USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.19

第5章 特集 映像…デジタル化時代に向けて

(2000年7)

5. 映像産業とウシオグループ

5.1 世界最強のデジタル映像集団へ
----ウシオグループの現状と展望----

5.1.1 世界のシネマ業界にデジタル化の波

(1) 1999年、劇場デジタル映画の胎動

1999年春、フィルムを使わないデジタル映画『スターウォーズ:エピソード1』が米国で初めて劇場公開され、大反響を呼びました。その後、『ターザン』や『トイ・ストーリー2』などの作品が、テキサス・インスツルメンツ社のDLPを搭載したデジタル映写機(プロトタイプ)でヨーロッパやアジアも含め、次々と公開され、すでに50万人もの映画ファンが未来型デジタル劇場映画を体験しました。そのうち、9割までの人が「フィルム映画よりもデジタル映画の方がいい」と答えています。フィルムと全く引けを取らない鮮明画像で、しかも配信や設備の面で数々のメリットを持つデジタル映写方式の大成功によって、世界中の映画館は5~6年のうちにフィルムベースからデジタルベースに切り替わっていくと見られています。

(2) 映画館がエンターテインメント・スペースに

テキサス・インスツルメンツ社が映画上映専門に開発したデジタル投影技術「DLPシネマ」は、無数の極小ミラーの角度を高速変化させることで画像を作りだし、スクリーンに投影させる技術です。

この光学エンジンを搭載したデジタル映写機の商品化が、今、ウシオグループの中で着々と進められています。これらが映画館に設置されると、いろいろなことが起きるといわれています。たとえば、これまでの映画館では、観客は映画を見終われば帰るだけでしたが、今後は、映画館に足を運ぶだけでスポーツやオリンピック観戦、コンサートも楽しめるようになります。観客が一堂に会するゲーム、映画館同士や国を越えての映画館同士の対戦ゲームもできます。これらのエンターテインメントが実現されれば、観客の映画館滞在時間は、従来の2~3時間から、その倍に増えるとも見られています。

(3) 低コストで映画館の経営が

デジタル映写システムの導入は、劇場側にとっても、数多くのメリットを生み出すことができます。ひとつは映画館そのもののエンターテインメント化による集客量の増大があげられます。またひとつは、デジタル映写システムはフィルム映写システムよりも小スペースで設置でき、映画館の開設コストが20%削減可能と見られています。さらにデジタル映写システムは、フィルムを運ぶ必要がないため、映画の配給コストとしてはばかにできない物流費の削減につながることも見逃せません。

5.1.2 ウシオグループのデジタル映写システムへの取り組み

(1) 劇場映写機のトップメーカ・クリスティ社が傘下に

ウシオは「デジタル映像・画像」「高密度エレクトロニクス実装」「半導体露光」の3つの基盤産業に根ざした次世代事業を柱にして、さまざまな部門でその取り組みを始めています。デジタル映像技術の具現化は「デジタル映像・画像」事業の一環といえます。幸いにもウシオは、創立以来、映写機用ランプの製造・販売を通して、シネマ業界と密接な関係を築き上げてきております。その間、映画機材を映画館に納入する日本ジーベックス社(現ジーベックス社)の設立に参画し、映写機メーカ、機材メーカともつながりを深めてきました。そして、1992年、ランプの納入先であった米国の劇場映写機メーカ・クリスティ社を買収し、このことによってウシオは、劇場映写システムをトータルに製造・販売する集団になりました。

最近では多くのスクリーンを持つシネマコンプレックスやマルチコンプレックスなどが世界的に広がり、需要が一気に5倍、10倍と膨れ、クリスティ社の業績は飛躍的に拡大し、世界のトップメーカとなっています。

図5-1 クリスティ社の劇場映写機

(2) デジタル映像技術を持つエレクトロホーム社も仲間に

カナダのエレクトロホーム社は、監視制御システムや各種高性能プロジェクタで世界ブランドを築き上げている伝統あるメーカです。特に優れたデジタル映像技術を有することで定評があることから、ウシオは、未来型デジタル映写機の開発パートナーとして、ウシオグループ参画を呼びかけていました。そして1999年、エレクトロホーム社・映像機器事業部門は、正式にウシオグループに仲間入りいたしました。これにより、同事業部門は、新たに「クリスティ・デジタル社」と社名を変え、クリスティ社と連携をしながら「デジタル映像事業」を展開していくこととなりました。

図5-2 エレクトロホーム社の監視制御システム

図5-3 買収契約の調印式で、契約成立を祝うエレクトロホーム社のジョン・ポロック会長(写真:左)と当社社長/COO田中昭洋(写真:中央)、クリスティ社会長の飯野淳夫(写真:右)

(3) テキサス・インスツルメンツ社と光学エンジンの独占供給契約

米国第二位の半導体メーカであるテキサス・インスツルメンツ社は、近年、デジタル信号素子に注目して、高精細で色表現やコントラストに優れたDLPの開発に成功し、業績を急成長させてきています。

ウシオグループ・クリスティ社は、2000年3月、劇場用デジタル映写機に用いるこの光学エンジンの独占供給契約を同社と締結し、クリスティ・デジタル社と共に、いよいよ未来型デジタル映写機の開発に本格的に取り組むこととなりました。

図5-4 今回の契約締結に先立ち、今年2月、当社会長/CEOの牛尾治朗(写真:右)が米国ダラス市のテキサス・インスツルメンツ社を訪ねました。牛尾はトム・エジンバス社長/CEOと会談後、ボブ・イングランド上級副社長/画像事業部門長(写真:左)と契約骨子について協議を行い、基本的合意に至りました。

(4) 4つの世界トップレベルのノウハウが結集

ウシオは劇場映写機用ランプで、クリスティ社は劇場映写機で、それぞれ世界でトップシェアを有し、シネマ業界で高い信頼と評価をいただいております。1999年のエレクトロホーム社の買収と2000年のテキサス・インスツルメンツ社との契約によって、デジタル映写技術と光学エンジンがウシオグループに新たに加わり、世界トップレベルの4つのノウハウが結集いたしました。これによってウシオグループでは、世界的要請となっている世界最高の劇場用デジタル映写システムを早期に開発し、同時に、シネマ業界でトップシェアを目指すこととなります。

(松山 成和)

図5-5 デジタル・プロジェクタ

5.2 ウシオグループの紹介

5.2.1 ウシオ電機

ウシオ電機と映像産業との関り合いは、映画館で使われるフィルム映写機用の光源であるキセノンランプから始まる。1958年(昭和33年)に新宿松竹第一劇場での「日本初のキセノンランプによる映画上映」がそのデビューだった。その後お客様からの様々なご要求に応えるべく開発を続け、ビデオカメラが世に出る前に普及していた8ミリ映写機用のミラー付きハロゲンランプ、主に学校教育用に使われた16ミリ映写機用の小型キセノンランプ、OHP用ハロゲンランプ/メタルハライドランプなどを世に送り出してきた。これらの業界は光源を使う他の産業、例えば半導体やOA業界などに比べると比較的地味な動きの連続だったが、この流れに大きく変化を与えたのが、会議場などでコンピュータの映像を拡大表示する手段として登場したデータプロジェクタだった。

プレゼンテーションという言葉が日常の言葉となってまだ日の浅い日本と違って、欧米諸国では上手なプレゼンテーションのノウハウを教える専門学校まであると聞き、その文化の違いを感じていたが、そのツールとして1992年頃から登場したデータプロジェクタがアッという間に普及し、世界市場で3千数百億円の規模を擁する一大産業に成長してしまった。業界の規模が大きくなるにつれ、専門の調査会社もでき定期的に市場動向と今後の予想を発表するようになってきたが、その公表資料によると「今後も着実に成長を続け、少なくともここ数年は20~30%の成長率が期待できる」とのことである。数量が伸びきると価格競争が始まるはどの業界でも共通した流れだが、現状50万円以上しているプロジェクタの価格が20万円程度になれば家庭用としての用途展開にも期待できると言われている。ホームユースについては、家の広さや文化の違いで一気に世界中に普及するものとは思えないが、我々としてはここ5年位の間に何らかの大きな変化が生じてくるものと期待している。ウシオ電機ではこれらの用途にメタルハライドランプと超々高圧水銀ランプ(NSH)を世に送りだし、現在前者では125W~400W、後者では130W~250Wの商品を揃えている。

一方映画業界もシネマコンプレックスの誕生を機に大きく変わろうとしている。国内の統計を見るだけでもスクリーン数、動員数とも1993年を底に右肩上がりのカーブを示してきておりスクリーン数は1999年で2221に達した。その活況を呈している映画産業に新たな波とも言える「デジタルシネマ」とか「E‐cinema」という名で呼ばれる新しい映写方法が登場してきた。詳細はこの項の専門の方にお任せするが、画質の向上とコストダウンが急激に進んだことと、映画製作者達がデジタル処理の簡便さに惚れ込み良いコンテンツが生まれ始めたという環境が整ったことで、普及に向けて本格的にその一歩を踏み出したという感じがする。ウシオ電機ではこの流れをいち早く察知し、3年前に大型デジタルプロジェクタ用のキセノンランプとランプハウスユニットの開発に着手した。D-ILA/DLPという新しい表示素子の発展により光源に対する要求も暫時変わってきている。ショートアーク化、高効率化、コンパクト化、長寿命化は上記のデータプロジェクタ用光源に求められる要素と同様だが、これらの要素を数kWクラスの大電力で実現することにこのテーマの難しさがあると言える。このキセノンランプを使った大型デジタルプロジェクタは前に述べたデータプロジェクタの高級バージョンとしても市場で受け入れられ、大会議場への据付や各種イベントでのレンタルにと普及しており、更には監視管制システムの表示用としても着実にその地位を固めつつある。

より大きな電力のキセノンランプを使う映写技術に、IMAXに代表される70ミリフィルムを使った2D/3Dの大型映像用映写機があるが、このプロジェクタには水冷キセノンランプの12kW-15kWが採用されている。

ウシオ電機ではフィルム映写機用はUXL、デジタルプロジェクタ用はPXL、大型映写機用(水冷)はUXWとしてシリーズ化している。

以上、ご紹介した通り、ウシオ電機はグループ会社の中で映像用としてメタルハライドランプ、超々高圧水銀灯(NSH)、キセノンランプ(ULX/PXL/UXW)などの「放電灯」を主に担当しており、それらのランプを安定点灯させるバラストとランプハウスとともに「映像用の理想の光」を供給し続けている。これからもグループ会社とともに「全ての映像用光源を製造販売する世界唯一のランプメーカ」として映像産業の発展に貢献していきたいと考えている。

松本 正志

5.2.2 ウシオライティング

ウシオグループ内のハロゲン電球製造子会社として、17年前に設立された兵庫ウシオ電機が、7年前にウシオ電機の照明営業部門を吸収し、ウシオライティングとなった。従業員は、現在で約200名。当初より、東京と大阪(名称は関西)に営業部を置き、ともに最初はウシオ電機のフロアに間借してスタート。東京は一度事務所移転したものの、ともに現在の事務所で営業活動をおこなっている。

ウシオ電機みずから生産している自動車用、OA機器用ハロゲンランプ以外のほとんどのハロゲンランプの製造をおこなっている。最近では、放電灯の一種であるメタルハライドランプの生産にも乗り出している。さらに、最先端のランプとして発光管材料に透過性セラミックスを使用したセラミックメタハラも一部量産を開始しようとしている。

ウシオライティングの主たるユーザ、業界としては商業施設照明、または、店舗照明、および、舞台照明・スタジオ照明がある。設立当初は、商業施設だけがビジネス相手であったが、徐々にウシオ電機より営業移管されて来ており、現在の姿になっている。

商業施設関係では、東京・関西とも専業器具メーカがそれぞれ4社づつあり、それらを取り巻く形で流通業者がある。この中で、東京は流通業者が、関西では専業器具メーカが中心ユーザとなっているのが現状である。舞台関係では、この関係が逆であり、東京は器具メーカが、関西では流通業者が主なユーザとなっている。これらは、これからもウシオライティングにとって主要な位置を占めてゆくことは間違いないと思われる。

さて、本題の映像機器用光源としてのハロゲンランプであるが、大別してミラー(反射鏡)付きと、ミラー無しの2種類がある。これらは用途によって使い分けられており、ミラー付きはおもに、プロジェクタ(映写機とも呼ばれている)、ファイバースコープ、各種計測機等に利用されている。ミラー無しは、顕微鏡、オーバーヘッドプロジェクタ(いわゆる、OHP)、投影機に使用されている。TV・VIDEO撮影用補助光源等としても利用されているが、いずれもその境界は厳密ではないことは言うまでもない。

歴史的に見ると、それまで白熱電球が利用されていたが、小型化・長寿命化・高色温度化等に優れていることを理由にハロゲンランプに置きかえられていった。その中で、プロジェクタを例にとると、8mmと16mm映写機が民生用として生産されていたが、16mmは学校や公民館といったおおやけの場所での使用が主で、家庭用としては、もっぱら8mmが使用されていた。最初は、白熱電球だったが、昭和40年ころからΦ50ミラー付きローボルトハロゲンランプが使われ始めた。昭和40年末から50年始めにかけては、長野県・諏訪湖周辺のプロジェクタメーカを中心に、全国で月産50万~60万本といわれる本数が消化された時期もあったが、現在では、その座をすっかりVIDEOにあけわたしてしまっている。当時、ウシオ電機でも月産10万本以上は生産しておりトップの座を競っていたがプロジジェクタ用としては現在少ない。

それにかわって、現在はファイバ光源としての用途が増えてきている。ファイバには、工業用、医療用、照明用、ディスプレイ用と多岐にわたる用途があり、これからも大きな伸びが期待できる。

ランプの種類も多く、ミラー口径も標準的なものでΦ35~Φ95と数種類ある。電圧も、ローボルト(おもに、12Vと24V)、商用電圧(日本であれば100V)がある。電力も、一桁の数Wから数100Wまで多様であり、これらを組合わせると輸出用も含めて、数1000種類にもなるが、ウシオライティングでは、これらの殆どに対応している。ウシオライティングのミラー付きハロゲンランプの特徴のひとつには、ミラーの金型をすべて自社で所有していることもあり、このことによってユーザからの多様な要求に、迅速な対応が可能となっていることである。その他のハロゲンランプでも、標準品であれば数本単位からの注文に、特殊仕様であっても設計を含めて数週間から一ヶ月、といったように短納期を心がけてきた。こういったことより、各ユーザの製品開発期間の短縮にも大きく寄与し、国内大手メーカはもとより海外有力メーカ各社より、絶大な賞賛をいただいている。

一方、映像機器分野の営業面に目を向けると、多くはウシオ電機の各営業部に依存してきた。政策上の問題もあるが、このことはウシオライティングと各ユーザとのコミニュケーションという面から見ると、これからの重要改善項目かもしれない。最近の業界動向に対し、営業として情報不足という状況は、是非とも改めてゆかねばならないと思う。

(高澤 英雄 ウシオライティング株式会社)

5.2.3 ジーベックス

映画産業界が衰退傾向にある昭和41年6月、ウシオ電機㈱が全額出資して、日本ジーベックス(現ウシオユーテック)が発足する。ウシオ電機の映画用キセノンランプの販売取り付け保守サービス会社として、スタートした。その後映写機、音響機器、キセノン使用の照明効果機器の製造販売、また商業演劇ホールなどの映像照明システムの販売施工も行うようになる。産業用関連諸機材の取扱販売も行った。日本経済の高度成長とともに企業規模も大きくなってきた。経済成長をしてきた産業界の中でも、レジャー産業が非常に幅広く多様化し、隆盛してきた。しかし映画という娯楽の、レジャーとしての地位は、逆に落ち、映画産業は、より一層衰退をしていくことになる。経済成長とともに、企業・産業界では就業労働時間の短縮や、週休2日制による、労働時間の短縮が提唱されるようになる。産業界も行政もそれを推奨、指導するようになる。ウシオユーテックも1990年1月には完全週休2日制に移行することになるが、会社の取扱商品は幅広く、担当する部門によっては顧客とのコンセンサスが十分にとれず、円滑に行く部門とそうでない部門とが生じるようになる。ウシオユーテックの映画照明システム事業部でも、映画館を対象に仕事を行っている部門には休日はない。休日こそ映画館は営業日で一番大切な、かきいれ時である。これまで省力化・合理化を旗印に、全自動の映写システム「シネメカニカ全自動方式」を全国で延べ数百スクリーンを納入した実績がある。だから日頃休日なしで、映画興行されている顧客に、どうすれば最大の貢献と成果が得られるかと検討した結果が、映像照明システム事業部より分離独立させ、顧客の要望ニーズに合わせた営業活動をするのが最善であると結論を出し、操業当時の「日本ジーベックス」から「ジーベックス」を継承し、㈱ジーベックスとして1991年10月1日、発足することになる。

日本ジーベックス時代から培ってきた豊富な経験とノウハウを受け継ぎ、シネメカニカ全自動映写機を核に、新しい映像世界をめざす技術志向の企業として出発する。東京は群馬ウシオの事務所跡を借りて入居。大阪は独自の事務所を天王寺に借りて事務所を開放する。発足当時は東京5名大阪5名合計10名でのスタートだった。営業活動範囲は国内の映画館のみを対象とした。公官庁・市民ホール関係の営業活動は、ウシオユーテック映画事業部門が担当をすることになった。但し、大型映像オムニ映写機の納入先6ヶ所の保守サービスだけは、ミノルタプラネタリウム㈱を窓口として、ジーベックスが行うこととなる。

バブル崩壊により産業界全てがリストラ方向へ加速されていく中で、映画興行界も1992年には、スクリーン数が1744と減少。映画入場者も12、560万と史上最低記録を作り苦しい時代となる。

発足の3ヶ月ほど前頃からイギリスの映画界の復活の話が出るようになり、流通のニチイが米国のワーナーブラザースと合弁で、シネマコンプレックスを展開していくという情報が流れ、いち早く調査をする。ニチイの市場開発関係部署に話しかけても、いっこうに内容がつかめない。8月になってやっと動向がわかった。現在市場調査中で設立するか否かは、業者の方の想像にお任せするという結果になるが、その後関係者と情報交換をさせてもらう。流通業界の方は設備を作れば興行がすぐできると思っていたようだが、そう簡単なことではない。現在の興行関係者と、よく意見交換し、それなりの手続きをするのがよいということで、関係者をお会いできるように、お手伝いをすることになった。

1991年10月8日に正式にワーナーマイカルが設立され、公式にシネマコンプレックスを作り、全国展開することが発表され、活動するようになった。当社ジーベックスも、時も同じく映画館のみの映写設備の販売保守サービスを目的で出発することになったばかりのことである。ニチイ関係者はイギリスでシネマコンプレックスの見学市場調査を行っていた。テレビやビデオという新しいメディアの登場で危機に瀕したイギリスの映画界に、タイムワーナーグループの興行部門ワーナーブラザースインターナショナル社が、最初のマルチコンプレックスシネマを1989年6月設立し、当時1500程度のスクリーン数を5年で1.5倍として、英国映画興行界を復活させた経緯があった。だから必ず日本の映画界も再生できる自信有りとのこと。興行が悪いのは顧客に対する接客サービス、気配りのない映画館が異常に多いからだ。イギリス・アメリカでのシネマコンプレックスは顧客を重視し、客層に合わせて色々なジャンルの映画を見れるよう配慮されており、映画のデパート化、ショッピングからフィットネス、アミューズメント、ホテルなど、本当に時間消費型の施設になっている。このようにすれば成功すると確信をつかんで1993年4月第1号を開店する。ところは神奈川県海老名市で人口12万人弱、周辺人口をいれて30万人程度のところである。その後全国各地に出店し、現在28ヶ所205スクリーンとなり、日本一の興行会社となった。

日本における映画興行の移り変わりは図5-6を参考にしていただきたい。

シネマコンプレックスの事業展開を最初に行ってきた、ワーナーマイカルシネマズの劇場数とスクリーン数や国内映画興行マーケットにおけるシェアの移り変わりも参考にしていただきたい。

1991年10月発足以降は省力化・合理化し、サバイバルゲームに勝ち残った映画館を対象に、常に優れた映写設備機材を提供することを企業の使命と捉え、コンサルティングから設計・施工アフターサービスに至るまで顧客の良きパートナーとして、十分期待に応えられる体制を整えてきた。1993年ワーナーマイカルシネマズとシネマコンプレックスの映写設備保守メンテナンス契約を結び、現在総てのワーナーマイカルシネマズの映写機器設置後の技術的保守メンテナンス機器納入を担当している。

シネマコンプレックスの先駆者、ワーナーマイカルの営業展開に刺激された映画興行界も、シネマコンプレックスという改革の波にさらされることになる。客層に合わせたいくつかの映画の上映、顧客を満足させる画面の美しさ、音響効果、そして心地よいスタジアム客席などが要望されるようになってくる。

ジーベックスでは、シネマコンプレックスを建設する事業主やJVの要望をきき、劇場設備の配置から映画運営に至るまできめ細かく提案をし、運営が円滑に行くよう、協力している。一般的に総合建設プランができあがったとき、その中でのシネコン全体の広さの関係で、地域所轄の行政指導がある。そのため消防衛生関係以外、つまり舞台、客席音響、映写機材、施工の設備設計を担当している。もちろん保守メンテナンスも行っている。

シネマコンプレックスは多くのスクリーンがあるために、用途によって小さいスクリーンから大きいスクリーンまで多品種である。一番大切なのは、映画を美しく感動して見ていただくということで、常に心がけねばならない。現実には建物の条件など制約を受ける部分が沢山ある。しかし当社は、常にお客さまの観賞される立場に立って設計に取り組んでいる。そしてクオリティーの高い映像音響効果を体験していただけるように心がけている。

参考までに、当社で手掛けた劇場用システムを紹介しよう。

① 現在映画フィルムには上映方式により下記のような種類がある。

Ⅰシネマスコープフィルム

Ⅱスタンダードフィルム

Ⅲビスタービジョンフィルム

Ⅳビスタービジョン(ヨーロッパサイズ)フィルム

Ⅴワイドスコープフィルム

以上総て画面の縦横サイズが異なりレンズの焦点も変わってくる。それに対応するように客席のスクリーン幕を自動又は手動で移動をさせて、お客さまに違和感のないようにする。

② 映画フィルムの音響録音もフィルム会社の営業政策で下記のような録音方式がある。

Ⅰ一般的な光学録音方式 1CH

Ⅱドルビーステレオ録音D.S.方式

Ⅲドルビーデジタル録音D.D.S.方式

Ⅳデジタル録音D.T.S.方式

Ⅴソニーデジタル録音S.D.D.S.方式

③ 映画を上映する劇場でTHX認定の映画館がある。

最近の映画雑誌では映画作品室内や、又劇場設備案内が記載されているが、これはルーカスフィルムによる音響測定に合格した劇場だけに与えられる認証で、「最良の音響設備で映画鑑賞ができますよ」という劇場である。

④ シネマコンプレックスの映画システムには2通りの方法が実際に採用されている。

郊外型の広いスペースを利用できるところは、1台映写方式のシネマコンプレックス、都市型の狭いスペースのところでは、2台映写のロックロール方式のシネマコンプレックスという具合である。外資系のシネコンは総て1台映写のプラッター方式。国内の興業会社のシネコンは、2台方式と1台方式の併用が、スペースと番組運営によって決定されて、営業を行っている。当社はそのシネコン設備のメンテナンステクニカルサポートをおこなっている。最近、音響設備、特にシネコンではドルビーデジタル音響再生DTS、SDDS音響再生など非常に高度の音響調整技術が要求される。当社では、この要望に応えられる測定機器調整技術者を配備し、万全の体制での事業展開をしている。

(太田 良雄  株式会社ジーベックス)

図5-6 日本における映画興行の移り変わり

図5-7 ワーナーマイカルシネマズの劇場数とスクリーン数、国内映画興行マーケットにおけるシェアの移り変わり

5.2.4 クリスティ

(1) クリスティ社の歴史

1992年にウシオ電機の傘下に入ったクリスティ社の歴史は長い。1929年にS.L.Christie氏によってLos Angeles市に設立された。最初は自動車用バッテリ充電器製造会社としてスタート。やがて第二次対戦中は、軍への高性能DC電源の供給、そして戦後は航空機産業への供給へと技術進歩を遂げてゆく。

1950年代の初め、クリスティは映写機のカーボンアークランプ用電源を開発した。1960年代には、キセノンランプを導入、また他社に先駆けAutowindフィルム自動巻取り装置の製造・販売を開始した。ランプハウスと電源をセットにしたのもクリスティが最初であり、今日のフィルム映写装置キセノンコンソールシステムの基となった。1970年創業者の息子Tom E. Christie氏が社長を継ぎ、ウシオ電機より北米地域での映画館用キセノンランプの総代理店となる。その後1992年ウシオ電機が買収し、ウシオアメリカの100%子会社となる。

映画館市場も大きく変化し、6’-8’スクリーンの靴箱型映画館から、25’-30’スクリーンもの大型メガプレックスも出現する時代となった。その結果、劇場同士の統合や合併が促進され淘汰が進んだ。また一方で過度な設備投資や競争の結果、近時新設シアタ計画の見直し、減少など北米市場全体の伸びは一時に比較し鈍化しつつある。クリスティは海外市場の開拓にも積極的な展開を押し進め、エマージングマーケットと言われる中国およびアジア市場、中南米等でのシェア拡大が進んでいる。

映像機器のデジタル化が急速に進むなかで、映画館用映像機器も現在の35ミリフィルム映写から今後デジタル映写への転換を予測、こうした変化に対応していくため、クリスティは1999年11月当該技術を保有するカナダのエレクトロ・ホーム社からプロジェクション部門の買収をおこなった。これにより従来のクリスティの映画館用映写機の強力な販売網と新たに加わったデジタル映写機の技術ノウハウとによるシナジー効果により、今後あらたな映画館市場拡大(デジタルシネマ市場)および市場シェア向上のための体制を確立することとなった。

図5-8 クリスティ本社

図5-9 クリスティの優れた技術に対して贈られたTechnical Achievement Award賞

(2) クリスティグループ

エレクトロホーム社のプロジェクション部門買収の受け皿としてカナダにクリスティディジタルシステムズインク(CDS)を設立、従来の米国のクリスティインク(CI)、および両社のホールディングカンパニーとして新たにクリスティシステムズインク(CSI)を米国に設立、こうしてクリスティグループが形成されることとなった。

グループの海外布陣はCIがシンガポール支店、ルクセンブルク支店、またCDSが米国市場の拠点(在カリフォルニア現地法人)Christie Digital Systems USA、Inc.,シンガポール支店、UK支店、を展開している。

ここで、CDSの業務内容について若干触れておく。CDSの母体だったエレクトロホーム社はカナダ・オンタリオ州のキッチュナー市(トロントから車で約1時間半)に所在する創立1907年の歴史を持つ会社。プレーヤ付きラジオや家具風音響装置など音響機器メーカの歴史が長いが、時代の流れを先取りして20年前に映像分野に進出、1979年にプロジェクション部門を設置してCRTをベースとしたプロジェクタ製作に進む。3年前からTIのDLP技術を導入、現在使用のplatformとしては、Digital Light Processing(DLP),Digital Light Valve(DLV), Poly-Silicon LCD, Cathode RayTube(CRT)があり、そして商品カテゴリは大きく分けて次の4種類となる。

  • ①Control Rooms(管制塔などの監視モニタ映像機器で、通信、交通、電力、自治体、防衛産業などの施設で使用)
  • ②Rental/Staging(野外ステージなどの大型移動施設向け高輝度プロジェクタ)
  • ③Fixed Installations(会議や放送、編集用などの据置型高輝度プロジェクタで、他にアリーナ、娯楽施設、教会、デジタル・シアタ劇場、マルチメディア施設などで使用)
  • ④Immersive Environments(3次元バーチャルリアリティシステムで自動車や航空機などの検査シュミレーションやデザインプロセス、ホームシアタなどで使用)。

(中一 進  CHRISTIE SYSTEMS,INC.)

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