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光技術情報誌「ライトエッジ」No.15

特集 放電ランプ

(1998年11月)

4. メタルハライドランプ

4.1 原理と特性、構造、用途

4.1.1 発光原理

メタルハライドランプは高圧水銀蒸気中に種々の金属ハロゲン化物(メタルハライド)を添加した高圧放電ランプであり、添加する金属が多様に選べるために非常に変化に富んだ放電ランプがえられる。メタルハライドランプにおいては水銀は主として緩衝ガスとして働き、所望のランプ電圧を得る役割りを果たす。

メタルハライドランプにおいて発光金属をハロゲン化物の形で用いる理由は以下の通りである。

(1)多くの金属は蒸気圧が低く、石英ガラスの耐熱温度700°C~800°Cで発光に寄与するに十分な蒸気圧が得られないのに対し、沃化物や臭化物のようなハロゲン化物にすると、ほとんどの金属ハロゲン化物が高い蒸気圧を示すことを利用する。封入された金属ハロゲン化物は高圧放電灯のアーク中心近くでは大部分が解離するため、高い金属蒸気圧が得られる。アーク中心の金属蒸気が石英管管壁近くに近づくとハロゲンと再結合し、金属ハロゲン化物に戻り、高い蒸気圧を維持する(このような機構をハロゲンサイクルという)。

即ち、MXn(低温部)⇔ M+nX(高温部)

(M:金属原子、X:ハロゲン、n=1、2、…)

(2)比較的高い蒸気圧を持つ金属もあるが、そのような金属は石英ガラスを侵す場合が多い。金属単体では石英ガラスを浸食する金属でもハロゲン化物にすると石英ガラスを浸食しなくなるため、この効果を利用する。この代表的な例がナトリウムなどのアルカリ金属である。

図4-1に代表的な金属とそのハロゲン化物について蒸気圧を示す。

図4-1 主要な金属と金属ハロゲン化物の温度―蒸気圧特性

4.1.2 金属ハロゲン化物の分類

メタルハライドランプに封入される金属ハロゲン化物の発光特性は大きく2種類に分けられる。一つは少数の強力なスペクトル線を発光する金属のハロゲン化物であり、もう一つは可視領域で連続的な分光分布を発光する金属ハロゲン化物である。後者は金属原子が連続的に分布した多数のスペクトル線を発光するものと金属ハロゲン化物分子が連続スペクトルを発光する場合とがある。また発光させることが目的でなく、アークの安定や他の金属ハロゲン化物の発光の増大を目的に封入される物質もある。ハロゲンとしては沃素と臭素が使用され、塩素とフッ素は反応性が強すぎるため一般には使用されない。

  • (a)少数の強力な発光スペクトル線を発光する金属:ナトリウム(Na 589nm)、リチュウム(Li670nm、611nm)、タリウム(T l 535nm)、インジウム(In 451nm)、ガリウム(Ga 410nm)、カリウム(K 766nm、770nm)など。
  • (b)多数のスペクトルを発光する金属:スカンジウム(Sc)、ジスプロシウム(Dy)、ネオジウム(Nd)、ツリウム(Tm)、ホルミウム(Ho)、トリウム(Th)、鉄(Fe)など。
  • (c)金属ハロゲン化物の分子の連続スペクトル発光を利用するもの:ハロゲン化錫(SnI2, SnBr2)、ハロゲン化インジウム(InI, InBr)など。
  • (d)メタルハライドランプに封入される金属ハロゲン化物には、発光させる目的でなく、アークの安定化や発光する金属ハロゲン化物の蒸気圧の増大を狙って封入する場合もある:ハロゲン化セシウム(CsI, CsBr)、ハロゲン化アルミニュウム(AlI3, AlBr3)など。

4.1.3 メタルハライドランプの種類と用途

メタルハライドランプの用途を大きく分けると、一般照明用、投光照明用、光学機器用、光化学用などがあり、各用途に応じて、寿命と効率、輝度などの優先度合いが異なり、設計が違っている。屋内および屋外のスポーツ競技場、商店展示場、など蛍光ランプは使い難く水銀ランプでは演色性に不満のある場所の照明に使用されている。

(1)一般照明用ランプ

一般照明用ランプでは白色光で高効率である必要がある。一般照明用途では寿命に比較的重点があり、封入物質としてつぎのようなハロゲン化物の組み合わせが使用されている。

  • ①沃化インジウム+沃化タリウム+沃化ナトリウム(図4-2に分光分布)
  • ②沃化スカンジウム+沃化ナトリウム(図4-3に分光分布)
  • ③沃化錫(図4-4に分光分布)
  • ④沃化ジスプロシウム+沃化タリウム(+沃化ナトリウム)(図4-5に分光分布)

などがある。

約30年前のメタルハライドランプの開発の初期に①の少数スペクトルの組合せによる白色高効率光源が開発され、続いて②が開発された。さらに金属ハロゲン化物の分子発光を利用した高演色性の光源として③が開発された。②の組合せや更に演色性を高めるため沃化ナトリウムを添加したタイプの70W―1kWランプが標準的なメタルハライドランプとして多く生産されている。

その後、メタルハライドランプの製造技術の向上と共に、高効率で高演色性の特性を持つ④の稀土類ハロゲン化物入りのメタルハライドランプも実用化された。④の寿命は約5000時間で②の9000時間程度に比較してやや短いが、高演色性の必要な場所の照明に使用されている。

一般照明用ランプは図4-6に示すように石英ガラス製発光管(放電管)を硬質ガラス製または石英ガラス製外管に封入し、外管内は真空または窒素ガスを封入し、また水素ゲッターや始動器を設置する。

一般照明用メタルハライドランプが使用されている主な場所は、高天井のビアホール、大小の屋内および屋外のスポーツ競技場、商店展示場、など蛍光ランプは使い難く水銀ランプでは演色性に不満のある場所の照明に使用されている。

図4-2 [沃化ナトリウム+沃化タリウム+沃化インジウム]封入ランプの分光分布

図4-3 [沃化スカンジウム+沃化ナトリウム]封入ランプの分光分布

図4-4 [ハロゲン化錫]封入ランプの分光分布

図4-5 [沃化ジスプロジウム+沃化タリウム]封入ランプの分光分布

図4-6 一般照明用メタルハライドランプの構造例

(2)投光照明用

投光照明には一般照明用ランプを使用することも可能であるが、年間使用時間が比較的短いスポーツ競技場の投光照明用として一般照明よりも短アークの稀土類ハロゲン化物入り高演色性高効率ランプが使用されている。封入物は一般には稀土類金属のジスプロシウム、ツリウム、ホルミウムのハロゲン化物が使用され、放電の安定化のためと寿命改善のためにハロゲン化セシウムが添加されている(図4-7に分光分布の例を示す)。入力電力1kW, 1.5kW, 2kWなどのランプが野球場、サッカー場などの投光照明に使用されている。アーク長は20mm~30mmであり、寿命は2000時間~3000時間である。

また映画撮影やTV撮影用にもほぼ上記と同等の稀土類ハロゲン化物入りランプが使用され、入力電力575W, 1.2kW, 1.8kW, 6kWなどのランプが使用されており、寿命は1000時間程度である。

一般照明用ランプと投光照明用ランプの主な違いは、後者は反射鏡との組合せのため外管を使用しないこと、アーク長を短くしていること、寿命は短くても高演色性、高効率を重視した設計になっていることである。

投光照明用ではヨーロッパでは[ナトリウム、タリウム、インジウムまたはガリウムのハロゲン化物]あるいは[錫、インジウムのハロゲン化物]などの封入物を使用したランプも製品化されている。

図4-7 [沃化ツリウム+沃化ホルミウム+沃化ジスプロシウム]封入ランプの分光分布

(3)光学機器用

最近、パソコンデータおよびTV画面の拡大投射用の液晶プロジェクタが急速に発達しており、特にデータプロジェクタの普及が著しい。液晶プロジェクタ用光源には初期にはアーク長5~6mm程度の矩形波交流点灯型の稀土類ハロゲン化物入りメタルハライドランプが使用されたが、現在は長寿命が得られる直流点灯型稀土類ハロゲン化物入りメタルハライドランプになり、アーク長も3.5mm以下のランプが一般的に使用されている。150Wではアーク長1.5mm, 250Wと270Wのランプではアーク長2.3mm、350Wと400Wランプでアーク長3.5mm程度の設計が多い。封入物は初期の交流点灯型ランプでは[ジスプロシウム、ネオジウム、セシウムの沃化物]が使用されたが、現在の直流点灯型ランプでは基本的には[ジスプロシウム、インジウム、セシウムのハロゲン化物]が使用されている。液晶プロジェクタ用途では回転放物面鏡、または回転楕円面鏡のリフレクタに組み込んで用いられる。図4-8に発光管単体の構造を示す。

光学機器用ランプの第2の用途としてOHP用ランプがある。この用途も点光源型の高演色性、高効率ランプが望まれ、アーク長6~10mm程度の稀土類ハロゲン化物入りメタルハライドランプが使用されており、定格電力250W, 400W, 575Wの矩形波交流点灯型ランプが用いられている。

光学機器用ランプの第3の用途としてファイバ照明用ランプがある。150W, 250Wなどの矩形波交流点灯または直流点灯型ランプが回転楕円面鏡と組み合わせて用いられている。ファイバ照明はプラスチックファイバまたはプラスチックチューブを使ったネオンサイン的な装飾用や道路標識用、ランプ取り替えの不便な場所、電機の導入を嫌う場所、さらにはショウウインド照明、美術館照明、天井用点光源などとして使われる。

図4-8 直流点灯型メタルハライドランプの構造例

(4)光化学用

光化学用ランプはメタルハライドランプの発光波長が自由に選べる点を生かして、特定の波長域に効率よくスペクトル線を発光させたランプである。発光波長は近紫外線から可視光成分まであり、代表的な封入物はハロゲン化ガリウム、ハロゲン化鉄、沃化インジウム、沃化タリウム、沃化ナトリウムなどである。特に近紫外線用封入物としてハロゲン化ガリウム、ハロゲン化鉄が使用される。メタルハライドランプはアーク軸に沿っての輝度むらができやすいため比較的コンパクトなランプとして用いられ、ロングアークでアーク軸に沿って均一な輝度が必要な場合は水銀ランプが用いられる。

用途は、写真製版、プラスチックの硬化、塗料乾燥用、ある種の化学反応用などである。

表4-1にメタルハライドランプの種類と用途をまとめる。

(東 忠利)

表4-1 メタルハライドランプの種類と用途

4.2 画像プロジェクタ用光源

光学機器用メタルハライドランプの用途の一つである液晶プロジェクタなどの画像プロジェクタはデータプロジェクタ用を中心として最近、著しく生産が増大している。

液晶プロジェクタ用メタルハライドランプは1983年の製品化後、矩形波交流点灯型ランプが使用されていたが、1994年に短アーク長化と長寿命化が容易な直流点灯型ランプが当社で製品化されてから、直流点灯型メタルハライドランプがプロジェクタ用ランプの主流となった。交流点灯型メタルハライドランプにも初期効率が高い特長がある。

さらに最近、小型超高圧水銀ランプが点光源への要求に極めて近いランプとして実用化された。

4.2.1 直流点灯型メタルハライドランプ

直流点灯型メタルハライドランプは交流点灯型ランプの寿命特性の改善のため開発されたランプであり、アーク長の短縮に対して寿命特性があまり犠牲にならない特長がある。

電力定格150Wのランプでアーク長1.5mm、250Wランプで2.2mm、350Wランプで3.5mmなどのアーク長も可能であり、このような短アーク長のランプでも寿命2000時間程度が得られる。表4-2にランプ定格の例を示す。図4-9にアーク長2.2mmの260Wランプの分光分布、図4-10に同ランプの輝度分布を示す。

直流点灯型ランプには点灯回路が小型、安価になる長所もある。

図4-9 直流点灯型260Wメタルハライドランプの分光分布(アーク長2.2mm)

表4-2 代表的なメタルハライドランプの定格例

図4-10 直流点灯型260Wメタルハライドランプの輝度分布(アーク長2.2mm)

4.2.2 交流点灯型メタルハライドランプ

交流点灯型メタルハライドランプには初期効率が高い特徴があり、またランプ内の発光むらも直流点灯型ランプより小さい。従ってオプティカルインテグレータを使用しない場合はアーク長が適当に長い交流点灯型ランプの方が使い易いと言える。

交流点灯型ランプでは150Wでアーク長3~4mm、250Wランプで3~5mm程度が標準である。図4-11にアーク長3mmの交流点灯型250W ランプの分光分布の例を、図4-12に輝度分布の例を示す。

図4-11 交流点灯型250Wメタルハライドランプの分光分布(アーク長3.0mm)

図4-12 交流点灯型250Wメタルハライドランプの輝度分布(アーク長3.0mm)

4.2.3 超高圧水銀ランプ

プロジェクタ用の小型超高圧水銀ランプが最近製品化された。超高圧水銀ランプの水銀動作圧力を100気圧~200気圧程度にすると連続スペクトル成分が著しく増大し、色温度8000K 程度の高色温度光源が好ましいプロジェクタ用光源には好適なランプになる。水銀動作圧力を100気圧以上にするとアーク長1mmのランプでも65V以上のランプ電圧が得られるため短アーク長のランプの設計が容易になり、安定器も小型、安価になる利点がある。また水銀の発光スペクトルはアーク温度が高い領域でのみ発光強度が高いため発光断面積が小さく、短アーク長と相まって点光源に適している。

現在製品化されているプロジェクタ用超高圧水銀ランプは定格電力100W~150Wであり、アーク長1~1.4mmである。直流点灯型ランプと交流点灯型ランプとがあるが超高圧水銀ランプの場合は単一発光体であるため発光特性や寿命には大きな違いはない。

図4-13に直流点灯型150W超高圧水銀ランプの分光分布を示し、図4-14に輝度分布を示す。

図4-13 直流点灯型150W超高圧水銀ランプの分光分布(アーク長1.4mm)

図4-14 直流点灯型150W超高圧水銀ランプの輝度分布(アーク長1.4mm)

4.2.4 画像プロジェクタ用照明系

プロジェクタ用ランプの光束を画像パネル上に高品質の光として効率よく導くために種々の光学素子が使用される。

  • (1)赤外線及び紫外線を除去した光を効率よく画像パネルに導くために、反射面としてダイクロイックミラーを付けた回転放物面または回転楕円面の反射鏡にランプを組み込んで使用する。図4-15に反射鏡組み込みランプの例を示す。
  • (2)画像パネルを均質な光で均整度よく照明するためにレンズアレイまたはロッドレンズなどのオプティカルインテグレータを使用する。オプティカルインテグレータは照度分布を一様化するほか、色むらやちらつきを低減し、断面が円形の光束を矩形に変換するなどの効果をもたらす。
  • (3)偏光方向を回転するタイプの液晶パネルを使用する場合は、光の有効利用を図るためps偏光分離変換素子を利用する。

上記の各光学素子の働きを十分に発揮させるためには光源は点光源であるほどよく、アーク長の短い、発光断面の小さいランプが望ましい。

これらの光学系を使用した透過型液晶プロジェクタの光学系の一例を図4-16に示す。このような光学系により開口率56%のXGA液晶の使用でも4~10%程度の光利用率が可能になった。

(東忠利 蕪木清幸)

図4-15 反射鏡付きプロジェクタ光源の構造例

図4-16 三板式液晶プロジェクタ光学系の一例

4.3 点灯装置

ハロゲン電球や白熱球、懐中電灯などフィラメントを有するランプは、ランプ間にしかるべき電圧を印加するだけで点灯する。

一方、メタルハライドランプなど放電ランプは、白熱電球の点灯ほど簡単ではない。放電ランプの点灯は、大きく分けて3つの段階から成る。

  • ①ランプ電極間に、放電経路を作る(1µsのオーダ)
  • ②放電経路の電流を維持・増大しながら、安定放電に移行するように、時間変化するランプ電圧に沿った制御を行う(1µs~数minのオーダ)
  • ③ランプが安定状態になったら、ランプ電力を一定になるように制御する(点灯から、数min経過後の点灯中全期間)

放電ランプを点灯することは、上記3点を満足すれば可能である。

しかし、ランプ寿命末期まで確実に点灯し、かつランプの点滅時の損傷を最小限に抑えようとすると、ランプ特性に合った制御が必要になる。

ランプ電極間に放電経路の種火を作る機器が、始動器(イグナイタ)で有り、ランプ特性に従った制御を行うのが安定器(バラスト)である。メタルハライドランプは、使用目的で、道路照明・店舗照明などの分野と、液晶プロジェクタなどでつかわれるものに大別でき、各々のランプで、安定器に要求される内容が異なる。

4.3.1 イグナイタ

放電経路を作る(ランプ電極間の絶縁を破る)ものが、イグナイタである。イグナイタと同義の形で使われている言葉に、スタータがある。

この2つの言葉には、明確な定義の違いがあり、使い分けなければならない。定義は、JIS Z-8113に規定されており次の通りである。

イグナイタ(ignitor)

それ自体でまたは他の素子と組み合わせることによって、電極の予熱は行わないで、放電ランプを始動するためのパルス電圧を発生する装置。

スタータ(starter)

電極に必要な予熱を与え、これとともに安定器との組合せによってサージ電圧を生じさせ、蛍光ランプなどを始動する装置。

このように定義の違いは、電極予熱の有無である。メタルハライドランプの点灯は、電極の予熱は行わないので、JISの定義からイグナイタとなる。

  • ・ランプ電極間に必要な絶縁破壊に必要なパルス電圧を発生する
  • ・ランプの放電経路(絶縁破壊)が起きたら、その後の電力損失は少ないこと

メタルハライドランプ用のイグナイタは、上記の目的を満足するため、コンデンサに蓄えたエネルギーをトランスで昇圧し、パルス電圧を作り出すのが一般的である。パルス幅、パルス電圧の繰り返し回数、印加極性、無負荷開放電圧との関係、ランプの瞬時再点灯を考慮するか否かなどの個々の要求により、パルス電圧の値自体は、決定される。

液晶プロジェクタは、客先装置が小型・軽量を望むので、狭パルス幅、比較的高いパルス電圧(0.1µs程度、13~20kV程度)で設計するのが普通である。。

一方、一般照明に使われるものは、広パルス幅、低いパルス電圧(50µs程度、2~3kV程度)に設計する。

イグナイタは原理的に、安定器と放電ランプの経路に直列に入れる方式(内部トリガ方式)と、放電ランプの外部から並列にパルス電圧を印加するタイプ(外部トリガ方式)に分けられるが、メタルハライドランプには、内部トリガ方式が用いられる。

4.3.2 各種ランプの電圧・電流特性

白熱電球と放電ランプでは、次に示すように印加電圧と電流の関係が異なる。

  • ①白熱電球は室温で、フィラメント抵抗は小さいが、ジュール加熱で抵抗値の増加が生じ、印加電圧が一定であれば、ある抵抗値に落ちつく。定格電圧付近では、ほぼ定抵抗と等価になり、オームの法則が成り立つ。抵抗値を決めるランプパラメータは、フィラメントの径、長さなどがある。
  • ②メタルハライドランプを始めとする水銀封入の放電ランプは、電流値に余り依存しないで電圧が決まる特性(定電圧特性)を示す。

これらの関係は、模式的に図4-17のようになる。

メタルハライドランプは、イグナイタにより放電経路が形成した瞬間は、ランプ内の水銀は室温での蒸気圧しかない。この時間内は、水銀と共に封入されているアルゴンガスのみの、発光になる。

点灯直後は水銀が完全蒸発に至っていないので、ランプ電圧は低い値になり、その値は10~20V程度と、定格電圧の数分の1程度しかない。ランプをなるべく早く安定状態に移行させるためには、発光管の温度を早く上げる事や、プラズマ温度、封入物温度を早く上げるしかない。

ランプ温度を早く上げるには、電流値を増やして投入電力を上げることになるが、投入可能な電流値の限度は電極などの損傷とトレードオフの関係になるので、ランプの電極径、シール部の構造などから、限度値が存在する。おおよそ定格電流値を基準にして、その1.5倍前後の値を採用する。従って、点灯初期は、定格に対し数分の1のランプ電力で点灯する事になる。

点灯から20秒前後すると、ランプ内部の水銀蒸気圧が上がり始め、急激にランプ電圧は上昇しだし、2~3分すると、ほぼ定格電圧に近い値になる。

ランプが安定するまでの時間は、ランプ立ち上がり途中の外部強制空冷状態、レフやランプ前面ガラスの有無などの影響で増減する。

ランプ安定までの期間、安定器にはランプ電圧を観測しながら、電流制御を行わせる。従って光の立ち上がりは、ほぼランプ電圧の挙動に連動した関係に成る。

図4-17 ランプの電圧・電流特性

4.3.3 安定器の種類

放電ランプは、近似的に定電圧特性を示すので、ランプ電流を制御する手段をもうけなければならない。

電流制限手段は、簡単には抵抗を直列に挿入することでも良いが、発熱処理と安定性、取扱の複雑差などから一般には使用されていない。

実際に使用されている放電ランプ電流制限手段には、2通りある。

  • ①ランプと直列に制御素子を挿入し、ランプ電圧との電圧和が常に一定(=電源電圧に比例した値に等しくする)とする方法
  • ②ランプ電流を観測し、一定値に維持する手段を持たす方法

古くから使われているのが、鋼板に銅線を巻き付けた安定器(一般的には銅鉄型と称するが、正式には磁気回路式安定器)で、上記①の制御を行っている。

磁気回路式安定器を使った時動作特性は、図4-18 1)の道程で示すことができる。曲線LNが磁気漏れ変圧器の二次側の電流―電圧特性、曲線ABが放電ランプの電流―電圧特性とすると、点Pが動作点となるように、点灯中の電流は曲線OQ、電圧は直線ORのように変化する。

磁気回路式安定器の特長は、以下のようである。

長所:安価。回路がシンプルなので故障が少ない。

短所:受動部品で構成するので定電力特性が悪い。大きく重たい。

安価で故障が少ない特長から、道路照明・店舗照明などの用途に使われている。

磁気回路式安定器の欠点を補うものに、電子回路式安定器がある。電子回路式安定器は、能動型の電子回路構成で上記②の制御を行っている。その特長は、磁気回路式安定器と逆の関係になり、液晶プロジェクタなどでは可搬性に主眼を置いた装置に使われることが多い。

図4-18 漏れ変圧器による放電ランプの点灯

4.3.4 安定器の制御

お客様の要求は、ランプが確実に点灯し、かつ一定な光が出ることにつきる。確実な点灯を行わせることは、イグナイタと安定器の点灯初期の役目であり、ランプと安定器の特性を合わせる(マッチングをとる)のは、基本的にはランプ特性を把握する事から始まる。

安定器設計において考慮すべきランプ関連の項目は、例えば表4-3 1)のようである。表1の他に、個々のランプに応じたイグナイタ波形などが、設計上の管理点になる。その管理点は、点灯からほぼ1秒の間の項目が大多数を占める。

ランプ点灯後、一定な光が出るまでの制御は、安定器の重要な役目になる。一定な光を出すための一定電力の維持が重要だが、放電ランプにつきまとう音響共鳴現象が発生する周波数、リップル領域の除去も重要である。

ランプは近似的に定電圧特性を示すので、ランプ電力を一定にするために、安定器は定電流制御を行う。ランプに流れる電流値を検出し、目的値に合うように電流値の増減を行うのである。しかしランプ電圧は、完全な定電圧挙動ではないし、ランプ極間の摩耗や、周囲温度の影響など、点灯時間の経過に伴って変化するのが一般的である。

ランプ電圧の変化度合いは、電極などにも依存するが、通常30V程度考慮しなければならない。従ってランプ定格電圧も、製品公差として±10~15V程度の幅を設けている。ランプ電圧値は、ランプと並列に抵抗を挿入し、分圧するのが一般的である。

安定器は、定格電圧のバラツキ、使用時間により変わる上昇値を勘案し、ランプへの定電流の変動範囲を決める。ランプ電流値は、回路途中に微少抵抗を挿入し、電流―電圧変換することで得られる。

定電力化の実現は、図4-19Aおよび19Bに示すように、2つの方式が考えられる。ひとつは、電流値と電圧値を、かけ算回路を使い、電力値を認識する方法である。他方は、定電力曲線の接線は直線に成ることを利用し、電流値と電圧値の観測値を足し算で求め、定電力値に近似する方式である。

前者は、完全な定電力に成るが、回路が複雑になりコストアップの欠点がある。

後者は、単純な回路構成だが、定電力特性が劣る欠点がある。

ランプは設計思想と使用目的に応じて、ACランプとDC ランプがある。しかし安定器は、いずれのランプ種類に対しても対応可能というわけではない。磁気回路型安定器は、商用周波数(50/60Hz)をそのまま使うので、ACランプ専用になる。

電子回路型安定器は、商用周波数を一度直流に変換し、定電力制御を行った上で、ランプ種類に応じた制御回路が付加される。従って、DCランプ、ACランプ何れにも対応可能である。

DCランプ制御では、ランプが必要とする無負荷開放電圧と、点灯から安定にいたる電圧の変化特性などから降圧チョッパ回路の出力を平滑し、そのまま使うことが一般的である。

ACランプ用は、照明用ランプは商用周波数(50/60Hz)そのままを使うが、液晶プロジェクタなどは、矩形波を使うのが多い。

メタルハライドランプの高周波(数10kHz)点灯は、音響共鳴現象が存在する領域があり、回避策として高周波化する方策が提案されているが、半導体素子損失の増加や、ノイズ規制への対応などで課題も多い。音響共鳴が起きにくい領域の高周波周波数を使って定電力制御を行い、4石式フルブリッジ回路で点灯する方法が一般的である。

定電力制御は、DCランプと同じく降圧チョッパー回路を使い、DC・AC 変換部は4石式フルブリッジ回路が多く波形は、矩形波になる。

矩形波でランプを点灯することは、簡便な回路の構成、音響共鳴の回避、ランプの再点弧特性など利点が多い。欠点は、部品点数増加から大きく成ることと、コストアップの要因がある。矩形波周波数は、数100Hzを使う。

ACランプといえども、点灯の瞬間は、ランプ電極も安定動作に移行できる状態になっていないので、一時的に直流点灯したり、矩形波を低周波の周波数にするなど、工夫が必要になる。

(山本智弘)

表4-3 照明用HIDランプの設計諸元と特性の関係

図4-19A 電流と電圧の関係

図4-19B 電圧と電力の関係

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