USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.13(1998年7月発行)

日本赤外線学会誌第7巻2号

(1997年12月)

各種(遠・近)赤外線ランプの開発
Development of Near and Far Infrared Halogen Lamps.

安積賢吾

要旨

近年,近赤外線放射熱源である棒状のハロゲンヒータが,すばやい加熱昇温性能や高い応答性等を利点に産業分野にて注目されるようになってきた.このハロゲンヒータの動作原理や基本性能および熱源としての開発事例さらには,各種材料の加熱昇温実験結果について報告した.

Abstract

Linear type halogen heater is one of the interesting sources in the near infrared. It is recentlydrawing the attentions of the industrial field because of the advantages such as its fastresponse and the fast heating of an object.

This paper describes the operational principle and basic properties of haIogen heater, itspracticall, developed example acl some experimetal ousults for rising temperature ofmaterials by using a halogen lamp.

1. はじめに

赤外線加熱は、電力を熱エネルギー源として利用する方法が効率も高く,省エネルギーが可能で,普遍性も高いことから広く産業分野で利用されてきている.

当初は効率の高さから量産化が進み,1973 年の第一次オイルショック以降は省エネルギーを目的として利用が展開した.従来は塗装の乾燥,焼付などが主体であったが,近年は半導体,電機,金属,プラスチック,調理,暖房などその優れた質的効果と生産上の利点から各産業分野で広く注目を集め利用されつつある.

高分子物質など多くの有機物質は,3~25µmの遠赤外線放射域に多くの分光吸収体を持つことが解明され,遠赤外線の利用が高まっている.昨今では,民生用品においても「遠赤外線」のブームが起きている.しかし,近赤外線における加熱については塗装乾燥の分野では一般的に広く知られていたが,その加熱効率等の性能は他の分野ではまだまだ知られていない.

本稿は昇温性能や応答性が優れることで最近注目され始めた棒状の管型近赤外線ハロゲンヒータならびに遠赤外線ハロゲンヒータの特性,加熱試験データおよび実際の応用事例について述べる.

2. ハロゲンヒータの 特徴

2.1 光とハロゲン電球

ハロゲンヒータは,一般照明用に用いられる白熱電球と同様に電気エネルギーを熱エネルギー(例えばジュール熱)に変換し,個体の温度を上げてその温度に相当する輻射線を利用した熱輻射光源である.その利用範囲は図1 に示すように可視光域から中・遠赤外線まで広くに放射スペクトルを持つことから,熱源としての利用だけでなくむしろ当初は照明用としての利用で発展した.

その後熱源としての利用も各分野で高まり,熱源として利用する目的のものをハロゲンヒータとして区別してきた.

図1. 太陽光とハロゲンヒーターの波長領域

2.2 ハロゲンランプの特徴

ハロゲンランプは1959 年にGE 社により沃素を用いて開発されたことから,かつては沃素ランプとも呼ばれていた.

白熱電球は,発熱体(個体)を電流によって白熱状態に加熱し光を放射する.ふつう白熱電球には,高融点(約3400°C)のタングステンフィラメントが使われる.タングステンは高融点であるが,蒸発はすでに融点以下で始まりこれによってフィラメントはやせ細り,最終的にはやがてある位置で切れてしまう.これが白熱電球の寿命である.また,ランプのバルブ内壁には蒸発したタングステンが付着していくため,黒化が起こり外部に放射される光がだんだん減少し,その減少は20%近くにも達する.このような,タングステンの蒸発を防止し黒化をなくして,長寿命化を図るためにハロゲンガスが有効であることが判明した.

<ハロゲンガスの動作原理>

図2 にハロゲンサイクルの概略図を示す.点灯中の高温のフィラメントから蒸発したタングステンはハロゲンガスと反応して,タングステンとハロゲンの化合物が生成される.タングステンとハロゲンの化合物は,約250°Cから1400°Cでその状態を維持する.したがって,バルブが250°C程度以上あればバルブ内壁に付着することはなく黒化も起こらない.この化合物は熱対流によってフィラメント付近に運ばれると高温のために再びタングステンとハロゲンとに分解され,タングステンはフィラメントに再生し,自由になったハロゲンは再び次の反応を繰り返す.

この一連の再生循環作用をハロゲンサイクル(Halogen Cycle)と呼ぶ.

2.3 ハロゲンヒータ

ハロゲンヒータも,封入ガスに微量のハロゲンガスとアルゴンや窒素などの不活性ガスを用いた赤外線電球である.封入されたハロゲンと加速蒸発するタングステンとの再生循環反応(ハロゲンサイクル)の効果によりバルブを小型にしても黒化が起きず,寿命も延ばせる.ハロゲンヒータの一般的構造を図3 に示す.

ハロゲンサイクルを機能させるために,バルブが高温になり耐熱性の良い透明石英ガラスが使用されている.バルブ径としてはφ6~10mmのものが多く使用されている.ハロゲンヒータの特徴としては,次の点があげられる.

  • (1)断線するまで一定した光出力が得られる.
    ハロゲンサイクルによりバルブに黒化が生じなく,図4 のように光出力や電力,色温度の減衰がほとんどない.
  • (2)コンパクトである.
    一般赤外線電球に比べて,数十分の一の大きさになる.このため大きなエネルギーを投入しても小型・軽量で狭いスペースにも設置が可能である.
  • (3)熱衝撃に強い.
    バルブには石英ガラスを使用しているため,極めて熱衝撃に強いものになっている.
  • (4)高効率なエネルギ一
    図5 のように,投入電力の85%以上が赤外線に変換されて照射される.

3. ハロゲンヒータの特性

3.1 基本特性

図6 に同一電力でランプの色温度をパラメーターにした分光分布を示す.これらの分光分布はプランクの放射法則(式1)に近似している.また,各分布のピーク波長は色温度が高くなるほど短波長側ヘシフトする.一般的にハロゲンヒータでは色温度を2500Kあたりに設計したものが多い.このピークを与える波長と色温度との関係は式2 で示せる.

式2 をウイーンの変位則といい,図7 中の斜線がこの式に対応する.

また,プランクの放射法則(式1)を全波長範囲にわたって積分すると,理想物体(黒体)の放射エネルギーはその絶対温度の4 乗に比例することが分かる.これをステファン-ボルツマンの法則という.

以上は赤外線放射の諸法則と絡めて,ハロゲンヒータの分光分布について述べた.次にハロゲンランプの電圧変化に対する諸特性の変化について述べる.ハロゲンランプにおいては,各特性の変化率(F/F0)は電圧の変化率(V/V0)に対して,近似的に式3 の関係がある.この関係を図にしたもの図8 に示す.

表1.電力変化時のK値

3.2 昇温・降温性能

従来から遠赤外線ヒータとして,一般的に多く用いられている面状のセラミックヒータやニクロム線コイルの赤外線(石英管)ヒータとの昇温及び降温性能についての比較例を図9 及び図10 に示す.ハロゲンヒータは熱容量が小さいフィラメントを熱源にしているため,スイッチON/OFF とほぼ同時にエネルギーの立ち上がり,立ち下げを行うことが可能である.このため,複雑な加熱プログラムに対応する微妙な温度制御が可能になる.

図9. 昇温性能比較例

図10. 降温性能比較例

3.3 放射効率

一般に赤外線ヒータは,石英管の中にニクロム線を発熱体としてコイル状にして納めた構造をしている.発熱体は石英管に密封されてなく,また石英管と接触しているため,赤外線は発熱体で加熱された石英管より放射されている.このため,放射効率は60%と低い.シースヒータも通常はステンレス管の内部にコイル状に成形した抵抗発熱体を保持し,両者の隙間は酸化マグネシウムなどの絶縁物を封入したものである.その表面からはその温度や材質に応じた赤外線が放射されるので広く利用されている.しかし,抵抗発熱体によりステンレス等の金属を加熱する上,金属表面からの放射が大きくなり,放射効率は約50%程度と低い.ただし,金属管表面に高い赤外線放射率の物質層を形成させた製品も開発され,放射効率を改善したものもある.面状のセラミックヒータも同様にセラミックスからの2 次放射になるため,放射効率は50%程度になってしまう.これらの赤外線ヒータに対して,ハロゲンヒータは前述のように85%以上の放射効率を有している.図12,13 に熱量分布の相対強度を示す.

また,図13 ではセラミックヒータは幅が60mm の面状のものであるが,熱量の分布形状は実際には面状になっていないことが分かる.

3.4 寿命

ハロゲンサイクルにより,完壁な再生循環作用が得られれば寿命は無限のものとなる.しかし,バルブ内部での熱対流やフィラメントの微妙な温度勾配等により,蒸発したタングステン原子がもとの位置に再生しないため有限の寿命になってしまう.一般的なハロゲンヒータの色温度と寿命との関係を図14 に示す.なお,最近では色温度を高く設計した場合でもこれ以上に寿命を延ばせる技術が開発されている.ただし,寿命は点灯中のバルブ温度にも影響される.温度限界としては,下限はハロゲンサイクルが機能する温度の250°C付近で,上限としては800°C付近である.これより高温になるとバルブ(石英ガラス)に吸蔵されている不純ガスなどの放出があり,黒化を早めたり早期に断線が起こるなどの影響がでる.したがって,高温になる場合はバルブの強制空冷より太いバルブの使用などが必要になる場合がある.

図15 に一般的なハロゲンヒータのバルブ温度と寿命との関係を示す.

4. ハロゲンヒータの構成例

棒状の管型ハロゲンヒータの構成例を表2 に示す.これらは,ほんの一例であり,実際にはハロゲンヒータは,その用途や使い方に応じたものにカスタム設計される場合が多い.これがハロゲンヒータの性能をより効果的に発揮させているもう一つの特徴であるといえる.

5. 各種ハロゲンヒータの開発

5.1 配熱分布特性の設計

ハロゲンヒータの性能をさらに引き出す方法として,ハロゲンランプはフィラメントコイルの巻き方を変えることにより電力密度分布を可変出来ることから,配熱分布を自在に変えた設計ができる.均一加熱を目的にしてPPC やプリンターでのトナー定着に従来から応用されてきた技術であるが,近年は産業分野においても均一加熱を実現する上で重要な技術になってきている.従来,一般的に産業分野においては均等に連続で巻かれたフィラメントが多く使用されている.配熱分布を自在にシミュレーションしてフィラメントを分割したセグメント構造に設計を行うことにより,図16 のように配熱分布を変えることができる.他に図17 は,同じフィラメント長さのもので連続フィラメントタイプとセグメント型フィラメントタイプの配熱分布比較例であるが,セグメントタイプではフラットな分布エリアを拡げた設計もできる.

以上はハロゲンヒータの長さ方向の配熱分布を説明したものであるが,軸方向でも複数のヒータの配列によって同様のシミュレーションができる.(図18)

この技術により,被加熱物の温度リップルを低減することが可能になり,より均一加熱が実現できるようになってきた.

5.2 遠赤外線ハロゲンヒータその1

ハロゲンヒータは,放射効率が85%以上と大変優れた熱源であるという利点を生かして,バルブ表面に黒色の高効率放射セラミックスをコーティングした遠赤外線ハロゲンヒータが開発されている.図19 に遠赤外線放射のメカニズム概念を示す.また,図20 には一般的なハロゲンヒータと遠赤外線ハロゲンヒータの同一電力での分光分布の比較を示す.遠赤外線ハロゲンヒータは,ピーク波長が3µm 程度にまでシフトし遠赤外線域での放射輝度が高まっていることが分かる.さらに,本ヒータは放射体の厚みが100µm 程度のセラミックコーティングであり,熱容量が小さいため他の遠赤外線ヒータと比べて数倍以上の昇温,降温スピードになっている.(図21)

図20. 近赤外ハロゲンヒータと遠赤外ハロゲンヒータの分光分布(1000Wの場合)

5.3 遠赤外線ヒータその2

ハロゲンヒータは赤外線を放射する一方,可視光も放射する.このため,用途によっては眩しさが邪魔になる場合がある.しかし,可視光も照明や光のアクセントとして利用が望まれる.眩しさを抑制する方法としては,従来から石英ガラスに銅などの金属酸化物を含有させたものをバルブに使用する方法や赤色のアウターバルブを用いたものなどが製品化されている.さらに,これとは別のタイプとして次のものがある.これは遠赤外線ハロゲンヒータの技術を応用し,バルブ表面に遠赤外線放射セラミックスを基材とした物質をコーティングしたものである.図22 にその分光分布を示す.特徴としては可視光域の放射をある程度制限し,眩しさを抑制した上に光に視覚的な暖色感を持たせたものである.また,ピーク波長が約2µm となり長波長側にシフトしている.さらに点灯後約1 秒で立ち上がることにも特徴がある.すでに電気ストーブの熱源として量産化されており,今後も暖房用等の民生用品だけでなく食品加熱等の分野においても期待される熱源である.

5.4 反射膜付ハロゲンヒータ

バルブの反面にセラミックス材料をコーティングすることにより,一方向に対して効率よくエネルギーを照射させることを目的にしたもので,図23 のように照射方向の熱量がアップできる.また,反射膜側では装置や天板等の温度上昇を抑制できることになる.

5.5 反射ミラー

反射ミラーにハロゲンヒータを組込み,加熱ユニット化することでより効率の良い加熱を実現しようとしたものが製品化されている.大きな面を均一に加熱(図24)するなど目的にあった照射を実現するため,様々の光学設計された反射ミラー(図25)が用意され,工業加熱分野での利用が高まってきている.

図25. 様々な反射ミラーでの光線追跡

6. ハロゲンヒータの応用事例

特に最近においては,樹脂加熱成形分野におけるハロゲンヒータの需要が強まってきている.また,金属鋼板やさらには今までは,遠赤外線ヒータでの加熱が主体であったガラス,紙の製造分野にまで近赤外線ヒータであるハロゲンヒータが使用されるようになってきた.最後に,ハロゲンヒータを用いて様々な材料を加熱実験することにより得られた,各種材料の加熱昇温データについて紹介しておく.

7. おわりに

本稿は,近年産業分野で注目を集めるようになってきた棒状の管型近赤外線放射ハロゲンヒータの特徴について概説すると共に,開発製品についての特徴を述べた.21 世紀に向けての人類最大の課題である地球環境対策に,クリーンで加熱効率の高い省エネルギーを実現できる熱源として,さらなる研究,開発を進めていきたい.

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