USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.20(2000年12月発行)

応用物理第69巻 第5号
総合報告

(2000年5月)

高機能性光学単結晶と光エレクトロニクス

宮 澤 信 太 郎

誘電体酸化物光学結晶は多岐にわたる光との相互作用をもっており,光機能結晶としての開発の歴史が長い.おもに線形・非線形電気光学結晶について過去の結晶開発をふり返り,従来の特性限界を打破する新結晶の出現にふれて,機能性結晶開発は「温故知新」でもあることを紹介する.そこでは新しい知識に加えて新しい認識が「新」機能結晶を生んでいる.可視~近赤外域から紫外域,遠赤外域への光周波数の拡大をもたらす光非線形性やフォトリフラクティブ機能の「新」機能結晶がこれからの光情報技術(IT)を担うことを予感させる.

Keywords: single crystal, oxide, linear electrooptic, nonlinear electrooptic, photorefractive,quasiphase matching, optical parametric oscillation

1. まえがき

1960年代後半の人工ルビーによる固体レーザー出現以来,1970年代はその強い光,コヒーレントな光に対する材料物性への興味が多くの光学結晶を生んだ.単結晶育成技術の確立とともに化合物半導体光デバイスの飛躍的進展に伴って光応用ニューフォトニクス時代に移行し,さまざまな光機能結晶の高度利用が再び注目されている.光学結晶は「オプトエレクトロニスク結晶」とも称され,近紫外から赤外にわたる広い光波長領域に透明な酸化物誘電体結晶が主役である.光学結晶は多様な結晶構造(結晶の対称性;点群)をとることから特徴的な誘電的,光学的性質が決まり,多岐にわたる現象と光との相互作用機能が整理されている1).かつての酸化物が主役であった可視~近赤外域デバイスでは化合物半導体やワイドバンドギャップ半導体による光デバイスが実用となってきており,可視~近赤外域光周波数の拡大が光学結晶で進んでいる.

光エレクトロニクスのこれからの行く先は,21世紀に期待されている高度情報通信・処理といったIT(情報技術)への展開であろう.ことに光非線形結晶を用いた波長交換機能による光波長域の拡大とフォトリフラクティブのように光強度に応じて結晶の物性が漸次変化する「自律応答性」機能は,光波制御と機能発現に最も期待される.また,昨今のモバイル端末システムの発展を考えるとき,従来の光周波数と電子デバイスのマイクロ波領域を埋める光・電磁波融合デバイスは,無線と有線(光ファイバー)の間の情報を直接交換するインターフェースデバイスとしてこれからの分野といえよう.半導体ではできない波長(周波数)域の拡大,ここに光学結晶の方向がある.

本稿の主題である機能性光学結晶に焦点を当てて,本特集にあるめざましい光デバイスの進展の基になっている機能性光学結晶を見直し,波長域の拡大といった視点から今後の研究開発について私見を提案してみる.

2. オプトエレクトロニクス機能と結晶材料

光学結晶がもつ光機能を図1に模式的に示した.これら多彩な機能は,外力である電界,磁界,応用,光が印加されると結晶の電子状態の変化を介して伝搬している光波との相互作用から生まれる1).機能性光学結晶は光と外部信号との相互作用の“場”を提供する媒体といえる.伝搬する光を電気で制御する機能,すなわち入力光の振幅,位相を電界で変える線形電気光学効果,周波数逓倍を引き起こす非線形光学効果,屈折率が自律的に変化するフォトリフラクティブ効果,が光機能デバイスに最も期待できる.

多少旧聞に属するが,図2に誘電体のもつ種々の効果・性質を利用する応用分野を示した1).酸化物,特に強誘電体がいかに多彩な性質と機能をもっているかがわかる.多くの誘電体に希土類イオンをドープした固体レーザーは,コヒーレント/インコヒーレント光励起による一種の波長変換であり,希土類イオン固有の鋭い輝線が得られる,光学結晶ならではの実用分野となっている.X線やγ線などの放射線を極短波長の光と扱えば,レーザー発振の原理に似た放射線検出シンチレーションも光機能で,酸化物光学結晶が活躍している実用分野である.紙面の都合で省いたので文献2)を参照願いたい.

電気光学効果(EO: Electro-Optic effect)は非線形光学効果(NLO: Nonlinear Optical effect)とともに酸化物結晶が最も活躍できる光機能を生む,現在では最もホットな光機能デバイスの対象材料であろう.光ファイバー通信におけるDWDM(Dense Wavelength Division Multiplex)方式の実用化によりEO 結晶のLiNbO3による超高速外部変調器が復活して実用機能素子としてその地位を確保しつつある.EO効果では磁気光学効果と拮抗して高圧送電線の電磁界センシングといった分野への展開も図いられている一方,漏れ電界中に置かれた結晶中のコヒーレント光の偏波変分検出で電界強度をセンシングするEOセンサーも,これからの半導体デバイスの特性評価に欠かせないツールになることが期待される3).一方,半導体励起固体レーザー光をNLO結晶で波長変換して従来のダイ・エキシマレーザ波長域である紫外コヒーレント光発生が注目されている.従来,NLO 結晶による波長変換は可視~近赤外域であったが,優れた紫外光発生結晶の出現によって波長域の拡大に非線形光学結晶が役目を担っている.また変換効率の大幅な向上が図れる擬似位相整合(QPM: Quasi-Phase Matching)技術は,革新的技法として酸化物フォトニック結晶の実現に寄与するであろう.また非線形性を利用する光パラメトリック発振(OPO: Optical Parametric Oscillation)は2光波によって赤外域の光が得られることから,やはり波長域の拡大に有望である.

強い光照射によって結晶の屈折率が自律応答的に変化するフォトリフラクティブ(photorefractive;光誘起屈折性)現象4)は,その成因から電気光学効果に属するもので,2光波干渉によりホログラムの実時間記録・再生,光混合,光増幅,そして光共役波発生など,光情報技術に魅力的な光学結晶特有の現象である.今後画像情報技術においてますます重要度が増す光ビームの高品質化など,位相共役波によるビーム・画像修正にその機能が活用されよう.

このように,誘電体,特に強誘電体光学結晶がもっている多彩な光との相互作用の活用は光ファイバー通信・情報技術に不可欠な光機能素子を具現化するものと長い間期待され,地道な材料研究があった.

3. 機能別光学結晶の遍歴

ここで,これまでにどのような光機能結晶材料が開発されたかをふり返ってみるのも意義があろう.それは材料開発は「温故知新」の一面をもっているからで,そのいくつかの例も紹介する.図3は効果・機能別に代表的な結晶名を歴史的に概観したものである.この流れの中で現在その地位を確保した材料は,かつて研究されたものが多いことがわかる.個々に中身は拙書1)に譲り,以下では光機能結晶の中でもカギとなる線形・非線形結晶についてふれる.

酸化物は磁性体と誘電体に大別されるが,1986 年以降では銅酸化物の高温超伝導体が脚光を浴びている.このことは後で述べる非線形光学結晶におけるボロン酸化物の発見に似ており,従来の探索原理とは一線を画す新しい着想による発見である.可視域では透明でないが,第2 高調波発生の観測5),電磁波発生の研究6)もあり興味深い.

誘電体の代表である圧電性結晶には古典的な水晶(SiO2)があり,現在では最も生産規模の大きな酸化物結晶であるが,最近では固有のdauphin twinの周期的形成による光非線形素子も注目される7).強誘電体のLiNbO3とLiTaO3が,表面弾性波(SAW: Surface Acoustic Wave)デバイスとして,携帯電話器の普及と高周波化に伴い,大型単結晶が高周波部品用に製造されており,いまや酸化物結晶として第2 の実用結晶の地位を築いている.最近ではLi2B4O7やランガサイトLa3Ga5SiO14結晶が注目されている.このLi2B4O7は1981年に圧電性が報告されたが,約15年経て光非線形性が見いだされて波長変換結晶に仲間入りしている8).La3Ga5SiO14は,約10年ほど前に,Prドープでのフォトリフラクティブ性がすでに調べられている9).異なる性質に着目することで「新」結晶となり得る例で,結晶は「温故知新」であることを思わせる.

強誘電体がもつ電気光学効果は光学結晶の最も特徴的な性質で,1965年のLiNbO3,LiTaO3の大型単結晶育成の成功以来,固体レーザーの実用化とともにレーザー光の変調素子,スイッチ素子や非線形効果による波長変換応用として多岐にわたる物性的研究がなされた.ことにLiNbO3は強いレーザー光の照射によって屈折率が漸次変化する.いわゆる光損傷(optical damage)が材料自身の問題として取り上げられ,光損傷がなく,かつ大きな電気光学効果をもつ材料探索がなされた.その中でタングステンブロンズ構造の(Sr1-xBax)Nb2O6(SBN)は,現在ではホログラム記録媒体として再度研究開発対象となっている.その一方で,強誘電体結晶の諸性質は,結晶の素構造である酸素八面体BO6(B:Nb,Ta)の性質でほぼ決まっていることが整理されて10,11),材料特性の限界が浮き彫りになった.後で述べるが,結晶組成(stoichiometry)に立ち戻っての研究が進められた結果,最近になっていわゆる定比組成結晶の育成が実現して,その誘電的,電気光学的諸特性が注目されている12,13)

この材料的限界とバルク型光変調器の特性限界とを同時に解決する概念「Integrated Optics」が発表され14),光学結晶と導波路光学(waveguide optics)がカップルして再びLiNbO3が光導波路結晶としてよみがえり,現在DWDM 光変調素子としてLiNbO3,LiTaO3が不可欠な光部品となっていることは周知である.この光導波路技術は,その後QPM構造実現に発展し,非線形光学結晶の高特性化に革新的技術と位置づけられている.

空間変調素子(SLM: Spatial Light Modulator)結晶Bi12SiO20(BSO)と同族のBi12TiO20(BTO)は,フォトリフラクティブ性とともにその大きい電気光学定数のためにEO サンプリング素子として注目されており15),再現ある結晶品質の育成も現実的となってきた16)

強い光に対して深刻な課題であった光損傷を積極的に利用して実時間ホログラム記録とする光メモリー分野,フォトリフラクティブ(光誘起屈折性)がある.半絶縁性化合物半導体も仲間入りしてデバイス検討が進められたが,LiNbO3のホログラム記録感度を凌駕するCeドープSBN結晶が再び注目されている.古くて新しい結晶Y2SiO5にEuドープして,恒久的光周波数多重ホールーニング(PSHB:Persistent Spectral Hole Burning)効果との組み合わせでリアルタイムの動画記録が実現されている17).光と光が相互作用する機能,フォトリフラクティブは電気光学効果に基づく現象であるが,光画像情報処理として興味ある多光波混合,光演算,光共役波発生といった機能が引き出される4).特に光位相共役波は画像の無ひずみ伝送に威力を見せるものと期待されていたが,超高出力レーザー発生においては媒体に発生する熱ひずみによってビームが不均質になるのを補正するのにRh: BaTiO3も活用されており18),今後高出力レーザーのビーム品質向上に適した結晶が望まれよう.

LiNbO3から本格的に応用研究が加速された第2高調波発生(SHG: Second Harmonic Generation)非線形結晶も光損傷の問題に直面して以来,Ba2NaNb5O15(BNN)に代表される一連の強誘電体結晶群が合成された.高品質な大型単結晶育成の困難性と結晶の特性限界の整理10,11)もあって新結晶検索は一時停滞した.1980年代後半になってDuPontからKTiOP4(KTP)19)が,中国からは“anionic group theory”という新しい探索原理20)を基にβ-BaB2O4(BBO)に代表されるボロン複酸化物(borates)が続々と発表になっている.一方では,強誘電体の自発分極を周期的に反転された構造にすると非線形光学効果が高効率になる擬似位相整合法(QPM)が,理論の提唱21)から20年後にLiNbO3で現実的に形成することが可能になって以来,革新的技術として発展している.QPM構造とすることで,バルクでは位相整合が取れない結晶であるLiTaO3でも,第2高周波発生による青色レーザー素子が実現でき22),LiTaO3の光応用の第2の幕開けとなった.SHGによる青色発光ではIII-V族化合物半導体GaInN,IV-IV 族SiCによる青色レーザー発光などが急成長しており,光学結晶によるSHG素子のメリットを明確にする必要がある.半導体レーザー励起固体レーザーの波長変換による全固体コヒーレント紫外光発生レーザーに向かうべきであろう23).それには高効率の安定したSHG結晶(2倍波)の開発がより求められることには変わりない.

ルビーレーザー(Cr:Al2O3)に端を発した固体レーザーはその後多くの結晶が開発されて,現在ではNd:YAG(Y3A15O12)がさまざまな技術開拓が確立されて,固体レーザーの代名詞になっている.固体レーザーが半導体レーザーに勝る特徴は発振光のスペクトル線幅の狭さにあり,高出力半導体レーザー励起による高出力全固体レーザーが進展して,Nd:YVO3,Nd:YLiF4(YLF)といった新しい固体レーザーが実用になってきている.

より高効率の固体レーザーをめざして希土類イオンを構成元素とした化学量論組成レーザー(stoichiometric laser;Nd 直接化合物レーザー)結晶NdP5O14やLiNdP5O12が出現した.活性イオンである希土類元素濃度が約4x1021/cm3と大きいことから吸収断面積が大きく,結晶長が短くてすみ,すでにLED励起による全固体レーザーの試作も1979年になされたが24),現在でもマイクロチップレーザーの研究が一部でなされている.固体レーザーのもう一つの流れは,波長可変レーザーの開発である.フォルステライト(Mg2SiO4),アレキサンドライト(BeAl2O4),Tiドープサファイア(Ti:Al2O3)といった波長可変固体レーザーは半導体レーザーとは比べ物にならない広い可変波長域をもち,SHG励起光源として適しており,後述のように非線形光学結晶との組み合わせによって新しい方向,紫外域光源に向かっている.近紫外域波長可変レーザー結晶の研究開発も活発となっており,LiM2+M3+F6(M2+=Ca,Sr,Cd,M3+=Al,Ga,Ti)といったフッ化物結晶がその役を担うことになろう25).これらcolquiriite結晶も1971年に構造解析がなされており26),活性イオン(Ce3+)と結晶場(構造)との相互作用を見つめたことによる「新」結晶である.

波長変換による紫外域光発生には位相整合の温度・角度許容幅がより大きいもの,よりダメージ耐性の大きい結晶が汎用素子に必要で,高出力と高繰り返し化もカギとなろう.

4. 結晶特性の限界と新展開

前章でみたように,多彩な光学結晶の機能の中で最も特徴的なものは線形・非線形の電気光学効果(EO効 果)といえるし,材料面ではLiNbO3,LiTaO3が4半世紀にわたって主役を演じてきたことがわかる.ここで機能発現の面から結晶探索指針を整理してみる1)

4.1 電気光学結晶

媒体に電界を印加すると媒体の光学的屈折率が変化する現象EO 効果は,LiNbO3などの光変調素子やEOセンシング素子の動作原理である.光変調素子などデバイスを低駆動電圧にするにはγ定数の大きい結晶が望まれるが,表1に代表的な電気光学結晶とその諸性質をまとめた.これから,一般に強誘電体結晶の1次の電気光学定数γが大きいことがわかる.詳細は 省くが,強誘電体においては自発分極PSによって誘起される屈折率変化の扱いから

の関係が得られる1).すなわち,一般に室温相である強誘電相のγ定数は,高温相である常誘電相における2 次の電気光学定数gに自発分極PSによるバイアスがかかったものといえ,強誘電体は1次の電気光学定数が大きいことを示している.

(1)式から,g 定数が大きい,自発分極PSが大きい,あるいは誘電率が大きい強誘電体結晶が期待されることが理解できよう.しかるに,屈折率,自発分極,g 定数といった基本的な値は,多くの強誘電体結晶に共通しているBO6酸素八面体構造に強く関係しており,ことにg 定数は結晶構造によらずほぼ一定の値であることが抽出されている10,11).したがって,大きなγ定数をもつ強誘電体結晶を探索するには,PSが大きくかつ誘電率εの大きなものが指針となるが,自発分極PSの予測は大変難しい.図4はキュリー温度TCと自発分極PSの大きさとを物質構造で分類したもの27)であるが,期待できるPSの上限はLiNbO3を除くとせいぜい0.5C/m2であり,大きなPSは期待できない.一方,1桁以上の誘電率の違いを作り出すことは元素の置換などで可能で,例えばキュリー温度を室温付近にもたらせばよい.キュリー温度が室温に近いほどキュリー・ワイス(Curie-Weiss)則に従ってεも大きくなる.このような例としては(SrBa)Nb2O6(SBN)系があり,Ba0.25Sr0.75Nb2O6は事実大きな電気光学定数γをもっているが,n3r/εで定義されるデバイス性能指数は小さい値となり,高速動作を必要とする光デバイスには不向きとなる.

歴史的に見ると,光学結晶の開発はバルク型光変調器の開発ともいえる.バルク型光変調器は光の回折に基づくサイズ限界とともにこの材料特性の限界が浮き彫りになったが,先に述べたように,「Integrated Optics」の発表を契機に光変調器のブレークスルーとなって,再びLiNbO3が,光ファイバー通信におけるDWDM 方式の台頭で駆動電圧3~5V,変調周波数が10~40GHzの導波路型外部変調器に実用化されている.現在,強誘電体のLiNbO3,LiTaO3の右に出る電気光学結晶は発掘されていない.高効率な新物質探索は容易ではないことが示唆される.新たな探索原理が望まれるが,その指針の一つは結晶組成に依存する諸性質の見直しであろう.

4.2 非線形光学結晶

非線形光学効果は,現象的には強い光の電場によって誘起される非線形分極の発現で高調波が発生する現象である.特に第2高調波発生(SHG:Second Harmonic Generation)は非線形光学の基本となっている.非線形光学定数の見積もりに関しては,古典的には非線形分極に関与する電子を一次元の非調和振動として取り扱われている28).このような非調和ポテンシャル中の電子が角周波数ωの外力を受けたとき,その運動の角周波数にはωと2ωが含まれることになる.非線形光学定数d(2ω)は,線形感受率

になる関係がある.ここで,D は調和振動からのずれを表す係数であるが,この式から,材料探索上きわめて重要な指針を引き出されている.すなわち,

で定義される値Δはほとんどの物質に対してほぼ一定となることである29).このΔを「ミラーのデルタ(Miller's delta)」とよぶ.表2に示すように,酸化物結晶に対してχ(2ω)は3桁にわたって分布しているが,LiIO3とIlNbO3を除くとΔはほぼ一定の1~5の範囲である.透明物質の屈折率nと線形感受率χの間には(n2-1)=4πχなる関係が成立するので,角周波数ω,2ωの光に対する屈折率をおのおのnω,nとすると,(2)式のd(2ω)

のように表すことに帰着する.(4)式から,大きな非線形光学定数d(2ω)をもつ物質の探索指針には大きな屈折率をもつものをまず考えることが導かれる.表3に代表的な可視光発生SHG 結晶とその諸特性をまとめた.非線形光学結晶は分子内の束縛電子の非線形性を利用するもので,分子内のボンドとして(PO4)3-,(IO3),(MO6n-(M:Nb,Taなど)などの陰イオングループをもつ材料は非線形光学効果を大きく,P-O結合としてのKH2PO4(KDP)族,I-O結合のα-LiIO3,M(Nb)-O結合であるLiNbO3,KNbO3,Ba2NaNb5O15(BNN)などがある.ことにNbO6酸素八面体構造結晶では大きい非線形性が統計的に整理されている10,11)が,従来の強誘電体を中心にした大きな非線形効果をもつ光学結晶の出現には限界があるように思える.

LiNbO3は非線形光学定数も大きく,後に述べる擬似位相整合法(QPM)が確立されて,最も代表的な実用的結晶である.光損傷に強い同族のLiTaO3は一軸性正の複屈折をもつことからバルクではSHG が現れないが,光導波路による擬似位相整合でSHG が可能になり,LiNbO3よりも優れた青色変換光が得られている31)

一般式MTiOXO4(M=K,Rb,Tl,Cs,X=P,As)で表されるKTiOPO4(KTP)結晶19)は許容温度幅も広く,許容角度も比較的大きい,耐光損傷性が高い,などの利点があり注目される.透過波長領域は0.35µmまであるのに対して,1µmより短い波長に対しては位相整合ができない欠点があるが,擬似位相整合法が実現され0.85µmの半導体レーザー励起による青色SHG光が報告されている32).KTiOAsO4(KTA)はKTPよりも大きなd定数をもっており,大出力用として期待される.

III-V族化合物半導体GaInNにより青色LED,LDの実用化で,非線形光学結晶のSHGにより青色発光はこれらに譲り,新たな領域を探る必要がある.一つの方向を与えているのは,LD励起緑色固体レーザーであろう.例えば,GdCa4(BO33O(GdCOB)に代表されるReCOB(Re:希土類元素)がある33,34).現在のところ,この結晶は,グレートラックと称される光誘起による屈折率変化が課題である.

中国のChenらは共役π電子系酸化物の探索原理としてanionic group theoryを発表し,後述のように紫外域まで透明な新しい非線形光学結晶開拓の道を開いた35)

4.3 疑似位相整合

強誘電体結晶,あるいは対称中心を欠く結晶の分極方向を周期的に180°反転させた交番構造とする,擬似位相整合(QPM:Quasi-Phase Matching)法がSHG発生と光パラメトリック発振に注目されている.1962年にArmstrongら21)により提案されたものであるが,Ti拡散LiNbO3光導波路の開発過程で+c面にTi拡散すると,拡散領域のみその自発分極の符号が反転することが見いだされて36)間もなく,この現象を用いてミクロンオーダーの周期分域反転によるSHG素子が開発された.その後いくつかの反転方法が確立されている37)

一般に非線形光学結晶の屈折率は波長分散があるために,基本波の速度と第2高調波の速度が等しくないので位相差が現れる.このために,結晶内では光路に沿って発生する第2高調波の合成波は周期関数となる.図5(b)38)に示したように,結晶内の各点で発生した第2高調波は各高調波間で位相がずれて伝搬し,発生した第2高調波とある距離Fで発生した第2 高調波との間に位相差がπになる.このFまでの距離であるコヒーレント長lCを越えると合成高調波の強度は減少し,この周期で増減を繰り返すことになる.このlCの周期ごとに分極波P(2)の位相を反転させる,すなわち非線形光学定数dの符号を反転させるのがQPMである(図5(a)).点Fからは第2高調波の位相が反転してlCからの合成第2 高調波の位相を補正する形になるので,図5(c)のように強度は落ちずに加算さえれるようになる.光の伝搬方向に沿ってコヒーレンス長lCの周期でドメイン反転周期2lCとすることで第2高調波の振幅(強度)が増大することになる.非線形分極波は打ち消すことなく位相を合わせることになることから「擬(似)位相整合」と称される.この特徴は,非線形光学定数の最大成分を用いることができ,また複屈折率の小さい結晶でも利用できる.LiNbO 3をはじめとして,KTiOPO4(KTP)や古典的な結晶である水晶(SiO26)などでも分極反転技術によるSHG発光が進展している.LiTaO3のQPM/SHGは温度許容幅が2.5°C・cmとLiNbO3より約1.6倍大きく,実用的である.交番の周期長によって動作波長域を設定できる自由度があるために,1µm光の逓倍波およびOPOによる赤外光への展開が図られている37,38)

QPM 構造は非線形結晶を設計する自由度を与えたるもので,化合物半導体「超格子」での電子波の波長と同程度の周期構造による物性制御に対して,光波の波長と同程度の周期構造による新たな特性を発現させる,「分極超格子構造」とか「強誘電体超格子」といわれる由縁である.

5. 光周波数帯域の拡大と光学結晶

これまでに概説した光学結晶の大半は波長が0.3~1.0µm帯のいわゆる可視~近赤外域であった.図6は周波数/波長に対する光デバイスを当てはめた概略であが,可視~近赤外域に対する結晶応用はほぼ網羅されているといってよい.一方で半導体マイクロエレクトロニクスの超高速化はめざましく,近年のモバイル系情報伝達システムの発展においては,光情報通信帯域とマイクロ波デバイス帯域との狭間である数百GHz~数THz域がインターフェースとなるTHz帯デバイスの出現が将来的であろう.すでに,「Microwave-Photonics39)」あるいは「テラフォトニクス(Tera-Photonics)40)」といわれる研究開発が活発化してきている.そこではパラメトリック発振を基本とした光学結晶が検討されている.他方,半導体電子デバイスの微細化路線は0.1µm限界を凌駕しようとしており,検査光源やチップ搭載基板のビアホール加工光源,光多重ファイバーの機能化におけるファイバーグレーテイング作成光源などには紫外域の0.19~0.25nmが必要とされており,高価なエキシマレーザに代わる安定な小型紫外光源がこれから産業界に導入される時代になろう.光周波数帯は,可視~近赤外領域から紫外域と超高速半導体デバイスの動作域である遠赤外/マイクロ波帯に広がっていくと思われる.光非線形工学の新たな活躍の場となる.

5.1 波長変換による紫外光発生

非線形光学結晶への最も熱い期待は,固体レーザ

ー結晶との組み合わせによる紫外域発生であろう.前途したように最近では,Nd:YAG, Nd:YVO4, Nd:YLiF4,Ti:Al2O3といった半導体LD励起による高出力固体レーザーが市販されており,固体レーザー結晶と非線形光学結晶の組み合わせによって,さまざまな波長変換がなされている.特に,エキシマレーザーの波長帯である,193,248nmの紫外波長に透明な非線形結晶材料が注目されている.Chenは,B-O結合の陰イオン分子グループに着目し,BとOの電気陰性度の比較的大きな違いにより紫外領域まで透明で,ことに共役π電子軌道系の平面六員環(B3O63-陰イオンは,結晶の対象中心がなければ大きな非線形光学定数をもつ理想的構造である,という共役π電子系の新しい非線形光学結晶開拓の道“anionic group theory”を開いて新しい結晶β-BaB2O4(BBO)を合成,実証した20).詳細は文献35)に譲るが,表4に主なB系非線形結晶をあげる.

β-BaB2O4(BBO)は波長約190nmの紫外域から赤外領域まで無色透明で,大きな非線形光学効果をしめす.BBO結晶の利点は,大きな複屈折と比較的小さな波長分散で,これまでに200nm を切る超短波長光(VUV光)の発生41)の報告がある.LiB3O5(LBO)は(B3O75-イオングループに属し,160nm~2.6µmまでの広範囲な波長域にわたって透明な結晶である42).現在Nd:YAGやNd:YLFなどのSHGによる530nm帯への変換結晶として用いられている.しかしながら結晶温度を130~140°C加熱して用いる,変換波出力の劣化など課題もある.

一方MoriらはLiB3O5(LBO)とその同系であるCsB3O5(CBO)43)の混晶系を検討した中でまったく新しい化合物CsLiB6O10(CLBO)44)を見いだした.吸収端は180nm弱であり,この結晶を用いて193~196nmの1W程度の和周波光が得られている45).欠点は,湿度耐性が弱いことであるが,高出力4ω/5ω波発生に最も有望視されている結晶である.図7に著者らがTSSG法により育成したCLBO 単結晶の写真を載せた.

より短波長吸収端をねらったKBe2BO3F2(KBBF)46),Sr2Be2BO7(SBBO)47),K2Al2B2O7(KABO)48)がその後発見されているが,これらボレート群の大半はコングルエント溶融ではなく,現時点では良質で大型の単結晶育成には課題が残っている.理論的に導かれる新材料もその単結晶育成に関する難易性は別問題であることを示し,また実用に耐える新結晶探索の難しさを物語っている.

図8は基本波ωにNd 系レーザーを基本光として周波数逓倍をして種々の短波長光を取り出す例45)をしめした.SHG光と基本波との和周波混合,SHG光(2ω)の逓倍波(4ω)発生,4ω波と基本波あるいは長波長OPO 波との和周波混合といった組み合わせで波長355,349,266,262,242,231,209,196,193nm の紫外光発生が開発途上である.Nd系基本波レーザーにはNd:YAG,Nd:YVO4,Nd:YLFや波長可変のCr:BeAl2O4,Ti:Al2O3が実用になっている.SHG用にはKTiOPO4やLiB3O5,THG用にはβ-BaB2O4,LiB3O5やCsB3O5,FHG用にはCsLiB6O10,5thHG用にはCsLiB6O10,最終和周波混合用にはCsLiB6O10 やSr2Be2BO7が有望視されている.

5.2 光パラメトリックによる赤外域光発生

角周波数ω1,ω2,ω3(≡ω12)の3種類の光波が同時に存在するときにはω12,ω3-ω1,ω3-ω2の分極が生じ,これらの相互作用により光の増幅,発振が起こる光パラメトリック効果も,2次の非線形分極に起因する効果である49)

QPM構造による光パラメトリック発振(OPO:OpticalParametoric Oscillation)は赤外域で高帯域の波長可変ができることから最近注目されてきている37).図9(a)に概念図を示すように,OPOは共振器内の非線形結晶を励起することで,励起光波長よりも長波長の光を発生でき,結晶角や温度の制御により発生波長を可変にできる.共振器と結晶の位相整合などなど外部条件で決まるので,希土類イオン固有の遷移をりようする固体レーザーではできない数µmにわたる広い波長可変範囲を一つの結晶で実現できる.図9(b)はQPM-OPOの一例で,LiNbO3の文域反転周期を28~31µmとしたときの,YAGレーザー励起による位相整合波長を求めたものである.1.4~4.5µmの広い範囲で赤外光が得られている.ごく最近ではQスイッチNd:YAGレーザーを用いて周期20~22µmのQPM構造で6~6.6µm帯コヒーレント光が得られている50).詳細は文献37)にあるが,酸化物結晶の長波長吸収端近くの6~7µmまで光波長が拡大されてきている.

5.3 テラヘルツ帯発生;光・電磁波融合域

パラメトリック発振によるコヒーレント電磁波の発生は,Ti:Al2O3による極短パルス(フェムト秒)レーザーを光非線形結晶に照射することで,光パルスの包絡線成分のフーリエ成分に対応して数百GHzから数THzに及ぶ電磁波を効率よく発生・検出するもので,研究が盛んになっている.この周波数帯域でのコヒーレント波はプラスチックや紙を透過することからT-rayイメージング51)といわれ,X線シンチレーションに代わる応用も期待されている.

光技術によるTHz 波の発生には

  • (a)非線形光学結晶による差周波発生52)
  • (b)非線形光学結晶を用いたパラメトリック発振53, 54)
  • (c)光伝導半導体素子による光混合や極短パルス照射による極短電磁波パルス波の発生55)

がある.(a),(b)では差周波発生あるいはパラメトリック発振条件である位相整合条件ω1=ω23が満足される必要がある.他方,(c)では微小ダイポールアンテナを酸化物高温超伝導体YBa2Cu3O(YBCO) X 薄膜で作成した構成によりTHz波を発生させた試み5)もあり,興味深い.

ことに光学結晶の立場から注目されるのは(b)の方式(図10)で,入射光は一つの波長ω1のみで,入射角の変化によって可変電磁波が発生する特徴がある.具体的には,ω3がTHz帯となるように位相整合を満足させるが,純粋な電磁波だけでの相互作用では結合効率が弱い.1975年にPiestrupらはLiNbO3をQスイッチYAGレーザー(ω1)で励起してω2のストース光を共振させることで,波長153~708µmのTHz波(ω3)の発生を報告している56).ポンプ光ω1波とアイドラー光ω2波とのなす角度は1°前後であるが,THz波ω3との角度は約65°となる.しかしLiNbO3のTHz帯での屈折率が約5.2と大きく,吸収も大きい(1THzで約20cm-1で約100µmしか伝搬しない)ことから,結晶外への放出効率が悪かった52).川瀬らはこの課題を解決するために,結晶表面のグレーティングカップラーによる波長190µmのTHz波の取り出しに成功,YAGレーザー強度34.5mJ/pulseに対して最大3mW(30pJ/pulse)放射で,約1000倍の高効率を実現している54).取り出しのカップリング構造によってさらなる放射出力が期待できる.THz帯における光学結晶の諸物性を測定することが今後重要な事項になると思われる.

このような斬新な着想と周辺技術の進歩により,かつての試みが現実的になってきた.非線形結晶のQPMのアイデアが半導体の微細プロセスの進展によって現実なものになったことを思うと,光機能デバイスも温故知新であることを思い知らされる.

6. 新たな結晶材料に向けて

3章で述べた光学結晶開発の流れから,LiNbO3,LiTaO3がその物性的興味から始まって光デバイス開発の中心にあることを認識せざるを得ない.強誘電体は自発分極の反転という,強磁性体の磁区反転に似た現象をもっている.この分極反転に伴って表面電荷の極性が反転することから,外部入力によって反転分域面積の制御ができれば電荷量による検出も可能になろう.光は電荷をもたないことから,酸化物光学結晶による光→電荷変換機能といえる.また分域壁の厚さはブロッホ磁壁厚よりも数桁小さい(~0.5nm)ことから,微細分域の生成が可能となれば大容量メモリー媒体になりうる.すでに基礎検討が開発されている57).それには自発分極が大きく,かつ分域反転が容易な結晶が望ましい.

今注目されるのは,ストイキオメトリック(定比組成)LiTaO3であろう.実用に供されているコングルエント(調和組成,あるいは一致組成)LiTaO3では分域反転技術は進歩したが,反転のための電界が比較的大きいことから,例えばQPM素子の結晶厚はたかだか1mm弱と薄い.古川らは定比組成LiTaO3結晶を独自の二重るつぼ構成で育成58)し,その誘電特性を調和組成結晶と比較したところ,自発分極PSは55µC/cm2と10%弱小さいにもかかわらず分極反転電圧は~22kV/mmから1.7kV/mmと1/10強に低減した59).このことはQPM 構造を容易に作成できることを意味し,また吸収端は~260nmと強誘電体では最短波長で,近紫外デバイスに好適となる.赤外域での異常光に対する吸収端はLiNbO3よりも約20%も長いことから,OPOによる中赤外域光発生にも魅力的である.定比組成LiNbO3では光損傷耐性が低下したが,定比組成LiTaO3では強いことも実験的に得られ,フォトリフラクティブ特性も定比結晶は優れていることが調べられている.希土類イオンドープによるLiTaO3レーザー60),電気光学光変調,QPM 波長変換をモノリシックに複合化したone-chip 全固体光機能素子61)も期待できる.

これまでのQPM構造は分域反転周期がコヒーレント長lCの定比であるのが主であるが,この反転周期を非定比(aperiodic)であるフィボナッチ関数とすることで,発生SHG波との和周波による一種のパラメトリック結合3倍波(3ω)発生の検討がなされている62).この原理を模式的に示したのが図11である.定比組成LiTaO3を用いることで容易に結晶厚の大きいバルク状素子が可能となる.こういった超格子状構造の実現から一歩進めると,半導体ではホットな三次元フォトニック結晶(photonic crystal)を誘電体結晶でも実現でき,新たな機能を発現させうる.また極性結晶の張り合わせ技術によって誘電体超格子を実現し,例えば非線形光学結晶の組み合わせで新たな波長変換素子も可能となろう.まさに酸化物フォトニック結晶(oxide photonic crystal)が期待できる.

磁性体がもつ磁区は磁気バブルメモリーデバイスという究極の応用開発があった.半動対電子デバイスでは電子スピンを用いるスピン注入トランジスタの研究も進んできている.光学結晶でこのような究極的な減少がないものであろうか.例えば,非線形光学結晶による波長変換では入射光の偏向と常光・異常光屈折率との整合関係から,直交した偏向をもつ変換光が得られる.いわゆるタイプⅠとタイプⅡの非線形結晶,あるいは同タイプの光軸反転超格子構造により可能となろうし,フェムト秒レーザーによってコヒーレントフォノン形成で実現できそうである.この偏向(polarization)をフォノンのスピンと見立てるとすれば,互いに直交した偏向光子ペア比を情報とするデバイスも夢ではないだろう.

7. むすび

光学結晶材料開発の歴史を俯瞰して,その中から最も期待できる機能性結晶について見つめてみた.1980年代までに見いだされた多くの機能性光学結晶は,その結晶がもつ多彩な機能の中で最も優れた一つの機能に注力された結果で,これまでわが国から発信された新結晶をあげると,BaTiO3,TeO2,Pb5Ge3O20,LiNdP4O12,CsLiB6O10,そして結晶欠陥の検討からの定比組成LiNbO3,LiTaO3くらいである.「単結晶材料の改良研究の難しさというか,あるいは新結晶発見に宿命的なもの,すなわち“最初の結晶が一番よい”という原則を感じさせる.おそらく新しい結晶の“しきい値”はそれが発見されるまでは非常に高く,いったん見いだされれば,その“しきい値”を乗り越えて見いだされた最初の結晶種は,それと同類の材料を求める幅広い研究成果の集積にたえて,もっと優れた性質を示すものとして残るであろうか」63).新機能結晶のこれからは「温故知新」であるかもしれない.

コンドラチェフの波動説に従えば,20世紀半ばに胎動した第3 次産業革命(モータリゼーション)に続く21世紀に起こる第4 次産業革命は情報技術(IT)であろうことが喧伝されている.IT 革命に向けたオプトエレクトロニクス技術では新しい材料の発芽は難しい,経済最優先の環境にあるように思えてならない.結晶のもつ特徴を見直し,かつ組み合わせにより高機能結晶を期待するほかないとすれば,酸化物・フッ化物結晶のデータベースを早期に構築し,既知の機能性結晶の光相互作用現象を量子的に見直して,「新たな」結晶を見いだす必要がある.幸い「分極超格子」ともいうべき分極周期反転構造が実現しており,フォトリフラクティブという古くて新しい現象との組み合わせによる新たな機能発現を期待したい.新しい知識とともに新しい認識が高機能性光学結晶を誕生させるカギであろう.

みやざわ しんたろう
宮澤 信太郎
1968 年早稲田大学工学研究科修士修了後、電電公社(現NTT)電気通信研究所に入社。以後、誘電体工学単結晶、光導波路結晶、化合物半導体の育成、GaAsIC 結晶評価、高温超伝導薄膜成長の研究に従事。1998 年より光非線形結晶材料の開発に携わる。工学博士(1978)。

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