USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.20(2000年12月発行)

第10回国際光線力学学会

(2000年5月)

日光角化症に対する光線力学療法
Successful treatment of photodynamic therapy for solar ker atosis

○花田勝美1、梅垣知子2、木村 誠3
1 国立弘前病院皮膚科、2 弘前大学医学部皮膚科、3 ウシオ電機
1Hanada K、2Umegaki T、3Kimura M
1Hirosaki Natinal Hosp., Hirosaki Univ. Schl. of Med2, Ushio Inc3.

<目的>

光線力学療法(PDT)は安全性の高い皮膚癌治療法のひとつとして期待されている。そこで今回は、簡便な臨床応用を目的に非レーザー光源(メタルハライドランプ)および光感作物質として20%5 -aminolevulinic acid(5-ALA)含有軟膏を用い、紫外線癌である日光角化症8 例に対してPDT を施行、有効性が認められるか否かを観察した。さらに、InvitroでPDT効果の機序にアポトーシスが関与するか否かを観察した。

<結果>

1~5 回の照射(1~6週)で日光角化症の皮疹は消失し、臨床に於ける有用性が確認された。3~6カ月後の経過観察でもいずれも再燃をみていない。また、培養ラット表皮細胞を用いたPDTでは抽出DNAのアガロースゲル電気泳動でDNAladderの発現が観察され、PDTにおける奏効機序機序にはアポトーシスの関与が強く示唆された。

■研究目的

光力学療法(Photodynamic therapy: PDT)とは組織集積性の高い光感受性物質を積極的に腫瘍細胞に取り込ませ、特異的な励起波長の光を照射することで、選択的に組織破壊を行うもので、安全性の高い癌治療法のひとつとして期待されている。PDT 効果の機序に関して、PDT 施行後の細胞死はフリーラジカル(一重項酸素)により細胞障害と考えられてきたが、近年組織学的検討からアポトーシスの関与が重視されている。一方、培養表皮ではカルシウムの添加がアポトーシスを助長するという。そこで今回は、これまでPDT の対照とされていなかった表皮細胞を用い、

  • 1)PDT効果が上皮細胞にも惹起され、かつ、アポトーシスが観察されるか否か、
  • 2)細胞内カルシウムを増加させる活性型ビタミンD3 がPDT 誘導アポトーシスを助長するか、

につき検討を加えた。さらに、臨床応用を目的として、慢性紫外線傷害に起因する表皮内癌である日光角化症8 例に対してPDTを試み、効果の有効性を確認した。また、皮膚のリンフォーマである菌状息肉症1 例についても本法の有効性を観察した。

■培養表皮細胞に対するPDT効果および活性型ビタミンD3の影響

1)PDTによるDNA断片化の観察(図1)

光感受性Aluminum phthalocyanine tetrasulfonate(AIPcTs)を培養液に加え培養ラット表皮細胞(FRSK)を14時間培養した後、可視光(600 -640nm)を照射、10時間後に細胞を回収し、DNAを抽出、アガロースゲル電気泳動法にてDNA断片化('DNA ladder')の発現を観察した。同様の手技を用い活性型ビタミンD3(1α、25(OH)2D3)を添加後、DNA 断片化を観察した。

表1.PDT対象患者

症例 年令・性 部位 治療回数 効果
日光角化症
1 83 女 額・眼瞼 6 著効
2 65 女 3 著効
3 82 男 右手背 4 有効
4 83 女 右頬部 7 著効
5 88 女 耳介 3 著効
6 88 女 2 著効
7 83 女 左頬・鼻部 5 有効
8 93 女 右頬 1 有効

無効:効果無し、有効:軽快、著効:消失

2)細胞内カルシウム濃度[Ca2+]iの測定

培養液にFura 2-AMを加え、画像分析システムを用い、PDT における細胞単位 での経時的な[Ca2+]iの測定を行った。また、活性型ビタミンD3 を添加し、 [Ca2+]iの動態を観察した。

■研究成果(1)

ラット表皮細胞でもDAN ladder の発現が観察された。また、活性型ビタミンD3の添加はアポトーシスを助長した(図2)。

臨床応用:日光角化症・菌状息肉症に対するPDT効果

1.症例

1)日光角化症 66~93歳の女性の顔面にみられた日光角化症に対してPDTを行った。図3-1には82歳女性のPDT 前の所見を示した。

2)菌状息肉症 1例の菌状息肉症(62歳、女性)の体幹に多発する紅斑性浸潤局面(図4-1)に対してPDTを試みた。

1)、2)の症例はいずれも組織学的に診断が確定している症例である。

2.方法

20%5 - aminolevulinic acid(5-ALA)含有軟膏を密封塗布(6h)。ハロゲンランプ(500W)にて20分間(120J/cm2)照射した。

■研究成果(2)

日光角化症では1~5回の照射で1週後に皮疹は1~6週で消失(図3-2)、菌状息肉症では2回の照射により4週後には色素沈着を残すのみとなった(図4-3)。6カ月後の現在いずれも再燃をみていない。日光角化症の一例でPDT後のアポトーシス発現を検討した結果(Apotosis Detection Kit、宝酒造使用)、PDT 施行部にアポトーシス陽性細胞が観察されたが、染色態度は均一でなく、なお慎重な検討が必要と思われた。

レンズヘッド全面からの距離と放射強度

レンズヘッド全面からの距離(mm)

■考案

In vivo の結果からは、適当な光増感剤と可視光線を組み合わせることで、従来証明されてきたリンフォーマ細胞のみならず表皮細胞にもPDT 誘導アポトーシスが惹起されることが示された。さらに表皮細胞におけるPDT 誘導アポトーシスの機序はカルシウム依存性であることが示された。PDT は未だ広く臨床応用がされていない。今回は日光角化症および菌状息肉症(cutaneous T cell Iymphoma)で優れた有効性を示し、いずれも長期の再発をみていない。前述のごとく、in vivo における組織学的アポトーシス検討の結果ではPDT 後にアポトーシス陽性細胞を認めin vitro の結果を指示する結果であったが、1例であり、なお症例をかさねる必要がある。臨床的にも活性型ビタミンD3 併用が増強効果をもたらすか否かは今後の課題である。今回の成果からPDTは、

  • 1)悲観血的で苦痛を与えない、
  • 2)病巣部のみを選択的に治療、
  • 3)安全性・経済性に優れる、

などの利点を有し、将来、皮膚悪性腫瘍に対して患者に苦痛を与えない有用な治療手段になると考える。

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