1. はしがき

液晶プロジェクタ製品化されて11年になるが，特に最近の5 年間における液晶プロジェクタの小型化と画像品質の向上は目覚ましいものがある。例えば標準的なプロジェクタの質量は約半分に軽量化された上で，スクリーン光束は約10倍に増大し（例えば1,300lrm），さらに画像品質も格段に向上している。その結果，液晶プロジェクタの需要が拡大し，生産量が急速に伸びている。世界の生産量は98 年度が約50 万台，99 年度が約70 万台に達し，今年度は100 万台に達すると予想されている。

このような，急速な生産量の拡大は①小型化，高開口率化が可能なp-Si液晶パネル，②集光効率を高め，また画質の向上を可能とした各種の光学素子，③これら各種光学素子の採用を可能にした点光源型（＝短アーク型）ランプ，などの開発が関連しながら発達した結果である。

光源として，初期には短形波交流点灯型メタルハライドランプが標準的な光源として採用されたが，95年～98年頃は短アーク化が可能な直流点灯型メタルハライドランプが開発され^（1），プロジェクタ用光源の中心的な光源として使用された。97年にフィリップ社が120W超高圧水銀ランプを製品化したのに続いて^（2），98年には国内でも2社が相次いで150W超高圧水銀ランプを製品化したことにより，99年からは超高圧水銀ランプが液晶プロジェクタの中心的光源の座を確保するに到った。

松下電子工業がフィリップス社と同タイプの交流点灯型ランプを製品化したのに対し，ウシオ電機は直流点灯型ランプを製品化した。本報告では弊社が製品化した直流点灯型超高圧水銀ランプに付いて紹介する。

2. 直流点灯型超高圧水銀ランプ

点灯時の水銀動作蒸気圧を150～200気圧に高めたショートアーク超高圧水銀ランプは液晶プロジェクタ用光源として理想的な発光特性を持っている。

すなわち，①水銀蒸気圧を200気圧近くに高めることにより，液晶プロジェクタ用光源に適した色温度約8000Kの発光で，充分な赤成分発光が得られるようになる。水銀動作蒸気圧と分光分布の関係は古くより測定されているが，図1に最近報告された水銀蒸気圧と分光分布のデータを示す^（3）。②水銀蒸気圧を高めるとアーク中の電界強度が増大するため，高効率を損なわない短アーク化が可能である。③水銀スペクトル発光のための励起エネルギーが高いためアークの中心部のみで発光する。これらの結果としてアーク長が1～1.5mm という極めて点光源型のランプが得られる。

弊社では，ショートアークの交流点灯型ランプで，しばしば問題になるアーク輝点の移動による光のちらつきを抑制するため，および点灯回路の小型化を目的として，メタルハライドランプの場合と同様に直流点灯型ランプを開発した。（注：一般にHIDランプを短形波交流電力で点灯するためには，商用電力を直流電力に一度交換した後，FET型トランジスタにより電流を制御し，そのあと4 個のFETにより短形波交流電力に交換している。従って電流制御した直流電力で直接にランプを点灯すれば交流への交換回路が不要になる。）

弊社の場合，以前よりアーク長0.5mmの100W超高圧水銀ランプを製品化しており（電磁オシログラフ用光源），その形状や生産技術（直流点灯，チップレス，収縮シール）がそのまま今回の超高圧水銀ランプに応用できたという側面もあった。

3. ランプの諸特性

液晶プロジェクタ用超高圧水銀ランプとして，弊社では最初のランプ機種として150Wランプを開発し，1998年3月に当ランプを搭載した液晶プロジェクタが発売された。次いで99年には180W～200Wの機種を製品化し，さらに現在では250Wランプの開発も終えた。アーク長は1.2～1.5mm，効率約60lm/Wである。

図2に直流点灯型超高圧水銀ランプの外観図を示し，図3に200Wランプの分光エネルギー分布を示す。色温度は約8500Kである。図4に200Wランプの輝度分布の測定結果を示す。一般にランプはリフレクタ（反射鏡）に組み込んだ状態で出荷される。リフレクタは光束重視の場合では大きく，小型化重視のタイプでは小さく設計する。

超高圧水銀ランプでは電子点灯回路もランプメーカーで供給することが標準になっている。これは超高圧水銀ランプでは特に点灯回路がランプの特性に大きく影響するからである。

4. あとがき

60年以上前に一般照明への応用を目指して演色性の改良が研究された超高圧水銀ランプが，現在，演色性も重要であるカラー画像投与用光源として月産10万灯に近い規模で生産されており，ランプ技術の進歩と多様化を感じされる。筆者の一人も15年前の液晶プロジェクタの研究開発期に，液晶プロジェクタ用光源として水銀動作蒸気圧が165気圧程度の超高圧水銀ランプを開発することを密かに意図していたが^（4），なかなか着手できないままに日を過して開発者の栄誉を手にできなかった思い出がある。

液晶プロジェクタ用超高圧水銀ランプは今後，大形のデジタルTV用リアプロジェクタの光源として，ますます生産が拡大していくことが期待されている。