却法を設計するかにかかっている。流体力学と熱伝達の知識を駆使すれば600W/㎝も夢ではない。全く違う発想は1940年代にWeizelが試みたランプ回転方式であろう。最近、実験的に作製した回転ランプ実験で直径8㎜の細管中圧水銀ランプでも160W/㎝以上の高入力密度が実用化出来ることを実証している。②細管化は①の高入力密度化と二律背反の関係にある。他の用途では単に直径を小さくするだけなら液晶バックライト用ランプでは外径2㎜まで小さくなっている。ファイバーの外皮コートの硬化など細いワークに対しては細管の方が効率が良くなることは明白である。ピーク照度を上げるため光源での吸収、屈折が少ない分有利になる。石英ガラスの肉厚の最適化や①の空冷の最適化を行うと同時に有電極ランプでは電極が小型化するので電極の温度の過度の上昇を抑止する設計が必要となる。この点、無電極ランプは有利となる。マイクロ波励起のランプに拘わらず容量結合型、誘導結合型高周波細管ランプの登場の余地は十分にあると考えられる。

③冷温光源

a.フラッシュランプ……このランプは紫外線硬化に使用されてから長い年月が経過している。しかし冷熱光源としての良さがまだ充分認識されていないのでここで説明しておく。交流電源からの電流を整流し、コンデンサー:の充電に使う。十分充電した後主としてキセノンガスを封入したランプを通して瞬時に放電する。この充電・放電を一定の周期で繰り返す。瞬時ではあるが大電流がランプ中を流れるためガス温度は一万度前後にまで上昇する。そのためガスは黒体に似た放射を行う。ウィーンの変位則によれば放射強度の最大になる波長λmと温度Tの関係は

λmT=289.7×104(nm・K)

で与えられる。従って一万度ではスペクトルのピーク波長は290nmとなり、紫外線に富んだ放射となる。この温度Tは J/τ・Volに依存する。ここでJ.τ、Volは各々-パルス当たり放電される電力、パルス時間,ランプ内容積である。これから判るようにτを短くすれば J は少なくてすむ。硬化に必要なエネルギーは決まっているので間欠点灯の周波数が J の値によって決まる。通常τとしては0.1µsか0.1ms程度が使い別けられている。ランプ表面温度は(J X点灯周波数)に依存するが200°C以下の事が多い。瞬間的ではあるがその放射強度は連続点灯ランプのそれに比べ桁違いに高いので、硬化剤中の有効的な浸透距離は長くなる利点と冷熱性をうまく利用するともっと用途は拡がると考えられる。

b.エキシマランプ……エキシマランプは封入ガスに応じて図4に示すようにほぼ単色光(単一波長域の光)のみを放射する。発光管の温度は100°C以下である。発光ガス・蒸気(以下ガスと略す)は一対の誘電体壁に囲まれた空間内に封入されている。電極はこの封入物と反対の誘電体外表面に取付けられる。従って電極は放電ガスとは接触しないので無電極型のランプである。外部から電極に印加した電圧と封入ガスに接した内表面に存在する電荷の作る静電界によってガス中に絶縁破壊が生ずる。電荷はガス中の電界によって加速されながらもう一方の電極に接した誘電体の内表面に到達し、そこで蓄積される。電圧を反転すれば同じような放電が生ずる。この放電は0.1µs程度の極短時間で終了する。そのため放電の初期過程のみしか存在せず、電子密度の著しい増加が生ずる前に放電は停止してしまう。308nm光を放射するXeCl*エキシマランプは主用途はUV硬化である。水冷によって発光管、封入ガスの温度を上げないで電気入力密度を数10W/㎝に上げ、かつ印加電圧波形を最適化し、発光効率を高める研究がなされている。この他KrCl*(222nm)、Xe2*(172nm)も商品化されている。特にXe2 *は低圧水銀ランプの185nmと共に真空紫外域(200-100nm)の代表的なランプである。これもXeCl*と同様な方策で放射出力の増大が研究・開発されている。ランプ長1㎝当たり5W程度の172nm光を取出すのが究極の目標となろう。

c.フォトルミネセンスランプ……通常用いられる蛍光体と同じ原理で発光する。即ち通常の電力で励起したプラズマからの放射をガスまたは蒸気に照射する。そこで吸収された光でガスまたは蒸気が高い準位に励起され、やがてより低い準位まで落ちてくる。この落ちるときの放射される光の波長が使用目的に合致するかどうかがガスを選択する基準の一つとする。更に重要な基準は発光ランプからの光を充分吸収し、蛍光への変換効率が高いことである。このようなガスはそう多くはないが最近スイスのUVFUTUTURE SYSTEMS社からこのような光源が売り出されている。

d.半導体にレーザ(LD)、発光ダイオード(LED)……光造形にはLEDが既に使用されている。これらは輝度が高い分、集光効率が高く、全光束の低い光源でも使用できる。LD、LEDは短波長化の方向に開発が進んでいる。LEDは実際紫外線も放射ができるようになってきた。将来高出力紫外線LDやLEDが開発されると硬化をはじめ広い分野で用途が開けてくるものと思われる。

e.光ファイバ,光路伝送光……現在既に光ファイバで光源からの光を導き、局部的に照射するスポットキュアは広く普及している。ショートアークメタルハライドランプも一部使用されているが、今後そのランプの高放射効率を活かして一層の使用分野拡大が見込まれる。欠点の一つはショートアーク水銀ランプに比べ電極の磨耗が一般に速く、保守に人手がかかることである。大光量化の場合はこの問題を解決しておかねばならない。光路伝送管(オプチカルガイド)を使用する際も光路の途中に適当な波長域のみを透過フィルターや反射ミラーを挿入できるので冷熱光源の機能を活かせる。

f.電子ビーム励起ランプ……ランプそのものの放射効率を上げる目的のもので、まだ商品は出ていないが将来面白い存在になるかも知れない。

例えばポリイミドのエッチングは短波長DeepUV光で可能なことが明らかになっている。この目的のためには前記のKrClエキシマランプ(222nm)も有効であるが、水銀をベースに他の金属を添加し、特定波長域を増強したランプのスペクトル分布を図5に示す。また殺菌処理、廃水処理などでは200-300nmのDeep UV光が有効である。図6のスペクトル分布は従来のランプとこの波長域の放射を増強した中圧水銀ランプのものを比較して示してある。この波長域の放射効率は通常のランプの約2倍の17%になっている。このように波長域にかかわらず光開始剤の波長特性に合致させたランプは一般に想像されるよりは融通性のあるものである。さて光硬化ではないが同じ表面処理として最近短波長の紫外線(真空紫外光=VUV光)が工場で使用されはじめた。またこの新しい光の用途も種々検討されている。

おわりに

半導体リソグラフィは水銀ランプの g 線(436nm)、i 線(365nm)、一部ではDeep UV域と短波長化され、解像度の向上が実現された。更に現在64MDRAMの製造用にはKrFレーザ光(248nm)が使用され、21世紀初めの4GDRAMの製造にはArFレーザ光(193nm)が使用される見通しである。液晶ディスプレイの製造においてもTFTやカラーフィルタの製造に光露光が必須の技術になっている。この他にも多くの応用が検討されているので紫外線の利用は益々拡がって来ると考えられる。一方従来余り利用されてこなかった「偏光」も応用技術の中核になろうとしている。液晶分子の光配向は偏光を大々的に工業利用する第一歩となろうとしている。これは直線偏光であるが,もう一つは円偏光の利用である。即ち円偏光二色性を利用した絶対不斎合成である。ある意味では21世紀は「偏光光化学」が光化学応用の大きな分野になっているかも知れない。そのための最適光源と光学系はどうあるべきかを真剣に考える段階に来たのかも知れない。

今後とも光硬・表面処理の実施者,対象材料メーカそれに大学・研究機関と一体となって光源の用途ごとの最適化をしなければならない。

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