USHIO

光技術情報誌「ライトエッジ」No.25(2002年10月発行)

ASET活動報告書報告1

F2レーザ光源の超狭帯域・超高繰り返し
技術と波長基準ランプの開発

次世代光源開発室 堀田 和明(現、技術本部)

ASETがNEDOの委託を受けて実施した「F2レーザーリソ技術の開発」プロジェクトは目標の全てを達成し、H13年度末に成功裏に終了した1)

ウシオ電機はそのプロジェクトにおけるF2レーザ光源の超狭帯域・超高繰り返し技術と波長基準ランプの開発に参画し、世界をリードする目標の達成に大きな貢献をした。本報を含めた3つの報告において、主としてウシオ電機からの参加者が中心となって得た成果につき記す。

本報では、今後の露光技術の展開とF2レーザ露光につき概説し、プロジェクトの背景と目標を説明する。また、プロジェクトにおけるウシオ電機の貢献につきまとめておく。

1. はじめに(ASET「F2レーザーリソ技術の開発」プロジェクトとウシオ電機の参加について)

平成12年3月、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)からの委託により、技術研究組合超先端電子技術開発機構研究(ASET)の開発プロジェクト「F2レーザーリソ技術の開発」がスタートした1),2)。プロジェクトに参加した企業は当時競合状態にあったコマツ、ウシオ電機およびニコン、キャノンの4社であった。ウシオ電機が参加したのは、その当時、次世代露光用光源であるArFエキシマレーザ(波長193nm)の製品化開発を行っており、その次のF2レーザ(波長157nm)の開発に着手する必要性が大きかったからである。プロジェクトでの研究テーマは、①F2レーザ光源の超狭帯域・超高繰り返し技術の開発、②光学系の露光パワー損失低減(薄膜)技術等の開発、③ガスパージ・ケミカルクリーン技術の開発、④システム化に係わる総合調査研究である。ウシオ電機が参画したのは①と④で、④は調査が目的であり、実際に研究開発を行ったのは①のテーマであった。

コマツと分担した①の開発目標を表1に示す。スタート当初のウシオ電機の具体的なテーマは“超狭帯域化F2レーザ発振器の開発”とF2レーザの発振波長校正用の“基準光源の開発”であった。しかし、ウシオ電機とコマツが、平成12年8月に、合弁でギガフォトンを設立したことにともない。両者の担当者はテーマを分かたず、開発にあたることとなった。また、同時に、ギガフォトンもプロジェクトに加わることとなった。

ウシオ電機が参加した①F2レーザ光源の超狭帯域・超高繰り返し技術の開発においては、目標であった0.2pm超狭帯域化5kHz超高繰り返し化F2レーザと標準光源としての臭素ランプを実現し、また、②、③のテーマにおいても目標を達成して、「F2レーザーリソ技術の開発」プロジェクトは、この平成14年3月に、成功裏に終了した。

ウシオ電機から参加した担当者の、テーマ①における目標達成に対する貢献は大きいと思われる。そこで、本号において、本報告を緒論(報告1)として、ウシオ電機からの参加者が中心になって得た成果を次の二つの報告、報告2および報告3として上梓する。

  • 報告1 堀田:F2レーザ光源の超狭帯域・超高繰り返し技術と標準ランプの開発
  • 報告2 北栃、渡邊、堀田:F2レーザ光源の超狭帯域・超高繰り返し技術の開発
  • 報告3 吉岡、北川、有本、竹村:F2レーザ用波長基準光源の開発の開発

2. 今後の露光技術開発の展開とF2レーザ露光

図1に、日米欧韓台の5極により検討されたITRS(International technology roadmap of semiconductor)ロードマップおける技術ノードの推移とその技術ノードにおいて本命視される露光技術を示す。技術ノードに対応する“年”は量産が開始される年で、量産対応の露光装置の開発はその3~4年前を目標にする。図1において、F2レーザ露光については、2007年頃からの65nm技術ノードでの量産に用いられると見られている。ライン導入レベルのF2レーザ露光装置は、現状で、2004年後半頃を目指して開発されている。重大な問題(Potential showstopper)として、レンズ材料(硝材)である高品質CaF2の量産供給、マスクの汚染防止を目的とするペリクルの開発、およびレジストの開発が挙げられている。昨年、CaF2に複屈折性があることが判り、問題視されたが、開発を半年程度遅延させたものの、重大な問題にはならないと考えられている。レジストは日本のセリートなどの開発により解決方向にある1)

露光用F2レーザは、後述するように、先ずは、反射屈折型露光光学系用の単一波長選択型でよく、全く問題がないと見られている。

図1 ITRSロードマップにおける技術ノードの推移と露光技術

3. 「F2レーザーリソ技術の開発」プロジェクトにおける①F2レーザ光源の超狭帯域・超高繰り返し技術の開発の背景と目標

図2に、F2レーザ露光光学系とそれに使われるF2レーザを示す。露光光学系として、現状では、反射鏡とレンズの両方を用いる反射屈折型(カタデオプテックス:Catadioptric型)光学系が開発され、F2レーザとしては、複数本ある発振線から一つの発振線を選ぶだけで、狭帯域化のいらない単一波長選択型が採用されようとしている。しかし、従来の露光光学系は多くは屈折型(Dioptric型)であり、屈折型の開発・製造インフラをもつ露光機メーカからは屈折型に用いる線幅0.2pm以下の超狭帯域化F2レーザの開発が待望されている。波長157nmで実用化できる硝材はCaF2だけで、BaF2の開発がなされてはいるものの高品質化が期待できず、従って、単一硝材での屈折型になり、F2レーザには0.2pm以下の超狭帯域化が必要とされる。また、反射屈折型であっても、更なる高NA化(高解像度化)にともない、F2レーザの狭帯域化が必要になる可能性が大きい。F2レーザの繰り返しについては、現在露光に使われているKrFエキシマレーザや次のArFエキシマレーザにおいては、4kHz以上の繰り返しが要求されている。そこで、その後に使用されるF2レーザにおいても4kHz以上の超高繰り返し化が必要となる。

表1に、以上述べた背景から設定した「F2レーザーリソ技術の開発」プロジェクトにおける①F2レーザ光源の超狭帯域・超高繰り返し技術の開発における目標を示す。

この0.2pmで25W(@5kHz)の目標の実現は1台のF2レーザでは難しく、2台(2-stage)のレーザを用いるインジェクションロッキング(Injection locking、以下I/L)システムの開発が必要である。I/LシステムF2レーザの開発の詳細を報告2“F2レーザ光源の超狭帯域・超高繰り返し技術の開発”で述べる。

非狭帯域時のF2レーザのスペクトル線幅は1pm程度と測定されているが、プロジェクト開始前には、1桁違う10pm程度と測定されていた。これは、157nmという真空紫外(VUV: Vacuum ultra violet)領域の分光計測技術が未確立であったためである。このような状況では、スペクトルの測定技術を自前で開発しなければならず、そこで、F2レーザ用高分解能分光器と絶対波長校正用のランプの開発にあたることにした。その開発成果を前者については上記報告2で、後者については報告3“F2レーザ用波長基準用光源の開発”で述べる。

プロジェクトのスタートは、上記のように、F2レーザの分光計測技術は確立されていず、また、レーザ用コーティング技術は開発されていなかった。このようなF2レーザの周辺技術が未開発な状況で、0.2pmという超狭帯域化は難題と思われた。さらに、F2レーザはレーザとしての品質が悪いと考えられおり、加えて、その特性がほとんど把握されていなかった。発振はさせやすいが、制御が難しく、そこで、超狭帯域化で目標の出力を得るためのI/Lの開発が難しいと思われた。

図2 F2レーザ露光用光学系とF2レーザ

表1 開発目標

4. プロジェクトにおけるウシオ電機の貢献と謝辞

プロジェクトにおける開発の全てが、ウシオ電機、コマツ、ギガフォトンからの参加者が一致協力して実行された。プロジェクトが成功したのはこの協力があったためと言っても過言ではない。

ここでは、ウシオ電機からの参加者が、特に大きな貢献したテーマを記す。

  • ・I/L用超狭帯域化発振器の開発
  • ・I/Lシステムの開発
  • ・高分解能分光器の開発とスペクトル線幅の測定
  • ・波長基準光源である臭素ランプの開発

本報告の研究は、経済産業省プロジェクト「F2レーザーリソ技術の開発」の一環として、技術研究組合超先端電子技術開発機構(ASET)が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から委託されて実施した。

本プロジェクトを実行するにあたり、ASET平塚センター室長、グループリーダ、管理担当者などの尽力があったことは言うまでもない。しかし、目標実現に貢献したのは、実際に頭・手・足を動かした担当者である。報告1および報告2にはその担当者の名前を記し謝辞を送っている。

最後に、本プロジェクトへの参加と実行において支援をいただいた菅田取締役および実行において協力・支援をいただいた松野取締役に深謝いたします。

Copyright © USHIO INC. All Rights Reserved.