USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.12(1998年2月発行)

■平成9年度電子情報通信学会 第4回レーザエレクトロニクス研究会

(平成9年10月14日)

CLBO結晶によるNd:YAGレーザの4倍波発生特性
特にその長時間動作特性について

出来恭一,影林由郎,北栃直樹,堀口昌宏,
Y.K.Yap*,森勇介*,佐々木孝友*,吉田國雄**
ウシオ電機技術研究所つくば分室
つくば市東光台5-2-4 10298-47-9072
e-mail:dekikic@mail.ushio.co.jp
*大阪大学工学部電気工学科 吹田市山田丘2-1
**大阪工業大学工学部電子工学科

あらまし

CLBO結晶によるNd:YAGレーザの4倍波発生特性,特にその長時間動作特性について調べた.室温での長時間動作によって,結晶表面に白濁が生じること,強い集光での4倍波発生では集光部に屈折率変化が発生し,出力が低下することを見出した.白濁は結晶表面をイオンミリングすること,屈折率変化はfluenceを下げ,結晶を加熱して仕様することで抑制できることも見出した.

キーワード

CLBO,Nd:YAG4倍波発生,屈折率変化
Fourth Harmonic Generation of Nd:YAG Laser with CLBO Crystal
-the properties of the long term operations-
K.Deki,Y.Kagbayashi, N.Kitatochi,M.Horiguchi, Y.K.Yap*,Y.Mori*,T.Sasaki*,and K.Yoshida** Tsukuba R&D Laboratory Ushio Inc.
5-2-4 Tokodaio,Tsukuba 300-26 Phone:0298-47-9072 email:dekikic@mail.ushio.co.jp
*Department of Electrical Engineering,Osaka University,2-1 Yamadaoka,Suita,Osaka 565
**Department of Electronics,Osaka Institute of Technology

Abstract

Fourth Harmonic Generation of Nd:YAG Laser with CLBO Crystal,especially the properties of the long term operations has been studied in detail.It is found that the refraction index change near the focul point is occurred when a strong focusing is employed in the fourth harmonic generation.It is also found that this refraction index change can be supressed when CLBO is used at around 150°C and under reduced harmonic fluence.

Keywords

CLBO,fourth harmonic generation of Nd:YAG laser,refraction index change

1.はじめに

2種のNd:YAG2倍波レーザを入力波としてCLBOのNd:YAG4倍波発生特性,特にその長時間動作特性について調べた.1つのレーザは比較的低い繰り返し(100Hzまで)だが,1パルス当たりのエネルギーの大きなもの(最大250mJ程度)であり,他の1つは高繰り返し(1KHz)で,1パルス当たりのエネルギーの小さな(最大1mJ程度)ものである.前者のレーザでは,高調波発生時にビームを集光することなく4倍波として高平均出力が得られる.後者では高調波発生時にビームを集光する必要があり,得られる4倍波平均出力も小さい.これらのレーザを用いたCLBOのNd:YAG4倍波発生特性について得られた実権結果をもとに以下に比較検討していく.

2.エネルギーの大きなレーザを用いたNd:YAG4倍波発生

用いたレーザはcoherent社の"infinity 40-100",パルス幅3nsec,ビーム直径5.5mm,横モードはtophat(M^2<1.5)のものである.これを用い集光光学系なしで100Hz,結晶長3.1mmで266nm平均出力10W,変換効率40%を得ている.この時,発生する266nm光の吸収による結晶の自己加熱が位相不整合量を増加させ変換効率を制限していることも報告した[1].これは,図1によっても察せられる.同図では繰り返し周波数が増加し,266nm平均出力が増加するにつれ変換効率が低下している.図2は同じ型式のレーザを用い同じく集光光学系なしでBBOを用いた266nm光発生[2]との効率比較を示す.ほぼ平等な比較が可能であり,deff値及び長さの相違を補償するdrive値[3]を横軸とした.

drive値 η0 は、η0 - C2L2I1(O) で与えられる. ここで、C は結合係数と呼ばれ、

で,Lは結晶長,I 1(0)は入射基本波強度である.drive量の小さい領域では,ほぼ同等の出力性能と言えるが,drive量が大きくなるにつれBBOでは効率が大きく低下している.同図CLBO曲線の右端で266nm出力9.7Wを得ている.即ちNd:YAG4倍波発生に関し266nm平均出力が高い領域ではCLBOの性能がBBOを凌駕していることを明確に示している.入射ビーム径が5.5mmと大きく角度許容幅の相違が変換効率に大きく影響しないとするとBBOの熱的位相不整合(thermal dephasing)が効率低下の主原因であるとしてよく,紫外領域での熱的位相不整合解決の重要性を示している.

次に図3は"infinity 40-100 "を用いたCLBO長時間動作テストの結果を示す.CLBOはARコートなどの表面処理のないものを空気中に配置した.CLBOは吸湿性が強い.除湿効果を期待してCLBO周辺に高純度窒素を約0.7L/minでフローさせ且つ120°Cに加熱した.テスト開始後十数時間で結晶後端面に薄い白濁が入射ビーム形状に沿った形で認められたが,とくに大きな出力低下は認められなかった.ほぼ1050時間動作させた.テスト打ち切りまでの出力低下率は,直線近似でおよそ0.02%/Hrであった.白濁部の写真を図4に示す.この写真より白濁は多数の損傷の集合のように観察できる.損傷の形状は火山の火口状で中央部が陥没しその周囲が盛り上がっている凹凸の形状であることが確認された[4].この盛り上がりは結晶表面からの原子の解離を想起させる.白濁が結晶後端面に発生していることから266nm光が関与していると思われるが,どのようなメカニズムでどの原子が抜け出ているのか等に関しては現在不明である.

次に図5は,表面のイオンミリング処理の深さを変えたCLBOを用い目視で確認できる白濁が発生するまでの時間を調べたものである.深いミリングを施したものほど白濁発生までの時間が長くなっておりイオンミリング処理の有効性を示しているとともにCLBO表面状態が白濁と密接に関連していることも示唆している.今後の研究課題である.

3.高繰り返し,低エネルギーレーザでの266nm光発生特性

高繰り返し,低エネルギーレーザでの波長変換では,効率を上げるため集光が必要である.LWE社の210Gからの532nm光(最大値約1mJ,40nsec)を焦点距離100mmの円筒レンズで集光した場合の変換効率をBBOとCLBOで比較した(図6).横軸は図2と同じくdrive値で示した.266nm出力は数十mWレベルで自己加熱の影響は小さく,且つwalk-off効果も軽減されていると考えられるので同一drive値に対し同一の変換効率が得られるはずである.しかし,結果はBBOの方が若干高い効率を示した.

図7は同一CLBO結晶に対し集光系を球面レンズと円筒レンズにした場合で比較したものである.横軸を入力のpower densityにとった.同一power density値で比べると球面レンズでの集光の方が変換効率が高い結果となった.円筒レンズ集光では,walk-off効果や角度許容幅による変換効率制限が緩和されるはずである.しかし期待と異なり球面レンズによる集光の方が高い変換効率が得られた.長さ24mmのCLBOに球面レンズ(f=150mm)で集光し1KHz最大入力(1095mW)時,406mWの266nm光が効率37%で得られた.

3.1 強い集光部の屈折率変化

さらに焦点距離の短い球面レンズで集光すると一層変換効率が向上するが,このような場合以下の問題が発生する.図8は上記レーザを f=100mm の球面レンズでCLBOに集光した場合の266nm光出力の経時変化を示している.結晶は空気中で結晶温度50°Cでのテストであったが,実用に耐えないレベルの出力低下率を示した(直線近似で4.5%/Hr).出力低下とともに出力光のビーム形状が大きく歪むのが観測され,出力低下時に位相整合角を再調整しても出力回復は認められなかった.一方,光軸と垂直な面無いで結晶位置を少しづつ変位させると出力は図9に示すように回復した.

以上のことより,この現象の本質は,既に森ら[5]によって指摘されているように,レーザ光集光部位の局所的な屈折率変化であることが推察される.これを直接的に確認すべく波長安定化横ゼーマンレーザ(STZL)[6]を用い633nmでの集光部位の屈折率変化の検出を試みた(図10).

STZLは単一縦モードでありながらそのモードが僅かに周波数の異なる直交直線偏光に分離している.こ の 光 を 532nm光とcollinearにした後球面レンズ(f=100mm)で50°C一定に保たれたCLBOに集光し266nmを発生させた.連続動作約22時間後に532nm光の照射を止め,STZLでの観測を行った.この測定原理は,下式で示される.

ここで,a はSTZLの直交直線偏光に対応するジョーンズベクトル,a'は光検出器に入る直前のそれで,

ここで、ω1,ω2は直交直線偏光各成分の角周波数でる.

で与えられる.βはその進相軸とx軸とのなす角,

で与えられる.ここでλmは、STZLの波長で633nm,
Δ Δnは,Δn=Δne (θ)-noで与えられ,波長λmでのθ方位の異常光線屈折率の通常値からの変位量と常光線屈折率の通常値からの変位量との差を表しΔlは屈折率変化の生じた光軸方向の長さを表す.また、P45はx軸に45°に配置された直線偏光版のジョーンズ行列で,

で与えられる.一方, は光検出器で検出されるSTZL光強度であり,本実験の場合,

であたえられる.Δωは通常数百KHzから数MHzの値であり,この高周波成分の位相をテストピース通過前後で比較することによってretardationδの値を測定できる.

光軸と垂直な面内で結晶位置を少しづつ変位させると位相計の出力は図11に示すように集光位置を中心に急峻な変化を示し,集光部に屈折率変化があることが直接確認できた.一方,532nm光を同じ光学系で集光しても位相整合角を意図的にずらせて266nm光の発生がないようにした場合には,十数時間の照射後もこのような屈折率変化が見られず,位相整合角を適正に会わせると前者の実験での初期値と同程度の266nm光の発生が確認できた.即ち,集光部の屈折率変化はCLBO内で発生する266nm光に起因するとしてよい.266nm光の吸収による局所的な結晶の加熱が屈折率変化を引き起こすと同時に温度の低い周辺との間で歪みを引き起こしていることも考えられる.図11より集光されない部分と比べたretardationの変化はおよそ3°と読みとれる.

これが,温度上昇による屈折率変化だとすると

が成り立つ.ここで, の温度変化率で、

で与えられる.は上昇温度,は,屈折率変化が生じた光軸方向の長さである.に [7] の式を用いると

を得るがこれを温度上昇によるphase mismatch量に換算すると0.16(rad)程度となりこの値では図9に示すような大きな出力減衰量を説明できない.一層の検討が必要である.

以上のことより集光部の屈折率変化は結晶温度を上げかつ出力である266nmのエネルギー密度を下げて使用することによって抑制できることが期待できる.図13は266nmのエネルギー密度と結晶温度を変え出力の減衰率を調べたもので,減衰率0.1%以下のものを白い四角で,0.1%より大きいものを黒い四角で表した.温度150°C程度以上,エネルギー密度2(J/cm^2)程度以下がCLBOを長寿命で使用する目安となると考えられる.

次に,図14は532nm入力エネルギーに対し集光点での266nmfluenceと平均出力とを球面レンズおよび円筒レンズ集光の場合で比較したものである.同一平均出力を得るためには円筒レンズ集光がCLBO長寿命化の点で有利であることがわかる.図15に円筒レンズで集光し266nm平均出力197mW,fluence0.71J/cm^2での長時間動作の結果を示す.約80時間の連続動作で位相整合角が若干ずれたものの出力低下はゼロであった.また,出力ビーム形状が歪む現象も認められなかった.

4.まとめ

比較的低い繰り返し(100Hzまで)だが,1パルス当たりのエネルギーの大きな Nd:YAG2倍波レーザと高繰り返し(1KHz)で,1パルス当たりのエネルギーの小さなNd : YAG2倍波レーザとを用いてCLBOのNd : YAGレーザの4倍波発生特性を調べた.前者のレーザでの初期出力4Wレベルの266nm光が大きな減衰なく1000時間以上動作することを確認した.一方,その結晶後端面には白濁が認められた.この白濁はCLBO表面を適度な深さにイオンミリングすることによって低減できることを示した.後者のレーザの場合には,強い集光をすると集光部に屈折率変化が生じることを光ヘテロダイン計測によって確認した.この屈折率変化は,CLBOを150°C程度以上に加熱して使用し,円筒レンズによる集光系を用いて266nm光りのfluenceを低減すれば抑制可能であることも示した.

[謝辞] CLBOの白濁部の微分干渉顕微鏡での写真撮影並びにご助言に対し東北大学小松啓先生に深甚なる謝意を表明します.

Copyright © USHIO INC. All Rights Reserved.