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光技術情報誌「ライトエッジ」No.12(1998年2月発行)

■照明学会誌 97年9月号VOL.81

■資料■ 特集 環境保全と照明システム

白熱電球と環境保全
Environmental Aspects of Incandescent Lamps

1947年生,東京大学大学院工学系研究科航空学専門課程修士課程修了,現在ウシオ電機(株)技術研究所勤務.
竹村 哲
Tetsu Takemura

■キーワード:一般照明用電球,ハロゲン電球,環境保全,省エネルギー,有害物質削減,省資源

1.はじめに

白熱電球は暖かみのある高い色再現性の光色を持つ光源である.小型で安定器が不要という省資源性もある.点灯時間が短く点滅の頻度が高い用途や, 暖かみ,陰影を求める照明に適しており,主に家庭用,店舗用に用いられている.ここでは,白熱電球について環境保全の視点から,その特性,構成材料についての現状の課題,および課題克服のための技術開発動向について調べる1)

2.現状と環境課題

2.1 種類と特性

一般照明用電球にはシリカ(白色薄膜塗装)電球,クリア(無色透明)電球(JIS C7501),ボール電球などがある.またこがたのものではクリプトン電球 (JEL118)があげられる.一般照明用ハロゲン電球も電圧,口金形状,反射鏡の有無により6種類に区分される.一般照明用電球において可視放射はラン プ入力の約10%であり,約72%が赤外放射で,また約12%が封入ガスの対流により失われる.効率は一般照明用電球では9~16lm/W,同ハロゲン電球では15~21lm/Wで,蛍光ランプの1/4~1/5である.したがって同じ光量を得るのに4倍~5倍の電力を消費する.

2.2 生産量

1996年(平成8年)における一般照明用電球の生産数は1億4472万個で,蛍光ランプの生産数の約34%であった2).2度にわたる石油ショックから回復して,1991年には1億6874万個のピークを迎えたが,その後現在に至るまで減少傾向にある.

2.3 構成材料

一般照明用電球の構成材料(表1)の中で有害化学物質としては,鉛があげられる.これはステム部の鉛ガラス,口金部のはんだに含有されている.はん だはランプ1個当たり役0.2g~0.5g使用されている.ハロゲン電球(表2)を特徴づけるハロゲン化合物には臭素系が多用される.その封入量は微量である. ハロゲン化合物のうち臭化メチル(CH3Br)は,オゾン層を破壊するため規制物質であるが,点灯により分解されて臭化水素(HBr)やタングステンのオキシハロゲン化物(主としてWO2Br2)などになる3)4).したがってランプ廃棄の際に臭化メチルが放出される 恐れはないと考えられる.

表1 一般照明用白熱電球の構成材料と使用量(単位:g)

表2 一般照明用ハロゲン電球の構成材料(単位:g)

3.技術開発動向

3.1 省エネルギー化

白熱電球における環境保全上の最優先課題は,エネルギー有効利用のための効率向上である.

① 一般照明用電球においては,効率を約5%工場させたものが開発され,100W形では16.9lm/Wとなった.これは継線形状の変更による光の利用率の向上5)や,フィラメントの最適設計およびシリカ薄膜材料の透過率改善によるものである6)

② キセノンガスによるフィラメントの保温,タングステンの蒸発の抑制に関する検討もされた.低電圧型ハロゲン電球において,クリプトンガスより約 3%の効率向上,およそ3倍の寿命延長効果が得られた7).キセノンガスと塩素系,臭素系化合物での寿命延長効果の検討がされ8),またバルブ管径の最適化によるフィラメントからの対流熱損失の低減が示された9).これはいっそうの効率向上の可能性を 示唆する.ただし,商用電圧形電球では断線時の放電防止上,キセノンガスの効果が減殺される可能性があり,今後の課題である.

③ 赤外反射膜の応用は効率向上に大きく寄与してきた.赤外反射膜の形成にはDip法が多用されるが,赤外反射率および可視光の透過率を高くするために,多層化,高屈折率層の高屈折率化が進められた10)~12)(表3).また反射された赤外放射のフィラメントの帰還率の改善のため,Dip法13) , 減圧CVD法14)~16)による回転楕円体,球形バルブへの幕形成技術の開発が進められた.減圧CVD法により効率を35~40%向上させたJD形ランプが実用化された.このような形状のランプではフィラメントが局所的に加熱されやすい.これによる短寿命を避けるための技術開発も進められた.理想的な赤外反射膜による36lm/W(フィラメント温度:2800K)の可能性が報告されており17),今後とも開発の進展が期待される.

表3 赤外反射膜応用技術の開発動向

④ Waymouthが提案した,表面にサブミクロン孔を有し赤外放射を低減する選択放射体は,効率60~80lm/W,寿命10000hの理想的な白熱光源である18).100Wの電球と同じ光量が60Wから30Wで得られるという試算もある19).赤外放射量が平滑面より減少した20),赤外域えのカットオフ特性も確認された21)などの報告があるが,まだ十分実証されるに至って いない.最近,解析的研究から 22),カットオフ波長600nmで,キャビティ部の発光効率としては最大の257lm/Wとなることがわかり23),放射体として130lm/Wの可能性が示された.

3.2 有害物質

電球1個当たりのはんだ使用量は少ないが,今後一層の使用量削減が求められると推測される.溶接への代替が進めば,はんだ使用量はさらに削減され るものと考えられる.

3.3 省資源化

1995年(平成7年)におけるクリプトン電球の生産 数は一般照明用電球の11%,前年比で10%増加した.クリプトン電球の重要は従来形電球の約50%,大きさも35%以下である.これにより包装材の使用量もほぼ1/4となった.また電球の小型化は照明器具の小型化を可能とした.このように省資源に関して, クリプトン電球が役立っている.

4.おわりに

白熱電球は人々に安らぎをあたえる光源として長い歴史を刻んできた.しかし,地球温暖化防止など環境保全への認識が高まる中で,特に効率の改善が これまで以上に求められてくると推測される.

今後一層の技術開発の進展を期待する次第である.

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