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光技術情報誌「ライトエッジ」No.15

特集 放電ランプ

(1998年11月)

1. 放電ランプの種類と概要

1.1 はじめに

光の技術はエレクトロニクス、メカトロニクス、ケミカル、バイオ、コミュニケーションなど数多くの分野で、最先端テクノロジーをサポートしてきました。ウシオは創立以来、光の専門企業として、光の創生と応用開発を続け、多くの製品群を生み出してきました。光の主役はあかりであった時代から、光がエネルギーとして利用される時代へと移りつつあります。光は電磁波の一種ですが、ウシオの係わってきた光源との関係を示すと図1-1のようです。産業分野の光はますますエネルギーとしての質が求められていることがわかります。

図1-1の中でハロゲンランプはタングステンのフィラメントを発光させるもので、白熱電球に分類されるランプですが、その他のランプはすべて放電ランプに分類されるものです。ハロゲンランプは複写機や自動車のヘッドランプなどに使用されてきましたが、その他にも加熱エネルギーとしての利用が広がっています。それについてはライトエッジNo.7に特集号として「光放射加熱」を発行いたしました。その次にNo.10に取り上げられたのは「読み取り機器用光源」でした。この特集号はスキャナなどの読み取り機器、複写機やプリンタなど記録機器、ファクシミリなどの伝達機器に使われる光源の現状と動向を述べたものです。

そこでもハロゲンランプのほかに放電ランプが大きな役割を果たしていましたが、本特集号は放電ランプをもっと詳しく解説することを企画しました。その中でもショートアークランプと呼ばれる、短い陰極と陽極の間から発せられる強い放射輝度を特長とするランプを中心におきました。そこでは光はあかりの延長としての機能ばかりでなく、半導体製造プロセスに見られるように、ウエハ製造から、組み立て、検査行程にいたるまで、光はものに機能を積極的に与えています。超高圧水銀ランプはウエハの露光工程に使用されているのは、よく知られていることです。次節1. 2では放電ランプの種類と概要をロングアークランプも含めて包括的にとりあげ、ショートアークランプの特長を際立たせるようにしました。第2章から第4章はそれぞれのショートアークランプの発光原理、動作、特徴、用途と点灯装置というような構成で詳しく記述しています。第6章はいろいろなショートアークランプにまたがる話題で、プロジェクタの現状と動向を、第7章は灯具を含めた応用機器と分割投影露光装置を述べています。

なお、記述した内容はすべて自社又は関係会社の製品だけに限定していることをお断りしておきます。

(甲斐 鎌三)

図1-1 ウシオの「光」と応用製品

1.2 放電ランプの種類と概要

ショートアークランプは非常に高い放射輝度1)または輝度2)を発生する光源である。それはキセノンランプではXeガス、超高圧水銀ランプでは高圧の水銀を動作させる放電ランプであり、発光管の直径に比べて短いアークという特徴によって特性化されるランプと定義されよう。定格出力とその応用にもよるが、そのアーク長は当社のカタログに見ると0.5mmから7mmぐらいの範囲にわたっている。一方ロングアークランプは、低圧のガスまたは高圧の水銀を封入するが、バルブ直径に比べて長いアークが特徴の放電ランプである。いずれにしても輝度はショートアークランプに比べると低い。ロングアークランプでは陽光柱が管壁に接触するのでプラズマは管壁安定型であるのに対して、前者においては、プラズマは二つの電極に支持されているのみであるので、電極安定型と呼ばれる放電の形態の違いがある。ロングアークのランプの管長あたりの輝度を高くしようと入力を増すと、管壁の温度も高温となるので水冷が必要になる。実際そのようなランプは水処理用などの高圧水銀ランプに見ることができる。蛍光ランプなどの低圧水銀ランプでは、入力に対する高ランプ効率を得る動作圧が定まっているので、必要以上に水銀蒸気の圧力を上昇させて効率を上げようとしても、逆に発光効率を低下させることになる。

いずれにしてもショートアークが高い放射輝度または輝度を得るのに都合が良いのに比べると、ロングアークランプのそれは低くならざるを得ない。しかし、ロングアークランプはその長さを生かした照明用の他にそれ以外の用途、UV光化学応用、塗料、接着剤およびコーティングのキュアリングなどに有用である。この特集号においては、放電ランプの特徴を知ってもらうために、その解説はごく簡単にとどめて、ショートアークランプにその重点をおいた。読み取り光源用については詳しい特集をNo.10(1997年9月)に行ったのでそれも合わせて見てもらいたい。バリアランプについてはもっと詳しい解説や論文がライトエッジNo.1、No.2、No.9、No.11 などに収録されているので参考にしてもらいたい。メタルハライドランプのロングアークの解説はライトエッジ誌上では今号が初めてである。

ショートアークランプにおいては、二つの近接した陰極と陽極によって支持されたアーク放電から強烈な光が放射される。従って、その特徴は高い放射輝度であり、これから疑似点光源としてレンズやミラー、ファイバなどの光学デバイスと組み合わせることによって光の集中、拡散、屈折、回折などが自由にコントロールできる光源という特徴が出てくる。さまざまな用途の要求に応じている。実際の用途に使われている基本的なランプは封入物で分けると、超高圧水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプおよびナトリウムランプの4つである。それらのうち前3者について解説するのがこの特集の主題である。この節ではこれらのランプの特徴と用途について表1をかかげ、簡単に説明する。

超高圧水銀ランプは365nmおよび436nmに利用価値の高い、幅の狭い線スペクトルを持つランプで、LSIや液晶の露光工程の中でステッパに搭載され、リソグラフィ用としてなくてはならない光源である(3章)。436nmはg線、365nmはi線とも呼ばれるが、LSIの高集積化とともに露光光源はg線からi線と移り、より短波長の方向に変化してきた。今256メガ以上DRAMの製造工程ではエキシマレーザを使用する動きが本格化している。といってもミックス・アンド・マッチで超高圧水銀ランプの需要はなお大きいと考えられる。

254nmは殺菌線と呼ばれ、185nmとともに低圧水銀ランプから強い線スペクトルが得られ、殺菌、光化学用での用途がある。しかし、この波長の光を効率よく得るランプはロングアークである。超高圧水銀ランプに代わり、より短波長のショートアークランプが検討されているが、成功していない。

キセノンランプの色は、種々あるランプの中でも真昼の太陽光のスペクトルに近い連続光に最も近い色のランプを提供している。キセノンショートアークは高輝度であるので、自然色を再現する光源として種々な光学系で種々な用途で利用される。映写機用で最初に大きな市場を獲得しているし(2.3節)、他にサーチライト(7章)やソーラーシミュレータ(2.4節)、内視鏡用(2.5節)などでもその特徴を発揮している。

メタルハライドランプが実用化されたのはショートアークの3つのタイプの中でも新しい。キセノンランプは自然光に近い白色光である点で優れたランプであるが、効率が30Rm/W程度と低いのが欠点である。メタルハライドランプは希土類金属やアルカリ金属ハライドを封入しているランプで、それらの分子発光によって、線スペクトルが互いに重なり合うほどに広くなり、連続スペクトル化している。その発光効率は80Rm/Wから120Rm/Wにも及ぶため比較的電極間距離の長い一般照明用で、最近急速に市場を広げてきた。最近、マルチメディア化の進化とともにOHPや液晶プロジェクタ(4.2節、6章)に用途が広がっている。後者では、新しいタイプのデバイスの開発にともなって、開口率の拡大とランプの一層の短アーク化で光利用効率の拡大がはかられている。

ナトリウムランプは、Naとバルブが反応しない透光性アルミナの出現により、Naの封入が可能になり、発明されたランプである。可視光領域の効率が水銀ランプに比べて非常に高いので、経済性がよく一般照明に使われる。この特集では触れない。

このようにショートアークランプの陰極先端は2700°C以上にも及ぶものがあり、また陽極には大きな電流密度の電流が流れ込むので、電極の損耗をいかに長い時間にわたって抑えるかがポイントになる。それを適切に抑えないと、黒化や失透など透過率の低下やアークのちらつきなどが起こり、光学系を通ってくる光利用にとって重大な不具合が起きることがある。技術的には電極、ゲッタの設計技術と製造時にランプ中に持ち込まれるガスならびに部材からの放出ガスの脱ガスを含む雰囲気制御が大事となる。

(甲斐 鎌三)

表1-1 放電ランプの種類と用途

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