USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.21(2001年4月発行)

大学研究室を訪ねて Campus Lab⑫

マクロからミクロまで、縞で高速形状計測

和歌山大学 システム工学部 光メカトロニクス学科
光波・画像計測研究グループ 森本吉春教授

JR和歌山駅から北西へ車で約20分。市内を一望できる小高い丘の上に和歌山大学はあります。関西国際空港などは大阪よりもはるかに近いところです。周りを緑に囲まれ、南方の木々が出迎える入り口は、さすが南国和歌山と感心させられます。

和歌山大学は、明治5年創立の和歌山県学をルーツとして昭和24年の学芸学部と経済学部での創学から半世紀余りの歴史を持つ大学です。しかし、工学系の学部はシステム工学部が平成7年に設けられたばかりで、まさに総合大学として羽ばたき始めたばかりの若々しい大学でもあります。

このような和歌山大学では、学生が学びやすい環境を作り、社会に開かれた大学にするという取組が高い評価を得ています。これは学部の枠をこえての大学教育や公開授業、インターンシップ、学生ボランティア活動の支援その他教育方法の工夫・改善によるものといえます。また、地域社会との連携の一環として、地元各界有識者の意見・要望を聴取するための懇談会、生涯学習教育研究センター主催による各種公開講座、和歌山県立医科大学と高野山大学との三大学共同公開講座などを開催しています。

さらに、今世紀での一層の充実・発展のために、学生の自主創造活動やベンチャービジネスの支援とともに子供の理科離れへの対処、和歌山の自然や文化遺産を活用した活力ある新たな地域社会の創出、和歌山の歴史・文化・地理・自然・産業等の総合的な調査・研究などに取り組むべく、専門の機関の設置を検討しています。

システム工学部はまだ新しい学部ですが、それだけに発想も新しく柔軟性に富んだ学部づくりが行われています。私たちの身近にある製造物は、様々な技術を積み重ね、そして集めた複合技術の塊です。これが「システム」の基本で、個別の技術だけでなく、これらをいかに調和させるかが重要なポイントです。システムとシステムの連携がさらに大きなシステムとなり、単独では捉えることができないのです。従って従来の枠組みをこえた、「システム工学」という考え方が誕生しました。このシステム技術は、個別技術の発展とそれらを融合した新しい領域、技術と人間やそれらを取り巻く環境との調和をはかる21世紀の技術として育っていくことでしょう。システム工学部は、光メカトロニクス学科、情報通信システム学科、精密物質学科、環境システム学科、デザイン情報学科から成り、約1,300名が学んでいます。

●期待される新しい複合技術

調和をはかるシステム工学のうち、光メカトロニクスは機械工学、電子工学、光工学を新たな側面から融合させた全く新しい複合技術で、機械・電子技術を複合させたメカトロニクスに、光技術が組み合わさった分野です。システム工学部の誕生とともに発展してきた、この光メカトロニクス学科は光波・画像計測研究グループをはじめ、フォトニクス研究グループ、スマートセンシング研究グループなど7つの研究グループで構成されています。

森本教授の光波・画像計測研究グループは形状・変形・応力・運動などの画像計測・解析を行う実験力学、光の高速・並列性などを利用した高速情報処理や光応用計測、これらの非破壊検査装置・環境福祉機器への応用などの研究を行っています。

森本教授と研究室の皆さん

学生を指導する森本教授

●縞で高精度実時間計測を

応力(歪み)が物体にどのようにかかっているかを計測する研究では、点で計っていたものを面で、しかも非接触で計ることにより、高速に、正確に計測できるようになりました。歪みを計るとき使用する歪みゲージは1点のみを計測する方法ですが、全面を計る方法として、モアレ、光弾性、ホログラフィ、スペックル等の光を使った計測法と画像処理を組み合わせて解析を行う方法を20年前から行っていて、現在ではこれを高精度に実時間で解析できるようになってきたそうです。この高精度実時間計測はモアレ法という、縞と縞を重ねると生じるモアレ縞を応用した方法です。縞と縞を重ねたとき、片方の縞を変形させるとモアレ縞も変形します。このモアレ縞をコンピュータに取り込んで解析するとその変形の状態を知ることができます。

森本教授らはこれを更に応用発展させた方法を開発しました。片方の縞をビデオプロジェクタから投影した格子で、もう片方の縞を液晶基準板に描いた格子とします。さらにこれらの格子や縞の位相値を任意に変化させます。位相のずれαを0から2πまでわずかずつシフトさせながら連続的に画像を撮影し、それらの画像を奥行き方向に重ねることで、図1(a)のような3次元画像を得ることができます。その場合、格子の輝度分布は式(1)のように表されます。

ここで、点(x,y,α)は撮影された3次元画像内の一点で、f,a,b,Φはそれぞれα=0における輝度値、輝度振幅、背景輝度、縞の位相値を表し、αは位相シフト量を表します。x方向の1ラインにおける輝度分布の模式図は図1(b)のようになります。ある1点に注目すると、1周期αの変化に対して、その点の輝度はα=0における縞と同じ輝度変化を持ちながらちょうど1周期分変化し、その初期位相はα=0における縞の位相と一致します。この情報をフーリエ変換すれば図1(c)のようなパワースペクトルを得ることができます。このスペクトルから周波数1の成分を取り出し、その位相を求めることができます。この方法なら、ほとんどのノイズは除去できるため、精度良くその画素における位相値を求めることができます。図1(a)のような位相シフト三次元画像に対してこの操作を行えば、図1(d)のような位相分布図が得られます。これが「フーリエ変換位相シフト法」です。

さらに、コンピュータにより、プロジェクタからの格子画像投影とテレビカメラからの画像撮影を同期させて得られた情報を位相解析します。これらの作業を全て自動化することによって、高精度形状計測を行うことができるのです。この方法は格子が投影できて、テレビカメラで撮影できればよいので、顕微鏡の中でも、ビルのような大きな物でも応用できます。

実験では基準板として液晶ディスプレイを使用しているそうですが、後ろに蛍光灯のバックライトがあるため、このような精密計測ではこの蛍光灯の熱による熱膨張が問題になります。そこで、現在では離れたところから照らすなどの工夫をされているそうです。レーザーは単色性があって良いのですが、スペックルが出てしまうようです。

このようにして現在では、テレビカメラで撮影するだけで、5~10ミクロンの精度で形状測定を行うことができるようになりました。これが実用化すると、現在接触式で行っている金型等の計測が、非接触でできるようになるのです。

図1 フーリエ変換位相シフト法の原理

装置の説明をされる森本教授

●時速300Km走行で形状計測を

もう一つのテーマとして、実時間形状変形計測というものがありますが、これは人体の形状計測や物体の熱変形などのように時間とともに変化する形状を計測したり、形状を検査しながら加工するインラインプロセスなど、実時間での形状計測を行おうとする研究です。前述の方法では結果がでるまでに1~2分要するため、実時間計測法としては適していません。そこで森本教授は、単純な画像処理で済むモアレトポグラフィの一つである、走査モアレ法を応用した計測方法を開発しました。モアレトポグラフィの基本原理は、プロジェクタとカメラの位置関係が一定条件下では、物体に投影した格子と基準格子を重ねることで、等高線を表すモアレ縞が現れるということです。この原理を基に、高さ分布を表す等高線や変位分布を表す等変位線をそれぞれ位相で表現することにより、実時間で高さ分布や変位分布を求めるシステムを開発したのです。これは、矩形波状の格子を用いて比較的簡単なアルゴリズムで位相値が得られる相関位相シフト法を発展させた、短時間で位相分布を求めることができる「積分型位相シフト法」という方法です。さらにこの方法とトワイマン・グリーン干渉法と組み合わせることにより、実時間でナノメートルオーダーの微小変形分布計測を行うことに成功したのです。

この方法では、レーザから発射された光がビームスプリッタで、試料と参照用のミラーに分けられ、その反射光が再び合成されカメラの中に入ります。その距離に差があれば、干渉縞が生じることになります。これはマイケルソン干渉計に相当します。これを面で一度に見るようにすると、縞1本当たり、0.3ミクロンとなります。これを256段階で表せば、1段階約1nmとなります。

この積分型位相シフト法では、4枚の画像を1/30秒ごとにずらしながら撮影して、全面の高さ分布を1/30秒ごとに出力しているので、高速度ビデオカメラと組み合わせれば、その速度に応じた高速形状計測が可能となるのです。この方法なら金型計測や動いている物も計測できます。

今後は、動きの速い物体の形状計測や、新幹線の列車に積載して時速300kmで走行しながら連続体であるトンネルの外壁形状を計測する技術開発を進めて行くそうです。また、応力計測の分野では、光弾性(プラスチック等に力を加えると縞模様が出てくる現象)を利用して、主応力差という、縦方向と横方向の応力の差に比例した縞模様と応力の方向を表す縞が同時に出てくるもの(これを分離するのが非常に大変)を、実時間で分離し、位相まで解析してしまう方法を開発中とのことです。このように実時間で高精度の形状や応力の計測が可能になれば、これまで多大な労力と時間をかけて行っていた検査や計測が飛躍的に簡素化されます。将来的には、色センサーと組み合わせて、人間の目を超えたロボットの目としての活躍なども期待できるのではないでしょうか。

森本教授らは、日本実験力学会(光弾性で内部の力の分布を計る光弾性学会を発展改称して、他の工学的手法や応力・歪み・変形の計測も取り入れた学会で、光学実験的な問題で標準規格を作ることも目標としている)の創設にもご尽力され、今年1月1日に設立されました。この標準規格化は国際的な流れとなっているそうです。

図2 トワイマン・グリーン干渉計を応用した計測装置

●これからの卒業生は『品質保証』付き

学生の教育にも熱心な森本教授は、自主性・自己表現を大切にされているそうです。システム工学部としてもまず動機付けをしたうえで、学生がやりたいことができる環境を作っているとのこと。建物の一番良い場所は、リフレッシュラウンジとして学生に自主管理させ、自由に使えるようにしてありますし、自主演習として、「やりたいこと」をきちんと行えば単位がもらえるようになっています。また、必要とあれば担当教官以外の研究室に出入りし、学ぶことも可能です。森本教授は学生の就職や卒業後のことも気にかけておられ、「就職時、企業は機械系か電気系かといった分類で募集するので、『光メカトロニクス学科』は、そのような分類にぴったり当てはまらないので苦労してる」そうです。また、「就職した卒業生に問題点などあれば『品質保証』としてアフターサービスなども行っていきたい」とのお考えもあるそうです。これらの考え方は、新しい教育のあり方として今後注目を集めそうです。

■プロフィール

森本 吉春
(もりもと よしはる)

和歌山大学 システム工学部 光メカトロニクス学科
光波・画像計測研究グループ 教授
工学博士

<略歴>

  • 1944年 大阪府生まれ
  • 1968年 大阪大学大学院基礎工学研究科修士課程修了
  • 1968年 小松製作所入社
  • 1974年 大阪大学基礎工学部機械工学科助手、講師、助教授
  • 1993年 和歌山大学経済学部教授
  • 1995年 和歌山大学システム工学部創設準備室教授
  • 1995年 和歌山大学システム工学部光メカトロニクス学科教授

学会活動:日本機械学会実験力学先端技術研究会主査、 Society for Experimental Mechanics, Associate Technical Editor、日本実験力学会理事および評議員、日本非破壊検査協会評議員

研究業績:受賞7件、著書15件、論文62件、国際会議49件、解説25件、特許16件

《お問い合わせ先》

和歌山大学 システム工学部 光メカトロニクス学科
光波・画像計測研究グループ
森本研究室
〒640-8510 和歌山県和歌山市栄谷930
TEL 073-457-8170
FAX 073-457-8171
E-mail:morimoto@sys.wakayama-u.ac.jp

日本実験力学会

〒113-8622 東京都文京区本駒込5-16-9 学会センターC21
(財)日本学会事務センター内
日本実験力学会(日本光弾性学会)
TEL 03-5814-5801
FAX 03-5814-8520
E-mail:jsem@moire.sys.wakayama-u.ac.jp
http://moire.sys.wakayama-u.ac.jp/JSEM/

和歌山大学システム工学部光メカトロニクス学科
光波・画像計測研究グループ森本研究室の2000年度メンバー
教授  1名 大学院生  7名
助教授 1名 4年生  11名
助手  2名 3年生  11名

Copyright © USHIO INC. All Rights Reserved.