USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.22

ハロゲンランプ

(2001年9月)

ハロゲンランプの寿命と各種要因の役割

甲斐 鎌三

1.はじめに

ハロゲンランプが寿命となる主な原因は次のものである。

  1. ①黒化による照度低下
  2. ②フィラメント溶断
  3. ③サグによるコイルピッチ・ショート
  4. ④シール部の故障

これらのうち、最初の3つの原因による寿命要因はハロゲンサイクルに関係することが知られていたものの、その理解は大変貧しいものであった。それは非破壊的診断法がその理解と運動学的なモデルの構築に決定的でありながら、簡便で有効な手法がないためであったと言ってよい。しかし、最近FourierTransform Infrared(FT-IR) Spectroscopyによって、それらの寿命要因となるガスフェーズの測定が発表され、寿命となる運動学的モデルがかなり明らかになってきた[1]。

この小論では、最近われわれの研究した結果を含めて、理解の進んできたハロゲンランプの寿命モデルとそれを押さえるための各種パラメーターの作用について述べることにしたい。④についてはメーカー各社がいろいろな手を打っていることを簡単に述べる。

2.点灯中のCOとHBrガスの振る舞い

N2やArなどバッファーガスに加えて、少量のハロゲンガス、CH3BrやCH2Br2が添加される。それは製造工程エージング中に点灯し、一旦、HBr、CやH2に分解させると、室温に下げてもその形で残っている。HBrは主なハロゲン輸送ガスとして寿命を全うするまではたらく。従って、HBrガスは初期の量とともに、寿命経過中のその量の変化はハロゲンサイクルのよいモニターとなる。即ち、HBrガスは、点灯中バルブに近い低温箇所で蒸発してきたタングステン原子と結合しW2Br2などとなり、タングステン原子がバルブに付着するのを防ぎ、フィラメントにサイクルして戻ってくると、ハロゲンは分離されるとともに、W原子はフィラメントに戻り、HBrに戻ることを繰り返す(ハロゲンサイクル)。

一方、Cはバルブ中の酸素とすぐに結びつきCOを形成する。酸素源として考慮するのは二つであるが、一つは製造中に入り込んだ空気または酸素であり、もう一つは、寿命経過中に主にバルブ表面の拡散OH基から放出される放出酸素である。COの量は後で見るように酸素律速で決まっている。COはW-O-Brによるサイクルとの酸素バランスによっていることが考えられている。従って、この場合、COもハロゲンサイクルの一員であり、Cの存在が意味を持つ。

これらのHBrやCOの観測はFT-IRにより、非破壊で寿命経過中何度でも簡便にできる。HBrは2550cm-1を中心とした波長帯に吸収ピークがあり、COでは2170cm-1を中心とした波長帯に吸収がある。H2Oの吸収も存在していれば3150cm-1付近に吸収が見えるはずだが、見えることはまずない。

まず、CO濃度の寿命経過時間に対する変化を図1Aと1Bに示す[1]。横軸は時間を対数でとり、1000時間にわたる長時間の観測に対応させており、縦軸はCOのシグナルの吸収量(単位mAbsorbance)をとっている。COレベルは30分から1時間でピークに達し、その後1000時間でゼロになる。即ち、バルブから放出された酸素が1時間のレベルでピークに達しその後吸収量はゆっくりと減少する経過をたどっている。後者は寿命経過時間とともに放出酸素の減少を示すものであるが、一部はW-O-Brを生成しているためと考えられた。縦軸との切片は製造時のコンタミを含むエージング時からの酸素放出によるものである。

次に、COと同様にHBrの寿命経過時間に対するセミログ・プロットを図2Aと2Bに示す[1]。点灯後5secで急にHBrは上がり、30sec以内にハロゲンガスのHBrへの分解が完了し、20分位のところでピークを取るところまでは、点灯条件がオープン(ミラーなしのこと)とPAR内(ミラーのこと)の点灯による違いはない。しかし、その後の経過は、オープンではゆっくりと700時間まで減少するのに対して、PAR内ではほぼ一定のレベルのHBrが続く。また寿命末期には急激なHBr濃度のジャンプが見られるのが特徴である。ゲッター(PH3)を添加すると、添加しない仕様のものに比べるとHBrレベルは低くなる。ゲッターが一部ハロゲンガスと結合しているという。しかし、PAR内では先述の一定レベルのHBrレベルが続くことは同じである。これらのことから、ランプの負荷が高くなることによるフィラメント温度の上昇とバルブ温度の上昇が、ハロゲンサイクルの活発化を促進する事が示唆される。それらの効果が寿命にどのように働くかを示すのが次項以下に説明することである。

CO、HBrの寿命経時変化は多項式によってスムージングされたのち、各種のパラメータとの相関が取られる。

図1:CO濃度と点灯時間の関係(0.05%CH3Br、石英ガラスバルブ)。それぞれにおいて、オープンとPAR内点灯を比較する([1]より引用)。

図2:CO濃度と点灯時間の関係(0.05%CH3Br、石英ガラスバルブ)。それぞれにおいて、オープンとPAR内点灯を比較する([1]より引用)。

3.ランプ点灯中の酸素放出と寿命

ランプ製造時の酸素源は排気台のリークや能力による酸素混入と、バルブのガラス材をはじめランプ部材からの酸素放出がある。それらは極力抑える必要があるが、それも生産能力やコストとのかねあいになる。しかし、一般的に酸素濃度は100ppm以下に押さえないといけないだろう。

それら、製造時の酸素のほかに、ランプ点灯中にバルブ内表面からのOH基拡散によってランプ内に放出される酸素がいろいろなモードによるランプ寿命に大きな影響を与える。硬質ガラスでは原材料中に300ppm程のOH基があり、一般的石英ガラスにおいては10~20ppmほどである。硬質ガラスでは水がランプ中に放出される量がそれだけ多いだけでなく、さらにアルカリ金属の含有のため、石英ガラスに比べて赤外吸収端が短波長にシフトするため、バルブがより熱を食らうという効果もある。そのようなことから、点灯中の酸素放出は石英ガラスのバルブの方が少ないので、熱負荷の大きい用途では専ら石英ガラスが使われる。

酸素放出はランプがどのような温度や環境の下で点灯されるのかという条件に依存することはもちろんである。裸点灯で用いられるか器具の中やミラーの中に入れられるのかという条件によって、寿命は大きく異なることがある。先の、図1と図2の例ではオープンかPAR内かによってCOやHBrの寿命経過時間に対する振る舞いが異なるのがそれである。

4.COレベルと寿命

CO濃度のレベルはピークを取ったあとゆっくり減少する。このことはCOのハロゲンサイクルに寄与する仕方において、酸素ロスがフィラメントにW2Cのような炭化を起こすか、酸素ロスがWBr2O2の析出物に導くか(あるいはその両方)の変化をもたらすものと考えられる。従って、COのピーク値は各種パラメータとの相関をとるよいゲージとなると考えられる。以下にその相関を略記する[1]。COピーク値と寿命は負の相関関係にある。

ピーク値はバルブを硬質ガラスから石英ガラスにする変化で、30%減少する。それに伴って、寿命は10%程度増加する。

ピーク値はゲッターの有無との相関において、ゲッターが有ることにより、30%減少し、寿命はそれに伴って、20%程度増加する。

ピーク値は管壁負荷との相関において、オープンからPAR内点灯することにより、13%増加し、それに伴って寿命は30%減少する。

ピーク値はハロゲンガスとの相関において、濃度を3倍に増加させることにより、20%増加し、それに伴って寿命は17%減少する。

長い間の研究においても、COレベルが何に律速して変化しているかは必ずしも明らかではなかった。COピーク値はハロゲン添加量には依存せず一定であるというデータが得られたことにより、COレベルが酸素律速によって決まっており、添加ハロゲンガス中のカーボン濃度によるものではないことを示した[1]。ゲッターを添加すると酸素はゲッターとも若干のレベルで結合するため、COは格段に減少するとともに、COレベルはハロゲンガス添加量の増加とともに弱い増加傾向を示すという。このことはゲッターとカーボンまたはCOとの酸素吸着を巡ってのせめぎ合いが起こることを示唆しているようである。

CO濃度はピークをとったあとは、寿命までの経過時間の間にゆっくりと減少し、ついにはゼロとなる。その過程での消長はどうなるのであろうか。Cは直接バルブに付着するものも考えられる。その場合は黒化として効率が下がる原因となろう。つぎに、タングステンとのハロゲンサイクルの中で、W2Cを生成する反応がサポーターまたはそれに近いフィラメント低温部に析出する。その場合、その部分が折れるという不具合がしばしば起きる。他には、WBr2O2が生成するサイクルになり、やはり低温部の腐食を起こす(ハロゲン腐食)。これらは、例えば、Elenbaasのテキストにあるように古くから深刻な重要な問題であった[2]。

カーボンの影響をなくすためであったら、カーボンフリーのハロゲンガスを添加することも選択肢となりうるが、それらはハロゲンアタックも大きいので、適用するためにはランプの管壁負荷、フィラメントの温度環境、ワイヤーなどに対する十分な検討が必要である。

5.HBrレベルと寿命

先に記したように点灯30secで添加したハロゲンガスが分解する。HBr濃度は従って添加ハロゲン濃度に比例することになる。しかしゲッターの有無で比例係数には若干の違いがあり、ゲッター有りでは無しに比べて、10%程小さい値になるという。HBrはゲッターと結合することを示唆している。図2(a)と(b)の違いもそのことと対応しているように見える。

30分でピークを取った後のHBrレベルの計時変化は2.に記したようにバルブやゲッター、点灯環境に大きく依存する。10時間後700時間までの寿命に至るまでの平均のHBr濃度が、各種パラメータとの相関を示すよいゲージとなる。以下にその相関を略記する[1]。HBrの平均レベルは管壁負荷との相関において、オープンからPAR内点灯することにより、100%のレベルまで増加し、それに伴って寿命は30%減少する。

HBrの平均レベルはバルブ材料との相関において、硬質ガラスから石英ガラスにすることにより、22%増加するのに対して、寿命は逆にわずかに増加する(5%)。

HBrの平均レベルはゲッターの無しから有りにより、大きくは変化しないが、寿命は20%増加する。寿命にはむしろCOの減少が効いていると思われる。

HBrの平均レベルはハロゲンガス濃度との相関において、濃度を3倍に増加させることにより、120%の増加をし、それに伴って寿命は17%減少した。この寿命の変化には、COの増加も寄与はしているが、HBrのレベルが大きく負の寄与をしている。後に示す当社のシングルエンドランプの例はそのような事実を示唆している。

HBrレベルは点灯中においてW-Brサイクルにはたらくフリーなハロゲンガスのタングステン・アタックを表している。このレベルが寿命に対して大きな負の相関をしているようである。

図3に、当社の開発したシングルエンドランプにおいて、ハロゲン濃度を変化させて寿命を調べた結果を示す。ハロゲン濃度が小さい間は、寿命はあまり大きくハロゲン濃度によらないが、3倍程大きくなると、目立って減少した。ここで寿命とはサグにより垂下し、ピッチショートを起こし、最後はアークが発生して断線となる寿命を示す[3]。

図4は、寿命経過時間にわたってC O は分析限界値以下をずっとキープしたまま推移するのに対して、HBrレベルは経過時間とともにゆっくりした減少を示した。ストレス係数の大きい点灯モードのとき、HBrレベルは非常にゆっくりした減少を示すのに対して、ストレス係数の小さい点灯モードの時は比較的早い減少を示した[3]。[1]に記されたようなジャンプの振る舞いも500時間以降に観測されている。ストレス係数の説明は9.項に示す。[1]ではCOが観測されないほど小さくなってからジャンプが起きているが、我々の結果はCOが寿命試験当初から観測されないほど小さい。500時間を境にハロゲンサイクルが変わったことを意味するようであるが、詳細な振る舞いは不明である。

図3:シングルエンドランプにおける、断線寿命までの通算点灯サイクル数とハロゲン添加量の関係。

図4:FT-IRによって測定された、HBrの寿命経過時間による変化。点灯モードにおける、ストレスτの大きいときと小さいときを比較する。

6.ゲッターと寿命

ゲッターは点灯中放出されるCOレベルを減少させる効果のため、寿命に対して正の相関がある。しかし、放出酸素を十分低減させることができれば、必ずしも必要ではなく、管壁負荷が高くなったときの保険のために入れる意味が残ってくる。そのように放出酸素が低減できる系において、ゲッターを入れたとき、サグとは別な不具合である黒化が発生しないよう注意する必要がある。

7.効率と寿命

ここで云う効率とは照度のことであり、寿命経過中のバルブのクリアネスによって、それは左右される。効率にもっともはっきりした相関を持つ要因は管壁負荷とハロゲン濃度である。管壁負荷がオープンからPAR内点灯と高くなると、効率は約7%増加し、またハロゲン濃度を3倍増加しても、約3%効率は増加する。同時に、寿命はそれぞれ、30%および15%減少する相関となる。効率に関しては逆に、管壁負荷が小さくなるとチップ部のようなコールド部にハロゲンガスが沈積し透過率が低下するし、ハロゲンガス濃度が小さくなりすぎても、サグに対してはハロゲンアタックが抑えられてよいが、黒化が発生するため効率は下がることを考慮すれば理解されよう。効率と寿命の相関においては、HBrレベルが効率とともに増加するという関係を介して上記の相関があると理解される。

しかし、PAR内とハロゲン濃度増加の2因子相関では、HBrレベルは増加し、かつ、寿命ばかりでなく効率も下がるという相関が得られている。即ち、注意すべきは、効率の低下が、黒化を発生しないほどハロゲン濃度は高くても、ゲッターが入ったり、管壁温度が高い場合の組み合わせで起こる可能性が有ることである[1]。単独パラメータの相関では説明できない、2因子の相関が複雑なCOおよびHBrレベルの変化を来すためである。

8.管壁温度と寿命

管壁負荷はバルブに対する負荷であり、点灯中の酸素放出を念頭に入れているが、ヒータとしてランプを使用するときはワークからの管壁負荷の増加ばかりでなく、フィラメントに対する負荷の増加を考慮しないとならない。また灯具に入れて点灯する場合も同じことが起こる可能性がある。GEの研究者による[1]の研究は、オープンとPAR内の点灯の違いによってそれを明らかにした例である。オープンと実機内の点灯で寿命に大きな違いが出るのはよく経験することである。

灯具や実機内ではオープンに比べてフィラメント温度を増加させるので、サグによる断線ばかりでなく、タングステン蒸発のためホットスポット形成による断線も考えられる。この場合はフィラメントの色温度を測定し、違いがあるかどうかによって判断できるはずである。

9.点灯モードとサグによる寿命

ランプ点灯モードはサグに対して大きな影響がある。一般に、[4]に記述されているように、色温度の高い仕様のランプほどフィラメントの蒸発、ホットスポット形成による断線のため、寿命は短くなる。しかし、ここで注意しておくことは色温度の高い連続点灯よりも、フィラメントの色温度が低くても、点灯モードが点滅点灯の場合はサグが大きくなり、ピッチショート、断線にいたる可能性があることである。

それを、フィラメントに対するねじりせん断応力の影響から見てみる。垂直点灯、シングルエンドランプにおいて、重力、電磁力およびコイル熱膨張差による応力を計算すると、熱膨張差>重力≫電磁力の順になり、第2及び第3項はそれぞれ第1項によるものの1/20および1/1000のオーダーである。

図5にストレス係数による寿命への影響を示す[2]。ストレス係数とは、点灯モードにより熱膨張差の応力がコイルに加わる時、ワイヤーにかかる最大せん断応力を表す係数である。縦軸には通算したランプON時間での寿命を示した。色温度に対する変化は単調に温度とともに減少するが、図に示すようにストレス係数が大きくなるに従って、寿命が全体的に低下することが注目すべきことである。

図5:ストレス係数に対する寿命曲線への影響。

10.シール部温度と寿命

シール部の外部空気との接触による故障については、ウシオ電機のハロゲン技術資料[4]に述べられている。これに対して各社はいろいろな対策をしている。それらは①耐酸化性Mo箔、電極リードを使用する、②皮膜防食法による各種コーティングを施す、③封着ガラスなどを間隙に注入する、に大きく分けられるようである。①ではY2O3を含有させたMo箔がある。②ではクロマイジング(Cr)やカロライジング(AI)のような化学的皮膜法と物理的製膜法による耐酸化金属のコーティングがある。③では外部リード線の隙間から封着ガラスを流入させたり、パラフィンを流し込んだりする方法がある。

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