USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.21(2001年4月発行)

日本学術振興会半導体界面制御技術第154委員会平成12年度第2回研究会

(2000年11月)

位相差PWM電力制御方式による
高効率(力率)RTP

High Efficiency Rapid Thermal Processing Unit with the Phase-Shift PWM Power Control System
鈴木信二,佐野直人,三村芳樹
Shinji SUZUKI, Naoto SANO, Yoshiki MIMURA
ウシオ電機(株)システム事業部
Systems Division, USHIO Inc.

1. はじめに

半導体素子の微細化,薄膜化に伴い急速加熱プロセス(RTP)の需要が急増してきている。昇温速度のアップとウェハサイズの大口径化により、加熱光源の出力も大きくなる一途で、供給電力量の抑制が急務となっている。

実際の加熱シーケンスでランプへの投入電力の変化を見ると、フルパワーが必要なのは昇温時だけであり、目標温度到達後の定温制御時はフルパワーの10~30%程度の電力である。従来のサイリスタを使った電力制御では投入電力が低いほど効率(力率)が低下する。これは波形が歪むことにより無効電力が発生するためである。特にエピタキシャルやCVDなどの高温保持時間が長いプロセスでは供給電力量の増大が顕著である。

今回無駄な無効電力を無くして供給電力を抑制できるRTP用制御電源を開発したの.で報告する。

2. 制御方式

電力制御部(パワーモジュール)にはパルス幅変調方式(Pulse Width Modulation:PWM)を採用した。図1にサイリスタ・導通角制御方式との入力電流波形の比較を示す。サイリスタ・導通角制御方式の場合、出力電力を絞っていくと入力電流波形は正弦波から外れて歪んでいく。従って、出力を絞るほど無効電力が大きくなり力率が低下する。これに対しPWM方式は出力を絞っても正弦波の入力電流波形を維持するので無効電力がほとんど発生しない。

図2にPWM制御パワーモジュールの回路構成の一例を示す。また、図3に各段(図2中のa~d点)での動作波形を示す。正弦波の入力電圧(a)をスイッチング回路Tr1~Tr4で切り取る。切り取る幅はPWM信号(スイッチング信号:b)で制御する。切り出した出力電流(c)を平滑回路でフィルタリングして平滑化し正弦波に戻す(d)。出力電力の調整はPWM信号の幅を変えることにより切り取る幅を変えて行う。この制御方式では、出力電力を変化させても出力電流の波高(Ip)が変化するだけで出力電流は正弦波を維持する。さらに高周波でスイッチングするため、入力段のフィルタにより入力電流も正弦波を維持することができる。

図1.PWM方式とサイリスタ方式の入力電流波形比較

図2.PWM制御パワーモジュールの回路構成

図3.PWM制御回路各段での動作波形(a-dは図2のa-dに対応)

3. 電源回路構成

実際のRTP装置では複数本のランプを並べて広い範囲を照射する。ランプを幾つかの制御ゾーン(ランプ群)に分けて制御することが行われる。図4に実際のRTP電源回路構成の一例を示す。この例では1本のランプに1台のパワーモジュールを割り当てている。複数台(図では3台)のパワーモジュールを一つのゾーンとし、一つの下位コントローラで制御する。上位コントローラは各ゾーンの下位コントローラにウェハの温度分布に応じて別々のランプ電力値を指令し温度を均一に保つ。

図4.複数ランプを点灯させるための電源回路構成の一例

4. 位相差制御

スイッチング部(図2のTr1~4)においてPWM信号で波形を切り取る際に入力側に高調波電流が発生する。複数のランプに対して同じタイミングで切り取りを行うと各パワーモジュールの入力高調波電流が重なり大きなスパイク電流となる。これを最小に抑えるために位相差PWM方式を開発した。図5にその入力電流波形を示す。切り取る位相を同一電源相に接続されているパワーモジュールについて僅かにシフトさせることにより電流の重なりを防ぐことができるため、小さな入力フィルタで力率の向上を実現できる。

図5.位相差PWM方式の入力電流波形

5. 力率の測定結果

リング状ハロゲンランプを29本(11ゾーン)配列させた光源部を試作し、PWM制御方式の電源の力率を測定した。光源部の写真を図6、力率の測定結果を図7に示す。広い電力範囲に渡って0.97を超える高い力率が得られた。電力10%以下の領域で力率が低下しているのは、入力電流が減少し、相対的に入力フィルタに流れる電流(無効電力分)の比率が増加する為である。しかし、この領域においてもサイリスタに比較すると十分大きな力率を維持している。

図6.リングランプを使用した加熱光源部

図7.PWM方式とサイリスタ方式の力率比較(負荷:ハロゲンランプ29本定格58KW)

6. まとめ

パルス幅変調方式を使ったRTP用制御電源を開発した。位相差PWM方式にすることにより広い電力範囲に渡って高い力率が得られた。特に電力約20%以上の常用領域では0.97を超える高い力率が得られた。従来のサイリスタ制御方式に比べて大幅な供給電力抑制が可能となった。

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