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光技術情報誌「ライトエッジ」No.16

第43回 人工結晶討論会 1998年(平成10年)11月12~13日
1A7

(1999年3月)

CsB3O5単結晶の育成

Single crystal growth of CsB3O5
(阪大工*、ウシオ総研**)○影林由郎*、**、森勇介*、佐々木孝友*
*Department of Electrical Engineering, Faculty of Engineering, Osaka University
**USHIO Reseach Institute of Technology Inc. (URIT)

1.はじめに

非線形光学結晶CsB3O5(CBO)は、167nmまで透過する、大きい複屈折率を有する[1]、紫外域においてより大きい実効非線形光学定数を持つ、β-BaB2O4やLiB3O5で実現できなかった185nmまで位相整合可能である[2]、などの良好な特性を持つことから、深紫外光発生材料として注目されつつある。WuらはCBOの光学特性などを評価したが[1]、結晶育成についてほとんど記述されておらず、これ以外でも現在までにCBO単結晶の育成方法についての報告がない。全個体深紫外光源の開発において、高品質なCBO結晶の育成条件の確立が重要な要素となる。今回、カイロポーラス法を用い大型CBO単結晶に成功したので報告する。

2.実験

CBOはコングルエントメルトする材料であるが[3]、結晶育成の容易さからセルフフラックス法を用いた。B2O3リッチの組成は粘性が高くなるので、フラックスとしてCs2Oリッチの組成を選択した。出発組成は、示差熱分析によりCBOの融点より3°C低いB2O3/Cs2O3=1/2.75とした。原料として、Cs2O3、B2O3(いずれも3N)を用いた。結晶育成装置として、均一な炉内温度分布を得るため、5層抵抗加熱炉を用いた。坩堝は白金製で、100mmΦ×100mmの大きさとした。成長時の温度降下速度を約0.1°C/dayとし、シード回転数を変化させて育成を行った。結晶の均一性を調べるために、脈理検査とHe-Neレーザーによる干渉波面を測定した。

3.結果と考察

育成の初期にシード回転を30r.p.m.(3分毎に反転)で結晶を育成し、育成5日後、回転数を25r.p.m.に低下させた。育成終了後の結晶を図1に示す。回転数を低下させた時期に対応して、多結晶化している。この場合においてシード方位は特定しなかったので、〈100〉軸シードを用い、シード回転数60r.p.m.で育成した結晶を図2に示す。育成日数14.5日間でa×b×c=45×41×44mm3の大きさの結晶が得られた。図より、インクルージョンやクラックがないことがわかる。以上のことから、シード回転数の増加により溶液の撹拌が十分に行われ、原子の配置がスムーズに行われた結果、大型の単結晶が得られたと推察できる。また今回の条件下において、シード回転数25r.p.m.から30r.p.m.の間に高品質化に必要とされる回転数の境界があると推測できる。

シード回転数60r.p.m.で育成した結晶の屈折率均一性を調べるために、脈理検査を行った。脈理検査は以下のようにして行われる。サンプルに白色平行光を入射すると、屈折率異常の部分で入射光が屈折し、スクリーンに到達せず、結果として、屈折率異常が像の暗部として検出される。図3は8×7×5mm3のサンプルの脈理検査結果を示す。今回スクリーンの代わりに5×5mm3のCCDを用いたため、4枚の写真を張り合わせている。像に明瞭な陰影がないことから、脈理などのマクロな不均一性がないことがわかる。さらに屈折率均一性を調べるために、He-Neレーザーを光源としたフィゾー干渉計を用いて透過波面測定を行った。これは屈折率異常があると光路長が変わるため、異常のある部分で干渉パターンが変化することを利用している。図4に透過波面の干渉パターンを示す。干渉パターンが均一であることから、屈折率が均一であることがわかる。

図1. シード回転数30rpmから25rpmで育成した結晶

図2. シード回転数60rpmで育成した結晶

図3. 脈理観察像

図4. フィゾー干渉計による透過波面像

4.まとめ

カイロポーラス法において非線形光学結晶CsB3O5(CBO)の大型単結晶育成に成功した。育成した結晶の大きさは、a×b×c=45×41×44mm3で、目視において、クラックやインクルージョンなどは見られなかった。同一条件下で育成した大きさ8×7×5mm3のサンプルにおいて、脈理検査、フィゾー干渉計による透過波面観測を行い、得られた結晶の屈折率が均一であることを証明した。

参考資料

表1.Outline

表2.はじめに

図1. 193nm発生用全固体レーザーの構成

表3.非線形光学結晶の比較

表4.本実験の目的

表5.育成条件

図5.Cs2O-B2O3系相図

図6.CBO結晶(シード回転数:30rpm→25rpm)

図7.多結晶化の考察

図8.CBO結晶(シード回転数:60rpm)

図9.脈理観測実験装置

図10.脈理観測結果

図11.フィーゾー干渉計実験配置

図12.フィーゾー干渉計透過波面

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