USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.20(2000年12月発行)

月刊ディスプレイ
特集青色レーザー新展開

(2000年10月)

波長変換による短波長光発生技術

ウシオ電機(株)佐久間 純*
Jun Sakuma

1. はじめに

レーザは、光ディスクやホログラフィー等の書き込み、読み出し、レーザープリンター、レーザーライトショー等、現代の画像入出力機器の要素部品として不可欠となっている。画像表示分野においても、直接偏向変調した3原色のレーザー光の投射方式、液晶による変調像の投影方式、蛍光スクリーンへのレーザー光投影方式等、その特徴に沿った各種装置に応用されている。また、更に短波長の紫外レーザー光は、その高いフォトンエネルギーにより3 原色の蛍光発光が可能であり、表示機器への適用が考えられる。

従来、この分野で主に利用されてきたレーザーは、HeNeレーザー(波長633nm)、Ar+レーザー(488nm、515nm 他)、Kr +レーザー(647nm、568nm)、HeCd(442nm)レーザー等の可視域発振のガスレーザーである。これらは、その需要に基づく技術開発の歴史を経た比較的完成度の高い光源であるが、例えばHeNeレーザーの出力は50mW程度が最大、Ar+レーザーやKr+レーザーは低効率で大電力が必要等といった特性をふまえて使いこなすことが求められる。また紫外域発振のレーザーの代表格は波長308nm(XeCl)、248nm(KrF)等のエキシマレーザーであるが、定期的交換の不可欠な特殊なガスを用いる等の点で取り扱い極端に困難な装置であり、その応用領域を極端に狭める一要因となっている。

上記、ガスレーザーの諸課題を軽減し得る可視・紫外領域のコヒーレント光の発生方式としては、主にワイドギャップ半導体材料によるレーザーの直接発振、および非線形光学効果を利用した波長変換という2 方式が追求されてきた。小型・高効率なデバイスという点では半導体レーザー(LD)が有利であり、波長400nmで出力10mW程度のものも製品化された段階にあるが、より短波長領域での発振や100mW級以上の高出力化といった展開まで望むのは困難と考えられる。

一方、波長変換方式の光源は、LD励起固体レーザー技術の進展と新しい非線形光学結晶の開発等によって、LDとは一線を画した方向性への研究開発が推進されている。既に、Nd:YAGレーザー光の第2 次高調波発生による波長変換出力は100W を超え、和周波発生による最短波長は筆者の知る限り166nm1)まで到達する等、高出力、短波長コヒーレント光発生方式として進展し続けている。一方、小型な青色、紫外光源の具現も1つの方向性であるが、赤外半導体レーザー出射部に小さな結晶を設置するだけで青色光源に早変わりというわきねは行かず、様々な技術課題がある。

本特集号は、GaN、ZnSe系の青、紫色LDを主体とした特集であるが、本稿において、青色レーザーへのもう一つのアプローチである波長変換を利用したコヒーレント光発生技術による短波長光発生に関する技術の概要と最近の研究を紹介させて頂くことで、読者に新たな視点、発想等を授ける一助となれば幸いである

2. 非線形波長変換の概要

非線形波長変換による短波長光発生の基礎となるのは、3つの光が非線形光学媒質内の2次非線形感受率を介して相互作用し、そのエネルギーを交換しあう3波混合である。一般に、非線形媒質に入射させる光は1 つ、ないし2つであり、残りの2つないし1つがノイズレベルから立ち上がって増幅させられ、結果として入射光とは異なる波長の光の発生が実現させられる。

非線形波長変換による短波長光発生の基礎となるのは、3つの光が非線形光学媒質内の2次非線形感受率を介して相互作用し、そのエネルギーを交換しあう3波混合である。一般に、非線形媒質に入射させる光は1 つ、ないし2つであり、残りの2つないし1つがノイズレベルから立ち上がって増幅させられ、結果として入射光とは異なる波長の光の発生が実現させられる。非線形波長変換による短波長光発生の基礎となるのは、3つの光が非線形光学媒質内の2次非線形感受率を介して相互作用し、そのエネルギーを交換しあう3波混合である。一般に、非線形媒質に入射させる光は1 つ、ないし2つであり、残りの2つないし1つがノイズレベルから立ち上がって増幅させられ、結果として入射光とは異なる波長の光の発生が実現させられる。

このような波長変換方式コヒーレント光源の実用性のポイントとなるのは、入射光出力に対する変換光出力(変換効率)、変換光出力の安定性、ビーム特性(強度分布、広がり角)、変換素子の寿命等である。変換光の出力変動、ビーム特性等には入射光の特性が強く反映されるので、安定かつ高品質ビームの基本波レーザーを適用することが重要である。変換効率に関しては、位相整合が満足された理想的状況において理論上100%に近づく。しかし、表1のような単純構成の実装置における変換効率は、SHGでも最大60%程度である。ピークパワー強度の低い連続波発振光の変換においては、表のような単純構成で実用的な変換出力を得ることは通常困難であ

る。そのため、波長変換の方式として内部共振型変換(図1)、ないし外部共振器型変換(図2)を適用することが多い。いずれも光共振器を用いることで内部の基本波強度を高められ、高効率の変換が可能となる。光共振器を利用せずにCW光を効率的に波長変換するための有力な手段は、疑似位相整合型(QPM:Quasi-Phase Matching)の波長変換素子の利用である。結晶の分極方向をコヒーレント長の周期毎に反転させた構造により、結晶入射面近傍で発生した波長変換光が途中で打ち消されることなく成長し続けさせることができる。

3. 青色光の発生

3.1 基本波

波長変換による440~480nmの青色光発生方法としては、波長880~960nm近傍の近赤外光を基本波としたSHG、ないし1064nm光と810~874nm光との和周波発生(SFG:Sum-FrequencyGeneration)の2種がある。近赤外域の波長可変固体レーザーの代表であるチタンサファイアレーザーはLD 直接励起ができないことから、現状では、Cr:LiSAF レーザー(780~1000nm)またはNd:YAGレーザー(946nm)、AlGaAs系DBRレーザーのいずれかを利用した取り組みが取り組みが主流である。また、Nd:YLFレーザーSH光(524nm)励起の光パラメトリック発振器(OPO)により896nmのシグナル光を発生させ、この光のSHGにより448nmの青色光を発生させる方法も提案されている。この方式の場合、近赤外光の発生方式としては複雑であるが、OPOアイドラ光(1256nm)のSHGにより628nmの赤色光が得られるので、励起の緑色光と合わせて1台の全固体構成レーザーをベースとしてRGB3原色が発生させられるという特徴がある2)

3.2 非線形光学結晶

SHGによる青色光発生用としてLBO、BBO、KNbO3、PPLN、PPKTP 等が適用可能であり、またSFGによりKTPが可能な場合もある。LBOは低吸収、広い位相整合許容幅等の特長を有するものの、有効非線形定数Deffが0.8pm/V程度と小さい。BBOは比較的安価で2.0pm/V 程度のDeffを有するが、ウォークオフ角が大きく、発生光のビームが歪みやすい等の点で実験レベルに止まっている。KNbO3は16pm/Vという大きなDeffを有するため、広く検討されてきたが、温度許容範囲が狭い等の課題がある。

最近はこれらのバルク結晶に代わり、品質が向上しつつあるQPM素子が広く使われつつある。その代表格である周期的分極反転型LiNbO3(PPLN)による青色発生報告も多いが、発生光による光損傷という課題がある。しかしながら、MgOをドープすることにより光損傷の問題が大きく低減することから、今後の主流になる可能性がある。また、LiTaO3はLiNbO3より吸収のカットオフが短波長にあって分極反転も容易なことから注目されている。

3.3 発生例

日立金属の佐藤等は、LD励起Cr:LiSAF レーザーとLBO 結晶による内部共振型変換構成により、波長430nm で出力>10mWの仕様値の装置を製品化しており、100mW程度も可能と述べている3)。松下電器の北岡らは、DBR 半導体レーザーと光導波路型のPPMGLNを用いて波長426nm、CW 出力12mWの特性を報告している4)。また島津製作所では、LD励起Nd:YAG(946nm)とKNBO2結晶の内部変換による出力15mWの青色レーザー

(473nm)を製品化している5)。更に富士写真フィルムの神山等は、LD励起Nd:YAG(946nm)レーザーにPPMGLNを組み合わせ、エタロンを用いた単一縦モードの出力として17mWを報告6)するなど国内での開発成果も目覚しいものがある。

また、バルク周期反転型のKTP(PPKTP)を利用して、CWで15mW、Qスイッチ動作で150mWの青色光(473nm)を得た例も報告されている7)

4. 紫外光の発生

4.1 概要

波長変換による400nm未満の紫外光発生では、可視レーザー光のSHGないし近赤外レーザー光の複数段変換が行われている。概して、出力安定性と紫外光に対する結晶の耐損傷性確保等の技術課題は大きい。結晶は紫外光に対する透明性が要求されることから、現状BBO、LBO、CLBO、LB4等に限られる。これらは用途に応じて使い分けられているが、大阪大学により開発されたCLBOでは、過去からある他の結晶では実現されなかった高出力の紫外光発生が多く報告され、その能力が注目されている8)

以下、各種の紫外光発生例について述べる。

4.2 Ar+レーザー SHG

BBO結晶の内部共振器構成により、最大出力0.5W 程度の連続発振の紫外光(波長242~255nm)が発せられ、広く市販もされている。実験レベルでは最大6Wという報告もある9)。主な応用として、ファイバーグレーティングの書き込み、半導体ウェハの検査用等がある。

Ar+レーザー自体が低効率という課題の他に、BBO結晶に対して基本波をごく小さい径に集光しているために結晶損傷が起こりやすく、メンテナンス性に課題がある。

4.3 銅蒸気レーザー

銅蒸気レーザーは、1500_程度で気化する銅を媒質とした可視域発振ガスレーザーであり、取り扱としてエキシマレーザー以上に厄介な点もあるが、10kHz以上の高繰返しで安定なパルス発振出力が得られる。BBOないしCLBOを用いたSHGによりW級の紫外光(255.3nm)が得られ、穴あけなどの加工への適用を目指した試みも偽されている10)

4.4 Nd: YAG(YLF)レーザー THG

1µm帯レーザー光の第3次高調波発生(THG:Third Harmonic Generation)では、波長350nm近傍の紫外光が得られる。Nd:YAGレーザーベースの全固体紫外光源としては比較的信頼性の高い装置の構築が可能である。現状最も注目されている産業応用は、プリント基板のビアホール加工である。THG用結晶としてはLBOが最も広く使われているが、BBO、CLBO、GdYCOB、CBO等の結晶も適用可能である。LBO によるTEM2モード品質の3倍波発生例としては出力15W以上の例11)もあるが、温度依存性が高い結晶であることと、長時間動作に伴う寿命確保の点には未だ課題があり、現状、穴径50µm未満のビアホール加工用として出力3~5W級のTH光発生装置が市場投入された段階である。しかし、出力10~20W級の全固体型装置の実用化は近いと期待される状況にある。

4.5 Nd: YAG(YLF)レーザー FHG

1µmレーザー光の2段階の周波数逓倍による第4次高調波発生(FHG:FourthHarmonic Generation)では波長262~266nmの紫外光が得られ、THGより短波長の特性による高性能な加工用光源との期待から盛んに開発が進められている。

CLBO結晶によるFHGでは20Wを超える266nm光発生も報告され12)、KrFエキシマレーザーに匹敵する高出力光源への期待もある。またBBO 結晶は、外部共振器を用いての連続出力第4 次高調波発生に多く適用されており、1.5W 程度の出力を得た報告13)もあるが、結晶寿命の観点から出力を10mW程度に抑えた装置は、DVD マスタリング用等として実用化されつつある。

4.6 Nd: YAG(YLF)レーザー FIHG

上記1µmレーザー光の第5次高調波発生(FIHG:Fifth Harmonic Generation)では、波長209~213nmの深紫外光が発生する。高出力の例としてはCW で0.4W14)、100 Hzで4W15)等が報告されている。結晶はやはりBBOないしCLBOであるが、FHG以上に結晶寿命等の課題がある。かつてエキシマレーザーに代わる半導体露光用光源としての適用を模索する動きもあったが、ArFは長193nmに周辺技術が同調された結果、現状その論議は現状ほとんど成されていない。しかし、今後の光源と応用開拓が強く期待される光源である。

4.7 波長可変レーザーの高調波発生

チタンサファイアレーザー、アレキサンドライトレーザー等は、近赤外域で広い波長可変性を有する固体レーザーであり、これらの高調波発生により実質波長可変の紫外コヒーレント光が得られる。報告例が多いのは、773.6nmに同調された上記波長可変レーザー光の第4次高調波としてArFエキシマレーザー波長193.4nmを発生させる例であり、最近では製品化もなされている16)

ただし、その第2次高調波(386.8nm)を直接周波数低倍できる実用的な非線形光学結晶は現状存在せず、一旦第3次高調波(257nm)を発生させ、それと基本波を和周波混合する3 段階の変換過程が必要であり、分光用等の小出力光源に適する。なお、周波数逓倍による発生限界波長は、BBO結晶を用いた場合の205nmである。BBO結晶と外部共振器に用いて波長210nmでの連続光発生に成功した例も報告されているが、出力は1mW未満である17)

4.8 ファイバーアンプ出力の高調波発生

波長1536nm のLD光をEDFA により増幅し、5段階の波長変換を経た第8次高調波発生により193nmを発生させたという報告がされた18)。CLBO結晶を最終の変換に用いることで、基本波からの変換効率4%を得ている。2次非線形性を介して発生させた実用的出力の高調波としては、現状最も高次の例であると考えられる。

4.9 和調波発生

和周波発生は一般に2 つ以上のレーザー光源を用いるため装置が複雑化するが、高調波発生では同調困難な波長の光を発生させられる。また出力に余裕のあるNd:YAG(YLF)レーザーの基本波ないし高調波と、比較的小出力な波長可変レーザー光との和周波混合によって、後者の高調波発生より高出力な波長可変の紫外コヒーレント光の発生が可能となる。Nd:YLFレーザー第3次高調波とチタンサファイアレーザー光とのCLBO結晶を用いた和周波混合により波長242nmで3.5W、その紫外光とNd:YLF基本波との再混合により、波長200nmを切る深紫外領域で全固体による出力としては最大となる1.5W(波長196nm)も達成されている19)

また、単一周波数チタンサファイアレーザー光の外部共振器内LBOによるSH光(373nm)とLD光(780nm)を、第2の外部共振器に設置したBBO結晶によって和周波混合を行うことにより、波長252nm 近傍において波長同調可能な連続出力50mWの発生が報告されている20)

5. おわりに

波長変換技術は、LDでは困難な高出力化、短波長化も可能という点において一線を画した応用を視野に入れた検討、開発が進められ、確実に進歩し続けている。

GaNレーザーの実用化により、小型、低コストの青色コヒーレント光源開発競争としての雌雄は決しつつある感があるものの、今後のエレクトロニクス軽薄短小化の流れを支える重要ツールと期待される紫外、深紫外コヒートレント光の発生に関しては、LDによる展望は現状ほとんどなく、その取り組みは加速されている。実用化の最大の障害となっているのは波長変換素子の寿命であるが、今後、高耐力な結晶の育成、処理技術が進めば、この方式の光源は産業用として急速に広まると考えられる。

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