1．はじめに

液晶（LCD）プロジェクターは当初ビデオ画像を楽しむビデオプロジェクターとして開発されたが，近年はノートブック形パソコンの普及とともにデータプロジェクターとしての用途が急速に拡大している。これは開口率の高い高精度液晶の開発，プリズム合成フィルター，光学インテグレータ，ps分離変換などの光学素子の発達などと共に，アーク長3mm以下の短アークランプにおいても2000時間以上の長寿命が得られる直流点灯形ショートアークメタルハライドランプの開発も貢献しているものと思われる。本報告では現在，投写形液晶用光源の主流となっている直流点灯形ショートアークメタルハライドランプについて述べる。

2．交流点灯形メタルハライドランプと直流点灯形メタルハライドランプの違い

液晶ブロジェクター用光源として当初開発された交流点灯形ショートアークメタルハライドランプはアーク長5－6mm程度の稀土類ハロゲン化物封入のメタルハライドランプであって，封入物としてはジスプロシウムを主体とした稀土類ハロゲン化物とハロゲン化セシウムの混合ペレットが用いられた。150Wランプのスクリーン光束半滅寿命は2000時間程度であったが，250Wランプの寿命は1000時間程度と短かった。さらに集光率の向上のためにアーク長を3mmに短くすると，両ランプとも寿命が約半分に低下する。

稀土類ハロゲン化物封入の交流点灯形ランプのスクリーン光束の低下は，ランプ全光束の低下よりも石英発光管内壁の白濁による集光率の低下が大きい原因である。筆者らは，この白濁現象が稀土類ハロゲン化物を封入したときだけに起きることから稀土類金属原子が直接石英ガラスに付着することにより白濁（微結晶石英）が発生すると考え，原子付着の確率を低下させる手段として直流点灯方式を採用した⁽¹⁾。即ちメタルハライドランプをアーク軸を水平にして直流点灯すると発光物質の偏りが起こることが知られていたが，この現象を白濁の抑制に利用したものである。しかし交流点灯用ランプを単に直流で点灯しただけでは，電極は直流点灯用に改造したとしても，アークのちらつきが発生する。これは稀土類金属の偏り傾斜が大きくなり過ぎるからであり，稀土類金属の偏りを適正化する手段として蒸気圧の高いハロゲン化インジウムを追加封入した⁽²⁾。

直流点灯により白濁の発生が著しく抑制され，250Wランプのアーク長を3mmに短縮しても2000時間以上のスクリーン半滅寿命が得られるようになった。またアーク長2mm以下の250Wランブにおいても2000時問以上の良好な寿命特性が得られた^（3）。直流点灯は効率が若干低下するが短アーク長においても実用的なランプ寿命が得られるほか，点灯回路も小形・安価になる特長がある。

3．直流点灯形メタルハライドランプの特性

発光管形状：発光菅の形状を図1に示す。他の直流点灯用ランブと同じく大きい陽極と小さい陰極が使用される以外は，同ワットの交流点灯用ランプと同じ発光管を使用できる。一般に片方の封じ部にベース（口金）をつけてから回転放物面または回転楕円面の反射鏡に取り付けられている。

分光エネルギー分布：アーク長3mmの250Ｗ直流点灯形メタルハライドランブの分光エネルギー分布の例を図2に示す。単位アーク長当たりの入力電力の増大とともに水銀線の強度比が大きくなる。

輝度分布布：250W直流点灯形メタルハライドランプの相対輝度分布を図3に示す。直流点灯放電灯の一般的性質の通り陰極側の輝点は点状であるが陽極側の輝点はやや広がっている。

ランプ定格とアーク長：入力電力125W，150一155W，250－280W，350－400Wなどの直流点灯形メタルハライドランプが開発されている。プロジェクター用ランプはブロジェクターメーカの特注晶のためランプ電力やアーク長は希望に合わせて調整されることが多い。 ランプのアーク長は1.5－3mm，250Wランプのアーク長は2－3mm，400Wランブは3－4mm程度のものが製品化されている。

4．あとがき

液晶プロジェクターは液晶パネルの高開口率化と光利用率を向上する各種光学素子の開発により, 比較的明るい部屋でも使用できる600ANSI－Lm の光束が250Wランプで得られるようになった。パソコンとの相性がよい画像投写装置として今後の伸ぴが期待される。