USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.14

情報ディスプレイ研究調査委員会 報告書(平成10年3月)
社団法人 照明学会

(1998年10)

3.2.2 投射型液晶用光源・光学系

3.2.2.1 はじめに

投射型液晶ディスプレイは教育用・娯楽用の大形映像機器としての用途のほか、最近はパソコン用データプロジェクタとしての需要が増えており、また大形TV の一方式としても注目されている。

液晶のような非発光形画像表示素子を利用した投射型ディスプレイでは表示画像をスクリーンに投射するために別の高輝度光源が必要である。ハロゲンランプ、キセノンランプ、交流点灯形メタルハライドランプの3 種類の光源は以前から利用されていたが、ほぼ過去3 年以内に新しく開発され、現在では主流となっているプロジェクター用ランプに直流点灯形メタルハライドランプ、超高圧水銀ランプ、セラミック反射鏡内蔵形キセノンランプがある。また研究下の光源として無電極HID ランプがある。

ランプは回転放物面鏡、回転楕円面鏡などの反射鏡に取り付けて使用されるが、最近本格的に採用され始め、光利用率および照射品質の向上に顕著な寄与をしている光学素子にオプティカルインテグレータ、ps 偏光分離変換素子、プリズム光合成素子などがある。これら光源と光学系に付いて概略を紹介する。

3.2.2.2 ハロゲンランプ

ハロゲンランプは白熱電球の一種であるが、耐熱性の高い石英ガラス製で、封入されたハロゲンによる管壁の浄化作用のため電球よりも小形・高輝度・寿命末期まで光束がほとんど低下しない、などの特徴がある。

液晶プロジェクターには光学機器用ハロゲンランプと呼ばれる種類のハロゲンランプが適しており、比較的高輝度と長寿命が得られる低電圧動作(12V-24V)の小形(50W-150W)ハロゲンランプが使用されている。ハロゲンランプは輝度や効率を高めようとすると寿命が短くなるが、電圧調整により比較的容易に50 時間-500時間程度の範囲で寿命-輝度特性を変えられる。ランプ光色は色温度3100K-3300Kある。

ハロゲンランプの長所は、(a)原則として安定器が不要であり、ランプも安価(b)光色が時間的にも空間的にも安定している。

短所は(イ)効率が低い(色温度が低く、所望色温度と光源の色温度との違いが大きいため特に悪くなる)、(ロ)輝度が比較的低い、(ハ)寿命が短い、などである。

3.2.2.3 メタルハライドランプ

メタルハライドランプは金属ハロゲン化物(=メタルハライド)を水銀、アルゴンガスと共に石英ガラス製放電管に封入した高(蒸気)圧放電ランプであり、HID(High Intensity Discharge)ランプの一種である。

一般照明用のメタルハライドランプでは、種々のタイプのメタルハライドランプが開発されているが、プロジェクター用ランプは高演色性の高輝度光源である必要があるのでショートアーク化した稀土類金属ハロゲン化物入りメタルハライドランプが使用されている。

投写用メタルハライドランプには当初開発された交流点灯形ランプ(1)と1994 年に実用的な製品が開発された直流点灯形ランプとがある(2、3)。最近では直流点灯形メタルハライドランプが液晶プロジェクター用光源の主流となっている。

交流点灯形と直流点灯形メタルハライドランプの違い:交流点灯形メタルハライドランプは点灯中に比較的早期に放電管内壁に白濁が発生し、集光率が著しく低下するが、直流点灯形メタルハライドランプでは白濁の発生が著しく抑制され、寿命が3-5 倍程度に長くなる特徴がある(2、3)。また点灯回路も矩形波交流に切り替える必要がないため、小形・安価な回路になる。しかし直流点灯形ランプは初期スクリー ン光束が10-20%低下する欠点がある。

図3.2.2-1 に直流点灯形メタルハライドランプの発光管構造を示す。電極の大きさが陰極より陽極が大きくなる以外は交流点灯形ランプとほぼ同じ構造である。

アーク長:アーク長(=電極間距離)は1994 年頃まで150W ランプで5mm、250Wランプで6mm が標準的な長さであったが、まず交流点灯形120W ランプが3mm 化された(4)。1994 年に短アーク長ランプに適した直流点灯形メタルハライドランプが開発されてからはアーク長の短縮が容易になり、250W ランプのアーク長も3mmが可能になった。最近では直流点灯形150W ランプでアーク長1.5mm(5)、250-260W ランプで2.2mm(6)、350W で3.7mm などが開発されている。

ランプ寿命:交流点灯形ランプでも直流点灯形ランプでも明るさと寿命は逆相関の関係があり、設計方針によって寿命は3 倍程度は変化する(6)。データプロジェクター用直流点灯形ランプの寿命は2000 時間に設計されることが多いが、TV 用リアプロジェクターでは目標寿命5000 時間の設計となっている(7)

図3.2.2-1 直流点灯形メタルハライドランプの構造図

3.2.2.4 キセノンランプ

キセノンランプは連続スペクトルを発光し、高演色性のランプとして知られている。ショートアーク形キセノンランプは陰極前面の陰極スポットが非常に高輝度であり、点光源性に優れているが、ランプ効率は25-30-lm/W と低い。投写用途には400W-7kW のショートアーク形キセノンランプが用いられている。一般には種々の定格の石英ガラス性のキセノンランプが製品化されているが、入力電力400W~1kW 範囲については前面透過窓をサファイヤとした反射鏡内蔵形アルミナ製ランプが製品化されている。キセノンランプは反射形液晶パネルを使用した大形プロジェクターによく用いられている。

キセノンランプの短所はランプ電圧が20V 程度と低いためランプ電流が大きく、ランプの価額と安定器の価額が高価になることである。図3.2.2-2 に反射鏡内蔵形アルミナ製キセノンランプの構造例を示す(8)。ランプ寿命は1000 時間-2000 時間程度である。

図3.2.2-2 セラミック製キセノンランプの断面構造図

3.2.2.5 超高圧水銀ランプ

最近、投射形ディスプレイ用の超高圧水銀ランプが開発された。超高圧水銀ランプは高輝度光源として知られており、水銀蒸気圧を100 気圧以上に高めると連続スペクトル成分の強度が増加し、高色温度の投写用光源としては十分使える赤色スペクトルが得られるようになる。この原理を利用したランプでアーク長1.2-1.4mm の100W,120W ランプが既に実用化されており、150W ランプも開発中である。100Wランプでは5000 時間以上の長寿命が、120W 以上のランプでも2000 時間以上の長寿命が期待されている。100W ランプの特性を表3.2.2-1 に示す(9)

表3.2.2-1 100W 超高圧水銀ランプの特性例例(9)

3.2.2.6 無電極HID ランプ

無電極HID(High Intensity Discharge)ランプは数万時間の寿命が得られる可能があり、プロジェクター用としては研究段階であるが長寿命光源として期待されている。無電極HID ランプの点灯方法には13.56MHz の高周波誘導電界による点灯と2.45GHz のマイクロ波電磁界による点灯との2 方法がある(10)。 前者は発光管の周囲に2-3 巻きのコイルを巻いて高周波磁界を発生させ、誘起電界により放電させるのに対し、後者は空洞共振器内に発光管を置いて高電磁界により放電を起こさせる。一般照明用には回路効率の良い高周波点灯が適していると思われるが、投射用光源としては反射鏡との相性が良いマイクロ波点灯が適していると思われる。投射用無電極ランプの発光物質としては硫黄(11)、臭化インジウム(12)などが研究されている。

3.2.2.7 液晶照明用光学系

光源からの光を液晶パネルに効率よくかつ均一な照度分布で集光するために、最近のプロジェクターではオプティカルインテグレータ、ps 偏光分離変換素子、光合成プリズムなどの光学素子が標準的光学系に使用されるようになった。また反射鏡の小形化のために結晶化ガラス製反射鏡が一部の機種に使用され始めた。

(1)反射鏡

反射鏡形状は平行光が得られる回転放物面鏡か、または集光を図る回転楕円面鏡が使用されている。楕円面反射鏡の場合は第2 焦点を投写レンズ近くに取る方式と反射鏡の直ぐ前面に取る方式とがある。反射鏡前面に向かい合わせに半球面鏡を設ける「合せミラー方式」が使用される場合もある(13)。反射鏡の反射面は赤外線と紫外線を取り去るためダイクロイックミラーが一般に用いられている。新しい動向として反射鏡の集光率を維持したまま開口を小さくするため、耐熱性の高い結晶化ガラス製の反射鏡が採用され始めた。

(2)オプチカルインテグレータ(マルチレンズ=レンズアレイ、ロッドレンズ)

反射鏡からの光束の断面は円であるが、この光を矩形の液晶パネルに有効に当てるために小さい矩形レンズを反射鏡の前面に並べ(マルチレンズ)、各矩形レンズからの全光を第2 マルチレンズにより矩形画像パネルに当てるマルチレンズ式(=レンズアレイ式)オプチカルインテグレータ(14)が標準的に採用され始めた(15,16)。特に液晶パネル上の照度の均一性が要求される場合はオプチカルインテグレータの使用は集光率を高めるための必須条件となっている。オプチカルインテグレータには光源に色むらがある場合や、アークにちらつきがある場合でもスクリーン上での色むらやちらつきを大幅に抑制できる効果がある。図3.2.2-3 にマルチレンズ式インテグレータの構成図の例を示す。

簡単な構造のオプティカルインテグレータに図3.2.2-4 に示すようなロッドレンズがある(17)。これは出 射口を画像パネルの形状に合わせた矩形断面にしたガラスロッドであり、もっとも簡単なものは入射口も矩形断面にしたものである。ロッドレンズは光束の角度成分を混ぜ合わせることになり照度むら、色むら、ちらつきなどを低減でき、また断面が円形の光束を矩形断面を持った光束に変換する働きをさせることもできる。これらはマルチレンズ式と同じ働きであるが、マルチレンズ式に比較して長所は光の平行度を損なわないことであり、欠点は集光・混合の過程を入れるため光源から画像パネルまでの光路長が長くなることである。

(3)ps 偏光分離変換素子

液晶パネルは電気信号により偏光角を回転させるタイプが多く、利用できる光はp 偏光かs 偏光の一方だけである。捨てられる方の光の偏光角を90 度回転し他方の偏光と混合して利用するps 偏光分離変換素子(18)が標準的に採用され始めた。ps 偏光の分離はブリュースター角に入射した光はp 偏光を100%透過す るがs 偏光の一部を反射する原理を応用したPBS(Polarized Beam Splitter)が使われる。偏光角を90 度回転させるにはプラスチックなどの複屈折物質を使う「2 分の1 波長板」が使用されている。図3.2.2-5 に代表的なps 偏光分離変換素子を示す(18)。図3.2.2-5 のps 偏光分離変換素子をそのままマルチレンズ式オプティカルインテグレータの前に置いた光学系が製品化されているが、オプティカルインテグレータの中に置く場合や、後に置いた光学系も製品化されている。図3.2.2-6 にオプティカルインテグレータの中に置いた例を示す(19)。ps 偏光分離素子に入射する光はブリュースター角から傾く先もありp 偏光成分も100%透過にはならず、同様にs 偏光も100%の利用はできないが、光源および光学系の進歩とともに光利用率の向上が期待される。

(4)ダイクロイックフィルター光合成プリズム

液晶パネルから投写レンズまでの距離を短縮して投射レンズの集光率をよくするためにダイクロイックフィルター付光合成プリズムが3 板式液晶用の標準的光学系として採用され始めた。図3.2.2-7 にをダイクロイックフィルター光合成プリズムを用いた全光学系の例を示す(20)

(5)単板式液晶用光学系

吸収フィルター形単板式液晶プロジェクターでは光利用率が3 分の1 になるためマイクロレンズ付液晶パネルによる3 色分離フィルター形単板式液晶プロジェクターが開発された(21)。3 色分離フィルターには干渉フィルター形(21)。のほか回折格子形、ホログラム形(22)などの提案がある。図3.2.2-8 に干渉フィルター形単板式液晶プロジェクターの液晶パネル照射系を示す。

3.2.2.8 終わりに

液晶パネルの開口率の向上と高精度化、アーク長1.0-2.5mm の極短アーク長寿命放電ランプの開発、オプティカルインテグレータ+ps 偏光分離変換素子+ダイクロイックフィルター付光合成プリズムの採用など、最近の数年の急速な進歩はめざましく、年来の目標であった部屋の照明下でも見られる600Lm程度のスクリーン光束が容易に得られるようになった。これが最近のノートブックパソコンの発達に呼応してデータプロジェクターが急速に拡大した要因であろう。今後、生産技術の進歩に伴う信頼性の向上と価額の低下も予想され、TV 用、モニター用などの液晶リアプロジェクター用途の拡大も期待される。

(ウシオ電機(株)技術研究所 東 忠利)

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